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12 宝石の瞳

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 少年との会話のあと、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
 未だ頭が混乱している。
 しかし、彼の話は紛れもなく、娘の失踪の鍵を握るものだった。

 聞きたいことはまだまだある。
 しかし俺は、彼の正体も所在も何も知らない。
 彼は「またね。」と言っていたが、本当に次があるのだろうか。

 言いようのない焦燥感に追われ、あてもなく少年の姿を探して歩いた。
 だが、案の定見つかることはなかった。







 家に帰った俺は、事の次第を義母に報告した。
 義母は驚きの表情をしていたが、口を挟むことなく最後まで話を聞いてくれた。

「その子の話は、信じてもよさそうなの…?」

「おそらくは。この前会いに行った勇司くんのことも知っているようでしたし、何より雰囲気が……子どもらしくないというか、人間離れしてるっていうか…。」

「本当なのだとしたら、その子は異世界へ行く方法を知っているのかしら?」

「どうでしょうか…。訊ねる前に姿を消してしまったので、何とも。」

 しかし、異世界転移の裏事情を知れたのは大きな収穫かもしれない。
 それにこの世界の神が、おそらく「異世界転移に不満を抱いている」であろうことも、重要な情報だといえるはずだ。


 ただ、少年はなぜ俺たちの前に姿を現したのだろう?
 それに、柚乃より前に異世界転移した被害者の家族にも、彼は接触しているのだろうか?
 佐々木をはじめ、被害者家族の中に少年のことを口にした者はいなかった。
 仮に接触したものがいたとしたら、あの会合の中で話題にあげないはずがない。
 それなのに話題に上がらなかったのは、少年に会った者がいないからか、それとも言えない理由があるからか。

 一度、佐々木に相談してみた方がいいのかもしれない……。

 そう思ったが、あえて少年が彼らに接触していなかったのだとしたら、反感を買うことに繋がる可能性もある。
 ここは慎重に事を運ぶのが得策か。


「お兄ちゃんと遊んできたの?」

 考え込んでいると、不意に不機嫌そうな声が耳に飛び込んできた。
 詩織も遊びたかったのに、と妻が不満そうに口を尖らせる。
 危険だからと、ついてくるのを断ったことを根に持っているらしい。

「遊んでないし、少し話をしただけだよ。」

「お兄ちゃんと遊ぶの楽しみにしてたのに、伊月くんだけずるいー。」

「ごめんごめん。今度は、詩織もいっしょに行こうな。」

 何とか宥めているとき、ふと疑問に感じた。
 詩織は少年のことを「不思議」だと話していたが、二人の会話は他愛もない内容だったはずだ。
 それなのに、どうして不思議だという印象を抱いたのだろうか?

「なあ、詩織?どうしてあの子のこと、不思議だと思ったんだ?」

 俺がそう訊ねると、詩織ははっきりとこう言った。


「だってお兄ちゃんの目、宝石みたいにキラキラしてて、すごくきれいだったんだもん。」


 宝石?
 少なくとも、俺の見た少年の目は、普通の日本人のそれだった。
 妻が見たときは、違う姿をしていたのだろうか?


「はじめはね、みんなとおんなじような目だったの。でも話している途中で、青くてキラキラの目に変わったんだよ!不思議でしょ!」


 会話の途中で目の色が変わるなんて、それこそ魔法のようではないか。
 やはり彼は、人間とは異なる何かなのかもしれない。
 そんな得体のしれない彼なら、本当に知っている可能性もあるだろう。
 異世界へ飛び、娘を救うための手段を。


「とにかく、その男の子の話はここまでね。また何かあれば、すぐに教えて頂戴。私も詩織から目を離さないようにするわ。」

「……よろしくお願いします。」

「いいのよ。それより、今日はこれからどうするの?このところ柚乃の捜索にかかりきりでろくに休んでいないのだから、今日は身体を休めてもいいと思うわよ。このままじゃ、あなたの方が参っちゃうじゃない。」

 義母はそう提案してくれたが、娘が見つからない現状で、気を休めることは難しいだろう。
 俺は静かに首を横に振った。

「ご心配をおかけしてすみません。でも、今日も聞き込みに行こうと思います。期待は薄いでしょうが、じっとしている方が辛いんです…。」

 そう答えた俺に、義母が深くため息をつく。
 しかし「夕飯までには戻るのよ。」と渋々ながら了承してくれた。
 居ても立っても居られないのは、おそらく彼女も同じはずだ。
 それでもこらえて、妻の面倒を見ながら帰りを待ってくれている。

 改めて、頭の下がる思いだった。
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