174 / 242
160 新しい扉
しおりを挟む
「じゃあ、そろそろお別れのときだね」
ノアがそう言って、指をぱちんと鳴らす。
白い扉が、狭い部屋の壁に現れた。
俺たちにはもはや見慣れてきた光景だが、初めて目にする蓮や奈央たちは驚きで固まっている。
ノアがもう一度指を鳴らすと、扉がゆっくりと開いた。
しかし途中で止まってしまう。
不思議に思ってノアを見ると、ノアはもう一度指を鳴らした。
すると扉は一度締まり、次は逆向きに開いた。
「こっちに開こうと思ったけど、ちょっと場所が足りなかったね」
イタズラっぽく、ノアが笑った。
確かにこの部屋のスペースでは、扉が途中でつかえてしまうだろう。
俺たちはみんなで笑いあい、そして蓮と奈央に最後の別れを告げる。
蓮は名残惜しそうにラウルと斎藤の方を見ていたが、ふたりは笑って手を振っていた。
そして蓮は意を決したように振り向き、扉の中に足を踏み入れた。
奈央も俺たちに深々と頭を下げ、蓮のあとに続く。
二人の姿が光の中に包まれて見えなくなると、扉は締まり、そして消えてしまった。
何もなくなった壁を見つめて、ラウルがぽつりと「行っちまったな……」と呟いた。
目からは大粒の涙が零れ落ちている。
肩を震わせて泣きじゃくるラウルの背をさすりながら、斎藤が「よく我慢したな」と褒めた。
本当は、ラウルは蓮と別れたくなかったのだろう。
それでも蓮の気持ちを尊重して、離れがたい気持ちを押し殺していたのだ。
俺もラウルの頭をポンポンと撫でながら「かっこよかったよ」と言った。
ラウルは何度も小さく頷きながら、しばらく涙を流し続けた。
※
しばらく泣いて落ち着いたであろうラウルは、少し恥ずかしそうにしていた。
人前で涙を見せることに抵抗のある年なのだろう。
微笑ましく思いつつ、ちらりとノアの方を見る。
ノアは小さく頷き、斎藤とラウルに声をかけた。
「僕たちもそろそろ出発するよ。二人とも、元気に頑張るんだよ」
まるで小さな子どもに言い聞かせているようだ。
斎藤をこんな風に子ども扱いするのは、ノアくらいなものだろう。
斎藤は少し照れ臭そうにしながら「ありがとうございます」と返した。
ラウルもその隣で「ありがとな!」と笑う。
俺と妻もふたりに別れを告げる。
二人とも改めて礼を口にして、俺たちに手を差し出した。
俺たちは笑って、それぞれと握手をする。
「宿のお金は払っておいたからね」
ノアが言う。
申し訳ないと斎藤が答えると「いいから、いいから」と笑った。
ノアが指を鳴らすと、再び白い扉が現れた。
次は、蓮と奈央の行き先とは違う世界へ続く扉だ。
すでに慣れつつあるが、やはり次の世界へ足を踏み入れるときは緊張する。
「……イツキ」
扉を見ていた俺の服の裾を、ラウルが軽く引っ張った。
俺が視線を向けると、少し恥ずかしそうにしながらラウルが言う。
「その……俺、家族とかそういうの、よくわかんないけど……」
「うん」
「イツキやシオリみたいな親がいるってのは、幸せなことなんじゃないかなって思う」
「……ありがとう」
「イツキの娘もきっと、そう思うよ。早く会えるといいな」
「……ありがとう……!」
思わず感極まりそうになりながら、ラウルをそっと抱きしめた。
願わくば、この優しい子がこの先、斎藤とともに幸せな人生を歩んでいけますように。
妻もそんなラウルの頭をそっと撫でていた。
その表情はどこか大人びていて、なんだか俺は懐かしく思えた。
開いた扉に足を踏み入れると、淡い光に包まれる。
斎藤とラウルを振り返ると、二人は深く頭を下げていた。
そしてそんな二人の姿は、光の中に隠れて見えなくなった。
ノアがそう言って、指をぱちんと鳴らす。
白い扉が、狭い部屋の壁に現れた。
俺たちにはもはや見慣れてきた光景だが、初めて目にする蓮や奈央たちは驚きで固まっている。
ノアがもう一度指を鳴らすと、扉がゆっくりと開いた。
しかし途中で止まってしまう。
不思議に思ってノアを見ると、ノアはもう一度指を鳴らした。
すると扉は一度締まり、次は逆向きに開いた。
「こっちに開こうと思ったけど、ちょっと場所が足りなかったね」
イタズラっぽく、ノアが笑った。
確かにこの部屋のスペースでは、扉が途中でつかえてしまうだろう。
俺たちはみんなで笑いあい、そして蓮と奈央に最後の別れを告げる。
蓮は名残惜しそうにラウルと斎藤の方を見ていたが、ふたりは笑って手を振っていた。
そして蓮は意を決したように振り向き、扉の中に足を踏み入れた。
奈央も俺たちに深々と頭を下げ、蓮のあとに続く。
二人の姿が光の中に包まれて見えなくなると、扉は締まり、そして消えてしまった。
何もなくなった壁を見つめて、ラウルがぽつりと「行っちまったな……」と呟いた。
目からは大粒の涙が零れ落ちている。
肩を震わせて泣きじゃくるラウルの背をさすりながら、斎藤が「よく我慢したな」と褒めた。
本当は、ラウルは蓮と別れたくなかったのだろう。
それでも蓮の気持ちを尊重して、離れがたい気持ちを押し殺していたのだ。
俺もラウルの頭をポンポンと撫でながら「かっこよかったよ」と言った。
ラウルは何度も小さく頷きながら、しばらく涙を流し続けた。
※
しばらく泣いて落ち着いたであろうラウルは、少し恥ずかしそうにしていた。
人前で涙を見せることに抵抗のある年なのだろう。
微笑ましく思いつつ、ちらりとノアの方を見る。
ノアは小さく頷き、斎藤とラウルに声をかけた。
「僕たちもそろそろ出発するよ。二人とも、元気に頑張るんだよ」
まるで小さな子どもに言い聞かせているようだ。
斎藤をこんな風に子ども扱いするのは、ノアくらいなものだろう。
斎藤は少し照れ臭そうにしながら「ありがとうございます」と返した。
ラウルもその隣で「ありがとな!」と笑う。
俺と妻もふたりに別れを告げる。
二人とも改めて礼を口にして、俺たちに手を差し出した。
俺たちは笑って、それぞれと握手をする。
「宿のお金は払っておいたからね」
ノアが言う。
申し訳ないと斎藤が答えると「いいから、いいから」と笑った。
ノアが指を鳴らすと、再び白い扉が現れた。
次は、蓮と奈央の行き先とは違う世界へ続く扉だ。
すでに慣れつつあるが、やはり次の世界へ足を踏み入れるときは緊張する。
「……イツキ」
扉を見ていた俺の服の裾を、ラウルが軽く引っ張った。
俺が視線を向けると、少し恥ずかしそうにしながらラウルが言う。
「その……俺、家族とかそういうの、よくわかんないけど……」
「うん」
「イツキやシオリみたいな親がいるってのは、幸せなことなんじゃないかなって思う」
「……ありがとう」
「イツキの娘もきっと、そう思うよ。早く会えるといいな」
「……ありがとう……!」
思わず感極まりそうになりながら、ラウルをそっと抱きしめた。
願わくば、この優しい子がこの先、斎藤とともに幸せな人生を歩んでいけますように。
妻もそんなラウルの頭をそっと撫でていた。
その表情はどこか大人びていて、なんだか俺は懐かしく思えた。
開いた扉に足を踏み入れると、淡い光に包まれる。
斎藤とラウルを振り返ると、二人は深く頭を下げていた。
そしてそんな二人の姿は、光の中に隠れて見えなくなった。
21
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
晴明、異世界に転生する!
るう
ファンタジー
穢れを祓うことができる一族として、帝国に認められているロルシー家。獣人や人妖を蔑視する人間界にあって、唯一爵位を賜った人妖一族だ。前世で最強人生を送ってきた安倍晴明は、このロルシー家、末の息子として生を受ける。成人の証である妖への転変もできず、未熟者の証明である灰色の髪のままの少年、それが安倍晴明の転生した姿だった。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~
海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。
その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。
そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。
居眠り暴走トラックという名の刺激が……。
意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。
俗に言う異世界転生である。
何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。
「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。
―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。
その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる