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176 散歩
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騒ぎが落ち着くまでは大人しくしておくことになり、その日はもう眠ることにした。
正直、1日のうちにいろいろありすぎて、まったく寝れる気はしなかったが、案外すんなり眠ることができた。
その日の夜は悪夢にうなされることはおろか、夢を見ることすらなく、ただただ深い眠りへと落ちていった。
※
アリーが朝一番に持ってきてくれた食事は、なんと和食だった。
おにぎりと味噌汁、そして焼き魚。
本物の和食と比べると多少違和感があるが、異世界とは思えない出来に驚く。
ただ、毒々しい紫色をした焼き魚を口にするのは、勇気が必要だった。
実際食べてみると、鯛に近い淡白な白身魚の味で、なんとも懐かしい気持ちになる。
妻も気に入ったようで「おいしいおいしい」とあっという間に完食していた。
サミューとロズは実体を持たないので食事はいらないらしいが、興味深そうな顔をしていたので少しずつ分けると喜んでいた。
彼らにとっても、満足いく味わいだったらしい。
朝食を受け取った際、アリーに不審者について訊ねてみたが、やはり見つからなかったようだ。
本人が部屋にいるのだから当たり前だが、無用な冤罪が生まれなかったことに安堵する。
魔王城では、娘の見間違いの線が濃厚だという認識らしい。
娘以外の目撃情報が一切なかったこと、そして娘自身、証言に自信が持てないことが原因らしかった。
念のため娘の護衛を強化することになったそうだが、そんな細かい情報まで簡単に話していいものかとこっちのほうが不安になる。
「ごちそうさまでした!」
妻が元気よく両手を合わせる。
食事を終えた俺たちは、空になった器を重ね、トレイに乗せて部屋の外に置いた。
こうしておくと、あとで担当者が回収しておいてくれるらしい。
「それじゃあ、次こそは魔王に接触しないとね」
ノアが言う。
サミューが『もう一度部屋に忍び込みますか?』と訊ねると、ノアは首を横に振った。
「魔王には面会予約が何件か入ってるらしいから、居室にいる可能性は少ないだろう。幸い城内はある程度自由に動き回れるから、散歩がてら魔王の気配を探りに行こうか」
「そう簡単に探れるもんなのか?魔王とは初対面だろ?」
「うん。でも、あからさまに別格って感じがするはずだから、すぐにわかると思うよ」
ノアが自信満々にいうので、さっそく散歩に出ることにした。
サミューとロズは俺と妻につき、ノアがコトラを抱っこする。
部屋を出てしばらく歩いていると、アリーと見知らぬ青年が隅の方で話をしていた。
アリーは俺たちに気づくと話を中断し「どうかされましたか?」とこちらへ駆け寄ってきた。
「いえ、ちょっと散歩をと思いまして」
「そうですか。まだ不審者が潜んでいる可能性があるので、よければご案内しましょうか?今の時期、中庭に魔王城にしか咲かない花が見頃を迎えているんですよ」
「珍しいお花?見たい!」
アリーの提案に妻が目を輝かせる。
ちらりとノアを見ると、小さく頷いた。
「お話中のようでしたが、大丈夫なんですか?」
俺が訊ねると、アリーは「大丈夫ですよ」と微笑む。
それならばと「よろしくお願いします」と答えた。
アリーは快諾し「少々お待ちください」と断ってから、先程まで話をしていた青年と二言三言会話してから戻ってきた。
「それでは参りましょう。こちらへどうぞ」
にこやかに微笑むアリーのあとに続く。
魔王城内は広いため、中庭まで10分程度歩くことになるそうだ。
弾んだ足取りの妻と並び、アリーの後ろをついて歩いていると、いつの間にかノアの腕から抜け出していたコトラがあいだに割り込んできた。
そして妻の足元に擦り寄り、抱っこをせがむ。
妻が頬を緩めて抱き上げると、コトラは満足そうに喉を鳴らした。
そうしてチラリと俺に向けた視線にはどこか優越感が感じられ、俺は苦笑いするしかなかった。
正直、1日のうちにいろいろありすぎて、まったく寝れる気はしなかったが、案外すんなり眠ることができた。
その日の夜は悪夢にうなされることはおろか、夢を見ることすらなく、ただただ深い眠りへと落ちていった。
※
アリーが朝一番に持ってきてくれた食事は、なんと和食だった。
おにぎりと味噌汁、そして焼き魚。
本物の和食と比べると多少違和感があるが、異世界とは思えない出来に驚く。
ただ、毒々しい紫色をした焼き魚を口にするのは、勇気が必要だった。
実際食べてみると、鯛に近い淡白な白身魚の味で、なんとも懐かしい気持ちになる。
妻も気に入ったようで「おいしいおいしい」とあっという間に完食していた。
サミューとロズは実体を持たないので食事はいらないらしいが、興味深そうな顔をしていたので少しずつ分けると喜んでいた。
彼らにとっても、満足いく味わいだったらしい。
朝食を受け取った際、アリーに不審者について訊ねてみたが、やはり見つからなかったようだ。
本人が部屋にいるのだから当たり前だが、無用な冤罪が生まれなかったことに安堵する。
魔王城では、娘の見間違いの線が濃厚だという認識らしい。
娘以外の目撃情報が一切なかったこと、そして娘自身、証言に自信が持てないことが原因らしかった。
念のため娘の護衛を強化することになったそうだが、そんな細かい情報まで簡単に話していいものかとこっちのほうが不安になる。
「ごちそうさまでした!」
妻が元気よく両手を合わせる。
食事を終えた俺たちは、空になった器を重ね、トレイに乗せて部屋の外に置いた。
こうしておくと、あとで担当者が回収しておいてくれるらしい。
「それじゃあ、次こそは魔王に接触しないとね」
ノアが言う。
サミューが『もう一度部屋に忍び込みますか?』と訊ねると、ノアは首を横に振った。
「魔王には面会予約が何件か入ってるらしいから、居室にいる可能性は少ないだろう。幸い城内はある程度自由に動き回れるから、散歩がてら魔王の気配を探りに行こうか」
「そう簡単に探れるもんなのか?魔王とは初対面だろ?」
「うん。でも、あからさまに別格って感じがするはずだから、すぐにわかると思うよ」
ノアが自信満々にいうので、さっそく散歩に出ることにした。
サミューとロズは俺と妻につき、ノアがコトラを抱っこする。
部屋を出てしばらく歩いていると、アリーと見知らぬ青年が隅の方で話をしていた。
アリーは俺たちに気づくと話を中断し「どうかされましたか?」とこちらへ駆け寄ってきた。
「いえ、ちょっと散歩をと思いまして」
「そうですか。まだ不審者が潜んでいる可能性があるので、よければご案内しましょうか?今の時期、中庭に魔王城にしか咲かない花が見頃を迎えているんですよ」
「珍しいお花?見たい!」
アリーの提案に妻が目を輝かせる。
ちらりとノアを見ると、小さく頷いた。
「お話中のようでしたが、大丈夫なんですか?」
俺が訊ねると、アリーは「大丈夫ですよ」と微笑む。
それならばと「よろしくお願いします」と答えた。
アリーは快諾し「少々お待ちください」と断ってから、先程まで話をしていた青年と二言三言会話してから戻ってきた。
「それでは参りましょう。こちらへどうぞ」
にこやかに微笑むアリーのあとに続く。
魔王城内は広いため、中庭まで10分程度歩くことになるそうだ。
弾んだ足取りの妻と並び、アリーの後ろをついて歩いていると、いつの間にかノアの腕から抜け出していたコトラがあいだに割り込んできた。
そして妻の足元に擦り寄り、抱っこをせがむ。
妻が頬を緩めて抱き上げると、コトラは満足そうに喉を鳴らした。
そうしてチラリと俺に向けた視線にはどこか優越感が感じられ、俺は苦笑いするしかなかった。
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