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148 何よりも大切な人
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奈央は目を見開き、ノアの言葉にショックを受けているようだった。
しかし彼女は、ノアの言葉を否定することはなかった。
眉間にしわを寄せ、しばらく考え込んだのち、奈央は小さく首を横に振った。
そして顔を上げ、自身を取り囲む騎士たちを見る。
奈央は悲しそうな顔をして、その場で深々と頭を下げた。
騎士たちはそんな奈央の姿に、困惑の眼差しを向ける。
「……ごめんなさい。あなたたちに私の力が必要なことは、理解しています。それでも……夫には私が必要だし、私にも夫が必要なんです」
「聖女様、いったい何を……!」
騎士が非難めいた声を上げたが、奈央は頭を下げたまま言葉を続ける。
「本当にごめんなさい!でも、私にはあの人が何よりも大切なんです。何を敵に回したとしても、あの人のそばにいたいの!」
そうして、奈央はぱっと顔を上げた。
その頬には涙が伝っていたが、瞳は力強く輝いている。
まるで奈央の決心が伝わってくるかのように。
「私は元の世界に戻ります。私を待ち続けてくれている、あの人のところへ」
奈央の言葉に一番に反応したのは、ルーシェだった。
斎藤に押さえつけられたまま、低い声で「ふざけるな」と奈央を睨みつける。
「ろくでもない男一人のために、この国を捨てるというのか!国の民がお前のせいで苦しむことになっても、心は痛まないのか?!」
「……ごめんなさい」
「聖女様……。お気持ちは理解できますが、どうか考え直してください……!彼はあなたがいなくても生きていけますが、この国はあなたがいなければ滅んでしまうのです」
ルーシェに続いて、騎士たちも奈央に説得の言葉を投げかける。
奈央は苦しげな顔をしながら「ごめんなさい」と繰り返した。
見ていられなくなって間に入ろうとしたところで、一人の騎士がぽつりと「もういいじゃないですか」と呟いた。
思わぬ一言に、騒然としていた場が静まり返る。
騎士は穏やかな声で続けた。
「聖女様はこれまで、誠心誠意この国のために尽くしてくださいました。誘拐同然にさらわれてきたというのに、我々に文句の一つも言ったことがない。この国は十分、聖女様の救いを受けてきました。これ以上を望むのは、酷というもの。元の世界へ帰りたいとおっしゃるのを止める権利は、我々にはありません」
騎士の言葉に、ルーシェがわなわなと怒りに震える。
そして整った顔を醜く歪ませながら、口汚く騎士を罵った。
「下賤のものが生意気な口をきくな!聖女にはまだまだこの国に、この僕に尽くしてもらわねばならない!」
「……それは、お前の愚かな欲望のためだろう。そもそも、聖女様がいなくなって国が滅ぶなど、誰が決めた?そうならないよう、みなが力を合わせればいいだけの話だろう」
「お、お前だと……!一介の騎士の分際で、この僕をお前呼ばわりするなど……!それにふざけた世迷言を……」
「許しがたいなら処刑するか?神に背くものだと言い渡して?」
「……っ!」
騎士はやれやれといった様子で、両手を軽く上げる。
そして奈央に向き直り、きれいな所作で礼をしてみせた。
奈央もほかの騎士たちも、唖然として言葉も出ない様子だ。
そんな奈央に軽く笑みをこぼし、騎士はかぶっていた兜を脱いだ。
その姿に、奈央は驚いたように目を見開いた。
肩まで伸びた銀髪に、青い瞳。
20歳前後に見えるその男は、中性的で整った顔立ちをしている。
一つ一つの所作の美しさから、身分の高さがうかがえる。
「先ほどの彼を愛しておられるから、我々の求婚に頑なに応じてくださらなかったのでしょう?」
にこりと微笑んだ男に、奈央は小さく頷く。
男はうんうんと満足そうに頷き返し、俺たちに向かって「聖女様をよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
しかし彼女は、ノアの言葉を否定することはなかった。
眉間にしわを寄せ、しばらく考え込んだのち、奈央は小さく首を横に振った。
そして顔を上げ、自身を取り囲む騎士たちを見る。
奈央は悲しそうな顔をして、その場で深々と頭を下げた。
騎士たちはそんな奈央の姿に、困惑の眼差しを向ける。
「……ごめんなさい。あなたたちに私の力が必要なことは、理解しています。それでも……夫には私が必要だし、私にも夫が必要なんです」
「聖女様、いったい何を……!」
騎士が非難めいた声を上げたが、奈央は頭を下げたまま言葉を続ける。
「本当にごめんなさい!でも、私にはあの人が何よりも大切なんです。何を敵に回したとしても、あの人のそばにいたいの!」
そうして、奈央はぱっと顔を上げた。
その頬には涙が伝っていたが、瞳は力強く輝いている。
まるで奈央の決心が伝わってくるかのように。
「私は元の世界に戻ります。私を待ち続けてくれている、あの人のところへ」
奈央の言葉に一番に反応したのは、ルーシェだった。
斎藤に押さえつけられたまま、低い声で「ふざけるな」と奈央を睨みつける。
「ろくでもない男一人のために、この国を捨てるというのか!国の民がお前のせいで苦しむことになっても、心は痛まないのか?!」
「……ごめんなさい」
「聖女様……。お気持ちは理解できますが、どうか考え直してください……!彼はあなたがいなくても生きていけますが、この国はあなたがいなければ滅んでしまうのです」
ルーシェに続いて、騎士たちも奈央に説得の言葉を投げかける。
奈央は苦しげな顔をしながら「ごめんなさい」と繰り返した。
見ていられなくなって間に入ろうとしたところで、一人の騎士がぽつりと「もういいじゃないですか」と呟いた。
思わぬ一言に、騒然としていた場が静まり返る。
騎士は穏やかな声で続けた。
「聖女様はこれまで、誠心誠意この国のために尽くしてくださいました。誘拐同然にさらわれてきたというのに、我々に文句の一つも言ったことがない。この国は十分、聖女様の救いを受けてきました。これ以上を望むのは、酷というもの。元の世界へ帰りたいとおっしゃるのを止める権利は、我々にはありません」
騎士の言葉に、ルーシェがわなわなと怒りに震える。
そして整った顔を醜く歪ませながら、口汚く騎士を罵った。
「下賤のものが生意気な口をきくな!聖女にはまだまだこの国に、この僕に尽くしてもらわねばならない!」
「……それは、お前の愚かな欲望のためだろう。そもそも、聖女様がいなくなって国が滅ぶなど、誰が決めた?そうならないよう、みなが力を合わせればいいだけの話だろう」
「お、お前だと……!一介の騎士の分際で、この僕をお前呼ばわりするなど……!それにふざけた世迷言を……」
「許しがたいなら処刑するか?神に背くものだと言い渡して?」
「……っ!」
騎士はやれやれといった様子で、両手を軽く上げる。
そして奈央に向き直り、きれいな所作で礼をしてみせた。
奈央もほかの騎士たちも、唖然として言葉も出ない様子だ。
そんな奈央に軽く笑みをこぼし、騎士はかぶっていた兜を脱いだ。
その姿に、奈央は驚いたように目を見開いた。
肩まで伸びた銀髪に、青い瞳。
20歳前後に見えるその男は、中性的で整った顔立ちをしている。
一つ一つの所作の美しさから、身分の高さがうかがえる。
「先ほどの彼を愛しておられるから、我々の求婚に頑なに応じてくださらなかったのでしょう?」
にこりと微笑んだ男に、奈央は小さく頷く。
男はうんうんと満足そうに頷き返し、俺たちに向かって「聖女様をよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
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