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159 それぞれの道
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翌朝、俺たちは朝食をとるため、宿の食堂に集まることになっていた。
俺とノアに続いて、妻と奈央がやってきたが、斎藤たちがなかなか来ない。
心配になって様子を見に行こうかと考えていると、ようやく3人がそろって現れた。
遅くなってすみません、と謝る斎藤のうしろには、目を真っ赤に腫らした蓮とラウル。
二人の姿に驚きはしたが、二人とも晴れやかな表情をしていたので、心配はいらないだろう。
妻はあからさまに泣き腫らしている蓮とラウルを見ておろおろしていたが、奈央に「大丈夫」と微笑まれ、安心したように頷いた。
それから俺たちは、何事もなかったかのように、他愛もない話をしながら朝食を楽しんだ。
時折ラウルが寂しそうな顔を見せているのが気になったが、すぐに笑顔に戻るので触れずにおいた。
朝食を終えた俺たちは、今後について相談するため、俺とノアの部屋に集まることになった。
7人で集まるには少し狭かったが、それがなんだか秘密会議をしているみたいで面白いと妻が言って、蓮とラウルが同意する。
奈央はおかしそうに笑い、斎藤は微笑ましそうな視線を向けていた。
そしてノアが「そろそろ話を始めようか」と提案した。
「これから、正晴くんたちは家に帰るんだよね?」
ノアの言葉に、斎藤は頷いた。
ラウルも隣で頷く。
ノアはそれを確認してから、奈央に目線をうつした。
「奈央ちゃんは、蓮くんと話をするっていう目的は果たした。……そろそろ元の世界に戻るかい?」
「……ええ」
「蓮くんも、いっしょに帰るんだね?」
ノアの言葉に、蓮はためらいなく頷いた。
「あの……斎藤さんは?」
訝し気に奈央が訊ねる。
斎藤は「私は帰りません」と短く答えた。
奈央は驚いた顔をしたが、それ以上追及はしなかった。
優しくラウルを見る斎藤の目に、その理由を察したのだろう。
これから俺たちは奈央と蓮を見送り、斎藤たちともこの街で別れることになる。
この世界での用事は、もう済んだ。
次はまた、別の世界に旅立つことになる。
短くない時間ともに旅をしてきた仲間と離れるのはさみしいものだが、これからはそれぞれ自分の選んだ道を行くのだ。
そう思うと、なんだかうれしくも感じられた。
蓮は、そっと斎藤とラウルの手をとった。
そしてまっすぐに二人を見つめる。
昨日もおそらく、部屋に戻ってから散々3人で話をしたのだろう。
それでも苦楽をともにしてきた家族のような存在との永遠の別れは、まだ子どもである蓮にはつらいものかもしれない。
「俺、ふたりのこと、ずっと忘れないから……。師匠もラウルも、元気でいてくれよ」
「ああ、蓮もちゃんと勉強するんだぞ」
「……頑張る」
少し目を逸らしつつ答える蓮に、斎藤が苦笑する。
「レン」
ラウルが目に涙をためて、蓮に向き合う。
蓮を何よりも大事な存在だと言っていたラウルにとって、この別れはどれほど胸が痛いものか想像もできない。
それでもラウルは蓮を引き留めることなく、にっと笑顔を作った。
「俺が今でも生きていたいって思えるのは、レンのおかげだ。俺は今まで生きてるのか死んでるのかもわからないような環境の中で生きてきた。楽しいことやうれしいことが自分の人生に訪れるなんて、考えたこともなかった」
「……うん」
「お前は見知らぬ相手に希望を与えられるすごいやつだ。それだけは、忘れないでくれよ」
「……俺も、あのときラウルがいなければ、多分あそこから逃げ出すことなんてできなかった。俺といっしょに逃げてくれて、本当にありがとう。……師匠のこと、よろしく頼むよ」
「ああ、任せとけ!」
そう言って、二人はガシッと抱き合った。
その様子を見ているだけで、目頭が熱くなってきたのは黙っておこう。
俺とノアに続いて、妻と奈央がやってきたが、斎藤たちがなかなか来ない。
心配になって様子を見に行こうかと考えていると、ようやく3人がそろって現れた。
遅くなってすみません、と謝る斎藤のうしろには、目を真っ赤に腫らした蓮とラウル。
二人の姿に驚きはしたが、二人とも晴れやかな表情をしていたので、心配はいらないだろう。
妻はあからさまに泣き腫らしている蓮とラウルを見ておろおろしていたが、奈央に「大丈夫」と微笑まれ、安心したように頷いた。
それから俺たちは、何事もなかったかのように、他愛もない話をしながら朝食を楽しんだ。
時折ラウルが寂しそうな顔を見せているのが気になったが、すぐに笑顔に戻るので触れずにおいた。
朝食を終えた俺たちは、今後について相談するため、俺とノアの部屋に集まることになった。
7人で集まるには少し狭かったが、それがなんだか秘密会議をしているみたいで面白いと妻が言って、蓮とラウルが同意する。
奈央はおかしそうに笑い、斎藤は微笑ましそうな視線を向けていた。
そしてノアが「そろそろ話を始めようか」と提案した。
「これから、正晴くんたちは家に帰るんだよね?」
ノアの言葉に、斎藤は頷いた。
ラウルも隣で頷く。
ノアはそれを確認してから、奈央に目線をうつした。
「奈央ちゃんは、蓮くんと話をするっていう目的は果たした。……そろそろ元の世界に戻るかい?」
「……ええ」
「蓮くんも、いっしょに帰るんだね?」
ノアの言葉に、蓮はためらいなく頷いた。
「あの……斎藤さんは?」
訝し気に奈央が訊ねる。
斎藤は「私は帰りません」と短く答えた。
奈央は驚いた顔をしたが、それ以上追及はしなかった。
優しくラウルを見る斎藤の目に、その理由を察したのだろう。
これから俺たちは奈央と蓮を見送り、斎藤たちともこの街で別れることになる。
この世界での用事は、もう済んだ。
次はまた、別の世界に旅立つことになる。
短くない時間ともに旅をしてきた仲間と離れるのはさみしいものだが、これからはそれぞれ自分の選んだ道を行くのだ。
そう思うと、なんだかうれしくも感じられた。
蓮は、そっと斎藤とラウルの手をとった。
そしてまっすぐに二人を見つめる。
昨日もおそらく、部屋に戻ってから散々3人で話をしたのだろう。
それでも苦楽をともにしてきた家族のような存在との永遠の別れは、まだ子どもである蓮にはつらいものかもしれない。
「俺、ふたりのこと、ずっと忘れないから……。師匠もラウルも、元気でいてくれよ」
「ああ、蓮もちゃんと勉強するんだぞ」
「……頑張る」
少し目を逸らしつつ答える蓮に、斎藤が苦笑する。
「レン」
ラウルが目に涙をためて、蓮に向き合う。
蓮を何よりも大事な存在だと言っていたラウルにとって、この別れはどれほど胸が痛いものか想像もできない。
それでもラウルは蓮を引き留めることなく、にっと笑顔を作った。
「俺が今でも生きていたいって思えるのは、レンのおかげだ。俺は今まで生きてるのか死んでるのかもわからないような環境の中で生きてきた。楽しいことやうれしいことが自分の人生に訪れるなんて、考えたこともなかった」
「……うん」
「お前は見知らぬ相手に希望を与えられるすごいやつだ。それだけは、忘れないでくれよ」
「……俺も、あのときラウルがいなければ、多分あそこから逃げ出すことなんてできなかった。俺といっしょに逃げてくれて、本当にありがとう。……師匠のこと、よろしく頼むよ」
「ああ、任せとけ!」
そう言って、二人はガシッと抱き合った。
その様子を見ているだけで、目頭が熱くなってきたのは黙っておこう。
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