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かもめ7440

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 それから気を取り直して、“光るおたまじゃくし”のような魔法文字で、
 魔法陣を立ち上げる。i.n.p.u.t..接続。
 (魔法円の中にペンタクルを浮かべ、縁取りに魔法文字を埋め込んでゆく・・)
 完全な感覚――共感覚・・・
 ただちに、自己にとって疎遠なもの一切を自己のもとに概念把握しようとする。
 超音波、レーザー、超高速震動・・?
 ―――つまるところ、『償いの死』『罪の赦し』『にごりなき自己の統一』
 >>>レモン色、オリーブ色、あずき色、黒・・。
 大きく引き寄せてゆくクローズアップと周囲がぼける圧縮効果・・。
 な ぞ り な が ら―――breaststroke。
 学問的な知識と高度な魔法は普通共有しないものだが、
 (学問的な魔法に、魔法の力は毛の生えた程度でいいからだ。)

 彼等の入り口はひとりひとりのために作られた、
 でも魔法使いの入り口はたったひとりのため・・。

 ―――マーク・フェルド先生はしかし、そういう教え方をしなかった。
 ここにおいて、シードは“メビウスの帯の別の表面に移っている魔法使い”である。
 
 誇り高い魔法使いは知と非知とをよりわけることをいさぎよく放棄する。
 そしてその冷ややかな無力感のある罐詰の鮭みたいなポジションの場所で、
 ひたすらに事態のもつれを突破口とする―――。

 [ちなみに魔獣には発見された記号が数百存在し、それを浮かべることで、
 その魔獣を呼び出す方法がある。ただその場合の魔獣は初心者向けではなかったので、今回は、全方位に呼びかけ、ソリアと相性のいい魔獣を呼び出す方法にした。]
 >>>無論だが、『悪魔』や『死神』を呼び出すことも出来る。
 さすがのシードもそこまでは出来ないが、『天使』や『神』を呼び出せる人物が、
 いる―――但し、一生洞窟暮らし、外部と一切接触がないのが条件だと聞いた・・。
 
 大波に現れた浜辺の杭のように、
 ―――反射的に、稲妻に打たれる想像である・・。

 砂時計のくびれ。
 指先に魔法力を集めてペン代わりにして魔法文字を書く。 
 瞬間ー膨張するフレア・・
 i.l.l.u.m.i.n.a.t.i.o.n......文字が作りだした立体映像、
 (くさびと円と点を組み合わせた、汎用性の高いモデル、)
 >>>魔法はイメージなので、言語と対応していない場合もある。
 (魔法を読み取られて盗まれるという事件があったからだが、)
 [本当は魔法というものに携わった人間の美しい想像と装飾]
 ―――読めない文字に魔法力を注ぎ込んで読解するロマン・・。
 意味のないような奇妙な紋様がつぎつぎと中空に描かれてゆく。
 刻印式と詠唱式を織り交ぜて行われる複合術式―――。   
 ビ ジ ュア ル ・ ポ イ ズ 
 見た目に美しい姿勢―――。
 研ぎ澄まされた感覚が、風音の中から異音を掴んだ聴覚を呼び起こす・・。
 それは『服装選択』の基準である“着心地”のようにも思えた。

 「キレイ・・」
 白い歯があらわれた。
 それはふしぎに笛のような声にも似ていたし、
 鼻でくんくん啼く犬のこえにも何処か似ていた。
 「―――師匠。」とさらにソリアが言う。
 (師匠はやめてほしい、と思う・・)
 息がはずんでいるために肩さきが震えて見えた。
 魔法文字のおおよそは古代のオーバーテクノロジーである
 文明の頃を第一期として、それから百年前に復興させて、
 アレンジされ、汎用性の高い言語になった第二期で、
 、、、、、、
 完成している。でも基本は、である。
 海賊連の甲板上における饗宴・・天使的階梯・・・。
 (正確には、各地にさまざまな形で魔法文字が残っているし、)
 ―――そこにおける人もまた、固有の文化形態や社会様式を持つことから、
 さまざまな時期にさまざまな経路を通って段階的に渡来した人々の末裔。
 魔法と一口に言っても、奥が深いのだ。 
 >>>魔法文字は前述したようにイメージである、正確さはいらない。
 ―――極論をすれば、歪な円を描こうが、魔法文字も詠唱もなかろうが、
 その人物の魔法力が優れているのならば、召喚魔獣も可能である。
 教会の通路という通路に響き渡る言葉の一語一語が、
 まるでがなりたてられたまがいものの響きを持っているみたいに・・。
 トーマス・ナストの風刺画「腐臭を放つタマニー」
 ―――これが『魔法というものの一つの現実』である。
 でも魔法陣は魔法使いの基礎中の基礎だ。
 これができない魔法使いは魔法使いじゃない。
 (ソリアが出来ない、と言ったので、シードは黙ったが・・)
 "われわれの内なる別人"はこんな時に生まれる・・。
    、、、、、、
 ひどく不適当な表現をしているような気がする・・。
 かの女性の前では軽薄男子・・黙契を無にする、何故か蒸し暑い気がする。
 「(だって、マーク・フェルド先生はそう言ってたべよ。)」

 “魔法陣”にはこういう見方が存在する。
 1、魔法文字を使う→理にかなった魔法を知っている
 (魔法文字を知っているか否かで、使える魔法の種類の差は出る。
 それが、使えるかどうかは別としてだが、魔法も学問である。)
 2、術式という構成要素を必要とする→複雑な魔法体系への理解がある
 ***『こうすれば猿でも出来ます魔法陣講座』なんていう塾があれば別だが。
 (たとえば、魔法陣を出現ー起動ー閉鎖させられるということは、
 魔法の応用力が身についている、ということになる。
 魔法陣ばっかりやっていたという人は九十九パーセントいない。
 刻印式と詠唱式の魔法が使えるのは伴侶的前提だろう・・。)

 ただ、それもやはり『魔法使いの美学』という陳腐なものかも知れない。
 悲喜愁勧のさまざまを載せて知られざる煩雑なる幾何学的魔法の世界・・。
 (実際、素人知識で、魔法陣から魔獣を呼び出す事例は後を絶たない。)
 羽毛より軽い一億の蟻。
 けれど、力の強い魔獣を召喚しようと思ったら、
 魔法陣自体の『耐性』や『強度』が必要になる。
 (ただ、魔導機械や、召喚魔術に必須のアイテムがあれば、
 耐性や強度も保証できる)
 ・・アンティキティラ島の機械よ、さらば!
 ―――曰く、召喚される方がなめてくるような魔法陣だったら、
 ろくな魔獣がやって来ない、という眉唾な話がある。
 ローマにおける執政官になりたい元老院議員が、
 自身の誕生日に特定の公衆浴場を貸切にして、
 無料開放したみたいに、である。
 (前提には、能力の高さで魔獣がやってくるからだが、)
 とりたてて魔法陣のおびただしい失敗談は数えあげれば際限がない。
 前述したように、魔法使いの基礎中の基礎だ。
 、、、、、、、、、、、、、
 こういうことで思うのはだが、
 魔法には『衒いや外連』と『常識』の見分けがつかないところがある。

 古典的な方法でない以上はすべてある規則に則ったもの。
 完璧な魔法文字による魔法陣をつくれるというのは、
 数学的奇跡に等しい。

 「よし、これでいい。」と、シードが言った。
 「ありがとう。」
 「・・・契約は慎重にな。伝言、届け物、留守番、
 偵察ぐらいのやつから、始めるといい。」
 「はい。」
 「よし、魔法陣を活性化させる。」
 魔法陣を囲繞するように光の帯が出てくる。やがて、垂直な光の束になり、
 コンベクション
 対流・・・抽象物の誘導体。ギルバートとサリバンのオペラみたいに、
 隠しきれない皺のようなものが見え―――。
 それは魔法陣を囲む―――『光の障壁』になった・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 シードとソリアの見えないドームが拡がってゆく。
 (謁見の間での、魔法空間のようなものである、)
 「ソリア、その光の壁に触れて、心の中で名前を言え。
 ここら一体の魔獣、モンスターに届く。」
 銘を刻み込んだ魔法空間・・。
 ソリアは触れた途端、視野を満たす脳の内部空間の意識に浸った。

 広大深玄で測り知れない神の業・・
 光が微生物の屍であるマリンスノウさながらおびただしい魔法文字の屍。
 蛍の綾なす妖光、点滅する星―――これが魔法陣・・。
 触れると身体がぼうっと明るく、鈍く輝き、仄白い光を放つ・・。
 そう、そんなふうに――そうして、帯のようになっている靄の向こうへ。
 (魔法力を吸い取っているようだ・・
 その魔素の鱗が、魔法陣の色彩を白く彩色する、
 その柔い屈折の作用が、物静かに自分を浮き上がらせたように思える。)
 ―――召喚の儀式。

 「・・・したわ。」とソリアが言った。
 「そのままでいろ、呼び込むぞ・・」
 シードは的確に言う。
 不思議と、頼もしい魔法学校の先生に言われているような気がしてくる。
 次の瞬間、カッとマグネシュームを焚いたような閃光に包まれ、一同眼を閉じる。
 、、、、、、、、
 そこに現れたのは、今日三度目の登場の、胡瓜を喰っているうさぎだった。
 胡瓜は、いぼいぼが痛いくらいに尖っているものが新鮮で、
 全体に緑色が濃く、太さが均一なものがよい・・。
 ―――赤眼がちな瞳で、前足でしっかりつかんで、ぽりぽり、食べている。
 無心だ・・歯触りのいい触感を味わいながら、こまっしゃくれた外観を削ってゆく。
 存在の消滅。
 あ、とシードが言った。
 「・・・ありゃ、呼び出されたぞ。
 つい、いい声だったから、泳いできてしまったぞ」
 「うさぎさん。」とソリア。
 うさぎ、眠たそうな顔をしながら言う。
 「―――契約する?」
 「する。」

 いいのか、と一瞬思ったが、ソリアがするというのならそれでいいのだろう。
 ただ、ソリアはともかく、うさぎはそういうわけにはいかない。
 うさぎダービーはどうする、それにまがりなりにも集落に住んでいるのだろうから、勝手に消えて大丈夫なのか?
 、、、、、、、、、、、、、
 気になったので質問してみる。
 >>>召喚魔獣の身の上を心配するなんて前代未聞だったろうが・・・。
 うさぎは、むずかしい顔を浮かべたが、多分何も考えていない・・。

 「・・・まあ、異世界行き来してるし、
 後で戻って集落のほかのうさぎに言っとくよ。
 うさぎダービーも、別に自分がいなくなったって、 
 代わりのうさぎもいるよ。」
 
 ある種の淋しさとか悲しさが、まったく存在しない人物というのがいる。
 かさっという乾いた物音が何処からかするみたいに、
 いかにもサラッとしたリズム・アンド・ブルース・・。
 、、、、、、、、、、、、
 ふわふわした透明な涼しさ、とでもいうべきもの。
 淡々と、胡瓜を齧りながら、縁があるということだね、
 と一向に締まらない調子で続ける。
 まあ、それならいいだろう、とシードは考えることにした。
 このうさぎにどれほどの力があるのかは訝しかったが、
 ―――ソリアの最初の使い魔なら、これぐらいが丁度いいのかも知れない。
 「名前は?」とソリア。
 (というか、召喚魔法のお約束知らないのか、とシードが言いたくなる。
 名前があっても、名前は術者がつけるものなのだ。)
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 皮なめしは古くはエジプト時代から行われていた。

 心臓を忘れた鶏・・。
 それとも卵であることを忘れた鶏・・。
 
 「つけてよ。」
 「じゃあ、トム。」

  [うさぎのトム]を≪仲間≫に加えた。
 ***召喚魔法で呼び出せるようになりました 
 ***術者とうさぎのトムは以後感覚を共有することになります。

 メンバーであるリオや、ピグ、シードに挨拶回りをし。
 うさぎのトムです、という挨拶が済んだところで、
 魔法文字を記したプレートを作る。
 「ソリア、すまないが、ここに手を置け、トムも」
 「あ、はい。」
 ソリアのあとに、よいしょとトムが手をちょこんと置く。
 すると、そのプレートがぽきんと中折れして二つに分かれ、
 ―――蛙に催眠術をかけている大蛇の魔力・・。
 トムの腕付近に宙に浮いて移動し、カッと閃光したかと思うと腕輪になった。
 「トム、これがソリアとの契約の証だ。
 世界中どこにいても、ソリアに呼び出される。」
 「がってんしょうち!」
 しかし、ノリのいいうさぎである。
 ・・・貝殻の中に夕焼けを溜める、
 そしてもう片方のプレートを手の中でネックレスにしてソリアに渡す。
 (さっき道具屋で見た腕輪のイメージを投影する・・)
 錬金術の応用である。
 (そもそも錬金術自体見たことがなかったソリアは、
 シードって本当に何でも出来るんだな、と思う・・)
 「・・・デザインが浮かばなかったので、
 シンプルなネックレスに魔石をあしらった。
 そこに名前を刻む形式にしておいた。その魔石に触れながら、
 名前を呼べば、いつでもこのうさぎが現れる。」
 「あ、ありがとう・・」
 何かすごいことになってるな、というのがソリアの気持ちだった。
 これより優れた腕輪を見たことなどあるが、
 ・・・魅力的な世界をつくれる孔雀的な資質、
 ―――腕輪を何もない所から作り出すとは正直信じがたい・・。 
 シードが、ゆっくりと言った。
 「・・・肌身離さずいてくれ。そうすればそうするほど、
 トムの力も引き上がる。」
 といって、うさぎのトムに何かできるとも思わなかったが・・。
 「まだ続けるか?」
 「続ける。」
 十分ぐらいしか経っていない、まだやれる、というのがあるのだろう。 
 あるいはソリアも、これじゃまずいだろう、と思ったのかも知れない。
 「では続けよう。」と言った次の瞬間、
 魔法陣から水が軽やかに小さな波紋をひろげてゆくように強大な力の気配を、
 キャッチした。ひらりひらりと鰭を見せる魚のように光が揺れる。
 頗る悠長そうにしている周囲の鈍感さに思わず噴き出したくらいだ。
 釣り竿で怪魚と呼ばれるアナコンダクラスの魚を引き上げた気分だ・・。
 シードもまだ見たことがない封印された魔獣石を見たような気分・・。
 ソリアでは明らかに無理な魔獣―――。
 シードの凪いだ海のような表情・・。
 ―――深追いせず、ここでやめてしまうべきかと一瞬考えたが、
 これこそがソリアに必要な召喚獣ではないか、と思った。

 あきらかに・・・さけがたい―――しょうどうをせつめいする・・
 まったく―――じめいの・・げんり・・・。

 「・・・すまない、ソリア、多重契約になるが、
 俺とソリアでこの魔獣を使えるようにしてみる。文句はないか?」
 「構わないけど・・・」
 ようやく、何が起こっているのかをソリアは理解したらしい。
 シードは光の帯に手をあてながら、
 “自分の名前”を告げ、
 ここにいる女性と<二人でお前と契約を結びたい>、
 だが、お前の力はこの女性の手に負えるものではない、  
 だが俺が『連帯保証人』になるなら文句はあるまい、と。
 ―――マーク・フェルド先生がこんなことをやっているのを見たら、
 失神するかも知れない・・。
 >>>あるいは、爆笑されるかのどちらかだろう・・。
 「よかろう・・」
 威圧的な声、低い声はその身体が巨体であることを指し示している・・。
 百年物ではなく、数百年物、もしかしたら、もっと・・。
 ―――高い声に巨大魔獣がいない、と断言できるものではないが・・。
 “身体が大きい=強さ”というのは幼稚な見解ではあるが、
 ―――ことモンスターの世界ではことごとく当てはまる・・。
 『青い豆を浮かべているスープ』かと思ったら、
 『青い蛾を浮かべているスープ』・・。
 
 魔法陣が窒息したような恍惚のあと、ばさばさという羽ばたきが聞こえ、
 庭の上空に、昼間見た竜が現れた。
 その超巨大生物の存在自体が、宇宙の神秘を、はっきりと見せた。
 そしてぱたぱた、と、ゆっくり降りてくる。威圧感たっぷりに。
 爆撃機の機関銃手のような、静かな一対の眼。
 オーバチュアー
 管弦楽的序曲・・。
 古拙な銅版画にえがかれた古い時代の生き物・・
 ソリアは腰を抜かして地面にへたりこみ、踵と踵との間におしりをおとす。
 はげしく空気を吸う口笛のような音。口の中の酸っぱさ、納豆のような粘着。
 リオは直立不動だが気を抜かれ、死の輝きを見せながら暗く翳る・・。
 バランスを崩さない体幹の強さが求められる武闘家における構え・・。
 体躯は雷に打たれて震撼しているようでもあった。
 アクセル操作のレスポンス、点火タイミング―――。
 しゅるしゅる、とおぞけだつ音を立てる。
 いまにも襲いかからんとする怪物・・法螺貝のざわめき・・。
 ドラゴンスレイヤーの話を聞いたことはあり、
 いつかは自分もと思っていただろうが、
 (武闘家なら、一度はそんなことを夢見るものだ・・)
 ―――星ははるか漆黒の闇に鏤められ、自分がどんなに弱いか理解しただろう・・。
 理屈っぽい硬質な予想外の場面で霊妙な扉を音高く閉める・・。
 
 >>>でも二人とも、まだマシな方・・。
 うさぎのトムは地面に丸くなってコワカベヨ、とふるえており、
 ロード・バックリーの喜劇的なモノローグ・・。
 (でも、敵前逃亡しないだけ、まだ、よしとしようではないか、)
 なさけないな、と、ピグの椅子にされている。
 尻尾がびこびこゆれているので、本当に怖いらしい・・。
 (絶えず迷路、絶えず反転する視界、絶えず排除する思考)
 わかってはいたけど、戦闘での使い道はトムには一切ない。
 官僚的な口調で、そういうシステムなのだ。産卵してゆく魚の群。
 モンスターの食糧に立候補するか、無駄死にさせるかだけ―――。 
 アノサ、、、
 ちょっと待てよ、ゆさぎ、
 ちょっと待てよ、ソリアにリオ・・。
 
 「ご主人様にとっちゃ、竜も猫みたいなもの。」
 しずかに内臓がひらいていくような、歯切れの良さ。
 あざやかな手並み。
 でもピグ、頼むから盛りそばするのはやめろ。

 ―――藻屑に消えたスペイン艦隊・・

 「・・・お前は昼間見た竜だな。」
 一瞬は真っ黒い咽喉の中で無数に犇めき合う刃物・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ホログラフィーとしての巨大なフィルムの一部による仮定・・。
 まさかの時、災難の時―――レイニイィ・デイィ・・、
 もし、刃向ってきた場合、倒せるだろうか・・。
 だが、殺気を出すや否や、気をしずめられよ、と竜が。
 内容が、一段進んで来た形と見るべき・・。
 六八〇〇メートルまでもぐれるDSSVのように・・、
 嫌悪の混じった禁止命令―――わざとやる慇懃無礼といえるかも知れない・・。
 「―――本気でやりあったところで、わしではお前に勝てぬ。
 時間の無駄だ。お前の目的は戦うことなのか?
 お前に怪我を負わせるなり、この城下町を燃やし尽くすなりは、
 できるかもしれんがな。」

 暗黙の思い込みを顕在化して、大きな脅威を取り除く、というやり口だろうか?
 ―――もちろん、そんなこと、俺は望んでいない。
 停戦を交渉している―――できるなら、仲間にしたいと思っている。
    、、、、、、、、、、、、
 だが、真っ当至極なゴンドラ船頭とは限らない・・。 
 内兜を見透かされたようなもどかしさ・・。
 あまりにも渾然たるが故に古典的時代錯誤の想いにとらわれる。
 おもちゃ箱の中に蠍が混じっていたような、ハナブサイソギンチャク・・。
 パーティーメンバーの全滅・・ゲエェムオォバアァ・・。
 こう思いつくと、落ち着かない不安が天へ石を抛げたように戻ってきた。
 夜の輝かしさと狂気によってえりぬきの素材はととのえられた材料置場となる。
 運命は運命を暗いものに変えてしまうことはよくあることだ。
 ―――その予定調和率・・相手に嫌悪的な刺激を与える能力である暴力。
 草木の花の色がまじってまだらになるように・・靡然と・・。
 
 「昼間見た時から、
 お前にここで呼び出されることは知っていた。」
 目元の火照っている感じ・・どうも手繰りきれない眩暈のする歳月のせいらしい・・。
 どうも、予知能力があるか、あるいはそういう夢でも見ていたらしい。
 霊的傾向の強い竜ならば、それぐらいあっても全然不思議ではない・・。
  
 [事 態 の 中 で 諸 対 象 は 鎖 の 環 の よ う に 互 い に は め こ ま れ て い る]
 “暗い巧妙な迷路”かと思ったが、
 “固めの砂地”らしい・・。

 「シードと言ったな、わしはお前に興味がある。」
 唐突にそんなことを言う。
 、、、、、、、、、           、、、、、
 異国のニュース番組を見るような表情―――地球の裏側・・。
 可能的状況は描出している状況の空間の図形―――だ・・。
 「どうしてだ?」
 「わしはこのラッシード王国の守り神だ。
 長い間、この国を見守ってきた。
 もちろん、神官がモンスターにすりかわっていたことも、
 わしは知っていた。」
 「・・・知っていたですって!」とソリア。
 聞き捨てならないセリフ・・。
 先入観―――固定観念・・いばらの棘で血の文字は生まれる。
 ―――それが国民の生命と幸福、太陽への叡智を奪うものなら殊更・・。
 ソリアは、第一王女として立ち上がり、向かい合った・・。
 「あなたが守り神というなら、どうして!」
 それでは竜は、守り神ではない。
 無名の、一匹の、名もない獣・・。
 「第一王女ソリアよ、そなたの怒りはもっともだ。
 だが、わしはこの百年、礼拝すらされたことがない。
 竜などというものはひきちぎられた雲の化身・・。
 長い間、魔王に支配された国民は、いつのまにか、
 わしの力をも忘れ―――。
 挙げ句が、宗教に走った。
 そしてその宗教が邪悪なものになったところで、
 それが一体わしとどう関係があるというのだ、
 国民のことを第一に考えるソリアよ?」

 竜の皮肉たっぷりな言い方は、ソリアに頭を下げさせた。
 ラッシード中の気圧が、すーっと下がったように冷たくなった。
 シリンダーとピストンのあいだに隙間ができる・・
 予兆もなければ猶予もなく、それにうまく二の句が継げない・・。
 “世界の事実”によって問題は『意味に関する問い』を理解する・・。
 次第に容積を減じ生命の充溢をうしなうような、たよりなげな存在・・。

 「・・・私は―――ただ・・。」
 シードはソリアを後ろに下げさせる。
 >>>竜はソリアを認めてはいない。
 ―――でも土地のエネルギーが失われたことと、
 モンスターの発生には影響がある。
 (ドラゴンの発見報告の減少と、)
 [モンスターの出現地域の増加というグラフ]
 この恐ろしい吸引力のおよぶ範囲内。
 人間に力を貸してくれていた伝説のモンスターたちは、
 この百年そういった不遇な扱いを受けたのだろう。
 ソリアよ、言葉は時にそれ自体を指すようで自分自身を指すことがある。
 愚か者はイメージに固執する、その背後に別の表象があると考える・・。
 ローアングルからの接写・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 よくある話といえばよくある話だ―――。

 「勇者シードよ、伝説の魔獣を集めろ。
 イフリート、シヴァ、ヨルムンガンド、
 ドライアド、リヴァイアサン、フェニックス・・
 それらを使ってお前の旅に役立てろ。」
 どうも、協力してくれるような口ぶりだった。
 だが、いることすら定かではない伝説の魔獣を集めろ、とは無理難題だ。
     、、、、、、、、、、、、、
 しかも、一体どれぐらい現存しているかもわからない。
 だが、話は続く・・。
 「・・・わしは、人間に協力する竜として、
 世界平和の功績の一助を担いたい。
 お前が勇者の資質を持つ者なら、
 わしの名も大きく記されるだろう。」

 不意に、思い当った。
         、、、、
 その時どこかで、ごとごとと車輪のまわる音が聞こえた。
 ―――無関係な人を怯えさせてはいけない、とあわてて結界の魔法を張った。
 、、、、、、、、、、
 プリン運んでいる馬車、とゆさぎが鼻をくんくんさせながら言った。
 わかるのか―――ぜったいきゅうかくのもちぬし、
 でもひつようない―――いらない、えぴそーど・・。

 「・・・・・・すまない、学識不足で間違ってたらすまないんだが、
 まさかお前はあのバハムートなのか?」
 「そうだ。」
 ラッシード王国は、由緒正しい王国である。
 どのようにしてバハムートが守り神になったのかは皆目見当がつかなかったが、
 ―――昂奮した・・。
 「―――見つけられるかはわからないが、伝説の魔獣、
 すなわち幻獣バハムートが味方になるなら、その依頼を受け入れよう。」
 「協力もしてやる。わしが一声出せば、
 奴等も協力を惜しまんだろう・・。」
 、、、、、、、、、、、
 ありがたい申し出である。

 「大魔王とかいう奴に大きな顔をされて、
 礼拝もされぬ竜ではさみしすぎる。」
 「・・・・・・でも、―――いいのか?」

 バハムートの伝説は数多くある。いうまでもなく、強いだろう・・。
 鋭い爪で一撃を。あるいはとびきりの火炎放射を―――
 あるいは翼による竜巻を・・。
 オンブル・シノワーズ
  影 絵 ―――。
 自分の心の中の斑点が内側から次第に黴のように大きくなる。
 心臓が奇妙にゆがんだり震えたりしながら静かに時を刻んでいく。
 そこにはこまかな屈折も切れ込みもない、一目で見渡せる位置・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 ふぐさしの下に透ける鮮やかな皿・・。
 でもそんな伝説の魔獣が―――人間如きに従ってもよいのか、と。
 “自然の成り行きに任す”が―――。
 かえってそれが『天意に従うもの』と宥め、とつおいつ思案に暮れる。
 >>>しかしそんな心配は無用なようだった。

 「わしは、よいと思っておる。
 お前の心は澄んでいるし、嘘偽りがない。」
 幻獣バハムートは何故か自分のことを高く評価してくれている。
 ―――ならば、これ以上、無駄話をするのは野暮というものだ。

 「・・・では、申し訳ないが竜よ、俺とソリアで契約を結んでくれ。 
 それで構わないか?」
 最悪は、自分一人で幻獣バハムートを受け容れてもいい、と思った。
 一挙両得である。ソリアとのことでやめてしまうのは無益で馬鹿げている。
 が、バハムートは柔軟性があり、理解力を持っているようだ。
 「構わない。それに、お前は召喚魔法を使うことはないのだろう。
 ならば、第一王女の飼い犬として協力しよう。
 チームプレーというやつだな。」
 竜からチームプレーとか言われると思わなかったが。
 ―――でもソリアに対しての、皮肉な口ぶりに、
 ソリアが頭をずんずんずんずん下げているのが気にかかる。 
 ・・・でも王宮に戻ったソリアは、バハムートの礼拝を復活させるだろう。
 ラッシード王国の守り神バハムート・・として。

 でもソリア、これはよい教訓かも知れない・・。
 階級で物事を考えるのではなく、
 個々人の自助努力で物事を考えるようにする、という―――。

 と、不意に幻獣バハムートが言った。
 「・・・だがはたして、お前は大魔王と戦うのだろうか?」
 それにソリアと、リオが沈黙する・・。
 巧みな、いかにも、興味をそそられる言い方・・。
 “四つの正方形で構成されたピース”が織りなす幾何学模様。
 ―――テトリス・・。
 この竜の思考領域にはさまざまな学問的な幅が感じられ―――る・・。
 それは感情を警戒し―――知性を崇拝する遺伝子のようなものかも知れない。
 「いや、わしがとやかく言うことではあるまい。
 ただこの百年の間、
 モンスターや人間たちにとって悪い百年だったのだろうか・・。
 ―――奴等は人間を侵略したことはなかった。停滞。何故だ? 
 しかも、この冷戦の間、ほとんど被害らしい被害は出なかった。
 お前が、魔王軍のポルトブ、ゲーネフを殺したことから、
 神官がモンスターに入れ替わることが発生している。
 パワーバランスが崩れ、賽は投げられたのだ。 
 世界各地で、モンスターの動きは活発になってきている。」
 「・・・・・バハムートはそう思うのか?」
        こごえ
 不意を突かれて低声で言った。
 でも、確かにそんな気もしていたのだ。
 「―――いや、百年は時間のかけすぎだ。」
 つまり、シード一人の責任ではない、と。
 「魔王軍も、人間もやらなければ、
 今度はわし達のような魔獣が、第三勢力となっただろう。
 あるいは、もっと別のものがな。
 百年でお前が動いたように、
 お前が動かなければ二百年、三百年、
 千年経っただろう。それほど時間があれば、
 別のものが、魔王軍を、人間を淘汰する。
 宇宙の秩序はそんなに甘くない。
 だが、それを決めるのは、お前だ。
 どっちみち、モンスターが人間を殺すことに変わりはない。」
 言ってくれるな、と思う。
 さすが竜だな、と思う。
 「まあ、今度俺と色んな話をしてくれ。」
 大きな酒樽を用意するから、一緒に、と言った。
 漠然たる淡いイメージが街並みのしずけさに消えた。
 庭は薄明るい藤色の遠景と溶け合っていた・・。
 乾いた雑草の上に際限もなくさみしいうつろな想いが葉裏のように翻していた。
 バハムートは肯いた・・。
 「ガラパゴスを倒したのちに、席を設けてくれ。
 今日の所は帰ろう。だが、契約は結ぶぞ。」
 
 ・・・不意にソリアと眼が合った。
 うん、と肯いた。

 「では、プレートを作る、ソリア、手を置いてくれ、
 俺も手を置く、
 バハムートも、顔を伸ばしてくれ。」
 、、、、、、、
 光の放出のあと・・
 [装着する]⇒[広告写真]***暗さへの没入、それからの回復
 ―――鯨の背のように真っ暗でなめらかな情念の鋳型に小さな覗き穴が出来る。
 軟膏でできた円盤状の中空の歯・・。
 そして、バハムートの首に首輪がついた。
 (でもこの時になって、バハムート単体を呼び出す魔法陣を、
 考えたが、もはやうさぎのトムに腕輪でやった手前、引き下がれない。)
 格差、不平等は、怒りや嘲笑や懇願と悲しみを生む・・。
 ソリアのネックレスに新しい魔石がつく。
    、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 それは無関心であろうと努める気持ちでいっぱいの敵意のかたまり、かも知れない。

 「腕輪だと外れそうだったからそうしたが、構わないか?」
 首を少し動かしながら、口を閉じたり開いたりするバハムート。
 『飯を食べるために不都合』がないか、
 あるいは『動きに違和感』がないかを確かめているようにも見えた。
 、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ソドム史の壜・・歴史的石版色のワイルドグレーな肖像―――。
 勇敢な仲間のために未知の美の領域を旅する未踏のなかの旅の灯り・・。
 それが終わったあとでは完全に自分の一部のように振舞った。本当だと思った。
 先天的語根を後天的口舌に供給する・・所領権や補強証拠―――。
 「構わない。」
 幻獣バハムートというビッグネームになると、心が広いのか・・。
 そんなことを考えた―――。
 、、、、、、、、、、、
 テロメアと細胞老化の話・・。
 多くを語らずとも“強力なはずみを持つ”バハムートは、真の意味の雄弁。

 「あと、何かあれば小型化して、護衛なりしてやる。
 わしなら大抵のモンスターを蹴散らせる。」
 やりすぎて後で困るパターンにならなければいいが、とも思った。

 あと、バハムートは、魔力消費の問題で、
 大型化している状態では十分以上の継続時間と持つまい、と断言した。
 十分以上の時は魔力消費を抑えられる小型化が適当だろう、と。
 いざという時のみ、大型化している状態のわしを使え、と。
 、、、、、、、、、、、、
 呼び出すうえでの注意事項だ。
 視覚的演出をしようとする、カメラ・・。
 じゃあ一緒に旅しようぜ、とはいかないのが幻獣というものらしい。

 幻獣バハムートが帰ってから、ソリアに言う。
 [選択範囲]⇒[境界線調整]
 (表現の仕様もないような演繹もしくは帰納から生じた自覚・・)

 「どうも、ソリアは伝説の魔獣使いとかいう・・、
 職業になりそうだな。」
 非常に無双系である。

 「シード、そんな職業ないから。」
 とソリアがやんわり否定した。
 でも驚いた時のような軽い微笑が、口元に漂っていた・・。
 、、、、、、 、、、、、 、、、、、
 若々しい眼が、探るように、楽しそうに、シードを見ていた。
 現在と未来、二つの時間軸での戦いを同時並行に行わなければならない・・。
 リオが、どうもお姫様は師匠のことが好きらしいぞ、と思う。
 ピグは、土まみれの馬鈴薯みたいなうさぎのトムを舎弟にし、
 クッキーをあげていた。紙にしみる水のように、餌付けされた。
 ピグの雑草性、ゆたかな田畑を持っているようなふくよかさはトムを従わせた。
 ・・・でも以後、ソリアは伝説の魔獣使い兼白魔法使い。
 ・・・走る格好が、アニメーションのこの兎に役目はあるのだろうか?
 でもその時、ふっと魔王城に行ってみたいという気がした。
 予期しない反応が生まれる余地をコントロールしてはいけない・・。
 その美しさがなにか信じられないもののような気がしたから反対に不安になり、 憂鬱になる。エディット・ピアフは何故あんなにも恋をしたの―――だろう・・。
 見るもはるかに思うも遠き無窮の魔王城・・噴火山が投げ出す最初の石・・。
 大魔王の真意を聞いてみたいという気がしたのだ―――。


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