帰るための代償

ゆーた

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3 見たこともない風景

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ふと気がついて窓を見ると、周りには見たこともない風景が一面に広がっていた。かすかに動いているように感じていた電車が止まったようだ。
乗り過ごしてしまったのか?と冷や汗をかいていた。
ここは何処?視界の中を捜索する。
すると、『大宮駅』と書かれた看板があり、驚いて、スローモーションで見てみたいほどの綺麗な三度見をしてしまった。
大宮...さ、埼玉っ?。
勉強もほとんどしてこなく、遠い場所の地名など知っているはずもない俊佑だが、大宮が埼玉というのは、大宮にプロのサッカーチームがあるため知っていた。
それにしても、なぜ此処にいるのか分からなかった。そもそも、記憶が無いのだ。
電車が走り出した直後、急に睡魔に襲われて、成す術もなく寝てしまったような気がする。
疲れていたわけではなかった。
眠らされたのか?いやどうやって。
思い当たる節は全く浮かばない。
朝ほどではないが乗客もいた車内で人を眠らせるなんて... 。流石に眠らされたとは考えにくい。
まぁ考えたところで、過ぎたことは仕方がない。
とりあえず戻らなくては。一旦改札を出よう。改札口横の乗りこし精算機に急いだ。

幸い、三百円程度の乗り越しだっため安堵した俊佑は、ほっと一息をついた。
まだ時間は沢山ある。早く帰ってて助かったなぁ。右手で握りしめていた切符が勢い良く吸い込まれていく。よく寝ながら離さなかったと思う。

さぁ、三百四十円か。
しかし、先程の安堵から一転、思いもよらない異変に気づいた。

財布が見当たらない。
いくら探しても見当たらない。
もう一度探してもやはり無い。
さっき見たときに五人の英世が入っていたはずの財布。
電車に置いてきたのか。いや、降りるときに椅子は見たはず。
突然の睡魔。財布の紛失。頭の中でその二つの謎が繋がった。その謎が解けたことで、もやもやが取れたが、それは残酷なものであった。
彼の思った通り、眠らされ、盗まれたのだ。同時に目の前の乗り越し精算機を見て、蒼白になった顔には、消えたはずの冷や汗が戻ってきた。
乗り過ごした分の料金が払えない。大宮は埼玉県。お金無しに帰ることは不可能だろう。そして携帯の充電は案の定ゼロ。
せめて距離だけでも教えてくれと心の中で叫ぶ。
しかし、思い出した。ポケットに昨日買ったフライドポテトのお釣りの三百円何円かがあることに。
ミディアムサイズと迷った挙げ句ケチって、スモールサイズにしたんだった。
三百五十円はここまでありがたいものなのか。まるで諭吉を見つけたかのようだ。お釣りは十円のみ、まさに九死に一生を得たのであった。五百円玉で百五十円のスモールを頼んでて良かった。ミディアムだったら足りなかった。
これを見込んで、スモールを購入したのだ。
なんてね。
毎回、ウケを狙ってるのかのように、下手くそなジョークで返してくる奴がいたなぁ。朝の卓哉との会話が、昔のように感じる。
今、横にあいつがいてくれてれば、まだ楽なんだろうけどなぁ。
いや、あいつがいたら乗り過ごさないか。あはは。
これからどうすれば帰れるのか全く分からないという絶望に、笑いすら出てしまった。
とにかく、乗り越し料金を払うという、第一関門は突破したのだ。
神様はまだ微笑んでいる、そう信じて残り四時間程で家に帰る道を模索しなければ。

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