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word21 「競馬 勝つ馬」①
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僕の家には黒いパソコンの他にもう1つ……赤いパソコンがある。
こうやって黒いパソコンと並べて言うと凄い物のように思えるが、普通のパソコンだ。家電量販店で購入されたごく普通のパソコン。リビングに置いてあって僕の家族に共用で使われている。
基本的には頻繁に使われるということはない。父は家に仕事を持ち込むタイプではないみたいだし、母も姉もネットへの依存度は低い。だから、使われるのは家族の誰かにスマホでは難しい用事ができた時だけで、忙しいのは年末に年賀状を作るときくらいだった。
僕もたまに使うけど、逆に言えばたまにしか使わない。
そんなパソコンが今日は朝起きた時から起動していた。パソコンの前には父が座っている。
「おはよう」
「……おう」
あくびをしながらリビングに入った僕は父に挨拶した。すると父は僕の方を向きもせずに難しい顔でパソコンの画面を睨んだまま返事をした。手には何やら雑誌を持っている。
今日は日曜日、休日だ。時刻は休日ならまだまだ寝てても神様が許してくれる時間帯でリビングにいるのは僕と父だけだった。
冷蔵庫から取り出したお茶を飲んで、洗面台で顔を洗う。そうして戻ってきても父はさっきと全く同じ態勢のまま全く同じ顔をしていた。
父が朝からこの行動を取っている時が父にとってどういう日かを僕は知っている、競馬にチャレンジする日だ。
年に数回、父にはそういう日がある。そしてこの日を僕は待っていた――。
「今日賭けるん?」
僕は父の隣に座ってパソコンの画面を覗き込みながら言った。
「……おう」
「ねえ。今日俺にも選ばせてよ」
「ええ。お前が?」
父はようやく僕の方を向いて、嫌な顔をした。
「うん。久しぶりに」
「だめだめ。お前が予想した馬は昔から1度も勝ったことないやん」
「いやっ。今日は絶対当てれるから!」
「何やその自信は……」
昔から僕は父の趣味である競馬で一緒に勝つ馬を予想させてもらうことがあった。僕にとっては完全に遊びだ。出走する馬の一覧を見て名前が気に入った馬や、好きな数字の枠番の馬を選ぶだけ。
父も一緒に予想する人がいるほうが楽しいという理由だけで、息子がいい加減に選んだ馬へどうせ勝てないだろうと分かっていながらも100円だとか200円だとか賭けてくれた。一応、当たったらプラスになった分をお小遣いとしてあげる約束をして。
けど、それも僕が中学生に上がる前くらいまでで……。それ以降は僕がやりたがっても父が拒否した。僕もやりたいと思わなくなっていったし。
理由は本当に全く当たらないからだ。普通はいくら適当に選んでも数撃てば1回くらい当たる。少なくとも2位や3位にはなったりする。けれど、子供の頃から僕が選んだ馬は1度も1着を取ったことがないどころか、3位以内に入った記憶もほとんどない。
僕が選んだ瞬間にその馬が呪われているんじゃないかと思うほど……。
そんな感じだから僕は子供の頃、競馬場で大泣きした経験もあり、父は僕を競馬から遠ざけるようになったのだ。
「お願い!」
「だーめ。お前にはこういうのに対する運が無いんだから。自分でも分かっとるやろ。大人になっても絶対やったらあかんで」
父はまたパソコンの方を向いて、僕の相手はしないという態度に。
「お願いお願いお願いお願い」
「ダメったらダメ」
「なんか肩叩きとかするから」
「うーん……」
「今回賭けるお金は俺のお小遣いから出すから。それで、勝ち分の半分は父さんのものにするとかでもいい――だから、お願い」
僕は胸を張って机を叩きながら言った。
「んん?今日はなんか気合入っとるな。そこまで言うなら賭ける馬だけでも聞こうか」
「うん。で、どのレース?」
「これや」
「えーっと……これね。ちょっと待ってて」
僕は父が賭けるレースを確認すると、すぐに自室へ走った。そして、黒いパソコンに聞いたのだ。
何をかは……言うまでもない。
こうやって黒いパソコンと並べて言うと凄い物のように思えるが、普通のパソコンだ。家電量販店で購入されたごく普通のパソコン。リビングに置いてあって僕の家族に共用で使われている。
基本的には頻繁に使われるということはない。父は家に仕事を持ち込むタイプではないみたいだし、母も姉もネットへの依存度は低い。だから、使われるのは家族の誰かにスマホでは難しい用事ができた時だけで、忙しいのは年末に年賀状を作るときくらいだった。
僕もたまに使うけど、逆に言えばたまにしか使わない。
そんなパソコンが今日は朝起きた時から起動していた。パソコンの前には父が座っている。
「おはよう」
「……おう」
あくびをしながらリビングに入った僕は父に挨拶した。すると父は僕の方を向きもせずに難しい顔でパソコンの画面を睨んだまま返事をした。手には何やら雑誌を持っている。
今日は日曜日、休日だ。時刻は休日ならまだまだ寝てても神様が許してくれる時間帯でリビングにいるのは僕と父だけだった。
冷蔵庫から取り出したお茶を飲んで、洗面台で顔を洗う。そうして戻ってきても父はさっきと全く同じ態勢のまま全く同じ顔をしていた。
父が朝からこの行動を取っている時が父にとってどういう日かを僕は知っている、競馬にチャレンジする日だ。
年に数回、父にはそういう日がある。そしてこの日を僕は待っていた――。
「今日賭けるん?」
僕は父の隣に座ってパソコンの画面を覗き込みながら言った。
「……おう」
「ねえ。今日俺にも選ばせてよ」
「ええ。お前が?」
父はようやく僕の方を向いて、嫌な顔をした。
「うん。久しぶりに」
「だめだめ。お前が予想した馬は昔から1度も勝ったことないやん」
「いやっ。今日は絶対当てれるから!」
「何やその自信は……」
昔から僕は父の趣味である競馬で一緒に勝つ馬を予想させてもらうことがあった。僕にとっては完全に遊びだ。出走する馬の一覧を見て名前が気に入った馬や、好きな数字の枠番の馬を選ぶだけ。
父も一緒に予想する人がいるほうが楽しいという理由だけで、息子がいい加減に選んだ馬へどうせ勝てないだろうと分かっていながらも100円だとか200円だとか賭けてくれた。一応、当たったらプラスになった分をお小遣いとしてあげる約束をして。
けど、それも僕が中学生に上がる前くらいまでで……。それ以降は僕がやりたがっても父が拒否した。僕もやりたいと思わなくなっていったし。
理由は本当に全く当たらないからだ。普通はいくら適当に選んでも数撃てば1回くらい当たる。少なくとも2位や3位にはなったりする。けれど、子供の頃から僕が選んだ馬は1度も1着を取ったことがないどころか、3位以内に入った記憶もほとんどない。
僕が選んだ瞬間にその馬が呪われているんじゃないかと思うほど……。
そんな感じだから僕は子供の頃、競馬場で大泣きした経験もあり、父は僕を競馬から遠ざけるようになったのだ。
「お願い!」
「だーめ。お前にはこういうのに対する運が無いんだから。自分でも分かっとるやろ。大人になっても絶対やったらあかんで」
父はまたパソコンの方を向いて、僕の相手はしないという態度に。
「お願いお願いお願いお願い」
「ダメったらダメ」
「なんか肩叩きとかするから」
「うーん……」
「今回賭けるお金は俺のお小遣いから出すから。それで、勝ち分の半分は父さんのものにするとかでもいい――だから、お願い」
僕は胸を張って机を叩きながら言った。
「んん?今日はなんか気合入っとるな。そこまで言うなら賭ける馬だけでも聞こうか」
「うん。で、どのレース?」
「これや」
「えーっと……これね。ちょっと待ってて」
僕は父が賭けるレースを確認すると、すぐに自室へ走った。そして、黒いパソコンに聞いたのだ。
何をかは……言うまでもない。
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