学園制圧

月白由紀人

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第21話 戦闘 その2

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 学園内を銃声のする第二校舎に向かって走ってゆく途中で、女子生徒十人程を連れた集団とばったり出くわした。

 迷彩服を着て銃を持った三人の兵士たちなんだけど、教室で僕らを見張っていた操り人間のスレイブとは様子が違う。

「明莉さん……」

 その中の一人が戸惑っているという声を出した。

「何をやっているの!? その生徒たちは? 持ち場に戻りなさい!」

 明莉は叱責するが、兵士たちが言う事を聞く様子はない。別の一人が、いきなり明莉に銃を向けてきた。

「何のつもり? 銃を下ろしなさい」

 明莉が険しい声を出すが、兵士は銃を下ろさない。

「そこをどけ。俺たちは脱出するんだよ」

 兵士が明莉に、どくように銃先で促してきた。

「校舎内でドンパチが始まったな。仲間割れかスパイかしらんが、俺たちはもうこの場所に用がねーんだよ。ゴアテクが突入してくる前に逃げねーとな」

 明莉の部下らしき兵士は、チンピラみたいな言葉を投げつけてくる。残りの二人も僕らに銃口を向けてきた。

「さっさとどけ。じゃまなんだよ」
「貴方たち、最初から……」
「そうだよ。こいつら連れてダークワールドに潜んだよ」
「若いJK売れば、地下でいい暮らしが出来んだろ」
「決起なんて最初からどうでもいいんだよ。そんなもんにすき好んで参加するわけねーだろ」

 口々に言い放つ兵士たちに、明莉は衝撃を受けている。

「早く退け。お前は避けられても一緒にいる男は死ぬだろ」

 一人が、明莉を脅してきた。その明莉が小さい声で僕に囁いた。

「名前を呼んだらしゃがんで」
「どけって言ってんだろっ!」

 男が声を荒げると同時に、明莉が小さく僕の名を呼ぶ。

「優也」

 僕は言われた通りにしゃがんで丸まり……。明莉が、跳んだ。前面の男の銃をハイキックで弾き飛ばし、懐に入り込んで腹に掌底。さらに身体を回してもう一人に上段蹴り。

「てめえっ!」

 言いかけて銃を撃とうとした男に、明莉は裏拳を叩きこむ。二秒後には、地面に倒れてうめいている男たちの光景が広がっていて、僕は心底驚いた。

 明莉が超人的な能力を持っているナイトメアだってことは知っている。でも、目の前で肉弾戦闘を見せつけられると、否が応でも認めざるを得ない。

 相手の男たちだって、ナイトメアのはずだ。それを瞬殺した事実が、明莉の能力の高さとか、今まで潜り抜けてきた実戦とかを想像させて、どうにも唸ってしまう。

「すごい……ね……」

 僕は、明莉に何かを言わなくちゃと思ってなんとか口を開く。あまりにありきたりというか、思ったままというか、率直な感想になってしまったんだけど、どうしようもない。

「そうね。嬉しくないけど、実戦経験は豊富だから」

 確かに明莉は嬉しくない楽しくもないという抑揚、もっと言うと少し自嘲気味に返答してきた。

 明莉が、震えている女子生徒達に顔を向ける。

「ごめんなさい。今は構ってる暇はないの。近くに図書館があるから隠れてて。兵隊はいないはずだから」

 確かに今こうしている間にも、第二校舎の方からは銃声が続いている。

「あ、あの……」

 女子の一人が、こわごわとした様子で声を出した。

「あり……がとう、ございました。助けてくれて」
「いえ」

 明莉がその礼を否定する。

「私は、そこに倒れている犯人たちの仲間だから」
「……?」

女子は、明莉の言葉がわからないという顔。

「声を上げるのにやむを得ない方法だったとはいえ、生徒の犠牲を承知で計画したのは私。だから、そんな顔をされると逆に辛い」
「…………」

 女子生徒たちは理解できないとい表情を見せたが、それでも「ありがとうございました」と丁寧な感謝を述べて、図書館へと逃げていった。

 そして女子達を見送って、僕らは第二校舎へと向かう……と思ったんだけど、明莉は何故か動かない。

 どうしたのかとよく見ると、口端を噛んでこぶしを握り締めて、その場所に立ちつくして震えていた。

 明莉の目線の先を追うと、地面に倒れている男たちがいて、僕は明莉にどう言おうかと悩みながら口にする。

「仲間のヒトたちだったのに……」
「ええ。決起の仲間……だったナイトメア、ね」

 明莉は苦虫を噛み潰すという口調。

「うん。残念だね……」
「ええ。私も街の闇でいろんな人たちを見て騙してきたけど……。いざ実際に自分が裏切られると……辛いわね」

 自虐的な笑みを浮かべる。

「因果応報ってやつかしら?」
「そんなこと!」

 僕は否定したけど、でも、明莉が裏切られたことはどうにもならない。

「大丈夫。平気よ。これくらい想定の内。いきましょう。まだ全然序の口だから」

 そう言って明莉は駆け出した。僕は慌ててその明莉の後を追う。明莉の背からはその感情は読み取れなかった。けど、疾駆に揺れている長い黒髪は哀しみに濡れている気がして、見るのがやけにつらいのはどうしようもなかった。
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