娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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129 情報屋

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 日が暮れる前に、街につけたのは嬉しい誤算だった。
 到着は夜になる予定だったが、蓮とラウルのおかげで戦闘に時間を取られなかったのが大きいだろう。

 宿は斎藤のおすすめのところで、料金のわりに料理が豪華だという。
 斎藤は常連として顔を覚えられていたらしく「今日は賑やかだねえ」なんて言われていた。

 団体の宿泊があったようで、取れたのは2部屋。
 斎藤、蓮、ラウルで1部屋。
 俺たちでもう1部屋。

 部屋に入って荷物を整えていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


「はい?」


 扉を開くと、斎藤が蓮とラウルを連れて立っていた。


「情報屋のところへ行ってきます。この子たちをお願いします」

「わかりました。……あの」

「はい?」

「よければ、俺も連れて行ってもらえませんか?」


 思い切ってそういうと、斎藤は少し驚いた顔をした。
 そして眉を下げ、困ったように言う。


「場所が酒場なので、伊月さんの見た目ではちょっと……」

「う……。それはそうなんですが……」


 酒場に連れていくには、見た目が若すぎるのだろう。
 それも裏路地にある、いかにもな酒場だ。

 それでも、俺は引き下がってお願いする。


「フードを深くかぶって、顔を隠すようにします。……できれば、もう一人の転移者について情報を集めたくて……」


 俺がそういうと、斎藤は納得したように頷いた。


「ただ、お金がかかりますよ?正直、私の用意している金額では、国境警備の情報を買うので精一杯でしょう」

「そうですよね……。別の世界のお金ならあるんですが、さすがに換金できませんしね……」

「珍しい素材をお持ちなら、良い値がつくかもしれませんが、あまり珍しすぎると国に目を付けられかねません」


 斎藤の言葉に頭を悩ませていると、ノアが「僕が換金してあげるよ」という。
 俺たちが戸惑っているうちに、ノアは手元に前の世界の硬貨を取り出し、パチンと指を鳴らした。
 すると、硬貨の入った袋の上に光の輪ができ、そこに硬貨が入ると別の硬貨に替わって次々出てきた。


「ちょ、それ……!」

「ほんとはダメなんだけどね。……内緒だよ?」


 そう言って、いたずらっぽくノアが笑う。
 内緒って、いったい誰にだよ!というツッコミは、目を輝かせてノアの魔法を眺めている蓮とラウルを見て飲み込んだ。


「すげー!手品じゃん!」

「え、やばっ。大金持ちじゃん!」


 ノアは換金し終えた硬貨の入った袋を、俺に手渡す。
 ずしっとした重みに少し気後れしつつも、礼を言って受け取った。


「気をつけていっておいで」

「ああ」


 俺は荷物からコートを引っ張り出し、フードを深くかぶった。
 こうして黙っていれば、小柄な男に見えなくもないだろう。


「詩織も行きたい……」


 俺の服の裾を引っ張りながら、妻が言う。
 俺はその頭を撫でながら「ごめんな」と謝った。

 妻は口を尖らせ、納得していないアピールをしている。


「待っている間、おやつでも食べに行こうか?」


 ノアの提案に、妻はぱっと笑顔になった。
 そして俺と斎藤に「いってらっしゃい!」と手を振った。
 なんとも現金な、と思いつつも、俺は笑って「いってきます」と返し、斎藤のあとに続いて宿を出た。


 薄暗い路地裏をしばらく歩くと、袋小路にある小さな店の前にたどり着いた。
 看板すら出ていない古い店だが、それが余計にいかにもな雰囲気を醸し出している。

 扉を開くと、店内は意外と広さがあった。
 カウンターが数席と、テーブル席が5つ程度。
 客はほとんどおらず、奥のテーブルでくたびれた冒険者風の男が透明な酒をちびちびとなめるように飲んでいた。
 男は俺たちをちらりと一瞥したが、すぐに興味なさげに視線をそらす。


 カウンターの中には、初老の男が立っていた。
 彼がこの店の店主だろう。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


 白い口髭を指で撫でつけながら、店主が問いかける。
 斎藤は「果実酒のミルク割りにスパイスを足してくれ」と小声で答えた。
 店主は小さく頷いて「いくつにしましょう?」と訊ねる。
 2つ、と斎藤が言うと、カウンター下から銀色の細い腕輪を2つ取り出した。

 腕輪を受け取った斎藤は、そのうちの一つを身につけ、もう一つを俺に手渡した。
 俺も斎藤に倣い、腕輪を身につける。
 そして斎藤は、カウンター横の壁の前に立った。
 こんなところで何を、と思っていると、斎藤は腕輪を壁に向かってかざす。

 すると壁が淡く光り、鉄製の扉が姿を現した。
 驚く俺をよそに、斎藤は扉のノブを回して、中に足を踏み入れた。
 俺もあわてて後を追う。

 情報屋は隠し部屋にいると聞いてはいたが、予想以上にすごい仕組みだ。
 細い廊下を進みながら、感心する。
 廊下の突き当たりに、また扉があった。
 しかし次の扉には、ドアノブがついていない。

 斎藤が再び腕輪をかざすと、扉はゆっくりと開いた。
 扉が開く音に反応し、中にいた男がゆっくりとこちらを振り向く。
 前髪を目が隠れるほど伸ばした、中年の男だった。
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