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108 勇者の帰還
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照れ隠しか、咳ばらいをしてから、ノアがシャルロッテに視線を向ける。
妻とノアの様子を微笑ましく眺めていたシャルロッテは、自分に向けられた視線に首をかしげる。
「あの……?」
「シャルちゃんも、よく頑張ったね」
「は、はい……」
「そんな君に、ご褒美があります」
少しおちゃらけたようにノアが言って、指をぱちんと鳴らす。
すると、ノアの後ろに白い扉が現れた。
俺たちが異世界間を行き来するときに使っている、あの白い扉だ。
「な、なんだこれは……!」
少し離れたところで、戸惑いの声が上がった。
声のした方を振り向くと、王が呆然と立ち尽くしていた。
そして、そんな王に抱きかかえられているロエナも、目を丸くしている。
何もないはずの場所に突然出現した奇妙なドア。
その作りは、この国のものとは明らかに異なるとなれば、そうした反応になるのも当然だろう。
そう思いつつも、俺は娘を軽々とお姫様抱っこできる王に衝撃を受けていた。
今の異世界仕様の身体なら難なくできるだろうが、元の世界であんな風に娘を抱きかかえられるかと問われると、まったく自信がない。
絶対に腰をやる自信がある。
若々しいのは、見た目だけではないということか……。
謎の敗北感に蝕まれつつも、これから訪れるであろう彼らの喜びを想像すると、自然と頬が緩んだ。
ノアがもう一度ぱちんと指を鳴らすと、ゆっくりと扉が開いた。
光り輝くドアの先からでてきたのは、想像通りの人物。
彼を見たシャルロッテは、小さな声でぽつりと呟いた。
「お兄ちゃん……?」
扉から出てきた男は、ゆっくりとシャルロッテに向かって歩き出す。
緊張と喜びが入り混じった、何とも言えない表情で。
「茜……」
震える声で名前を呼んで、勇司がシャルロッテをそっと抱きしめた。
壊れ物に触れるかのような、優しい手つきだった。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ……」
「茜……!今まで、つらい思いをさせてごめんな。助けに来れなくて、ごめんな」
兄妹の再会に、俺も目頭が熱くなる。
しかし一方で、胸の奥に小さな痛みも感じた。
先程幻覚で見た、娘の姿が思い出される。
愛しい娘の姿で、どうして助けてくれないのかと泣き叫んでいた。
こうしている今も、娘はつらい思いをしているかもしれないと思うと、焦燥感にかられる。
妻も同じだったのか、どこかさみしそうな目でふたりを眺めていた。
そんな俺と妻の背中に、ノアが優しく手を添える。
その手が温かくて、俺は余計に泣きたくなってしまった。
※
「ところで、ひとつ気になることがあるんだけど……」
感動の再会が一段落したところで、俺はスルー出来ない違和感を口にする。
「なんか勇司くん、すごいムキムキになってない?」
元の世界の勇司は、どちらかというと細身で、あまり強そうには見えないタイプだった。
しかし、目の前の勇司は、細マッチョという言葉が似合う、引き締まったかっこいい体つきをしている。
顔色までよくなっているだけじゃなく、髪や肌のツヤも段違いだ。
「ああ、これか……。なんかさ、元の世界に帰るときに女神に奪われた勇者としての力を返してもらえてさ」
勇司は少し恥ずかしそうに、頬を掻いた。
「俺は別に元のままでもいいって言ったんだけど」
「何言ってるの。今まで頑張ってきたことがゼロになるなんて、間違ってるでしょ。頑張った子は、ちゃんと報わなくちゃね」
そういってノアが笑うと、勇司もうれしそうな顔をした。
「お兄ちゃん、かっこいい!本当の勇者様みたい!」
さらにシャルロッテに褒められ、勇司は耳まで真っ赤にして照れている。
すると庭園の木陰に腰かけていたロエナが、くすくすと笑いながら言った。
「シャル。勇者様みたい、ではなくて、本物の勇者様なのですよ」
勇司はそこでようやく、ロエナと王がこの場にいることに気づいたらしい。
慌てた様子で勇司は頭を下げたが、王は顔を上げるように言った。
「よく帰ったな、ユージ」
「陛下……」
「娘婿となるなら、これからは家族も同然だろう。気楽にしてくれてかまわない」
「あ、ありがとうございます」
王はふっと笑って、頷いた。
そして「再会の邪魔をするのは野暮だな」と言って、どこかへ行ってしまった。
王の言葉に、勇司とロエナがそろって頬を染める。
「もう……お父様ったら……」
「余計な気を……」
そんなことを言いつつも、寄り添う二人は幸せそうだった。
一度は引き裂かれた恋人同士だ。
もう二度と結ばれることはないと諦めていたことだろう。
その喜びは計り知れない。
俺は微笑ましい気持ちで二人を眺めていた。
妻とノアの様子を微笑ましく眺めていたシャルロッテは、自分に向けられた視線に首をかしげる。
「あの……?」
「シャルちゃんも、よく頑張ったね」
「は、はい……」
「そんな君に、ご褒美があります」
少しおちゃらけたようにノアが言って、指をぱちんと鳴らす。
すると、ノアの後ろに白い扉が現れた。
俺たちが異世界間を行き来するときに使っている、あの白い扉だ。
「な、なんだこれは……!」
少し離れたところで、戸惑いの声が上がった。
声のした方を振り向くと、王が呆然と立ち尽くしていた。
そして、そんな王に抱きかかえられているロエナも、目を丸くしている。
何もないはずの場所に突然出現した奇妙なドア。
その作りは、この国のものとは明らかに異なるとなれば、そうした反応になるのも当然だろう。
そう思いつつも、俺は娘を軽々とお姫様抱っこできる王に衝撃を受けていた。
今の異世界仕様の身体なら難なくできるだろうが、元の世界であんな風に娘を抱きかかえられるかと問われると、まったく自信がない。
絶対に腰をやる自信がある。
若々しいのは、見た目だけではないということか……。
謎の敗北感に蝕まれつつも、これから訪れるであろう彼らの喜びを想像すると、自然と頬が緩んだ。
ノアがもう一度ぱちんと指を鳴らすと、ゆっくりと扉が開いた。
光り輝くドアの先からでてきたのは、想像通りの人物。
彼を見たシャルロッテは、小さな声でぽつりと呟いた。
「お兄ちゃん……?」
扉から出てきた男は、ゆっくりとシャルロッテに向かって歩き出す。
緊張と喜びが入り混じった、何とも言えない表情で。
「茜……」
震える声で名前を呼んで、勇司がシャルロッテをそっと抱きしめた。
壊れ物に触れるかのような、優しい手つきだった。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ……」
「茜……!今まで、つらい思いをさせてごめんな。助けに来れなくて、ごめんな」
兄妹の再会に、俺も目頭が熱くなる。
しかし一方で、胸の奥に小さな痛みも感じた。
先程幻覚で見た、娘の姿が思い出される。
愛しい娘の姿で、どうして助けてくれないのかと泣き叫んでいた。
こうしている今も、娘はつらい思いをしているかもしれないと思うと、焦燥感にかられる。
妻も同じだったのか、どこかさみしそうな目でふたりを眺めていた。
そんな俺と妻の背中に、ノアが優しく手を添える。
その手が温かくて、俺は余計に泣きたくなってしまった。
※
「ところで、ひとつ気になることがあるんだけど……」
感動の再会が一段落したところで、俺はスルー出来ない違和感を口にする。
「なんか勇司くん、すごいムキムキになってない?」
元の世界の勇司は、どちらかというと細身で、あまり強そうには見えないタイプだった。
しかし、目の前の勇司は、細マッチョという言葉が似合う、引き締まったかっこいい体つきをしている。
顔色までよくなっているだけじゃなく、髪や肌のツヤも段違いだ。
「ああ、これか……。なんかさ、元の世界に帰るときに女神に奪われた勇者としての力を返してもらえてさ」
勇司は少し恥ずかしそうに、頬を掻いた。
「俺は別に元のままでもいいって言ったんだけど」
「何言ってるの。今まで頑張ってきたことがゼロになるなんて、間違ってるでしょ。頑張った子は、ちゃんと報わなくちゃね」
そういってノアが笑うと、勇司もうれしそうな顔をした。
「お兄ちゃん、かっこいい!本当の勇者様みたい!」
さらにシャルロッテに褒められ、勇司は耳まで真っ赤にして照れている。
すると庭園の木陰に腰かけていたロエナが、くすくすと笑いながら言った。
「シャル。勇者様みたい、ではなくて、本物の勇者様なのですよ」
勇司はそこでようやく、ロエナと王がこの場にいることに気づいたらしい。
慌てた様子で勇司は頭を下げたが、王は顔を上げるように言った。
「よく帰ったな、ユージ」
「陛下……」
「娘婿となるなら、これからは家族も同然だろう。気楽にしてくれてかまわない」
「あ、ありがとうございます」
王はふっと笑って、頷いた。
そして「再会の邪魔をするのは野暮だな」と言って、どこかへ行ってしまった。
王の言葉に、勇司とロエナがそろって頬を染める。
「もう……お父様ったら……」
「余計な気を……」
そんなことを言いつつも、寄り添う二人は幸せそうだった。
一度は引き裂かれた恋人同士だ。
もう二度と結ばれることはないと諦めていたことだろう。
その喜びは計り知れない。
俺は微笑ましい気持ちで二人を眺めていた。
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