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【第一章】斯くして物語は巡り始める

ep.20

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 ロッソィーノ侯爵家令嬢、ルミナスは首を傾げていた。ファルミーナが自分を呼ぶので、勢い余って彼女の呼ぶ声に従って着いてきている。しかし、いくらミーナを信頼しているからと言って、何も聞かずに着いていくことがあっただろうか、と不思議に思っていた。そもそも、ミーナが理由も何も言わずにルミナスを動かすことがあっただろうか。緊迫している時ならともかく、ミーナは身分差を理由にそこは一線は引いて接しているのは、ルミナスにとっては物足りなくても、周りが許さないので仕方ないと思っている。だからこそ、不思議だった。


(何が起きているのかしら……?)


 それに、ベルナルトとリュエが着いてくると思ったのだが、2人がいないのも不思議であった。あの2人は一応ルミナスの護衛としてきている以上、ルミナスから離れるとは思い難い。ということは、着いてはこれない何かが働いているということだった。


(まあ、問題ないわね。)


 ルミナスは心配していなかった。ミーナが自分を呼んで着いてくるように言った以上、今まで一緒に過ごしてきたからこそ、信頼していた。むしろ、いつもは大人しいミーナが何をするのか、わくわくしていた。心配なのは、知らない男が魔術を使っているらしきことであった。しかし、ファルミーナを害する機会はいくらでもあったにも関わらず、ミーナが特に変わりないこと、いや少し様子が違うがしばらくは見守るつもりであって、とにかく問題はなさそうである。ミーナが何かしている以上、男を監視するのは自分の役目だとルミナスは気を抜かぬようにだけ注意することにしていた。


(学園を卒業してからこんなに愉快な気持ちになったのは、なかったわ。)


 やはりファルミーナと過ごすのは、至極愉快である。ルミナスの頬を緩めるのは、抑えきれなかった。


 ***


 ファルミーナは、夢見心地のようなふわふわとした感覚であることはかろうじて自覚していた。しかし、間違いないことは分かっていた。


(ルミナス様は来て下さった、だから大丈夫。)


 ルミナス様と、きっと自分を認めているこの男、2人がいれば間違いないことは分かっていた。むしろ、好条件であることが分かっている。きっとこれで大丈夫、だからあとはにお会いすればいいのだ。そして、はファルミーナを待っていてくださっているのは感覚的に分かっている。だから、を蹴散らして、進むのみなのだ。身重のファルミーナであるが、きっと2人が助けてくれる。だから大丈夫、そうファルミーナは考えていた。


(早く、あの方にお会いしなきゃ。)


 ファルミーナは、浮かれていた。しかし、足取りはしっかりとしている。ファルミーナが進むにつれて道が現れ、まるで周りの草花が喜ぶように咲き誇り、生え盛り、木々は実りをファルミーナに届けるように実をファルミーナの方に落としては木がさらに生えていった。

 周りは、世界は、ファルミーナが訪れることを祝っていた。
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