学園制圧

月白由紀人

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第4話 神楽蒼樹

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 明莉がナイトメア?

 ナイトメアって、ネット掲示板なんかで噂になっている、いるかいないかもわからない怪異のこと?

 でもそれはただの噂話レベルの話で、実際に確かめられたとか政府の誰かが言及したとかいう話しはなにもなくて。

 でも明莉は、恐ろしい事をした後に、自分で自分の事をナイトメアだと自己紹介した。

 意味が全然……解らない。僕は、明莉の言動に驚き震えるばかりだ。

「政府にはメッセージを送りました。貴方がたは、囚われのナイトメアを解放するための人質になってもらいます」

 政府にメッセージ。囚われのナイトメア。人質。

 混乱に塗れている僕の中で、少しずつだけど絡まっている糸がほどけて事象が固まってゆく。

 明莉は……恐るべきことなんだけど実はナイトメアという怪異で、仲間に同じ怪異のナイトメアたちがいて、それが牢獄かどこかに捕まっていて、その解放に僕らを使おうというようなことなのだろう。

 ならば既に殺人を犯してしまった怪異の明莉は、テロリストみたいなことをしようとしているのだろうとも想像できる。

 あの明莉が怪異で……。ちょっと想像の上を行き過ぎてるけど、明莉はもう織田君を……殺してしまっていて……。その事実は変えようがなくて……。目の前が暗闇に包まれるように感じる。と――

「明莉さん」

 場に相応しくない、落ち着き払った声が僕の耳に届いた。見ると、神楽蒼樹かぐらそうじゅ君が手を上げていた。

 この神楽蒼樹君は、当たり前なんだけど僕や明莉と同じクラスの同級生だ。長身で細身で端正。いつも物静かな学年一の成績の優等生で、なんというかイケメン陽キャという感じじゃないんだけど、一目でモテるんだろうなと想像できる外見。告白している女子も多いって話なんだけど、いつも独りで、女の子と一緒にいるところは見た事がない。

 その神楽君は、この過酷な状況で、授業中に質問するかのようだ。

「神楽君? なにか?」

 明莉は、その神楽君にあくまで落ち着いた声を返す。

「トイレ。いいですか?」
「ダメと……言ったら?」
「もれてしまいます。ここでしていいなら……」
「…………」

 明莉は少し神楽君を見つめた後、「いいわ。早く帰ってきて。危ないから」と答えて、もう用はないでしょという感じで泉田先生と再び話を始める。

 神楽君はおもむろに立ち上がって、落ち着いているという動きでゆっくりと教室前方の扉を目指す。泉田先生が、脇を通った神楽君にちらと目線を走らせて、明莉に告げた。

「スレイブを一人つけた方がいいんじゃないのか?」
「不要……でしょう。神楽君はこのセカイに対する偏見があるようですが、言い方悪いですが『いい生徒』なので特に何かをしでかすことはないと思います」
「まあ……そうか」
「ええ。話は戻りますが、さっき情報部に送ったメッセの返事で……」

 そんな、明莉と先生の隣をするりと抜けて、神楽君は教室から出ていった。


 ◇◇◇◇◇◇


 神楽蒼樹は、明莉たちが制圧しているクラスから抜け出し廊下を進む。授業前だった各クラスには、自動小銃で武装している魅了された人間――スレイブ――が配置されている。対面から、そのスレイブ二人が歩いてきたので神楽は『能力』を発動させる。

『インビジブル』

 気配を絶ち、姿を見えなくする神楽固有の異能力だ。そして何事もなく兵士二人とすれ違い、さらに廊下を進む。

 神楽は校舎を出た。昇った太陽がまぶしい。昨夜は優菜――セフレというか手駒にしている一組の女子――に一晩中奉仕させていたので、目に眩い。

 食堂や生協が入っている厚生塔の脇を曲がり、新緑のイチョウに彩られた正面通路を進み、そして正門へとたどり着く。

 既にパトカー数台と警官十人程が門の前で立ち往生している。どこかからの通報だろう。明莉たちの「通牒」に対する政府の反応なら、こうはなっていない。初手から陸自か、あるいは対ナイトメア専用部隊が出張ってきているはずだ。

 右往左往している警官を見ながら、インビジブルを解除する。

「キミっ! だいじょぶかねっ!」

 神楽を認識した警官が、慌てた様子で声をかけてきた。

「この門から入れないっ! キミは出られるかっ!」

 神楽はそれを無視して、手をぺたぺたと当てて、正門に『壁』が出来ていることを確認する。押すことも引くこともできない、空気の壁。ナイトメアたちの異能力によって張られた『結界』だ。

 そのまま学園の周囲にそって一周する。壁は学園を覆っていた。一般の人間にはどうしようもない。対ナイトメア用の特殊部隊が強制的にこの結界を破壊するまでは。確認したのち、再び校舎に入った。まあ、予定通りか……と、神楽は思考を続ける。

 と、向こうから、鼻歌を歌いながら気分ルンルンという調子でショットガンを肩に掲げて歩いてくる人物が目に入った。

 知っている、よく見知っている生徒、小宮サーヤだった。一年一組の金髪ポニーテイルハーフで、上級生に人気の一年生ギャル。インビジブルは解いているので、向こうも神楽を確認できる。

 二人、近づき、すれ違う。その際、サーヤが神楽にアイコンタクト。神楽は、それに返すことはしないで通り過ぎた。
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