35 / 242
35 入隊試験(2)
しおりを挟む
ノアの試験は、一瞬で終わった。
相手の騎士は中堅といった見た目の男性騎士だったが、剣を抜く前にノアの草魔法によって蔓が絡みついて戦闘不能と宣言したのだ。
どうやら彼は剣の腕は一流だが、魔法は使えないらしい。
「一応、装備には防御魔法が施されているんだがな。」
苦笑いしながら、騎士が言う。
ノアは「うまくいってよかったよ。」と余裕の笑顔で返していた。
想像よりも早く、俺の番がきてしまった。
「伊月くん、頑張ってね!」
応援する妻の声を背中に受けながら、俺の相手をする騎士に向き合う。
騎士は若い男で、自ら魔法剣士だと宣言した。
そのうえで「俺は前の二人のように情けない騎士ではないぞ。」などと挑発的なことをいう。
彼の発言に、女性騎士と中堅騎士はあからさまに不快な顔をしたが、文句は口に出さなかった。
身に付けている鎧を見る限り、どうやらこの無礼な騎士のほうが家格が高いのだろう。
明らかに先の二人よりも質の良い装備を身に付けている。
「準備はよいか?」
ハクジに問いかけられ、頷いた。
騎士はあざけるように「死んでも文句言うなよ。」といって笑う。
「……よろしくお願いします…!」
緊張で汗が滲む中、長剣を強く握りしめた。
ハクジの合図で、模擬戦が開始する。
騎士は余裕なのか「先に打ち込んでいいぞ、受けてやる。」と声をかけてきた。
「一度も剣をふるえないのもかわいそうだからな。」
とことん俺をバカにしているのか、それともよほど腕に自信があるのか。
どちらにせよ、一度は攻撃を受けてくれるのなら、甘えることにしよう。
シールドとブーストを重ね掛けして、一気に騎士に斬りかかる。
その間際、余裕ぶっていた騎士の顔が焦りに変わり、鈍い音が響くとともに、しびれるような感触が腕を伝った。
横から打ちつけられた騎士の身体はそのままの勢いで、壁に衝突する。
「それまで。」
落ち着いた声でハクジが告げ、治癒魔法師が騎士に駆け寄って治療を開始する。
当の俺はというと、あまりにあっけなく勝敗が決したことに呆然とするだけだった。
ブーストをかけていたとはいえ、自分があんなに軽々人を吹っ飛ばすことができるなど、到底信じがたい。
「よくできました。」
そんな俺の背中を軽く叩き、ノアが言った。
いつのまにか隣に来ていたのか、グレンが「これほどとは、驚いた。」と感嘆の声をあげる。
ハッとして辺りを見渡すと、女性騎士と中堅騎士は驚いた顔をしていて、妻とリオナは俺の勝利を喜んでいた。
「それでは、次の試験に移る。」
ハクジの表情だけは変わらず、何を思っているのかさっぱりわからなかった。
※
二次試験は、筆記テストだった。
内容は簡単な選択問題だ。
適性検査を兼ねているらしく、教養問題のほかに性格検査のような内容も見られた。
おそらく、協調性などを判断するために設けられた問題なのだろう。
回答はあっという間に終わり、その場でハクジが答案用紙をチェックする。
問題はなかったのか、最終試験へと案内されることになった。
実技、筆記ときたら、最後の試験は……。
「最終試験は、勇者様との面接である。ともに戦うに値するかどうかをご自身で判断いただくため、陛下が許可なされた。勇者様の身の安全のため、面接には騎士団長も同席する。」
「わかりました。」
「……入室できるのは、入隊希望者だけである。ご了承いただけますかな。」
グレンが頷いた。
グレンとリオナは別室で待機することになるようだ。
「私もお会いしたことはないが、勇者様は気さくなお方だという。あまり緊張しすぎないように。」
グレンにそう励まされ、頭を下げる。
まさか入隊試験で勇者にお目通りできるとは思っていなかったので、うれしい誤算だ。
後々ゆっくりと話をする機会を得るためにも、この面接を無事通過しなくてはならない。
ハクジが扉をコンコンとノックする。
扉の奥から「どうぞ。」と声がした。
若い少年の声だ。
扉が開いて、勇者の姿を目にした俺は、驚きで目を丸くする。
騎士団長と思わしき武骨な男のそばに、そっくりな顔立ちをした少年と少女が腰かけていた。
「はじめまして、エミ・タカナシです。」
「ショウ・タカナシです。ふたりで勇者をしています。」
そう言って2人は、高梨舞によく似た顔で笑った。
相手の騎士は中堅といった見た目の男性騎士だったが、剣を抜く前にノアの草魔法によって蔓が絡みついて戦闘不能と宣言したのだ。
どうやら彼は剣の腕は一流だが、魔法は使えないらしい。
「一応、装備には防御魔法が施されているんだがな。」
苦笑いしながら、騎士が言う。
ノアは「うまくいってよかったよ。」と余裕の笑顔で返していた。
想像よりも早く、俺の番がきてしまった。
「伊月くん、頑張ってね!」
応援する妻の声を背中に受けながら、俺の相手をする騎士に向き合う。
騎士は若い男で、自ら魔法剣士だと宣言した。
そのうえで「俺は前の二人のように情けない騎士ではないぞ。」などと挑発的なことをいう。
彼の発言に、女性騎士と中堅騎士はあからさまに不快な顔をしたが、文句は口に出さなかった。
身に付けている鎧を見る限り、どうやらこの無礼な騎士のほうが家格が高いのだろう。
明らかに先の二人よりも質の良い装備を身に付けている。
「準備はよいか?」
ハクジに問いかけられ、頷いた。
騎士はあざけるように「死んでも文句言うなよ。」といって笑う。
「……よろしくお願いします…!」
緊張で汗が滲む中、長剣を強く握りしめた。
ハクジの合図で、模擬戦が開始する。
騎士は余裕なのか「先に打ち込んでいいぞ、受けてやる。」と声をかけてきた。
「一度も剣をふるえないのもかわいそうだからな。」
とことん俺をバカにしているのか、それともよほど腕に自信があるのか。
どちらにせよ、一度は攻撃を受けてくれるのなら、甘えることにしよう。
シールドとブーストを重ね掛けして、一気に騎士に斬りかかる。
その間際、余裕ぶっていた騎士の顔が焦りに変わり、鈍い音が響くとともに、しびれるような感触が腕を伝った。
横から打ちつけられた騎士の身体はそのままの勢いで、壁に衝突する。
「それまで。」
落ち着いた声でハクジが告げ、治癒魔法師が騎士に駆け寄って治療を開始する。
当の俺はというと、あまりにあっけなく勝敗が決したことに呆然とするだけだった。
ブーストをかけていたとはいえ、自分があんなに軽々人を吹っ飛ばすことができるなど、到底信じがたい。
「よくできました。」
そんな俺の背中を軽く叩き、ノアが言った。
いつのまにか隣に来ていたのか、グレンが「これほどとは、驚いた。」と感嘆の声をあげる。
ハッとして辺りを見渡すと、女性騎士と中堅騎士は驚いた顔をしていて、妻とリオナは俺の勝利を喜んでいた。
「それでは、次の試験に移る。」
ハクジの表情だけは変わらず、何を思っているのかさっぱりわからなかった。
※
二次試験は、筆記テストだった。
内容は簡単な選択問題だ。
適性検査を兼ねているらしく、教養問題のほかに性格検査のような内容も見られた。
おそらく、協調性などを判断するために設けられた問題なのだろう。
回答はあっという間に終わり、その場でハクジが答案用紙をチェックする。
問題はなかったのか、最終試験へと案内されることになった。
実技、筆記ときたら、最後の試験は……。
「最終試験は、勇者様との面接である。ともに戦うに値するかどうかをご自身で判断いただくため、陛下が許可なされた。勇者様の身の安全のため、面接には騎士団長も同席する。」
「わかりました。」
「……入室できるのは、入隊希望者だけである。ご了承いただけますかな。」
グレンが頷いた。
グレンとリオナは別室で待機することになるようだ。
「私もお会いしたことはないが、勇者様は気さくなお方だという。あまり緊張しすぎないように。」
グレンにそう励まされ、頭を下げる。
まさか入隊試験で勇者にお目通りできるとは思っていなかったので、うれしい誤算だ。
後々ゆっくりと話をする機会を得るためにも、この面接を無事通過しなくてはならない。
ハクジが扉をコンコンとノックする。
扉の奥から「どうぞ。」と声がした。
若い少年の声だ。
扉が開いて、勇者の姿を目にした俺は、驚きで目を丸くする。
騎士団長と思わしき武骨な男のそばに、そっくりな顔立ちをした少年と少女が腰かけていた。
「はじめまして、エミ・タカナシです。」
「ショウ・タカナシです。ふたりで勇者をしています。」
そう言って2人は、高梨舞によく似た顔で笑った。
10
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
晴明、異世界に転生する!
るう
ファンタジー
穢れを祓うことができる一族として、帝国に認められているロルシー家。獣人や人妖を蔑視する人間界にあって、唯一爵位を賜った人妖一族だ。前世で最強人生を送ってきた安倍晴明は、このロルシー家、末の息子として生を受ける。成人の証である妖への転変もできず、未熟者の証明である灰色の髪のままの少年、それが安倍晴明の転生した姿だった。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~
海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。
その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。
そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。
居眠り暴走トラックという名の刺激が……。
意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。
俗に言う異世界転生である。
何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。
「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。
―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。
その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる