何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー

木岡(もくおか)

文字の大きさ
上 下
2 / 117

word2 「友達の弁当 今日」

しおりを挟む
 次の日、僕は朝から突然部屋に現れたパソコンと向き合っていた。

 寝て起きても黒いパソコンは変わらず机の上にいた。顔を洗って朝飯を食べて、頭がはっきりと目覚めても確かに目に映る――。

 となると、ちょっと不気味で怖い。よくよく考えれば考えるほど、とんでもない出来事だ。何で突然謎のパソコンが自分の元に現れたんだ。

 少し離れた場所で警戒しながらパソコンを睨む。昨日も気になって寝付くのが遅くなった。もっと言うとほとんど寝てない。迷惑な話である。今日も平日で学校に行くというのに昼頃にはまた眠くなって勉強どころじゃないだろう。

 でも、こいつを気味が悪いと速攻で処分しようとは思わない。何でも検索することができるパソコン。もしそれが本当ならこれは人生において禁止級の超チートアイテムだ。自分の人生を如何なる方向にも変えられるほどの。

 だからその真偽を確かめる必要がある。

 僕は黒いパソコンのキーボードに指を乗せた。当たり前にプラスチックの無機質な感触を指先に感じる。人智を超えた物質に触るのは僕の鼓動を早くした。

 手っ取り早くこれが本当に何でも分かるパソコンだと判定するには何と検索するのがいいだろうか。1日1回の制約があるが、今日は審議を確かめることに使うとして、上手い事それを求める方法。

 ただ自分が知らないことを調べるだけでは当然ダメだ。自分が知らないことでも誰かが知っていて、普通のパソコンでも調べることができるならこのパソコンの性能の証明にはならない。

 全く誰も知る由がない情報でもダメ。地球が終わる日を調べたとして、それがデタラメではなく本当かなんてその日になってみないと分からない。

 だとすると、今現在自分には全く想像が付かないし普通のパソコンでも調べられない、それに加えてすぐに答えが分かること。これが条件になる。

 そう難しく考えなくてもこの条件ならたぶん、少し未来の話をこのパソコンに聞いてみるのがいいだろう。今日の夕食のおかずだとか、今日行われる何かしらのスポーツの勝敗だとか……。

 検索することの方向性は決まったのだけれど僕はこれというものをすぐに決められなかった。おかずや勝敗じゃ当てずっぽうでも命中させられる気がしてしっくりこない。キーボードから手を離して、頬杖をつく。

 そしてしばらく、僕は結局しっくりこないながらも検索ワードを「親友の弁当 今日」にすることにした。

 他人の弁当なら自分の家のおかずを調べるより信憑性がある気がする。

 入力してEnterキーを叩くと昨日と同じように出て来た答え。それは……。

「今日のあなたの親友の昼ご飯はカップラーメンです」

 「は?」僕はだらしなく口を開けた。それというのも全くあり得ない回答だったからだ。僕が昼飯を共にする親友は真面目なタイプで、弁当も毎日親の手作り。たまにコンビニ弁当を持ってきているところすら見たことが無い。

 間違っても高校の昼休みに目立とうとしてカップラーメンを食べるなんてことをするタイプじゃない。

「はあ……」

 あほらしい。期待して損したみたいだ。手の込んだイタズラか。どこかで俺が検索したワードに適当に返答している奴がいたりするらしいな。

 逆に言えばこれが本当であれば確実にこのパソコンは真だ。でも、ありえない。そうなったら100回土下座してやる。僕は黒いパソコンを軽く殴ってそのまま家を出た。時間を取られて遅れそうなことにも腹が立っていた。

 そしてその日の昼休み――。

 いや……めっちゃカップラーメン持っとるやんけ…!

 そこには今まで見たことが無い親友の姿があった。教室で粉末スープを開けかやくを開け、魔法瓶の水筒に入った熱湯を容器に注ぐ。

 いやいや、嘘やん。自分そんなキャラとちゃうやん。急にどうしたん。

 周りの友達やクラスメイトも奇妙な目を親友に向ける。眼鏡をかけた真面目なタイプの親友どころか、クラスメイトの誰も高校の昼休みにカップラーメンを作っているところなんて見たことが無い。

「いや今日さ。俺もビックリしたんだけど、親がこれ持っていけってカップ麺と熱湯をさ――」

 そんなことある?何かの罰ゲームじゃなくて?

 心の中でツッコミを入れてはみるけれど、僕の親友は嘘偽りない表情で。むしろ眼鏡を湯気で曇らせながら恥ずかしそうに言っているのであった。

「なあ。いきなりだけど、お前って自分用のパソコン持ってたっけ?」

「え?持ってないけど。ほんといきなり何の質問?」

「いや、何でもない……」

 僕は教室中に充満するカップラーメンの匂いと、パソコンが本物だったこと――2つの理由でごくりと喉を鳴らしたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...