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189 運命の相手
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ノアの話によると、第一次世界創造ブームのときはひどかったらしい。
興味本位で世界を創った神の多くが早々に飽きてしまって、神の加護を失った世界は阿鼻叫喚の地獄絵図のような未来を辿った。
天変地異、異常気象、自然災害。
その世界に生きる者では到底太刀打ちできない事態が立て続けに起こり、苦しみの果てに世界は終焉を迎える。
当時の状況を嘆いた一部の神々によって、保護団体が立ち上げられたのは、それからしばらく経ったあとだった。
「保護団体……」
「日本にも動物愛護団体ってあるでしょ?あんなやつだよ」
法整備が進んだのも、保護団体の強い後押しがあったからなのだそうだ。
ノアもその団体の一員なのかと訊ねたが、それは違うらしい。
法を破ったものには、罰則が与えられる。
そう決まってからは、表立って管理を放棄する神は激減した。
罰則の内容は教えてもらえなかったが、神にとっては耐え難いもののようだ。
それでも管理ができなくなる神もいる。
その場合、世界の管理者としての権利をはく奪され、残された世界は別の神に保護される形で管理権が譲渡されるらしい。
譲渡された世界は、一つの世界のまま管理されることもあれば、別世界と統合されることもある。
しかし異なる世界をつなぎ合わせるのは危険な方法で、つなぎ目では災害などによって大きな犠牲が出ることが多い。
「でも、いきなり知らない土地が現れたら、みんな驚くんじゃないか?」
「そうだね。だから文明の発達していないところに、未開の地としてつなげることが多いかな。まとめて管理しやすいように文明をもっている星とくっつけることもあるし、同じ世界の別の星として管理することもある」
ただし、あまりに荒廃が進んだ土地には引き取り手が現れないこともある。
そのときは長い苦しみに晒すのは不憫だと、一思いに世界は抹消される。
なんとも身勝手で、許しがたい実情だ。
そうして法整備が進んだ第三次世界創造ブームに世界を創った神には、ほかの世代と比べてより多くの愛情をもって世界を管理している者が多いという。
この世界の神も、そうだった。
第三次世界創造ブームにのっかってこの世界を創り、深くこの世界を愛し、丁寧に管理を続けていた。
世界に顕現し、愛する世界を見て回ることも多かった。
そんなとき、神は運命の相手に出会ったのだという。
「運命の相手……?」
「そう。神の世界への過度な干渉は禁じられていたけど、その世界の住人と恋に落ちる神は意外と多かったんだ。この世界の神は当時独身で、神同士の交流にも消極的なタイプだったから、余計にのめりこみすぎてしまった」
「……相手は……」
「当時の高位魔族の少女だよ。天涯孤独の身の上ながら、向上心が高く、異例の若さで魔王の右腕にまで上り詰めた人物だった」
当時の神は、人間の青年に擬態していた。
そのころも今のように人間と魔族の争いが絶えず、神は様子を見るために顕現していた。
そのとき、攻め込んでくる人間軍を迎え撃つ魔族軍の司令官として派遣されたのが、彼女だった。
その凛とした姿に一目惚れした神は、自分の立場や擬態している姿にもおかまいなしで、少女を口説き始めたらしい。
「彼女は戸惑っていたけど、何度断ってもあきらめない姿にほだされ、次第に心を開くようになっていた。そして二人は、禁忌を犯してしまったんだ」
「……禁忌?恋愛は禁止されていなかったんだろ?」
「黙認されていただけだよ。……本当は、許されるべきことではなかった」
ノアは憂い気な瞳で、じっと魔王を見つめる。
魔王は戸惑った顔をして、ノアを見つめ返す。
「その少女って、まさか……」
ノアの視線の意味を察して、茫然と呟く。
ノアはこくりと小さく頷いた。
「……そう、現魔王のお母さんだよ」
全員の視線が、魔王に注がれる。
魔王は自身が神の子だとは知らなかったのだろう。
目を見開き、ただ愕然としていた。
興味本位で世界を創った神の多くが早々に飽きてしまって、神の加護を失った世界は阿鼻叫喚の地獄絵図のような未来を辿った。
天変地異、異常気象、自然災害。
その世界に生きる者では到底太刀打ちできない事態が立て続けに起こり、苦しみの果てに世界は終焉を迎える。
当時の状況を嘆いた一部の神々によって、保護団体が立ち上げられたのは、それからしばらく経ったあとだった。
「保護団体……」
「日本にも動物愛護団体ってあるでしょ?あんなやつだよ」
法整備が進んだのも、保護団体の強い後押しがあったからなのだそうだ。
ノアもその団体の一員なのかと訊ねたが、それは違うらしい。
法を破ったものには、罰則が与えられる。
そう決まってからは、表立って管理を放棄する神は激減した。
罰則の内容は教えてもらえなかったが、神にとっては耐え難いもののようだ。
それでも管理ができなくなる神もいる。
その場合、世界の管理者としての権利をはく奪され、残された世界は別の神に保護される形で管理権が譲渡されるらしい。
譲渡された世界は、一つの世界のまま管理されることもあれば、別世界と統合されることもある。
しかし異なる世界をつなぎ合わせるのは危険な方法で、つなぎ目では災害などによって大きな犠牲が出ることが多い。
「でも、いきなり知らない土地が現れたら、みんな驚くんじゃないか?」
「そうだね。だから文明の発達していないところに、未開の地としてつなげることが多いかな。まとめて管理しやすいように文明をもっている星とくっつけることもあるし、同じ世界の別の星として管理することもある」
ただし、あまりに荒廃が進んだ土地には引き取り手が現れないこともある。
そのときは長い苦しみに晒すのは不憫だと、一思いに世界は抹消される。
なんとも身勝手で、許しがたい実情だ。
そうして法整備が進んだ第三次世界創造ブームに世界を創った神には、ほかの世代と比べてより多くの愛情をもって世界を管理している者が多いという。
この世界の神も、そうだった。
第三次世界創造ブームにのっかってこの世界を創り、深くこの世界を愛し、丁寧に管理を続けていた。
世界に顕現し、愛する世界を見て回ることも多かった。
そんなとき、神は運命の相手に出会ったのだという。
「運命の相手……?」
「そう。神の世界への過度な干渉は禁じられていたけど、その世界の住人と恋に落ちる神は意外と多かったんだ。この世界の神は当時独身で、神同士の交流にも消極的なタイプだったから、余計にのめりこみすぎてしまった」
「……相手は……」
「当時の高位魔族の少女だよ。天涯孤独の身の上ながら、向上心が高く、異例の若さで魔王の右腕にまで上り詰めた人物だった」
当時の神は、人間の青年に擬態していた。
そのころも今のように人間と魔族の争いが絶えず、神は様子を見るために顕現していた。
そのとき、攻め込んでくる人間軍を迎え撃つ魔族軍の司令官として派遣されたのが、彼女だった。
その凛とした姿に一目惚れした神は、自分の立場や擬態している姿にもおかまいなしで、少女を口説き始めたらしい。
「彼女は戸惑っていたけど、何度断ってもあきらめない姿にほだされ、次第に心を開くようになっていた。そして二人は、禁忌を犯してしまったんだ」
「……禁忌?恋愛は禁止されていなかったんだろ?」
「黙認されていただけだよ。……本当は、許されるべきことではなかった」
ノアは憂い気な瞳で、じっと魔王を見つめる。
魔王は戸惑った顔をして、ノアを見つめ返す。
「その少女って、まさか……」
ノアの視線の意味を察して、茫然と呟く。
ノアはこくりと小さく頷いた。
「……そう、現魔王のお母さんだよ」
全員の視線が、魔王に注がれる。
魔王は自身が神の子だとは知らなかったのだろう。
目を見開き、ただ愕然としていた。
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