134 / 266
120 晩酌
しおりを挟む
夜、妻とノアが眠りについたのを確認し、俺はこっそり部屋を抜け出した。
リビングでは、斎藤が一人で酒を飲んでいた。
「おや、眠れませんか?」
そう問いかけた斎藤に、俺はあいまいに笑みを返した。
「寝ようと思えば寝れたかもしれませんが……斎藤さんが起きていれば、もう少し話がしたいと思って」
「そうですか」
「ご迷惑でなければ、ですが」
「もちろん構いませんよ。どうぞこちらへ」
斎藤に促され、向かいの席に腰かける。
「普段からお酒を?」
「いや、たまにですね。酒は自作できなかったので、あまり手に入らないんです。街に行くのも、危険が伴うので」
「20年以上たった今でも、追っ手が?」
「ふっ、どうですかね?」
斎藤は遠い目をして、窓の外に見える月を眺めていた。
この世界の月は、青く輝いている。
元の世界でも、数年に一度ブルームーンという月が青くみられる現象があるが、この世界の月は毎日青い色をしているという。
ここは元の世界ではないため、あれを「月」と呼んでいいのかは疑問だが。
「飲まれますか?」
斎藤が、酒の入った木のカップを揺らしながら問いかける。
正直、異世界のお酒には興味がある。
「飲んでみたい……ですが、今はこの身体なので、飲んでもいいものか……」
「大丈夫だよ」
俺の疑問に答えたのは、ノアだった。
階段の手すりにもたれながら、楽しそうに俺たちを眺めている。
すっかり眠っているように見えたが、どうやら狸寝入りだったらしい。
「飲んでもいいのか?子どもの身体なのに?」
「子どもと言っても、君たちの世界の高校生くらいでしょ?この世界ではとっくに成人を迎えている年齢だよ」
「でも、身体に悪影響とかは……」
「ないない。そもそも伊月くんたちの装備には、状態異常を無効化する効果があるから。残念だけど、酔っぱらうこともできないよ」
ノアが言うには、酔っている状態も状態異常の一種とみなされるらしい。
お酒を飲めるのはありがたいが、まったく酔えないというのも切ない。
「強制ノンアルコールみたいだな……」
俺がポツリと呟くと「ノンアルコール?」と斎藤が首を傾げた。
そういえば、20年前にはノンアルコールの飲み物なんて見かけたことがなかった。
斎藤に聞きなじみがないのも当然だろう。
「向こうの世界では、アルコールの入っていないお酒が販売されるようになったんです」
「アルコールが入っていないお酒?面白いですね」
斎藤は感心するように言った。
20年以上前と比べると、今の暮らしはずいぶん便利に変わった。
当たり前のように受け入れてきたことの一つ一つが、斎藤にとっては斬新に感じられるだろう。
「まあ、問題がないようなら1杯どうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ついでに僕ももらおうかな」
階段を降りながら、ノアが言った。
確かノアは、以前妻に10歳だと話していたという。
今となってはそれが嘘だということは重々わかっているが、見た目はまさに10歳程度。
そんな子どもがお酒を飲む姿は、あまり見たいものではない。
何とも言えない気分になりながら、斎藤から出された酒を口にするノアを眺めた。
うんうん、と頷いているため、どうやら口に合ったらしい。
俺もカップを手に取り、琥珀色の液体を口に流し込んだ。
芳醇な香りが鼻先を抜け、俺はほうっと息を吐いた。
上質なウイスキーに近い味わいだ。
「おいしいでしょう?」
「ええ。でも、こんないいお酒、頂いてよかったんですか?」
「もちろん。一人で飲むのは、寂しいですから」
表情には出ていないが、斎藤がおそらく本心からそう言ってくれているのが伝わった。
俺は礼を言って、再びカップに口をつけた。
「……それで」
斎藤が俺の目をまっすぐ見据えて、問いかけた。
「あなたが聞きたいことは何でしょう?」
リビングでは、斎藤が一人で酒を飲んでいた。
「おや、眠れませんか?」
そう問いかけた斎藤に、俺はあいまいに笑みを返した。
「寝ようと思えば寝れたかもしれませんが……斎藤さんが起きていれば、もう少し話がしたいと思って」
「そうですか」
「ご迷惑でなければ、ですが」
「もちろん構いませんよ。どうぞこちらへ」
斎藤に促され、向かいの席に腰かける。
「普段からお酒を?」
「いや、たまにですね。酒は自作できなかったので、あまり手に入らないんです。街に行くのも、危険が伴うので」
「20年以上たった今でも、追っ手が?」
「ふっ、どうですかね?」
斎藤は遠い目をして、窓の外に見える月を眺めていた。
この世界の月は、青く輝いている。
元の世界でも、数年に一度ブルームーンという月が青くみられる現象があるが、この世界の月は毎日青い色をしているという。
ここは元の世界ではないため、あれを「月」と呼んでいいのかは疑問だが。
「飲まれますか?」
斎藤が、酒の入った木のカップを揺らしながら問いかける。
正直、異世界のお酒には興味がある。
「飲んでみたい……ですが、今はこの身体なので、飲んでもいいものか……」
「大丈夫だよ」
俺の疑問に答えたのは、ノアだった。
階段の手すりにもたれながら、楽しそうに俺たちを眺めている。
すっかり眠っているように見えたが、どうやら狸寝入りだったらしい。
「飲んでもいいのか?子どもの身体なのに?」
「子どもと言っても、君たちの世界の高校生くらいでしょ?この世界ではとっくに成人を迎えている年齢だよ」
「でも、身体に悪影響とかは……」
「ないない。そもそも伊月くんたちの装備には、状態異常を無効化する効果があるから。残念だけど、酔っぱらうこともできないよ」
ノアが言うには、酔っている状態も状態異常の一種とみなされるらしい。
お酒を飲めるのはありがたいが、まったく酔えないというのも切ない。
「強制ノンアルコールみたいだな……」
俺がポツリと呟くと「ノンアルコール?」と斎藤が首を傾げた。
そういえば、20年前にはノンアルコールの飲み物なんて見かけたことがなかった。
斎藤に聞きなじみがないのも当然だろう。
「向こうの世界では、アルコールの入っていないお酒が販売されるようになったんです」
「アルコールが入っていないお酒?面白いですね」
斎藤は感心するように言った。
20年以上前と比べると、今の暮らしはずいぶん便利に変わった。
当たり前のように受け入れてきたことの一つ一つが、斎藤にとっては斬新に感じられるだろう。
「まあ、問題がないようなら1杯どうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ついでに僕ももらおうかな」
階段を降りながら、ノアが言った。
確かノアは、以前妻に10歳だと話していたという。
今となってはそれが嘘だということは重々わかっているが、見た目はまさに10歳程度。
そんな子どもがお酒を飲む姿は、あまり見たいものではない。
何とも言えない気分になりながら、斎藤から出された酒を口にするノアを眺めた。
うんうん、と頷いているため、どうやら口に合ったらしい。
俺もカップを手に取り、琥珀色の液体を口に流し込んだ。
芳醇な香りが鼻先を抜け、俺はほうっと息を吐いた。
上質なウイスキーに近い味わいだ。
「おいしいでしょう?」
「ええ。でも、こんないいお酒、頂いてよかったんですか?」
「もちろん。一人で飲むのは、寂しいですから」
表情には出ていないが、斎藤がおそらく本心からそう言ってくれているのが伝わった。
俺は礼を言って、再びカップに口をつけた。
「……それで」
斎藤が俺の目をまっすぐ見据えて、問いかけた。
「あなたが聞きたいことは何でしょう?」
12
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる