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24 ギルド登録

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 扉をくぐると、俺のイメージするファンタジー世界そのものの街並みが広がっていた。
 レンガや石造りの建物が並ぶ様子は中世ヨーロッパのようで、妻も「おとぎ話みたい…!」と目を輝かせている。
 街の活気も良く、道行く人々や商人の声があちこち行き交っていた。

 それに何より、目を引くのは住民の姿だ。
 さまざまな人種が混在しているのか、肌の色も髪の色も個性豊かだ。
 それに何より、動物のような姿をした獣人や、背の低いドワーフらしき男たちもチラホラ見かける。


「まずはギルドに行こうか。」

とノアが提案した。
 今後のため、ハンターギルドへ加入しておくと都合がいいらしい。
 詳細は「あとでね。」と濁されてしまった。

 どうやら彼はこの街の地図を把握しているらしく、迷いなく歩みを進める。
 道すがら、大きな川が街の中を流れていることに気が付いた。
 なるほど「リバーサイドの街」という名の通りだ。
 川沿いにはたくさんの木箱を積んだ大きな船が何台も停泊していることから、貿易港としての役割を担っていることも窺える。

「いい街でしょ?」

 きょろきょろと街中を見渡す俺たちに、ノアが言った。

「ゆっくり観光させてあげたいけど、あんまりのんびりしているわけにはいかないからね。……さ、着いたよ。ここがハンターギルドだ。」

 目の前には、周囲と比べてひときわ大きな建物。
 ためらいなく扉を開いたノアに続いて、建物の中に足を踏み入れた。

 なかは老若男女、多くの冒険者で賑わっていた。
 冒険者というと屈強な男が多いイメージだったが、そうとは限らないらしい。
 ガラの悪そうなやつもいるが、そうでないものも多かった。

 緊張しているのか、慣れない環境におびえているのか、妻が俺の服の裾をぎゅっと掴む。
 俺は安心させるように、その手をとって握った。


「ハンター登録をしたいんだけど。」

 ノアが受付係に声をかける。

「登録ですね。みなさん、ご一緒ですか?」

「そう、3人分。あと獣魔を一匹登録したい。」

「かしこまりました。それでは、こちらの用紙をご記入ください。」

 差し出された用紙に、ノアが手早く記入する。
 どうやら、俺たちの分もまとめて記入してくれるらしい。

「書けたよ。」

 ノアが差し出した紙を、受付係が確認する。

「……結構です。それでは、身分証の提示を。」

 そう促され、鞄から身分証を取り出す。
 受付係は3人分を受け取ると、先程門兵が使用していたものと似た板の上にかざした。


「ありがとうございます。こちらで、イツキさん、シオリさん、ノアさんの冒険者の登録は完了です。」


 身分証を返却しながら。受付係が告げる。
 そして「それから……。」と銀色のカードを差し出した。

「こちらがギルドカードです。ハンターランクは上からS・A・B・C・D・Eに分けられます。初心者であるみなさんは、一番下のEランクからのスタートです。ランクによって受注できる仕事は異なるので、依頼書に記載されている受注可能ランクをご確認ください。

 また定期的に依頼をこなすと昇級試験の受験資格を得られます。受験資格を取得されたら、依頼の達成報告の際、受付より通知いたします。試験の日時も、そのときにあわせてお伝えします。ここまでで、何か質問はございますか?」

「だ、大丈夫です。」

「それでは次に、獣魔の登録にうつります。どなたが登録されますか?」


 獣魔?
 たしかにノアがそんなことを言っていたけど、まだこの世界で魔物にも魔獣にも出会っていないはず。
 俺が戸惑っていると、ノアが代わって応える。

「シオリが登録するよ。獣魔はこの子。名前はコトラ。」

 コトラが魔獣!?
 コトラを抱き上げているノアを見ると、いたずらっぽい顔をしていた。
 どうやらあえて内緒にしていたらしい。

「それでは、シオリさん。ギルドカードをこちらに。」

 妻がカードを差し出すと、受付係は再び先程の板を取り出し、カードをかざした。
 そしてその上に、首輪のようなものを乗せる。

 首輪についた石のような飾りが淡く光ったことを確認してから、受付係は首輪を手に取り、コトラの首に取り付けた。


「これで獣魔の登録も完了です。街の中へ入れるときは、必ず獣魔の証となるこの首輪をつけるようにしてくださいね。」


 頑張ってください、と激励してくれた受付係に頭を下げ、その場を離れる。
 ある程度受付と距離をとってから、俺はノアを小声で問いつめた。


「コトラが魔獣ってどういうことだよ!」

「そのまんまの意味だよ。ただの日本の猫が異世界でやっていけるわけないでしょ?だから僕と神様からのプレゼントとして、能力を授けたんだよ。」

「能力?」

「コトラも魔法を使えるよ。ここじゃあれだけど、身体の大きさを変えることもできる。コトラが嫌がらなかったら、背中に乗って移動することもできるかもね。」

「魔法って……。」


 いつもと変わっていないと思っていたコトラが、いつの間にかそんなチート猫になっていたなんて……。
 戸惑う俺と裏腹に、妻は嬉しそうに「すごいねー!」とコトラを褒めている。

 今はその柔軟さが、うらやましく感じられた。
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