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150 払拭
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周囲を警戒しながら、ゆっくりと扉を開ける。
教皇の弟に教えられた隠し通路を抜けた俺たちは、民家らしき建物の中にたどり着いていた。
周囲は静かすぎるほどで、人の気配はまったくない。
それでも周囲に騎士が潜んでいる可能性を考慮し、小さく開いた扉の隙間から外を覗き見る。
扉の外には、豊かな自然が広がっていた。
ほかに民家らしき建物もない。
臨戦態勢のまま外へ足を踏み出したが、やはり襲撃されることはなかった。
「罠ではなくて、一安心ですね」
斎藤が言う。
俺は頷き、それでも念のため早くこの場を離れるべきだろうと告げた。
徒歩での長距離移動に慣れていない奈央にあわせて、無理のないペースで移動する。
途中で、奈央には服装を着替えてもらった。
いかにも聖女、といった服装をしていては、この先困るかもしれない。
幸い小柄な奈央は妻と体格が近く、妻の着替えの服がちょうどよかった。
「みなさん、ずいぶん歩きなれているんですね……」
息を切らしながら、奈央が言う。
普段は護衛の都合上、馬車での移動がほとんどなのだそうだ。
閉鎖的な気質のあるユミュリエール教国でなければ乗合馬車も利用しやすかっただろうが、よそ者が珍しいこの国では極力民衆との接触は避けたい。
奈央には悪いが、我慢してもらうしかないだろう。
先に奈央を元の世界へ戻してはどうかと思ったが、奈央は蓮と斎藤が帰還の意思を固めていないことを知ると、先に自分だけ帰るわけにはいかないといった。
邪魔になって申し訳ないが、3年この世界で過ごした自分の話も良い判断材料になるかもしれないと。
そして、蓮がそれを望んだのだ。
落ち着ける環境で、奈央と話をしてみたいと。
両者が望むなら、と俺たちはとりあえず国境を抜けることにした。
ただ斎藤は「情報屋に教えられた巡回ルートは信用できない」といった。
ユミュリエール教国側に俺たちの情報を流したのは彼だと、確信していたからだろう。
斎藤は淡々としていたが、その様子が余計に痛々しく見えて、俺の胸を締め付けた。
しかしその懸念は、ノアの一言によってあっけなく払拭された。
「彼は君を裏切ったりしていないよ?」
目を見開き、固まった斎藤の目には、驚愕とわずかな希望の色が浮かんでいた。
「だって情報を漏らしたのは、この世界の神だからね。僕たちの様子をずっと窺っていたから、襲撃の計画も筒抜けだっただけだよ。そうでしょ?奈央ちゃん」
「あ、はい。あの日あの場所で襲撃があると、神託があったのです」
「神託……」
その言葉に、斎藤はふっと笑みをこぼした。
状況が理解できていないらしい奈央は、戸惑って俺たちを見渡している。
そんな彼女に、ノアは「大丈夫だよ」と微笑みかけた。
「でも、私が神託を騎士たちに伝えたせいで……」
「いや、それは問題ありません。本当の襲撃の可能性もありましたし、黙っていたほうが大変なことになっていたかもしれません」
「……そう、ですか……?」
「すみません、これは単なる私情なのです。長い付き合いのある知人が、私の情報を売ったのではないかと思っていたので、そうではないと知って安心しただけで」
「ああ、なるほど」
斎藤の言葉に、奈央は納得したように頷いた。
「友人を疑うのはつらいものですものね」
友人、という言葉に斎藤は少し戸惑ったような顔をした。
しかしすぐに「そうですね」と笑った。
今まで多くの人との信頼関係を失ってきた斎藤にとって、今回の疑いが晴れたことはどれほど嬉しかったことだろう。
そう思うと、俺まで自然に頬が緩んでくるのだった。
そしてそんな斎藤を、蓮とラウルもまた嬉しそうに見つめていた。
教皇の弟に教えられた隠し通路を抜けた俺たちは、民家らしき建物の中にたどり着いていた。
周囲は静かすぎるほどで、人の気配はまったくない。
それでも周囲に騎士が潜んでいる可能性を考慮し、小さく開いた扉の隙間から外を覗き見る。
扉の外には、豊かな自然が広がっていた。
ほかに民家らしき建物もない。
臨戦態勢のまま外へ足を踏み出したが、やはり襲撃されることはなかった。
「罠ではなくて、一安心ですね」
斎藤が言う。
俺は頷き、それでも念のため早くこの場を離れるべきだろうと告げた。
徒歩での長距離移動に慣れていない奈央にあわせて、無理のないペースで移動する。
途中で、奈央には服装を着替えてもらった。
いかにも聖女、といった服装をしていては、この先困るかもしれない。
幸い小柄な奈央は妻と体格が近く、妻の着替えの服がちょうどよかった。
「みなさん、ずいぶん歩きなれているんですね……」
息を切らしながら、奈央が言う。
普段は護衛の都合上、馬車での移動がほとんどなのだそうだ。
閉鎖的な気質のあるユミュリエール教国でなければ乗合馬車も利用しやすかっただろうが、よそ者が珍しいこの国では極力民衆との接触は避けたい。
奈央には悪いが、我慢してもらうしかないだろう。
先に奈央を元の世界へ戻してはどうかと思ったが、奈央は蓮と斎藤が帰還の意思を固めていないことを知ると、先に自分だけ帰るわけにはいかないといった。
邪魔になって申し訳ないが、3年この世界で過ごした自分の話も良い判断材料になるかもしれないと。
そして、蓮がそれを望んだのだ。
落ち着ける環境で、奈央と話をしてみたいと。
両者が望むなら、と俺たちはとりあえず国境を抜けることにした。
ただ斎藤は「情報屋に教えられた巡回ルートは信用できない」といった。
ユミュリエール教国側に俺たちの情報を流したのは彼だと、確信していたからだろう。
斎藤は淡々としていたが、その様子が余計に痛々しく見えて、俺の胸を締め付けた。
しかしその懸念は、ノアの一言によってあっけなく払拭された。
「彼は君を裏切ったりしていないよ?」
目を見開き、固まった斎藤の目には、驚愕とわずかな希望の色が浮かんでいた。
「だって情報を漏らしたのは、この世界の神だからね。僕たちの様子をずっと窺っていたから、襲撃の計画も筒抜けだっただけだよ。そうでしょ?奈央ちゃん」
「あ、はい。あの日あの場所で襲撃があると、神託があったのです」
「神託……」
その言葉に、斎藤はふっと笑みをこぼした。
状況が理解できていないらしい奈央は、戸惑って俺たちを見渡している。
そんな彼女に、ノアは「大丈夫だよ」と微笑みかけた。
「でも、私が神託を騎士たちに伝えたせいで……」
「いや、それは問題ありません。本当の襲撃の可能性もありましたし、黙っていたほうが大変なことになっていたかもしれません」
「……そう、ですか……?」
「すみません、これは単なる私情なのです。長い付き合いのある知人が、私の情報を売ったのではないかと思っていたので、そうではないと知って安心しただけで」
「ああ、なるほど」
斎藤の言葉に、奈央は納得したように頷いた。
「友人を疑うのはつらいものですものね」
友人、という言葉に斎藤は少し戸惑ったような顔をした。
しかしすぐに「そうですね」と笑った。
今まで多くの人との信頼関係を失ってきた斎藤にとって、今回の疑いが晴れたことはどれほど嬉しかったことだろう。
そう思うと、俺まで自然に頬が緩んでくるのだった。
そしてそんな斎藤を、蓮とラウルもまた嬉しそうに見つめていた。
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