3 / 28
第3話 不明
しおりを挟む
「この学園は、私たち『エデン』が制圧しました。静かにしてください」
着席させられた僕らを、黒板前の檀上から明莉が睥睨している。さらに教室の四隅には、迷彩服を着た一目で屈強だとわかる兵士たちが、自動小銃みたいなものを抱えて僕らを威圧している。
理解できない。
訳が分からない。
混乱の渦中、恐怖に身の毛がよだち背筋に悪寒が走る。
ちらと「これはきっと夢だ!」という気持ちで床に目線を走らせると、確かに確実に織田君……だったもの……が血塗れで床に倒れていて……。
慌てて目を背けて、胃からこみあげてきた液体を無理やりなんとか飲み込んで、めちゃくちゃになりそうな自分の気持ちを落ち着かせようとする。
みんな無言。微動だにしない。そんな僕らに、明莉が平然とした顔で怖ろしい言葉を続けてきた。
「貴方たちには人質になってもらいます。私たちの目的が達せられたら、その時に無事な人は解放しますが……」
目的? 明莉の目的ってなんだろう? そもそも明莉はなんでいきなりこんなことをしでかして、僕らはこんな状況に陥っているんだ? さらに、クラスの四隅に立って銃を抱えている兵士たちは? 全てが、全く完全にわからなくて意味不明だ。
そこに、前方の教室扉から担任教師の泉田先生が入ってきた。普段の背広姿で、特段変わったところはない。いつもと同じように、授業前のホームルームをしに来たようにしか見えない。
「先……生っ!」
クラス委員長の月島さんが席から立ち上がって、通りかかった助け舟にすがるような声を上げた。
この状況ですごい勇気だと思う。実際、心を振り絞っているのだろう。顔を向けてきた泉田先生に訴える目を向けている月島さんは、震えている。
泉田先生なら、優しく生徒想いの先生なら、この状況をどうにかできるかもしれないと頼った月島さんの気持ちもよくわかる。
「先生っ! 織田君が……。そこの明莉さん……が……。先生っ!」
悲痛な声で助けを求める月島さんだったが、明莉に動揺は微塵もみられない。少しも感情を乱さずに、泉田先生と想像もしてなかった恐るべき会話を始めたのだ。
「先生。そちらはどうですか?」
「問題ないな。終わった」
「各メンバーは?」
「配置は完了している。学園は完全に俺たちの制圧下にある」
「……え?」
月島さんから漏れた声が、静かな教室にやけに響く。
「端緒は……織田か?」
「ええ。やむを得ない計画でした。残念ですが」
「そうか。織田は……残念だったな」
先生は、まるで明莉たちの仲間の様な言動をしている。
「終わった」、「俺たちの制圧下」、等の言葉が、僕に襲い掛かってくる。あれは、本当に僕の幼馴染の、いつも温和で優しかった明莉なのか? 小さい頃から一緒に遊んでご飯を食べて、昨日会話しながら帰った明莉なんだろうか? あり……えない……と思う。先生を含めて、未だに……目の前の出来事が……信じられない。
「まあ、予定通り……だな。こちらも、暴れた三人の生徒には、申し訳ないが無理やり黙ってもらった」
「やむを得ません。暴力はない方がいい……と言いたいけど、残念ながら私はそれほど善人じゃない。正直、私たちの叫びがセカイを揺らしてくれれば……」
「そうだな。やむを得ない」
同意するという様子で、泉田先生が明莉の前に拳を掲げる。
「明莉。各メンバーにメッセージを」
先生の言葉に従って、明莉がスマホを取り出し話し始める。
「各メンバーへ。今までの皆さんの努力と協力に感謝します。ですが状況が開始された今、事態はこれからです。我々は必ず成功します。事が成った暁には、我々は感謝と尊敬と未来を得て、みなの希望となるのです。各自一層の努力と奮起を。再度、感謝します。そして、これからです」
明莉が、スマホを切って僕らに向き直った。真正面から、再び言い放つ。
「私は『ナイトメア』の山名明莉です。この学園は私たち『エデン』が掌握しました。貴方たちには、拘束されている仲間を解放するための人質になってもらいます」
なにもかもが、理解できなかった。
着席させられた僕らを、黒板前の檀上から明莉が睥睨している。さらに教室の四隅には、迷彩服を着た一目で屈強だとわかる兵士たちが、自動小銃みたいなものを抱えて僕らを威圧している。
理解できない。
訳が分からない。
混乱の渦中、恐怖に身の毛がよだち背筋に悪寒が走る。
ちらと「これはきっと夢だ!」という気持ちで床に目線を走らせると、確かに確実に織田君……だったもの……が血塗れで床に倒れていて……。
慌てて目を背けて、胃からこみあげてきた液体を無理やりなんとか飲み込んで、めちゃくちゃになりそうな自分の気持ちを落ち着かせようとする。
みんな無言。微動だにしない。そんな僕らに、明莉が平然とした顔で怖ろしい言葉を続けてきた。
「貴方たちには人質になってもらいます。私たちの目的が達せられたら、その時に無事な人は解放しますが……」
目的? 明莉の目的ってなんだろう? そもそも明莉はなんでいきなりこんなことをしでかして、僕らはこんな状況に陥っているんだ? さらに、クラスの四隅に立って銃を抱えている兵士たちは? 全てが、全く完全にわからなくて意味不明だ。
そこに、前方の教室扉から担任教師の泉田先生が入ってきた。普段の背広姿で、特段変わったところはない。いつもと同じように、授業前のホームルームをしに来たようにしか見えない。
「先……生っ!」
クラス委員長の月島さんが席から立ち上がって、通りかかった助け舟にすがるような声を上げた。
この状況ですごい勇気だと思う。実際、心を振り絞っているのだろう。顔を向けてきた泉田先生に訴える目を向けている月島さんは、震えている。
泉田先生なら、優しく生徒想いの先生なら、この状況をどうにかできるかもしれないと頼った月島さんの気持ちもよくわかる。
「先生っ! 織田君が……。そこの明莉さん……が……。先生っ!」
悲痛な声で助けを求める月島さんだったが、明莉に動揺は微塵もみられない。少しも感情を乱さずに、泉田先生と想像もしてなかった恐るべき会話を始めたのだ。
「先生。そちらはどうですか?」
「問題ないな。終わった」
「各メンバーは?」
「配置は完了している。学園は完全に俺たちの制圧下にある」
「……え?」
月島さんから漏れた声が、静かな教室にやけに響く。
「端緒は……織田か?」
「ええ。やむを得ない計画でした。残念ですが」
「そうか。織田は……残念だったな」
先生は、まるで明莉たちの仲間の様な言動をしている。
「終わった」、「俺たちの制圧下」、等の言葉が、僕に襲い掛かってくる。あれは、本当に僕の幼馴染の、いつも温和で優しかった明莉なのか? 小さい頃から一緒に遊んでご飯を食べて、昨日会話しながら帰った明莉なんだろうか? あり……えない……と思う。先生を含めて、未だに……目の前の出来事が……信じられない。
「まあ、予定通り……だな。こちらも、暴れた三人の生徒には、申し訳ないが無理やり黙ってもらった」
「やむを得ません。暴力はない方がいい……と言いたいけど、残念ながら私はそれほど善人じゃない。正直、私たちの叫びがセカイを揺らしてくれれば……」
「そうだな。やむを得ない」
同意するという様子で、泉田先生が明莉の前に拳を掲げる。
「明莉。各メンバーにメッセージを」
先生の言葉に従って、明莉がスマホを取り出し話し始める。
「各メンバーへ。今までの皆さんの努力と協力に感謝します。ですが状況が開始された今、事態はこれからです。我々は必ず成功します。事が成った暁には、我々は感謝と尊敬と未来を得て、みなの希望となるのです。各自一層の努力と奮起を。再度、感謝します。そして、これからです」
明莉が、スマホを切って僕らに向き直った。真正面から、再び言い放つ。
「私は『ナイトメア』の山名明莉です。この学園は私たち『エデン』が掌握しました。貴方たちには、拘束されている仲間を解放するための人質になってもらいます」
なにもかもが、理解できなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

俺はどうしても主人公になれない
もぐのすけ
青春
高校に入学して『天文部』という何ともパッとしない部活に誘われた俺は、友人の桐生と一緒に入ることに。
そこに同じく入部したのは学校の2大アイドルの天条さんと海野さん。
まさかの展開に俺の気持ちは有頂天になるが、そこでの主人公は桐生であり、俺は彼の引き立て役にしか過ぎなかった。
ゲームやアニメでよくある、主人公の友人ポジションがどういう存在なのかを身をもって体験することになった俺の物語。
最終的に俺はハッピーエンドになれるんだろうか?
序盤はちょっと重めです。
後日談から後は9割バカな話になります。
コメディーです。
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

彼女は多分、僕の書く小説にしか興味が無い
御厨カイト
青春
僕の隣の席の小池さんは有難い事に数少ない僕の書く小説のファンだ。逆を言えばそんな彼女は僕の書く小説にしか興味が無いのだろう。だけど僕は何だかその関係性が好きだ。これはそんな僕らの日常の1コマである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる