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立春の章
第9話 あの音はいつまでも忘れられず
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「で、デュオって何やるんスか?」
「うーん、考えてなかった。ちょっと待って……。」
言いだしっぺである二ノ宮センパイに投げかければ、どれにしよっかなーと音楽室の奥の部屋へと行ってしまった。たぶん、楽譜が仕舞われている場所なのだろう。
手持無沙汰に相棒を構え、適当に音出しをする。そろそろ本格的に基礎練習しないとヤバイな、と感じる程度には音が荒れていた。相棒から文句言われているような錯覚さえする。一応、腹筋とか筋トレは続けてるんだけどなぁと嘆きながらも、吹くことはやめない。興に乗ってしまい、中学生時代に吹いた曲のメロディーをなぞる。懐かしいな、と思いながらあの年の課題曲を吹いていく。
バサバサッ。何か楽譜の様な、紙の束が落ちた様な音がした。思わず吹いていた手を止めて、音がした方を見ると二ノ宮センパイの足元には楽譜らしき紙が散乱していた。肝心のセンパイは、僕の方に指さしてわなわなと震えていた。一昔の漫画じゃあるまいし、と独り言つ。
「な、な、七ツ河、それ……っ!」
「なんスか?ってか、めっちゃ落ちてますけど。」
「え、え、それ、なんで七ツ河が吹いてるの?!」
「はぁ、吹いちゃダメっスか。」
「それ、昨年の課題曲じゃん!七ツ河、吹奏楽復帰したの!?」
「……っ!」
指摘されてたじろぐ。うっかりしていた、と心の中で盛大に舌打ちした。確かに、この曲は気に入っていたがそういえば課題曲だったか、とマズったという感覚しかない。そして、二ノ宮センパイはなぜか目を輝かせてこちらをキラキラと見ている。
どう、答えたものか……と頭を抱えたくなった。
「……吹奏楽は、辞めたっスよ。」
「じゃあ、なんで……。」
「耳コピって知らないんスか、センパイ。」
わざとらしく、肩をすくめてみせた。内心、冷や汗が背をつたうのが分かった。どうやってこの場を切り抜けようか、ということばかり考えている。というか、これは言い訳になってないのだけは分かっていた。
案の定、二ノ宮センパイはこの答えがお気に召さなかったらしい。
「でも、なんで課題曲?」
「この曲が好きだから、以外に何かあるんスか。」
「だって、聞こうと思わなきゃ課題曲なんて聞かないよ。」
確かに、二ノ宮センパイの指摘はごもっともだ。通常、というか多くの人は夏のコンクールを意識していなければ、聞く機会はぐっと減る課題曲。もちろん、課題曲が一般的に演奏されるようになることもあるが、この曲に関してはそうなっていると聞いたことはあまりない。そもそも、この曲はマーチだから、とても有名なマーチ曲が多い昨今、この課題曲が演奏されているという話を聞くことはあまり多くはないように思う。演奏してるところもあるけど、と独り言つ。
なんて返そうか迷っていると、勝手に納得したように頷き自身のトランペットをひょいっと持ち上げ抱えると、にっこり笑った。
「どうせ、裏メロも耳コピしてんでしょ?やろ!」
「……まあ、裏メロもイケますけど。」
「じゃあ問題なし、いっくよー!」
はぁ、とため息をついてから相棒を構える。そして、指を鳴らしてカウントを取り始める。二ノ宮センパイとやる時は、何故か僕がカウント取るのが恒例となっていた。そういえば、なんでだろうと思いながら二ノ宮センパイのいち、に、さん、の合図で音を紡ぐ。
二ノ宮センパイの、綺麗な透き通った音が軽快なメロディーを奏でていく。これだコレ、たぶん僕はこの音を求めていたのだ。だから一高のコンクールも見に行ったし、憧れて耳コピまでした。
きっと、それは今日に繋がっているのだろう。そう感じた。
「うーん、考えてなかった。ちょっと待って……。」
言いだしっぺである二ノ宮センパイに投げかければ、どれにしよっかなーと音楽室の奥の部屋へと行ってしまった。たぶん、楽譜が仕舞われている場所なのだろう。
手持無沙汰に相棒を構え、適当に音出しをする。そろそろ本格的に基礎練習しないとヤバイな、と感じる程度には音が荒れていた。相棒から文句言われているような錯覚さえする。一応、腹筋とか筋トレは続けてるんだけどなぁと嘆きながらも、吹くことはやめない。興に乗ってしまい、中学生時代に吹いた曲のメロディーをなぞる。懐かしいな、と思いながらあの年の課題曲を吹いていく。
バサバサッ。何か楽譜の様な、紙の束が落ちた様な音がした。思わず吹いていた手を止めて、音がした方を見ると二ノ宮センパイの足元には楽譜らしき紙が散乱していた。肝心のセンパイは、僕の方に指さしてわなわなと震えていた。一昔の漫画じゃあるまいし、と独り言つ。
「な、な、七ツ河、それ……っ!」
「なんスか?ってか、めっちゃ落ちてますけど。」
「え、え、それ、なんで七ツ河が吹いてるの?!」
「はぁ、吹いちゃダメっスか。」
「それ、昨年の課題曲じゃん!七ツ河、吹奏楽復帰したの!?」
「……っ!」
指摘されてたじろぐ。うっかりしていた、と心の中で盛大に舌打ちした。確かに、この曲は気に入っていたがそういえば課題曲だったか、とマズったという感覚しかない。そして、二ノ宮センパイはなぜか目を輝かせてこちらをキラキラと見ている。
どう、答えたものか……と頭を抱えたくなった。
「……吹奏楽は、辞めたっスよ。」
「じゃあ、なんで……。」
「耳コピって知らないんスか、センパイ。」
わざとらしく、肩をすくめてみせた。内心、冷や汗が背をつたうのが分かった。どうやってこの場を切り抜けようか、ということばかり考えている。というか、これは言い訳になってないのだけは分かっていた。
案の定、二ノ宮センパイはこの答えがお気に召さなかったらしい。
「でも、なんで課題曲?」
「この曲が好きだから、以外に何かあるんスか。」
「だって、聞こうと思わなきゃ課題曲なんて聞かないよ。」
確かに、二ノ宮センパイの指摘はごもっともだ。通常、というか多くの人は夏のコンクールを意識していなければ、聞く機会はぐっと減る課題曲。もちろん、課題曲が一般的に演奏されるようになることもあるが、この曲に関してはそうなっていると聞いたことはあまりない。そもそも、この曲はマーチだから、とても有名なマーチ曲が多い昨今、この課題曲が演奏されているという話を聞くことはあまり多くはないように思う。演奏してるところもあるけど、と独り言つ。
なんて返そうか迷っていると、勝手に納得したように頷き自身のトランペットをひょいっと持ち上げ抱えると、にっこり笑った。
「どうせ、裏メロも耳コピしてんでしょ?やろ!」
「……まあ、裏メロもイケますけど。」
「じゃあ問題なし、いっくよー!」
はぁ、とため息をついてから相棒を構える。そして、指を鳴らしてカウントを取り始める。二ノ宮センパイとやる時は、何故か僕がカウント取るのが恒例となっていた。そういえば、なんでだろうと思いながら二ノ宮センパイのいち、に、さん、の合図で音を紡ぐ。
二ノ宮センパイの、綺麗な透き通った音が軽快なメロディーを奏でていく。これだコレ、たぶん僕はこの音を求めていたのだ。だから一高のコンクールも見に行ったし、憧れて耳コピまでした。
きっと、それは今日に繋がっているのだろう。そう感じた。
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