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第3話 不明
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「この学園は、私たち『エデン』が制圧しました。静かにしてください」
着席させられた僕らを、黒板前の檀上から明莉が睥睨している。さらに教室の四隅には、迷彩服を着た一目で屈強だとわかる兵士たちが、自動小銃みたいなものを抱えて僕らを威圧している。
理解できない。
訳が分からない。
混乱の渦中、恐怖に身の毛がよだち背筋に悪寒が走る。
ちらと「これはきっと夢だ!」という気持ちで床に目線を走らせると、確かに確実に織田君……だったもの……が血塗れで床に倒れていて……。
慌てて目を背けて、胃からこみあげてきた液体を無理やりなんとか飲み込んで、めちゃくちゃになりそうな自分の気持ちを落ち着かせようとする。
みんな無言。微動だにしない。そんな僕らに、明莉が平然とした顔で怖ろしい言葉を続けてきた。
「貴方たちには人質になってもらいます。私たちの目的が達せられたら、その時に無事な人は解放しますが……」
目的? 明莉の目的ってなんだろう? そもそも明莉はなんでいきなりこんなことをしでかして、僕らはこんな状況に陥っているんだ? さらに、クラスの四隅に立って銃を抱えている兵士たちは? 全てが、全く完全にわからなくて意味不明だ。
そこに、前方の教室扉から担任教師の泉田先生が入ってきた。普段の背広姿で、特段変わったところはない。いつもと同じように、授業前のホームルームをしに来たようにしか見えない。
「先……生っ!」
クラス委員長の月島さんが席から立ち上がって、通りかかった助け舟にすがるような声を上げた。
この状況ですごい勇気だと思う。実際、心を振り絞っているのだろう。顔を向けてきた泉田先生に訴える目を向けている月島さんは、震えている。
泉田先生なら、優しく生徒想いの先生なら、この状況をどうにかできるかもしれないと頼った月島さんの気持ちもよくわかる。
「先生っ! 織田君が……。そこの明莉さん……が……。先生っ!」
悲痛な声で助けを求める月島さんだったが、明莉に動揺は微塵もみられない。少しも感情を乱さずに、泉田先生と想像もしてなかった恐るべき会話を始めたのだ。
「先生。そちらはどうですか?」
「問題ないな。終わった」
「各メンバーは?」
「配置は完了している。学園は完全に俺たちの制圧下にある」
「……え?」
月島さんから漏れた声が、静かな教室にやけに響く。
「端緒は……織田か?」
「ええ。やむを得ない計画でした。残念ですが」
「そうか。織田は……残念だったな」
先生は、まるで明莉たちの仲間の様な言動をしている。
「終わった」、「俺たちの制圧下」、等の言葉が、僕に襲い掛かってくる。あれは、本当に僕の幼馴染の、いつも温和で優しかった明莉なのか? 小さい頃から一緒に遊んでご飯を食べて、昨日会話しながら帰った明莉なんだろうか? あり……えない……と思う。先生を含めて、未だに……目の前の出来事が……信じられない。
「まあ、予定通り……だな。こちらも、暴れた三人の生徒には、申し訳ないが無理やり黙ってもらった」
「やむを得ません。暴力はない方がいい……と言いたいけど、残念ながら私はそれほど善人じゃない。正直、私たちの叫びがセカイを揺らしてくれれば……」
「そうだな。やむを得ない」
同意するという様子で、泉田先生が明莉の前に拳を掲げる。
「明莉。各メンバーにメッセージを」
先生の言葉に従って、明莉がスマホを取り出し話し始める。
「各メンバーへ。今までの皆さんの努力と協力に感謝します。ですが状況が開始された今、事態はこれからです。我々は必ず成功します。事が成った暁には、我々は感謝と尊敬と未来を得て、みなの希望となるのです。各自一層の努力と奮起を。再度、感謝します。そして、これからです」
明莉が、スマホを切って僕らに向き直った。真正面から、再び言い放つ。
「私は『ナイトメア』の山名明莉です。この学園は私たち『エデン』が掌握しました。貴方たちには、拘束されている仲間を解放するための人質になってもらいます」
なにもかもが、理解できなかった。
着席させられた僕らを、黒板前の檀上から明莉が睥睨している。さらに教室の四隅には、迷彩服を着た一目で屈強だとわかる兵士たちが、自動小銃みたいなものを抱えて僕らを威圧している。
理解できない。
訳が分からない。
混乱の渦中、恐怖に身の毛がよだち背筋に悪寒が走る。
ちらと「これはきっと夢だ!」という気持ちで床に目線を走らせると、確かに確実に織田君……だったもの……が血塗れで床に倒れていて……。
慌てて目を背けて、胃からこみあげてきた液体を無理やりなんとか飲み込んで、めちゃくちゃになりそうな自分の気持ちを落ち着かせようとする。
みんな無言。微動だにしない。そんな僕らに、明莉が平然とした顔で怖ろしい言葉を続けてきた。
「貴方たちには人質になってもらいます。私たちの目的が達せられたら、その時に無事な人は解放しますが……」
目的? 明莉の目的ってなんだろう? そもそも明莉はなんでいきなりこんなことをしでかして、僕らはこんな状況に陥っているんだ? さらに、クラスの四隅に立って銃を抱えている兵士たちは? 全てが、全く完全にわからなくて意味不明だ。
そこに、前方の教室扉から担任教師の泉田先生が入ってきた。普段の背広姿で、特段変わったところはない。いつもと同じように、授業前のホームルームをしに来たようにしか見えない。
「先……生っ!」
クラス委員長の月島さんが席から立ち上がって、通りかかった助け舟にすがるような声を上げた。
この状況ですごい勇気だと思う。実際、心を振り絞っているのだろう。顔を向けてきた泉田先生に訴える目を向けている月島さんは、震えている。
泉田先生なら、優しく生徒想いの先生なら、この状況をどうにかできるかもしれないと頼った月島さんの気持ちもよくわかる。
「先生っ! 織田君が……。そこの明莉さん……が……。先生っ!」
悲痛な声で助けを求める月島さんだったが、明莉に動揺は微塵もみられない。少しも感情を乱さずに、泉田先生と想像もしてなかった恐るべき会話を始めたのだ。
「先生。そちらはどうですか?」
「問題ないな。終わった」
「各メンバーは?」
「配置は完了している。学園は完全に俺たちの制圧下にある」
「……え?」
月島さんから漏れた声が、静かな教室にやけに響く。
「端緒は……織田か?」
「ええ。やむを得ない計画でした。残念ですが」
「そうか。織田は……残念だったな」
先生は、まるで明莉たちの仲間の様な言動をしている。
「終わった」、「俺たちの制圧下」、等の言葉が、僕に襲い掛かってくる。あれは、本当に僕の幼馴染の、いつも温和で優しかった明莉なのか? 小さい頃から一緒に遊んでご飯を食べて、昨日会話しながら帰った明莉なんだろうか? あり……えない……と思う。先生を含めて、未だに……目の前の出来事が……信じられない。
「まあ、予定通り……だな。こちらも、暴れた三人の生徒には、申し訳ないが無理やり黙ってもらった」
「やむを得ません。暴力はない方がいい……と言いたいけど、残念ながら私はそれほど善人じゃない。正直、私たちの叫びがセカイを揺らしてくれれば……」
「そうだな。やむを得ない」
同意するという様子で、泉田先生が明莉の前に拳を掲げる。
「明莉。各メンバーにメッセージを」
先生の言葉に従って、明莉がスマホを取り出し話し始める。
「各メンバーへ。今までの皆さんの努力と協力に感謝します。ですが状況が開始された今、事態はこれからです。我々は必ず成功します。事が成った暁には、我々は感謝と尊敬と未来を得て、みなの希望となるのです。各自一層の努力と奮起を。再度、感謝します。そして、これからです」
明莉が、スマホを切って僕らに向き直った。真正面から、再び言い放つ。
「私は『ナイトメア』の山名明莉です。この学園は私たち『エデン』が掌握しました。貴方たちには、拘束されている仲間を解放するための人質になってもらいます」
なにもかもが、理解できなかった。
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