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word26 「学年で1番 歌上手い奴」②
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今日のカラオケ1発目、曲の歌い出しから数少ない観客が沸いた。
力強い歌い方と、高い声と低い声が混ざり合ったような独特で気を引く歌声。マイクを握った友達が歌い出すとすぐに、僕を含む周りの奴らは驚きの声をあげた。なかなかこんな声で歌う人はいない。テレビでも聞いたことがあるプロの中でも特徴的な歌声だ。
そう、その友達が披露したのは超クオリティの高いモノマネだった。
女性なら10代から50代以上のおばちゃんまで人気がある男性歌手がいる。その歌手の曲を歌う友達はさながらCD音源かのように歌っていた。モノマネもよくされているが、その中でも上手いくらいに聞こえる。
「悲しみがーー黒い雷のように僕を撃つよー……」
マイクを通した声がカラオケ特有に壁を反射するように響く。声の終わりの微妙な癖まで丁寧に再現して。
周りにいる僕たちが感嘆の声をあげて、少しからかってみたり合いの手を入れたりしてみてもあまり反応を見せずに、その友達は男性歌手になり切った。モノマネをしっかりやり通したのだ。
途中サビなんかは声が出しきれていない部分もあったけれど、その曲が終わり切った時にまだ残った体の芯まで音で振るわされる感覚は拍手に値するものであった。
「すげーじゃん。何々これを見せる為にカラオケ誘ったの?」
「まあな。どうだったよ。超練習したんだけど上手くない?」
「いや普通に文化祭とかでそのままできるレベルでしょ。テレビの素人モノマネとか出ても変じゃないよ」
「うんうん」
「実は昨日も俺1人でここのカラオケ来て練習したんよな。店員昨日の人と同じでちょっと恥ずかしかったわ」
歌い終わった後は別人のように恥ずかしがる友達。いや本当はこっちがいつものよく知っているほうなのだけど。
「俺お前が気付かんうちに今の動画撮ったからさ。SNSに上げちゃおうか」
「いやそれは恥ずかしいからやめよう。お前らに見せるのでぎりだったわ」
「でももうあと1タップで上げれるけど」
「もうちょっと待とう。てか次の曲もう始まるで」
嫌とは言いつつもまんざらではない様子の友達とそれをからかう友達。そして、次の曲は僕が入れた曲だった。
自信はあるけれどやっぱりちょっと緊張してしまう。家族にバレないように気を付けながら風呂場なんかでこっそり練習しているこの歌を、練習通りに歌うことはできるだろうか。
「俺もこの曲好き」
「え、どんな曲。俺は知らんわ」
上手く歌うコツを復習しながら呼吸やあごの位置を整えて、始まった曲の歌い出しは上々の滑り出しだった。
先程の友達が歌った時ほどではないが「うまいじゃん」くらいの声があがる。僕はその中でしっかりとリズムに乗せて確かめるように歌った。
歌声は練習通りよく伸びた。僕からしたらどこまでも伸びるような感覚があって、息切れが訪れる気もせずに、とても気持ちよく。
サビも大サビも自分の持つ歌唱力は90%くらいは発揮できたと思う。前にカラオケに来た時より確実に上手く歌えた。僕が歌い終わった後にも拍手が起きたし、機械の採点でも92点だった。
けれどやっぱり最初の友達のモノマネのほうが反響が凄かった。
別に勝負している訳でもないし、全然悔しいとかではない。僕自身凄いと思ったし、友達の新たな一面を見れて良かった。でもほんの少し恥ずかしさというか、先に歌いたかった感はある。
「みんな歌上手いんやな」
「なんか上手くなってない。前に一緒にカラオケ来た時よりも」
親友も褒めてくれて、僕は笑った。
緊張も無くなってきて、それから僕たちはカラオケのフリータイムで5時間以上店内に居座った。碌に食べ物なんかも頼んだりせずに騒ぎまくった。
途中歌うのを中断してクラスメイトの噂話になったりなんかなったりしたときは、友達が気になっていることを僕はその気になれば黒いパソコンで検索できるなんていう優越感に浸りながら話して……時間を忘れるほど楽しいカラオケとなって終わった……。
いやあ、楽しかった。それにしてもあいつのモノマネ上手かったなあ。そんなことを考えながら家に帰った僕は今日の検索タイムに入った。
検索することは帰り道で既に何となく決めてある。それはずばり歌が上手い奴を調べることだ。今日のカラオケでひっそりと歌が上手いことを隠していた奴を知ったし、どれだけ近くに居ても他人がどのくらい歌が上手いかを知る機会って中々ない。だから気になった。
「学年で1番 歌上手い奴」
僕は今日の検索ワードをこれに決めた。
力強い歌い方と、高い声と低い声が混ざり合ったような独特で気を引く歌声。マイクを握った友達が歌い出すとすぐに、僕を含む周りの奴らは驚きの声をあげた。なかなかこんな声で歌う人はいない。テレビでも聞いたことがあるプロの中でも特徴的な歌声だ。
そう、その友達が披露したのは超クオリティの高いモノマネだった。
女性なら10代から50代以上のおばちゃんまで人気がある男性歌手がいる。その歌手の曲を歌う友達はさながらCD音源かのように歌っていた。モノマネもよくされているが、その中でも上手いくらいに聞こえる。
「悲しみがーー黒い雷のように僕を撃つよー……」
マイクを通した声がカラオケ特有に壁を反射するように響く。声の終わりの微妙な癖まで丁寧に再現して。
周りにいる僕たちが感嘆の声をあげて、少しからかってみたり合いの手を入れたりしてみてもあまり反応を見せずに、その友達は男性歌手になり切った。モノマネをしっかりやり通したのだ。
途中サビなんかは声が出しきれていない部分もあったけれど、その曲が終わり切った時にまだ残った体の芯まで音で振るわされる感覚は拍手に値するものであった。
「すげーじゃん。何々これを見せる為にカラオケ誘ったの?」
「まあな。どうだったよ。超練習したんだけど上手くない?」
「いや普通に文化祭とかでそのままできるレベルでしょ。テレビの素人モノマネとか出ても変じゃないよ」
「うんうん」
「実は昨日も俺1人でここのカラオケ来て練習したんよな。店員昨日の人と同じでちょっと恥ずかしかったわ」
歌い終わった後は別人のように恥ずかしがる友達。いや本当はこっちがいつものよく知っているほうなのだけど。
「俺お前が気付かんうちに今の動画撮ったからさ。SNSに上げちゃおうか」
「いやそれは恥ずかしいからやめよう。お前らに見せるのでぎりだったわ」
「でももうあと1タップで上げれるけど」
「もうちょっと待とう。てか次の曲もう始まるで」
嫌とは言いつつもまんざらではない様子の友達とそれをからかう友達。そして、次の曲は僕が入れた曲だった。
自信はあるけれどやっぱりちょっと緊張してしまう。家族にバレないように気を付けながら風呂場なんかでこっそり練習しているこの歌を、練習通りに歌うことはできるだろうか。
「俺もこの曲好き」
「え、どんな曲。俺は知らんわ」
上手く歌うコツを復習しながら呼吸やあごの位置を整えて、始まった曲の歌い出しは上々の滑り出しだった。
先程の友達が歌った時ほどではないが「うまいじゃん」くらいの声があがる。僕はその中でしっかりとリズムに乗せて確かめるように歌った。
歌声は練習通りよく伸びた。僕からしたらどこまでも伸びるような感覚があって、息切れが訪れる気もせずに、とても気持ちよく。
サビも大サビも自分の持つ歌唱力は90%くらいは発揮できたと思う。前にカラオケに来た時より確実に上手く歌えた。僕が歌い終わった後にも拍手が起きたし、機械の採点でも92点だった。
けれどやっぱり最初の友達のモノマネのほうが反響が凄かった。
別に勝負している訳でもないし、全然悔しいとかではない。僕自身凄いと思ったし、友達の新たな一面を見れて良かった。でもほんの少し恥ずかしさというか、先に歌いたかった感はある。
「みんな歌上手いんやな」
「なんか上手くなってない。前に一緒にカラオケ来た時よりも」
親友も褒めてくれて、僕は笑った。
緊張も無くなってきて、それから僕たちはカラオケのフリータイムで5時間以上店内に居座った。碌に食べ物なんかも頼んだりせずに騒ぎまくった。
途中歌うのを中断してクラスメイトの噂話になったりなんかなったりしたときは、友達が気になっていることを僕はその気になれば黒いパソコンで検索できるなんていう優越感に浸りながら話して……時間を忘れるほど楽しいカラオケとなって終わった……。
いやあ、楽しかった。それにしてもあいつのモノマネ上手かったなあ。そんなことを考えながら家に帰った僕は今日の検索タイムに入った。
検索することは帰り道で既に何となく決めてある。それはずばり歌が上手い奴を調べることだ。今日のカラオケでひっそりと歌が上手いことを隠していた奴を知ったし、どれだけ近くに居ても他人がどのくらい歌が上手いかを知る機会って中々ない。だから気になった。
「学年で1番 歌上手い奴」
僕は今日の検索ワードをこれに決めた。
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