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ワカラナイ
しおりを挟む夜中の道路で突然幽霊に遭遇した。
ユラッとしていて紙みたいだと最初思った。
エレベーターは揺れもなく、音もしないみたいに輪郭はわかる。
あたりが暗いのに、やたら眼を引く。
でも酒に酔っていたせいか、それに気付くことに遅れた。
えっ! あれ!何だ!
考える時間は与えられなかった。いきなり手を挙げながら、満面の笑顔で、こちらに猛スピードで迫ってくる。動力全開、フルスロットル、距離にして数十メートルだったが、あっという間に詰められる、やたらめったら速い。
タンタン!タッタッ!ズダッズダツ!!!
腕を振り回しながら迫ってくる!
耳で聞くのと同じように皮膚上で理解する。何だこのバケモノはと思いながら慌てて走った!不幸なことに、そのスピードが速すぎた。ビュオオオオォォン、といくつもの電信柱を通過してゆくさまを思い出した。
、、、、、、、、、、、、
説明できない恐怖が襲った!
捕まったらどうかなるとか、追いついて来たってどうということもない、という判断は全然なかった。
追いつかれたら死ぬ、傍に来るな、気持ち悪い、そんな感情で一杯だった。
道を引き返しながら交差点のある大通りまで引き返す。変な顔をして振り返る人も沢山いるがとりあえず一切、気にしない。そいつが止まらないのはすぐにわかった。
横隔膜―――鳩尾・・それに横っ腹も痛い!!!
街燈は暗い、だが、幸い砂利道ではないアスファルトだから転ぶ心配はない。
ビルディングは触手のような影を落としている。
空に吊り上げられてゆくような見事な吊り橋!
、、、、 、、、、、 、、、、
保険会社、お好み焼き、無人の店・・・。
陸上競技みたいに走り始めた自分は!
息がすぐに切れたがそれでも走るのをやめられなかった!
後ろを見る余裕はなかった。怖かった。だんだん深まる恐怖は彼方へ溶け流れてゆく。だが、バシュン!バシュン!バシュン!
時間の流れがギクシャクギクシャクギクシャクする!
蹴りを入れてくる!蹴りを入れてくる!
何してるんだこいつと思うより頭がパニックになっていてもう本当に何をどうしていいのかそれ自体が完璧にわからない!
こいつ何で蹴りを入れてくるんだ、幽霊じゃないのか、生きてるのか、妖怪なのか、めまぐるしく頭の中に言葉が流れる。
前もって情報があればいいのだが一切思いつかない。
「死ね死ね死ね死ね死ね!」
、、、、、、
声も聞こえた。
もう、超、スゲー、やったー、嬉しそうなのだ。
暴走機関車、新幹線!道路を百数十キロで走るトラック!
やめろやめろやめろ!
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
、、、、、、、、、、、、、
そもそも霊感だってないのだ!
でもそいつは猛然と牙を鳴らして自分に迫りかかってくる毒蛇さながらなのだ。
前後のツジツマツジツマツジツマが合わない!!!
逃げなければと思いながら交差点!
―――飛び出すと、眼の前に車が高速で通過してくるのが見えた。
超スローモーションのように自分の腕が、手が、前のめりになり!
足がカクッと!ガクガクッとするのが見えた!
横断歩道ハッと思っている間に、転けた・・。画面が白くなる・・。
ヤバイヤバイバヤバイ!
ヘッドライトが迫り、クラクションが鳴る!!!
包囲されたデモ隊―――檻の中から脱走したライオンの末路・・。
だが車はハンドルでよけてギリギリかわして数秒後数十メートル前方の信号を突き抜けてゆく。自分は助かったのか、と振り返る。そこには誰もいなくなっていた。
心臓が高鳴って汗がサウナみたいにドッと噴出している!
重い物を持ち上げた時みたいに血管が切れそうだった!
でも眼の前から渡ってくる人ごみの中で、たった一人だけ歩いてこない人間がいる。眼が合った。ニヤッと笑っていた。あいつだった・・。
自分はすぐさまタクシーを止めた。他にどうすることもできなかった。
また走ってきたらどうしようかとそちらの方を見たがいなかった。
何だったんだろうと後部座席にぐったりと腰をしずめると、ドカン!ドンドン!ドンドンドンドン!叩いた。
気付いた、眼を開けた―――開けないわけにはいかなかった。
走らせてという言葉を言おうにも、声が出てこない。
ドンッツ!ドンッツ!ドドドドドド!
ガンガン!ガンガンガンガン!
後ろの窓いっぱいにさっきのそいつが、カメレオンのように貼り付いていた―――満面の笑顔で・・叩く! 叩く!
血の気が引いた、全身が震えるのを止めることはもう出来なかった。
運転手が振り返らない、気付かない、まだ走らない!
、、、、 、、、、、、、、
「お客さん、何処へ行きますか?」運転手はそう言った。
―――眼を開ける、意識が飛んでいたのはどれぐらいだろう、運転手がこちらを見ている。後ろを見る、横を見る、誰もいない、大丈夫、ソイツはいない。フロントガラスにもいない。
ムニュッ、と足に変な感触がした足に変な感触がした。
椅子の中で縮こまっている自分、足がフワフワし、もういっそ足を切断したい気分の自分。足を切断したい、足を切断する、足を切断したい、足を切断する!!!
ギロチン!ギロチン!ズッツ―――ダアァァン!
、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、
―――足に何かいる、でもそれを考えることはできない、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
だってそれを知ったらもう降りられない。
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