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14 読みたくない手紙とおねだりビール

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 秋良の熱は、数日上がったり下がったりを繰り返したが、無事に回復することができた。
 秋良の療養中は、あまり仕事がはかどらなかったため、今日は一日、頑張らなくてはならない。

 保育園からの送迎が終わり、ポストを確認する。
 仕事の資料に注文した本がそろそろ届くはずだが、まだのようだ。
 代わりに、一通の手紙が投函されていた。

 手紙を手に取り、差出人の名前を見て、ため息をついた。


「……またか……」


 手紙の送り主は、トラックの運転手。
 兄と義姉をひき殺した加害者だ。

 家に入り、戸棚の奥の小さな箱を開き、手紙を放り込む。
 なかには、同じ差出人からの手紙が何通も入っている。


 事故のあと、加害者からは何度も手紙が届いていた。
 おそらく、謝罪の言葉が書き連ねてあるのだろう。
 ただ、謝ってもらったところで、兄夫婦が生き返るわけではない。
 それなのに手紙を読んだら、謝罪を受け入れないといけないような気がして、どうしても読む気にはなれなかった。

 本当は捨ててしまおうかとも思ったのだが、秋良が将来、両親の事故について詳しく知りたくなったとき、必要になるかもしれない。
 そう思うと捨てきれず、こうして目につかないところにしまい込んでいるのだ。


「……う……」


 背筋が凍る感覚がする。
 手紙が届いたときは、いつもこうだ。

 それが怒りと悲しみ、どちらの感情からくるものなのかわからないが、手紙を見るたびに気分が悪くなる。
 俺はもやもやを振り払うように首を振り。無理やり気持ちを切り替えた。


「よし、仕事だ仕事!」


 パソコンを開き、画面に集中する。
 だから、兄が意味深な目つきでこちらを見ていたことに、気が付かなかった。







『そろそろ休憩しようぜ!』


 急に兄が話しかけてきて、驚きのあまり椅子から落ちそうになった。
 俺は兄を睨みつけ「仕事中は話しかけない約束じゃなかったか?」と文句を言う。


『でももう昼もとっくに過ぎてるぞ?根を詰めすぎると、身体によくないって』

「……あ、あぁ……」


 時計を見ると、すでに14時を回っている。
 いつの間にこんなに時間が経っていたのか。


『集中すると生活がおろそかになるの、悪い癖だぞ。食と睡眠をもっと大事にしろよ~』

「わかったわかった、悪かったよ」

『とかいって、栄養補助食品で済ませる気だろ?兄ちゃんにはわかるぞ?』

「……わかったよ……」


 このままでは、兄の小言がうるさくて仕事になりそうにない。
 仕方なく、昼食を買いに出かけることにした。

 弁当屋まで行くのは面倒だから、近くのコンビニでいいだろう。


 家を出ると、なぜか兄もついてきた。
 家にいろよ、と言ったが、諦める気がないようだ。


『ちゃんと野菜も取らせなきゃいけないからな!』

「え~、メニューにまで口出してくんのかよ……」

『当たり前だろ。健康第一!』


 やれやれと、イヤホンマイクを装着する。
 兄との会話を周囲に怪しまれないための配慮だ。
 会話をしないのが一番なのだが、こうして話しかけられるとつい反応してしまう。


『ふたりで出かけるの、久しぶりだな~』

「コンビニだけどな」

『いいじゃん、いいじゃん。あ、ビール買ってくれよ~。久々に一杯やりたい』

「一杯って……」

『お供えしてくれよ~。飲めなくても雰囲気を味わいたいんだって。そのあと、おまえにちゃんと返すから』

「はいはい」


 コンビニで弁当とビールを手早く選んで会計を済ませる。
 兄に文句を言われないよう、弁当は「野菜たっぷり」と書かれているものを選んだ。

 ビールは135mlの小さいサイズ。
 兄は不満げだったが、俺はあまり酒に強くないし、ビールもそれほど好まない。
 ちょっと飲めれば、それでいいのだ。

 ……それに、泥酔しているときに秋良に何かあったらと思うと、とても量を飲む気にはなれなかった。


 帰宅し、兄と義姉の遺骨の前に1本ずつビールを供える。
 兄はそれを嬉しそうに眺め、口をつけるふりをした。


『ありがとな!』


 そう笑う兄に、俺は弁当を食べながら笑い返した。
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