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206 因果応報
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「ちょっと」
ピリつく空気の中、一番の口を開いたのは妻だった。
チラリと妻を見ると、冷たいまなざしで神を見下ろしている。
神はじろりと妻に視線を向けたが、面倒くさそうにため息をついただけだった。
「その態度は何なの?」
責めるように言う妻に、神はひらひらと手を振って『お前たちと話すことなど何もない。さっさと消え去れ』と返す。
あんまりな言い草に余計腹が立ったが、妻の顔を見て怒りが引っ込んだ。
妻はにっこりと笑顔を浮かべていたが、なんだか無性に恐ろしい。
神も同じ感想だったのか、妻を見てビクッと肩を揺らした。
「あなたに話がなくても、こちらにはあるの。自分の言動には責任をとってもらうわ」
『責任?罰は彼が下すだろう』
神はノアを顎で指し、自嘲するように笑った。
しかし妻は表情を崩すことなく「それはあなたたちのルールでしょ」と一蹴する。
「私たちには関係のない話だわ。私たちは被害者よ。とくに娘は、一番の被害者。それなのにあなたは、謝罪の一つさえしていないじゃない」
『謝罪が何になる。そんなもの、ただの無駄以外の何物でもない』
そう神は吐き捨てた。
息子の命が助かって毒気が抜けているのではないかと思っていたが、ずいぶんといじけた態度だ。
息子に憎悪の念を向けられたのが今さらながらに堪えているのか、それとも別の理由があるのか知らないが、会話する気すらないらしい。
妻はじっと神を見据え「それじゃあ、勝手にお詫びをいただいていくことにするわ」と告げた。
神は嘲るように笑って『好きにしろ』と答える。
「本当に?後悔しない?」
念押しする妻に、神は『愚かな』と嫌味な顔をする。
『神の持つ力は人間には不相応。欲をだせば、いずれ身を滅ぼす。それでもよいなら、好きにすればいい』
「神の力ね……」
『お前たちも、所詮は力を欲する愚かな人間の一人ということか』
「そんなものいらないわよ」
呆れたように妻が言う。
神は予想外だったのか、不満げな様子で『ならば何を望むというのだ』と問いかける。
妻は再び笑顔に戻って、神の質問を無視して「そういえばね」と話を切り替えた。
「うちの娘が、あなたの息子の子どもを身籠ったわ」
神の目が驚きで見開かれる。
先ほどとは打って変わったうれしそうな顔で『まことか!?』と声を上げた。
妻は恐ろしいほどきれいに笑ったまま、頷いて見せる。
「娘はね、アークヴァルドくんのことが本当に好きみたい。彼も心から娘を愛してくれているようだし、家族はともに過ごすのが一番だと思うの」
『当たり前だ!……そうか、子ども……。種族が違えど、運命の相手となればよほど相性がいいのか……』
ぶつぶつとひとり言を呟いている神に、妻が明るく言った。
「だから、彼も連れて帰るわ」
『……は?』
妻の言葉が飲み込めなかったのか、愕然とした顔をして神が妻を見た。
妻はそんな神を意に介さず、楽しそうに話を続ける。
「だってそうでしょ?自分の都合しか考えられないような神様の管理する世界なんて、危険すぎて大事な娘も孫も置いておけないもの。それに、親が自分の不始末に責任をとれないなら、子どもにお願いするしかないじゃない?」
『ふ、ふざけるな!そんなことが許されるとでも……』
「好きにしろと言ったのはあなたよ。……それに、ノアくんに聞いたら、孫は向こうの世界でも問題なく育てられるんですって。アークヴァルドくんも、あの花の力があれば異世界でも上手くやっていけるそうよ」
わなわなと震えながら、神が『国はどうする』と絞り出すように言う。
『あの子はこの世界の魔王だ。一国の主として、この国を治める責任がある』
「あら。このお城には十分優秀な人材がそろっているわ。きっと次代の魔王もしっかり支えてくれるはずよ」
『あの子より魔王に相応しいものなどいない……!』
「……そうかもしれないけど、魔王の代わりはいても、孫の父親の代わりはどこを探してもいないもの」
神は檻に両手でしがみつき、声を荒げる。
振り乱した神に構うこともないその姿は、なんとも哀れでみじめだ。
『そんなこと絶対に許さない!息子を奪うやつは、どんな手段を使ってでも殺してやる!!』
はっきりとした憎悪と殺意に、背筋が凍る。
しかし妻はひるんだ様子は一切見せず、きっぱりと神に言い放った。
「それが、あなたのしたことでしょ」
妻の言葉に、神は愕然とする。
檻をつかんでいた手はするりと落ち、その場にうなだれる。
ピリつく空気の中、一番の口を開いたのは妻だった。
チラリと妻を見ると、冷たいまなざしで神を見下ろしている。
神はじろりと妻に視線を向けたが、面倒くさそうにため息をついただけだった。
「その態度は何なの?」
責めるように言う妻に、神はひらひらと手を振って『お前たちと話すことなど何もない。さっさと消え去れ』と返す。
あんまりな言い草に余計腹が立ったが、妻の顔を見て怒りが引っ込んだ。
妻はにっこりと笑顔を浮かべていたが、なんだか無性に恐ろしい。
神も同じ感想だったのか、妻を見てビクッと肩を揺らした。
「あなたに話がなくても、こちらにはあるの。自分の言動には責任をとってもらうわ」
『責任?罰は彼が下すだろう』
神はノアを顎で指し、自嘲するように笑った。
しかし妻は表情を崩すことなく「それはあなたたちのルールでしょ」と一蹴する。
「私たちには関係のない話だわ。私たちは被害者よ。とくに娘は、一番の被害者。それなのにあなたは、謝罪の一つさえしていないじゃない」
『謝罪が何になる。そんなもの、ただの無駄以外の何物でもない』
そう神は吐き捨てた。
息子の命が助かって毒気が抜けているのではないかと思っていたが、ずいぶんといじけた態度だ。
息子に憎悪の念を向けられたのが今さらながらに堪えているのか、それとも別の理由があるのか知らないが、会話する気すらないらしい。
妻はじっと神を見据え「それじゃあ、勝手にお詫びをいただいていくことにするわ」と告げた。
神は嘲るように笑って『好きにしろ』と答える。
「本当に?後悔しない?」
念押しする妻に、神は『愚かな』と嫌味な顔をする。
『神の持つ力は人間には不相応。欲をだせば、いずれ身を滅ぼす。それでもよいなら、好きにすればいい』
「神の力ね……」
『お前たちも、所詮は力を欲する愚かな人間の一人ということか』
「そんなものいらないわよ」
呆れたように妻が言う。
神は予想外だったのか、不満げな様子で『ならば何を望むというのだ』と問いかける。
妻は再び笑顔に戻って、神の質問を無視して「そういえばね」と話を切り替えた。
「うちの娘が、あなたの息子の子どもを身籠ったわ」
神の目が驚きで見開かれる。
先ほどとは打って変わったうれしそうな顔で『まことか!?』と声を上げた。
妻は恐ろしいほどきれいに笑ったまま、頷いて見せる。
「娘はね、アークヴァルドくんのことが本当に好きみたい。彼も心から娘を愛してくれているようだし、家族はともに過ごすのが一番だと思うの」
『当たり前だ!……そうか、子ども……。種族が違えど、運命の相手となればよほど相性がいいのか……』
ぶつぶつとひとり言を呟いている神に、妻が明るく言った。
「だから、彼も連れて帰るわ」
『……は?』
妻の言葉が飲み込めなかったのか、愕然とした顔をして神が妻を見た。
妻はそんな神を意に介さず、楽しそうに話を続ける。
「だってそうでしょ?自分の都合しか考えられないような神様の管理する世界なんて、危険すぎて大事な娘も孫も置いておけないもの。それに、親が自分の不始末に責任をとれないなら、子どもにお願いするしかないじゃない?」
『ふ、ふざけるな!そんなことが許されるとでも……』
「好きにしろと言ったのはあなたよ。……それに、ノアくんに聞いたら、孫は向こうの世界でも問題なく育てられるんですって。アークヴァルドくんも、あの花の力があれば異世界でも上手くやっていけるそうよ」
わなわなと震えながら、神が『国はどうする』と絞り出すように言う。
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振り乱した神に構うこともないその姿は、なんとも哀れでみじめだ。
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はっきりとした憎悪と殺意に、背筋が凍る。
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