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第1章・恋人
5話 別れ
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私はベッドの傍の椅子で目を覚ました。
昨日は1日中歩いたものだから、病室に戻ってすぐに眠ってしまった。
彼女はまだ眠っている。
しばらく目を覚まさなそうだと思った私は、気分転換に外の空気を吸いに庭へ向かった。
庭に着いた私は昨日のことを思い出していた。
彼女のあの笑顔は、私を幸せにしてくれる。
またあの笑顔が見たい。
いつまでも彼女の隣にいたい。
今までの日常がこんなにも幸せで儚いものだと、私は気づかなかった。
病室へ戻ると、彼女のベッドの周りには医者とたくさんの看護士がいて慌ただしくしている。
「ミラ!!」
私は急いで彼女のところへ向かった。
彼女は汗を流しながら苦しそうにしている。
「ミラさんの旦那様ですね?ミラさんの容体が急変しました。鎮静剤を打ったので今は大丈夫です。」
「彼女は、ミラは助かるんでしょうか!?」
「正直に申しますと、ミラさんの病状は非常に悪く、手の施しようがありません。…もって今夜までかと。」
「そんな…。」
静かになった病室で私は放心状態になっていた。
昨日まであんなに元気に笑っていたのに、今夜までの命だなんて…。
彼女は鎮静剤が効いて穏やかに眠っている。
その顔を見ていると悲しさで胸が潰れそうだ。
私は、再び目を開けてくれることを祈りながら彼女の手を握りしめた。
どのくらい時間が経ったのだろうか。
日が沈んで外は真っ暗だ。
もう目を覚ましてはくれないのかもしれないと思い始めた頃、彼女の手が少し動いた気がした。
「ミラ!私の声が聞こえるかい?」
すると、返事をするように手を握り返してくれた。
「良かった…良かった…あぁ、もう君と話せないのかと思った…。」
「心配かけて…ごめんなさい。」
私は泣きそうになりながら喜んだ。
「あのね、私もう…そんなに長くは…生きられないと思うの。」
彼女は少し苦しそうに、いつもよりも小さい声でそう言った。
「何でそんなこと…」
「私の体のことは、私が一番…よく分かるわ。」
「……」
「でもね、私が死んで…あなたが悲しむのは見たくない。人生に絶望して欲しくないの。」
「……」
「私は…あなたの隣にずっと…いることはできないけれど、とっても幸せだったのよ。」
「何も思い残すことなんて…無いわ。」
「だからあなたも、自分の人生を…精一杯生きてね。」
「今まで、本当にありがとう…。愛しているわ。」
笑顔を浮かべてそう話し終えた彼女は眠りに就くようにゆっくりと瞳を閉じた。
「分かった、分かったよ。私も君を愛してる。世界中の何よりも愛してる!」
繋いでいた彼女の手からは力が抜けて、もうここに彼女はいないのだと気が付いた。
それでも私は、愛していると言い続けた。
やがて日が昇って朝になった。
散々泣いた。
握っていた彼女の手はもう冷たくなっていた。
彼女と共に見た庭のバラは、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
『最愛の人が死んだ』、この傷が癒えるのかどうかは分からない。
それでも私は、彼女と約束したようにこの悲しみを乗り越えると心に誓った。
昨日は1日中歩いたものだから、病室に戻ってすぐに眠ってしまった。
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「ミラさんの旦那様ですね?ミラさんの容体が急変しました。鎮静剤を打ったので今は大丈夫です。」
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「正直に申しますと、ミラさんの病状は非常に悪く、手の施しようがありません。…もって今夜までかと。」
「そんな…。」
静かになった病室で私は放心状態になっていた。
昨日まであんなに元気に笑っていたのに、今夜までの命だなんて…。
彼女は鎮静剤が効いて穏やかに眠っている。
その顔を見ていると悲しさで胸が潰れそうだ。
私は、再び目を開けてくれることを祈りながら彼女の手を握りしめた。
どのくらい時間が経ったのだろうか。
日が沈んで外は真っ暗だ。
もう目を覚ましてはくれないのかもしれないと思い始めた頃、彼女の手が少し動いた気がした。
「ミラ!私の声が聞こえるかい?」
すると、返事をするように手を握り返してくれた。
「良かった…良かった…あぁ、もう君と話せないのかと思った…。」
「心配かけて…ごめんなさい。」
私は泣きそうになりながら喜んだ。
「あのね、私もう…そんなに長くは…生きられないと思うの。」
彼女は少し苦しそうに、いつもよりも小さい声でそう言った。
「何でそんなこと…」
「私の体のことは、私が一番…よく分かるわ。」
「……」
「でもね、私が死んで…あなたが悲しむのは見たくない。人生に絶望して欲しくないの。」
「……」
「私は…あなたの隣にずっと…いることはできないけれど、とっても幸せだったのよ。」
「何も思い残すことなんて…無いわ。」
「だからあなたも、自分の人生を…精一杯生きてね。」
「今まで、本当にありがとう…。愛しているわ。」
笑顔を浮かべてそう話し終えた彼女は眠りに就くようにゆっくりと瞳を閉じた。
「分かった、分かったよ。私も君を愛してる。世界中の何よりも愛してる!」
繋いでいた彼女の手からは力が抜けて、もうここに彼女はいないのだと気が付いた。
それでも私は、愛していると言い続けた。
やがて日が昇って朝になった。
散々泣いた。
握っていた彼女の手はもう冷たくなっていた。
彼女と共に見た庭のバラは、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
『最愛の人が死んだ』、この傷が癒えるのかどうかは分からない。
それでも私は、彼女と約束したようにこの悲しみを乗り越えると心に誓った。
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