怖い話

かもめ7440

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蜘蛛

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 とある牛丼屋で友達のCと牛丼を食べていた折り、天井に取り付けられたエアコン機の傍で何かが動いた。蜘蛛だった。高速な動きで知られる、網を張らないタイプのアシダガグモだった。ちなみに江戸時代にゴキブリ駆除の為に人為的に輸入した、といわれている蜘蛛である。いや蜘蛛より、ゴキブリが嫌いな理由は、黴菌の塊といった見た目だが、そんな昔から、なのだと思う人の方が多いだろうが。
 
 ともあれ僕等は別に女の子でも、蜘蛛嫌いでもないので、平然と牛丼を食べた。
 これがもしゴキブリだったら僕等も、ゾワッと生理的にキタかも知れないが。
 
 ―――と、友達がおもむろに話し始めた。
 「怖い話ではないんだけど、」と前置きしてから、
 「昔、犬を飼っていたのを話したことあるよな。タナって言うんだけどさ。」
 雑種の犬、というのは聞いている。
 十歳を越えるメス犬で、数年前に亡くなったと聞いた。
 「実はタナは歳を取って、見るからにすごいやつれ方をしたんだ。
 まあ、どんな風になろうが、飼い犬だ、愛着がある、別に変わらないんだ。」
 世の中には、ひどい扱いをする飼い主もいるけど、まあ多くの飼い主はそうだろう。しかし、犬の死因で多いのは癌(腫瘍)である。そう聞くと、どれだけ人間と同じような身近な動物かとも思う。
 「でもそれがどうしたんだ?」
 「―――全然関係ないんだけど、夏の真夜中にさ、
 大きな蜘蛛が実家の洗面所に出たんだ。
 一瞬何かの模様とかシミかと思いたくなるような大きな蜘蛛なんだ。」
 「怖そうだな。」と適当に言ってみる。
 「でもその蜘蛛は二、三日いたんだ。まあ、最初は気持ち悪かったけど、
 実家にはお婆ちゃんがいたからさ、大きな蜘蛛だから悪さしたら罰あたる、
 勝手に何処かへ行くよって言ってみんな肯いたんだけどさ。」
 ガバイか、それガバイか、と言っておく。
 「お婆ちゃんの発言力なにげにすごいな。」
 でもそういう時に、年寄りの発言力は重宝される。
 まあ、たまたまその家に蜘蛛嫌いの人がいなかったということもあるだろう。
 蜘蛛嫌いの人が、蜘蛛が大きく見えると言う。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 どれだけ大きく見えるかまでは知らないが―――。
 
 「これは誰にも言わなかったんだけどさ、その蜘蛛がいなくなった理由、
 実は俺、何となく知ってるんだよね。」
 「―――おばあちゃんがゴキジェットプロを噴射した?」
 プッと、噴出したのでちょっと嬉しかった。
 「じゃなくてさ、蜘蛛をタナが追いかける夢を見たんだ。」
 「夢か・・・。」
 「いやでも、犬ってほら、虫とか追いかけるじゃん。だから多分、ああそうなんだろうな、と思っただけなんだけどさ。」
 そう言って、話を続けた。
 「―――多分、タナがその大きな蜘蛛を殺したんだ。誰にも言わなかったのは因果関係があるとしたくなかったのもあるんだけど、いまになって思うんだな、もしかしたら、妙なやつれ方をしたのはそのせいじゃないかな、と。」
 「呪いみたいな?」
 「・・・・・・ちょっと、馬鹿なことを言ってるかも知れないけど。」

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 朝蜘蛛は神の使いで夜蜘蛛は地獄の使い―――。

 もしその言葉が本当だとすると、その蜘蛛は地獄から―――つまり人の悪意を代弁してそこにやって来ていたのだろう・・。 
 でもそれを怖いかというと、怖くはない。
 「蜘蛛を瓶の中に詰めまくって川に投げ込んでやったぜ、
 みたいな話なら呪いというのもわかるんだけどさ、
 どうもその呪いとかいう発想がなあ―――。」

 ―――アシダカグモは、僕等の視線に気づいたみたいに、エアコン機の上部の隙間に隠れた。いつかは誰かに見つかるだろうが、そうしていれば、益虫なのになあ、とも思った。
 蛇の呪い、蜘蛛の呪い―――やはりどこか、ピントが合わなかった・・。

 「・・・・・・でも、」と付け足した。
 家族ならみんな証言するんだけどさ、と言った。
 「あれ、三十センチサイズの大きな蜘蛛だったんだよ。
 昔、そんな話言ったら、そんなの日本にいねえよと言われたけど。
 いや、いたんだって。いるんだって。」
 「―――ツチノコだってそれはいるさ。」と僕は微笑んで肩を叩いた。
 「・・・本当なんだって。」とCが言った。
 
 でもそれぐらい大きな蜘蛛だったということは真実なのだろう。
 それが犬への呪いと結びつき、ひょんなことから見た夢という作用を伝って一つの解答になったのだろう。でもまあ、確かに、不思議なことの一つや二つ、世の中にはあるものだ。
 でも呪いがあったとしても、大切に死ぬまで面倒を見てもらった犬は、幸せだったんじゃないかな、と僕はぼんやりと思った。
 
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