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一章

幕間

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 私の名前はシオ、只のシオです。
 この『神祖様の村』の長をしております。
 実は、私はこの世界にハーフエルフとして転生した元日本人です。
 前世で交通事故で命を落とした私は、気が付けば白い部屋にいました。
 そこで私は『神祖』と名乗る人物と出会い、この世界『ザガン』に転生する事になりました。

 この世界『ザガン』は、シオである私の祖先であり転生をさせてくれた神祖様が異界からの侵略者である『魔族』の為に千年前にと言われています。

 そんな私はエルフの王族として生まれましたが精霊魔法に適性が無く、ハーフエルフという生い立ちのため国を終われる事になったのですが、今では寧ろ追放されて良かったかと思っています。
 本来なら『魔境の森』に追放される時点で死刑宣告なのですが、それまで誰からもゴミ扱いされていた、私のスキル『農業』のおかげで、生き抜く事ができました。
 私はまるで魔境の森の為にあるようなスキルを与えてくれ、転生をさせてくれた神祖様に感謝の意味を込めて、この村の名前をーー『神祖様の村』と名付けました。

 そして...住人も増え、妻達をめとり、子供達も生まれ二十年が過ぎた今日ーー
 彼はこの村にやってきたのです。

◆◆◆

「一体彼は何者だったのでしょうね?」
「......」

 憂いを纏う私の声に妻の一人であるオルガは答えてくれません。
 それも仕方がないでしょう、私としても答えようがなかったのですから。

「あんなのありえないわ!」

 普段は声を荒げるような彼女ではないのですが、先ほどから同じ言葉を何度も繰り返しています。彼女の気持ちはよくわかるので、私は諌ます事は出来ません。スキル『見抜く者』を持つ彼女の困惑は私以上の筈です。
 相手の隠蔽スキルさえ無効にしステータスを暴きーー嘘さえ見抜く力。
 彼女が私に嘘を吐くとは思えません。そもそも吐く理由がありません。しかし、それだと彼が仕出かした行為を説明する事が出来ないのです。
 レベル1、パラメーターは生まれたての赤子並み、魔法適性無し、スキル無し、職業無し、名前も剥奪されているようで名無し...。
 このステータスでザイード殿を事など不可能です。
 妻の言葉でなければ信じる事は出来なかったでしょう。
 

 思い出す。
 つい二時間前に起こった事件を思い出す。
 彼はザイード殿を殺害すると、襲いかかるメイド達から逃げるため、屋敷の壁を打ち砕き逃走した。驚く事に彼は獸人族を置き去りにする程の脚力を見せたらしい。いや、それも当然ですか...彼の身体能力はステータスは当てになりませんね。
 私は彼の追跡を、朝まで待つように命じました。憤慨する皆を説得する為にーー既に時刻は夜半、追跡するには危険だという理由で一応の納得を皆に得ました。実際それは事実です。あのザイード殿を殺害せしめた相手なのですから追跡には慎重を期する必要があるでしょう。
 その事実に私は安堵していたのです。
 
 私はザイード殿を殺した彼を憎む事が出来ないのです。
 許せない気持ちは当然あります。ザイード殿との付き合いは十年以上です。面倒見もよく皆に良く慕われた人物です、それに私の娘の一人はザイード殿の弟子でもあり...最後にあの娘の涙を見たのは子供の時以来です。
 それでも私は彼を憎めないのです。

 そもそも否が此方にあるのは彼の言う通りなのです。
 何故、私は最初に止めなかったでしょう...只だた後悔しか残りません。
 何故、私は忘れてしまっていたのでしょう。この世界が優しさだけではないことを...
 親の罪で殺される家族達。
 前を横切ったと殺された子供達。

 ある皇の気まぐれで滅んだ王国。
 私ーーいえ、私達は彼の言う通り傲っているいたのです。

 『魔境の森』で生きる私達は知らぬまに鍛えられ、その噂を訊いた強者が集まり、しかもそこに災厄である三皇までもがこの村の守護神のようになってくれていた。
 私達を害せるものなどいない。
 例え一国でも害される事は無い。
 私達なら大丈夫。
 それは今まで事実だった故に傲ってしまっていたのでしょうね。
 奴隷が貴族にしたがうように、王や貴族に平民がしたがようにーー無条件で彼が従うと私は心の何処かで思っていたのでしょうね。奴隷が主人を害する、平民が反乱を起こす。歴史を紐解けば幾らでもある事例ですのに。
 力があっても全ては守れない。
 どんな身分のものでも粗略に扱えば恨まれ牙を向く。その牙は隠されこともあり自分以外にも向くのです。
 敵対者を作らない努力。
 例えどんな小さな可能性でも見過ごさない努力。
 守るには全力を尽くす努力。
 私は彼が、そう警鐘を鳴らしてくれていると感じました。
 
 しかし、それは私の思い違いだったのでしょうね...。
 彼は殺したのです。
 ザイード殿を殺したのです!
 もし、私の思っていた通りの行動だったのならーーザイード殿を殺す必要はなかったのです!
 私は愚かにも彼の言う通り想像しなかったのです。
 彼が本気だった時の事を...。
 彼の言う通り、あの場で彼を殺すべきだったのです。ザイード殿を見捨てるべきだったのです。現に彼はこの場を逃げおおせたのですから。
 幸いにも夜間だったお陰で村民には今の処は被害がないようですが、もしこれが昼間だったらどうなっていたことか...子供が人質に取られる、村民が傷つけられる、下手をすれば殺害されていた可能性もあったのです。
 そう、あの時、決断しなかった為に村民を危険にさらしたのです。

 今でも私は彼が恨めません。
 しかし既に明確に彼はこの村の敵対者です。
 また今日と同じような事をする可能性があるのです。
 逃がすわけにはいきません。戻ってこない可能性は無いのですから。
 だから決断しなければなりません。私は村長なのですから。
 敵対者はーー殺さなければなりません。

 しかし思わずにいられないのです。
 
 「彼は悪人だったのかな?」
 
 妻は答えてくれませんでした。

 







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