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かもめ7440

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21・22

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 ソリアが歩きはじめると、
 シードはピグに、ちょっと先行って待っててくれ、と囁いた。
 、、、、、、、、
 すぐ追いつくから。
  入って二分ぐらいのところで、
 「ところで、」とシードがドアの前で立ち止まった。
 針の尖端にそそりたつかぼそい一点へと化してゆく・・。
 眼が後ろについているような言い方。
 「そこのシーフ・・・、」
 何かが後ろに、それも、息がかかるほど近くにいるという気がした存在感。
 兎よりも機敏にあちこちに向けていたが・・。
 自分の眼、自分の耳、自分の鼻の感覚が過度に鋭くなっている。
 草を踏みしめる規則的な音が、次第に近付いてくる。
 それを距離の言葉にしてゆくのだが、
 奇妙な歩き方のせいでちっとも要領をえない。
 [尾行などでは対象者のパーソナルスペースを意識するものだ]
 (視界に入るリスクもない距離がのぞましい、)
 さりげなく触れてかえって印象付けるようなのだ。
  ゆっくりと振り返った。
 バネのように弾いた樹木の下枝を折りながら、姿を見せる。
 「―――てっきり気付いていないかと思って、気を揉んだぜ。」
 首をグッと反らして、青い天を仰いでからユックリもとの位置へ首を直す。
 しまりのない微笑みが顔に拡がる。
 花火のように―――張り詰めた一瞬・・。
 (あえて人前に提示するまでには内証が足らぬからだが、)
 「脱獄囚だな・・」
 とシードは言ってから、顔や服装、戦闘能力を探る―――。
 
 1、まずは外面をできるかぎり探る。人間はまず印象九割。
 2、それは観察力・描写力の演習である。
 3、最後に、その人物の行為を見定めるのが人物観察というものだ。

 一つのシーンを数多くのカメラでさまざまなアングルから撮影する・・。
     、、、、、、、、、
 不思議とかたつむりの渦の中にいるような気がしてくる。
 警戒しているといった感じはまったくない。
 
 ―――脱獄囚といって凶悪な犯人を連想していたわけではないが・・、
 存在そのものの磁力が共鳴し合った一瞬が、すっと消えて、硬化する・・。
 よっぽどの自信があるの―――だろう・・確かに強そうだ・・。

 「盗み聞きはあまりよくないが、気を遣ってくれたんだろ・・、
 俺もソリアやピグと話をしていて、間抜けだった。」
 記憶の中から呼びかける、声・・。
 さて過去から呼び出された亡霊の、エネルギーの形態、抽象物・・。
 完全に垂直な滑り台というものが発見されたような瞬間・・。
 さもなければ水族館のアクリル板の水溜りの中につきおとされたような瞬間。
 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
 引 き 合 わ せ ら れ た と い う 気 が し た ・・・。

 不意に水中でぎゅっと足を強く引っ張られたような気がする。
 ―――船底を見せた転覆したボート・・。

 「そんなことはないさ。
 大切な話をしている時は少しぐらい気が抜けるものさ。」
 どうもフォローを入れてくれるらしい・・。
 悪魔がお茶を用意してくれているような奇妙な態度・・。 
 いき
 呼吸―――。
 「―――騎士団連から脱獄の報告も入っていたが、
 ソリアに会いに来るとは思わなかった。でも逃げないところを見ると、
 ただのコソ泥じゃないというのもよくわかった。
 聞いた話じゃあ、神官の部屋を探っていたそうだな・・・」

 であるから、もちろん暗殺とかいう可能性も視野には入れていた。
 しかし、神官がモンスターだとわかったいまでは、
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そういうつもりで動いていたのだろうとは推測できる。
 表面に現れた多様性と企ての下に隠れている真実。
 しかし刹那的なそういう考えも、経験や考えの中を遡る・・。
 でも、とシードが言った。
 「しかし、いくらぼんやりしていたとはいえ、
 隠れていることにさえ俺も気づかなかった。
 飛び道具を使われていたら俺は死んでいたかも知れない。」
 「それは無理だろう。」
 確かに、気配をどれほど消しても攻撃する一瞬は隠せない。
 それは“家のどこかの部分に忘れられたようにはまりこんでいるねじ釘”・・。
 その一瞬で、状況を立て直すことがシードには可能だった。
 でも、“そういう発言ができる”ということは、
 どうも『自分の情報を知っている』らしいな、と思った。
 調整役=情報提供”がいるということなのだろう。
 おそらくヒースのように雇われているのだろう。
 「ことはどうあれ、高い潜伏能力だ。優秀なシーフだ。
 それだけのスキルがあるなら、逆に捕まえた奴がすごかったんだな。」
 王国の歴史、風俗、人情、生活様式、
 食事、衣服、家屋、政治形態、都市制度、宗教・・。
 優秀なシーフは、『斥候』や『情報収集』だけではない、
 民族学者や迷宮の第一人者にもなれ―――る・・。
 シーフは多彩な仮面を持った優雅な職業である。

 だがシーフは一笑した。
 「―――そんな凄腕が、ラッシード王国にいるわけがない」
 世界の四大王国ラッシード王国である。
 ―――よほどの実力者なのだろうと改めて認識する。
 助走をつけて砂場に飛び込む走り幅跳びのようにである・・。
 ヒース同様・・実力者とわかるとはしゃいでしまう―――。

 「肯定はしないが、俺が警備をしていてもお前を捕まえるのは難しそうだ」
 実際、姿を透明にする魔法道具もある。
 ―――本気で隠れる気になったら、相当苦労するだろう、嘘偽りなく。
 「それは最上級の褒め言葉だな。ありがたい。
 わざと捕まったんだ。」
 牛が水飲み槽に首をつっこむようにおどけてみせた。
 しかし明るく歯切れのよい笑い声・・。
 「・・・まあいいさ、盗んだわけでも人を殺したわけでもないんだ、
 俺がお前をどうこうするということはない。」

 本能的な衝動とひそかに戦っているように思われた、顔・・。
 余剰な観念を追い出して、観察し、分析し、類別してゆく。
 額の天辺から皺の寄った顎の辺、耳・・相当な手練れだ―――。
     、、、、、、
 どういう脱獄だったかまで聞き及んではいないが、
 漂流していたコルク詰めの壜の中の手紙のようではあるまい・・。
 (間違いなく神官に化けたモンスター如きは殺せただろ―――う・・。)
 (ではどうしてそうせず捕まったのか・・。)
 (そしてどうして脱獄してここへ現れたのか・・?)
 ―――シーフは何かが言いたい。
 もちろん、三文芝居のために出てきたわけではあるまい。
 
 「それはありがたいんだが、重要な話だ。
 お前がいないと方法を変えなければいけなくなる。」
 ふっ、と鼻で笑った。
    、、、、、、、、、、、、
 つまり神官を始末しなかった理由は別にある・・。
 ―――たとえば、神官が最後のカードを隠し持っていたとか、だ・・。
 それは十分に有り得る、と思えた。
 見た所、『情報で金を稼ごう』とか、
 『功名心欲しさにというタイプ』にも見えない。
 ―――しかし腹の探り合いはもう面倒だ。
 「すまないが単刀直入に言ってくれ。」
 では言おう、とシーフが表情を硬くした。
 「あまり長話ができない状況だ。
 これから数時間の間に巨大な魔導機械が稼働する。
 お前があの魔物を殺したからな、
 ・・・どうしてと言いたそうな顔だが、世の中には、
 そういうことがわかる人間がいる。
 お前が格闘技や魔法、剣に精通しているようにな。」
 、、、、、、、
 曲がり角に来た、と見ていいのだろう。
 ジグザグに飛んでいる蝶のやわらかいあし・・。
 事前に情報があったのかどうかはわからない。
 だが、たとえば彼は[シーフの「探査能力」]を持っているのかも知れない。
 でもそういう“蛇のピット器官”さながらの能力があるなら、
 『魔力量が多いこと』はわかるだろう。連想要素だ。
 >>>判断力の良し悪しは単純な喧嘩の強さ
 たとえば“格闘技経験のあるシーフ”だと推察したが、
 格闘技をしている者同士は何となく相手がやっているかどうかわかる、
 (わかるということは、自分と同じレベルか上の武闘家だということだ。)
 剣は、足さばきや間合いを見ればわかる。
 ―――冷静な分析。
 ―――優れた情報収集能力。
    、、、、、、、、、、
 だが、失言ではないだろうか、と思った。
 “魔導機械からの反応”がわかるというのは相当な情報である。
 何故なら『魔導機械』はいまだ人類の外にあるオー・パーツの一種だからだ。
 広い部屋をゆっくりと歩きまわる合図。相関関係。
 、、、、 、、、、
 ホオジロとウグイスを見間違えることはありえない。
 袖におさめた手首のよじれ。
 それがわかるというだけで、情報の取捨選択は進んでゆく。

 「具体的には?」
 といって、相手が嘘をついているという風には思わなかった。
 ―――情報を引き出したかっただけである。
 相手が嘘をつくリスクに見合った報酬をうまく想像できなかったということもある。ただ、情報は欲しい。
 インスピレーションボード・・。
 「古代の魔導兵器の話は?」
 「聞いてる。」
 
 一瞬間を置いた。
 ―――そういえば、この近くに“お誂え向き”の、
 『城型ー要塞型の魔導兵器』があるな、と。
 あれが動くのか。
 いや動くのだとすれば―――。
 
 確かにこれは大事である・・。

 「神話時代を見たわけじゃないが、今現在、解析できていない、
 魔導兵器の話は知っている。実際、二、三見学したこともある。
 でも誰にも使用できないというのが常識だと考えていたが・・」
 「話には二つ語弊がある。」
 シードはあえて自分の言葉を否定した。
 不安定な旋律から、転調して一オクターヴ上がるように、
 装填し、発火し、狙って、引き金を弾く・・。
 「一つは、魔法図書館の存在だ。」
 「その通り。」
 魔法図書館には、魔導兵器を動かす古文書が存在する。
 というか、魔法図書館自体が古代の魔導兵器だからである。
 「もう一つは、魔導兵器そのものが、魔族専用ではないかという話がある。
 特殊な魔法や、認証法・・まあ、これは噂だが・・。」
 でも神官に化けていたモンスターは確かに魔族だった。
 だから、もし後者ならば、そんなことができるに違いない。
 、、 、、、、、、、
 ただ、どのようにして―――。
 ・・・・・・シーフがその情報を得たかというのがキー・ポイントになる。
 「正解だな。」
 「ただ前者は、大魔王でも不可能だ。」
 あれは何人たりとも立ち入ることのできない独立国家なのだから。
 か ら く も 遠 ざ か ろ う と す る ・・・
 、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 百年前、たった一人の賢者が開発した特殊な魔法によってのみ・・。
 
 「後者は、伝説として魔族間のみ残っていたヒントを解き明かした、
 という方が呑み込みやすい。それなら魔導兵器が動くのも肯ける。」
 「正論だ。」
 「ただ、お前が魔導兵器を動かせるのがわかっていたという場合、
 前者の存在は無視できなくなる。
 つまり、魔導兵器を魔族が使おうとした痕跡を、
 いち早く察知していたということになる。」
 「それも、完璧な正論だ。」

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 でもそんなことは最初からわかっている・・。
 解いた――この、ジグソーパズルを・・
 ・・・・・・わかった上で、その策略にのってみようか、という趣旨。
 「―――まあ、聞きたいことは後にして、その魔導兵器を何とかしよう。」
 「―――よしきた案内しよう」
 
 ピューッと指笛を吹いた。すると、空からキメラがやってきた。
 コマ送りのストップモーション・・・。

 キメラは正しくは、グリフォンというのが近い印象かも知れない。
 どちらかというと、
 由来が異なる複数の部分から構成されている、 
 あるいは、遺伝子組み換え生物、とかの方が呑み込みやすいかも知れない。
 瞼 に 強く吹き荒 ぶ よう に 思える―――
                 、、、、 、、、、
 魔力の錬金術による交配でベースはハゲタカとライオン。

 本来はライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾で空を飛ぶ要素がないキメラが、
 ―――空を飛べるようになった理由・・・。
 
 準備してスタンバイOKというジェスチャーをするように胴震いするキメラ、
 鳥のかたちが大きく図案化されながら誇張されたようにも思える・・。
 ―――嗅覚情報処理――視覚系神経経路の入射――、
 
 上腕筋、橈側手根伸筋、上腕三頭筋、総指伸筋、
 尺側手根伸筋、腓腹筋外側頭、長趾伸筋―――。

 そこには、ライオンの部分を「恋愛における相手への強い衝動」
 山羊の部分を「速やかな恋の成就」
 蛇の部分を「失望や悔恨」をそれぞれ表すとされた、
 “理解できない夢”というキメラの立場がある。
 さまざまのやつらのもやもやした・・行儀よい、公式の死体―――。
 (一説にはキメラは、
 剥製による合成生物だったのではないかという意見もある、)
 ―――元は内触角性のある生物だったのである・・。

 さよう、元々は本当に、
 「ライオンの頭」と「山羊の胴体」に「毒蛇の尻尾」だったのだ。
 キメラとは元々、創造主―――
 異世界人の錬金術による創作物だったことが知られている。
 (馬×驢馬。ライオン×虎。男×男―――え?)
 でも彼はこの『保守貿易』『社交主義』『協賛性質』を嫌った・・。

 ―――意識と体液とが混交した瞬間、
 真昼の月にかわるような―――ねばねばした・・張り詰めた一瞬。

 キメラとグリフォンの共通部分はかろうじてライオンの部分があることと、
 錬金術による合成生物であるということだけだ。
 イメージの交換――。
 イメージの交換・・。
 マタイの福音書にならうのなら、狭き門より入れ、
 、、、、、、、、、、、、、、
 天文学狂の殻を破った罌粟の花・・。
             、、、、、、、、、、、、
 ―――でもその昔、悪戯でハゲタカと馬でグリフォンをつくり、
 (異世界人は、常に突拍子もないことをすることで知られている、)
 ひくひくと動く気圧計の、油じみた硝子管、
 知的な手くだと理論的な幼稚性とがたがいに絡み合っている意地悪な魔術・・
 微妙な間色の配合における陰翳を味わう能力、
 ちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす、
 白と黒が幾重にも入り交じる瞬間、
 [その彼は、天使の創造や、ロック鳥を作ったことでも知られている]
 ―――前者は『教会の天使のイメージや、空飛ぶ王国の伝説』
 後者は『鳥だらけの小さな島があるという伝説』が生まれている。
 ともあれ、

 彼は世界各国を渡り歩いたのである・・。
 さまざまな王国にグリフォンをキメラとして・・。
 売りさばいていた錬金術師の姿は、非常出口のマーク。
 その影、は、journey・・。
 快適な空飛ぶ乗り物、というフレーズは永久保存版、あれよあれよという間に、
 、、、、、、、、、、、、
 メロンと詰め合わせの葡萄―――。
 ベストセラーとなった。
   、、、、、、、、、、、、、、、、、
 実際錬金術者がキメラの紋章を入れたがるのはそういう理由がある。
     、、、、、、
 かれこれ数百年前の話である。
     フォークロア
 という、民間伝承・・。
 ―――気が付くと、その『グリフォン』は『キメラ』になった。
 まず、キメラそれ自身は飛べないので需要がなかったと言われている。
 他にはルックス的な問題があったというが、Steve Howeの張り詰めたプレイ、
 ・・ハゲタカの顔は雪の融解点、アルコールの発泡地。
 、、、、、、、、、、、、
 ライオンより鳥の方がいいという人の感性はともかく、
 エ/ン/ジ/ン/
 多くの人は“飛べる生き物=キメラ”として理解していった。
 比翼もひとり翼を片敷くようなもの・・。
 だが・・悪戯で広めたグリフォンをキメラと称するのは悪い気がしたので、
 ―――ハゲタカとライオンで作られるようになり、
 ハゲタカの頭に山羊の角が何故かにょっきりと生えているのがトレードマークで、
 天才的妙想の煌めき、巨驚異・・。
 これがいま知られている“キメラ”である・・。

    *

 揺れてる蝶が、ほら・・。
 眼の前で、しなやかな手に変わる。

 、、、、、、、、、、、、、
 それからふっとソリアを見た。
 、、、、、、、、、     、、、、、、、、、、、、
 物音がして気付いたのではなく最初からずっと聞いていたのは知っていた・・。
 一対の眼が、右に、左に、前に、後に、やや高く、やや低く・・。

 「ソリアに一つ頼みたいことがある。
 それが魔導兵器を何とかする報酬だ。」
 取ってつけた言い方だったが、心配そうな顔を引き締める。
 心的エネルギーの低下に伴う自我範囲の狭小・・。
 ワープロの変換ミスのように思える主語・・。
 ディスチャージ
 放電・・、
 イ メ ー ジ の 中 の 段 落 ・・・・・・・・。
 「・・・・・・私に?」
 「サペンタエン先生の話をしたな。
 シャルル叔母様とやらに、事の真相を聞いていてくれ。
 後で簡単な報告でいい。なんだったら、
 嘘や脚色をつけてくれてもかまわない。
 当事者でもない人間が首つっこんで何無粋なことをしてるんだ、と、
 いまになってちょっと思う。」 
 道筋によって毛色も変わってくる。
 デリシオッソ レウィス
 甘美な・・・。軽い―――。

 「シード・・。」
 「話せない感じだったら・・話さないでくれ―――。」

 サペンタエン先生のためと思いながらも、
 、、、、、、、、、
 コンクリートマイク、
 結局は、サペンタエン先生の弟子である自分の勝手な判断・・。
 
 わかりながら・・・感傷に耽ると間違いをしていけない―――。

 ―――あたりが俄かにシインとしたかと思うと、シュタッと離陸した。
 (―――ちなみにキメラが人を載せても空を飛べるのは、
 錬金術中に魔素に触れると浮遊するフライストーンの効果・・
 自重軽減能力のため、と言われている。)
 
 いま、キメラがイカロスがはからずもおかした空に突進。
 充血した魚の眼のような赫奕たる天體の燃ゆる眼。
 ぶしゅう、とライオンの足で身を踊らせ、
 きらきらと輝く線路の結節点のように、
 、、、、、、、、、
 風はポーのユリイカ。......Open Eyes
 (『夢の中』のように遠くなる―――、)
 ゆっくり、かろやかに、スローに、アダージョに・・・・・・。
 ・・・・・・・わすれて・・・・・・
 バタバタ、と階梯をつたうように空高く舞上がってゆく。
 蹴ると遠くで点になるサッカーボールみたいに、seventh heaven、
 (は、)見えないけど・・
 しぼみかけのしろいばらのはなびらと螢石のように青く摧ける波の戯れ・・。
 美しけりゃそれで・・いい―――いい・・。
 グングンと―――開けなかった窓を今開けて空を見るような気持ちで・・・・・・。
 The sky is the limit。
 エンライトメント・リュミエール・・視界は良好!
 ラッシード王国がどんどん小さくなっていき高度があがってゆく。
                       ステム
 これよりほかになければもとよりしかたない―――舳先、
 血管の縦横に走っているのにも似た鳥瞰図を二十代の地図のように思いながら、
  空を飛ぶ鳥が、一瞬図鑑のように静止する―――プログラム・・
 ―――空・・空・・・、

   *

 巨大魔導兵器はどうみても機械としては設計限界を超えた城である。
 魔導には機械制御ではできない繊細な表現が可能になる。それが、
 不格好な、ものものしい、古色蒼然―――。
 、、、、、、 、、、、、、、、、、
 フレデリック・バレンティッチの遭遇、か―――。

 1、魔法と密着した魔導文明と同時に飛空艇やロボットに代表される機械文明
 2、魔導兵器はその文明レベルの粋である

 神さびた伽藍の扉・・その一段、その小さな一段!
 魔素とはこのような場面では、大宇宙のことわり・・。
 急速に、かつ直接的にひきおこされてゆく適切な心構え。
 ターゲットカーソルを視線移動で指定していく・・。
 心の一方では、まさかという気持ちが理屈よりも根強くはびこっている。
 なかんずく『魔導兵器と事をかまえる』などとは、いくらなんでも、まさか、と。
 城といっても、れっきとした人工知能を持った生物。
 たえず耳のおくで、なにか鋭いものが、かすかに鳴っている・・。
 >>>生きているのだ、こいつは。
 (先人の手によって封印されていたという見方が濃厚だが、)
 超重量級の―――戦車・・。
 [その当時は、動く城塞だったという文献が残っている]

 前世の記憶であるが、魔法図書館で読んだ古文書の中には、
 ―――百八つの魔導兵器があると書かれていた。

 ちなみにゴーレムも魔導兵器の一種だが、これと比べれば可愛い・・。
 ―――特殊な印象は城の脈動する外観からも推察できる。
 植物に錬金術をした拍子にうまれたような原始的な生命エネルギーを持っており、
 ―――すなわち、留め金やボルトの類はない、

 ありとあらゆる『魔導兵器もとい魔導生物』には核ーcoreである、
 『魔導器』というものが存在する・・。

 この魔導器が壊されると動かなくなるのは通説だが、
 当時でもかなり貴重だったものだったので、
 “壊す”という発想がいかに『ナンセンス』なものかわかるだろう。
 魔石に特殊な錬金術を施し、そこに機械的なアプローチをする・・。 
 それを作るのに当時の超文明でも一週間で一個であったと言う。
 大量生産できないうえに、これほどの巨大なものとなると、だ・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 時計にある鍵穴のような意味合い・・。
 巨像覚醒・・・。
 ただ、その魔導器があるだけで、
 ロボットは自分で話し、自分で考えることが出来た、と・・。

 “厳格な数学の問題”のように『正確なリズム』で静と動を繰り返している、
 (その間隔が短ければ短いほど効果の強さと正比例することは間違いなく、 
 それが、タイムリミットとなるだ―――ろう・・)
 驀進する巨大魔導兵器がラッシード王国を呑み込む場面を、
 あるいは、自動生成された魔法陣による魔法攻撃を・・。
 (賢明な読者は、パリ砲とかいう極め付けの巨大な列車搭載砲を想像したろう、)
 [コスト面よりも、燃費やダメージコントロールの問題があるが、]
 ・・・威力とは権威のことであり、でかければすなわち強そう―――。
 ***ビーム砲のような印象
 シードは想像する。

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 このうえもなく醜き旅する洋燈のような傾斜。

 それに何が詰まっているのかって、
 湿けた壁の匂いの湧きいづる闇の中のsacrifice、
 そとば や がき
 卒塔婆の破れ垣の横―――。 
 生きる世界の落差を浮き彫りに―――。

 ・・・・・・威力を作っているのが理数系の複雑な化学式だと知った現代人でも、
 ピラミッドに砲門があり、しかも飛行などをやらかせば、
 何しろペルーの黒船、―――そのような心理効果名があるかのようにだが、
 無茶苦茶すごそうに見えてしまう・・。
 ユ ー フ ェ ミ ズ ム の 作 用 、
  あ の 幾 ら か 冷 や や か な 輪 郭 の 線 の な か に と じ こ め た ・・。
 、、、、、、、、
 ぬすびとのひるね・・。

 毒々しい触手や根のようなもの―――それが縦横無尽に入りめぐり、
 (それも水のようにありあまった空気中の魔素の匂いをまさぐるため、だ。
 エンジンはあっても燃料がなければ意味はない、―――自動生成・・)
 それが城や砦といった形状をし、さながらうすぐらい妖気の谷の雰囲気・・。

 接着理論の公式のように、
 糸のようにまつわる不思議な力を電気のように感じる。
 [起動方法][構成]ならびに[術式]はわかっていない・・。
 結果が原因を強制的におしつけないのと同じように、
 原因も結果も強制的におしつけない。

    、、、、、、、、、、、 、、、、
 だが、生物のような印象のある、触手や根が、
 ―――栄養をもとめる見た目グロテスクだがいささか可愛らしくもあったそれが、
 突如目覚めたようにピシピシと響きを上げている。増大する不死の霊気・・。
 白熱光束の兆候・・夢幻奇術・・・。
 自分の眼には何から何までもが美しく不思議に見えてならない、
 クレオパトラと美しさの助言者・・。
 誇大妄想的な自意識の拡張の場面・・ドンキーホーテも真っ青・・。
 コール・オブ・ネクロポリス
 屍都の呼び声―――。
 外面部に劇的な変化をもたらして隆起し、装甲のようになっている。
 物理/エネルギー耐性のアーマード化。ナウマンゾウが歩くように、
 それはあきらかに姿を変化させようとしていた。
 「・・・おい、これ、」
        みおろ
 キメラから城を俯瞰しながら、シーフに言う・・。
 噴火口からひろがる暗黒によって下に溶けつつある暗黒と閃光を感じる。
 興味深く、眼前にありがたくもひろがった光景をしばし享楽する・・。
 アーマード・バトル・コンバットモード・・。
 ―――見るのは正直、初めてだったが、事例は知っていた。
 アラバスター
 雪白色のページ・・。

 「そうだ、これは本来は城ではなく、
 れっきとしたロボット型魔導兵器だ。」

 猿芝居のように脈動する、生物的なポンプの役割を果たす触手や根が、
 少しずつ、人型を形成していこうとしてい―――る。
 奇妙な、何とも言えない、顔と言うよりも顔面を照らし出していた。
    、、、、、、       、、、、、、、
 これを電線鳥の音符というのなら、そうなのだろう―――。

 「一撃必殺の技でやっちまえよ。出来るんだろ?」

 キメラがぱさぱさと羽ばたきのスピードを落としながらゆっくりと降下する・・。
 シーフは、よっ、と下りてから言った。
 ズームアウト――という“ordea”
 すっとシードは剣に手を掛けると集中力を上げてゆく・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 黄金色に輝くと一太刀で魔導兵器を横に真っ二つにした。
 圧倒的な力だった。
  
 「これでいいのか?」
 「完璧だ。」
 、、、、、、 、、、、、
 シードは一瞬、眼を細めた。
 
 「なあ、百年前の俺のパーティ-だった武闘家、
 お前と賢者は何をしたがっているんだ?」
 「俺もさっき真相を知ったぐらいだ、賢者の秘密主義は変わらない。」
 「ブラッド・・久しぶりだな。」

 奴の名前は、ブラッドウッド・ポーター。

 「まあ、手短に情報だけ話して帰る。」
 「そうか。」

 しかし一瞬ブラッドウッドに名残惜しそうな顔が浮かんだ。
 でもそれはすぐに消えた。

 「一部の魔族どもの間では、もうハゼズヴィキアは過去の人だと、
 第三勢力を謳う声がある。
 この百年はそういう時代をつくりつつある。」

 何か非常にひややかなものがシードの首のうしろをそっと圧したように感じた。
 シードは首肯した。
 手の平に爪を喰い込ませながら聞いた。

 「―――第三勢力の原動力は、
 ハゼズヴィキアと同等かそれ以上であるかもしれない、
 魔導兵器の復活だ。」
    、、、、、、、、、、、、、、、、、
 先程、攻撃しながらもしこれがそうだったらと考えていた・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 魔法図書館で読んだ最強の魔導兵器―――。

 「奴等は、ハゼズヴィキアが姿を見せなくなって以降、
 表ざたにはなってはいないが人間世界に侵入した。
 最初はハゼズヴィキアの世界征服のためだったのかも知れないが、 
 魔族と人間のハーフの子供も生まれた、
 正直、最初はよくない気持ちも俺にはあった。
 下世話な話になるので言わないが最初はそうだろうと思った。
 だが、第三勢力から逸脱してどちら側にも属せない魔族が生まれた。」
 「それで?」
 「俺もその心変わりした魔族や、ハーフの子供と会った。
 この場合は保守派、穏健派ということになるか。
 男性タイプ、女性タイプ、五件ほどの例だが、
 正直そのどれもが、普通の人間と変わらなかった。
 彼等はまた、魔族の中で弱者に類する典型でもあった。
 魔力や腕力は人並みはずれているが、魔族の中では弱い。
 つまり冒険者にさえ狩られるぐらい弱い。
 それゆえか、人間の生活に興味があったのだろう。
 少数ではあるが、魔族であることを隠して人間として生きている奴もいる。」

 どうも[第三勢力=人間の敵という「認識」]ではないらしい。墮天の邪眼光。
 太陽と鉄による構築のプロセス・・。
 心の何処かでは、そういうのを嬉しく思う気持ちもあった。

 「そして俺と賢者はいわば、
 魔法図書館の兵器を所有した第四勢力さ。
 魔導軍団数万。第三勢力がすべての魔導兵器を、
 よみがえらたとしても渡り合える数字だ。
 お前の動向はある時期からずっと賢者は監視していたようだ。」
 「そうか。」
 本当はソリア姫・・昔の白魔法使いに話す予定だったんだがな、
 とブラッドウッドは言った―――。
 「これ以降、四竦みの構成はこの世界の常識になる。
 主要王国や魔族にも、この情報は伝えられるようになる。 
 どういう結末になるにせよ、百年前のようにはいかない。」
 「昔のように一緒には行けないんだな。」
 「そうだな、でもお前が勇者しなくてもいい世界をつくるためだ。
 ソリアと仲良くするのも俺はいいことだと思う。」
 「ああ・・・」
 「まあ、これから俺達第四勢力は、魔王軍第六師団を落とす。」
 急先鋒―――敵の出鼻を挫くつもりらしい・・。
 「そうか・・。」
 「まあ、魔法図書館に来てくれ。また会おう、シード。」
 「賢者とは会えないのか?」
 「奴はいつでもお前のすぐ傍にいるさ。」

 ブラッドウッドはキメラに乗って、魔法図書館の方に飛んでいった。
 、、、、、、、、、、
 そして誰もいなくなる―――強力催眠解除・・。
 シードは、瞬間移動の魔法を使ってラッシード王国まで戻った。


   *


                  ガゼホ
 ソリアとピグがシャルル叔母様のいる東屋へ。
 (楽に読みとれるスピードで、その数字は0から、
 9、8、7、6、5、4、3、2とカウント・ダウンされ、)
 クレセンドオ
 漸次昇音をたたく指のような背中。
 二つの意識は、一歩一歩緊張の度を加えながら接触の白熱点に近づく。

 自分たちの居場所をしらせる鐘の音――・・。

 水晶のなかで小さな火が燃えているような場所・。
 思想ーリズムによる時間。
 人間の行動は願望の結果であって、いかなる予見も、
 サ ー キ ッ ト ・ ブ レ ー カ ー
 送配電系統の回路遮断器。
 それが願望を考慮に入れないかぎり正しいということはありえない。

 ソリアは頭の中で夏の葡萄畑を思い浮かべてみる・・。
 空を黒くはしない果実の息の重さ、つき通らない被いを一面におしかぶせて、
          、、
 足の裏がひからびたまめみたいになる。
 動きのまったくない蝙蝠のような夏のはじめの葡萄園の匂い・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 布の上に絵の具を置くような楽しみ―――。
 ブドウ畑の中の古い城壁跡の東屋にシャルル叔母様が頬杖をつきながら、木陰を見ている。
 波打つ髪に耳飾りの宝石。
 フレームワーク
 骨組み。
 遠くに見える花の渦巻き形に、低い灌木の群れに、なかば隠れた小川のきらめき、
 森のさわやかな息吹・・。
 傍人を瞠目せしめる高雅さは王国の長い歴史上で一二をあらそうもので、
 ―――在りし日の美貌はラッシード王国を傾国させるとまで言われた・・。
 (遠慮なく振るまう冗談、明けっ放しの物腰、)
 [少女時代のソリアにもっとも影響を与えた人物]
 あこがれて―――いた・・。

 「シャルル叔母様。」
 金髪、卵型の輪郭、ぱっちりとした眼・・。
 子供時代、赤い髪にコンプレックスがあったソリアは、
 (赤い髪だからといって疎まれたりすることはなかったが、)
 シャルル叔母様を見ながら、好ましからぬハンディキャップのように思っていた。
 森のなかの、長い散歩や乗馬・・。
 子供時代トランプを夜更けまで興じたこともある・・。
 彼女はまた『優秀な音楽家』であり、そして、『絵画と詩との鑑識家』であった。
 凝った装飾の詳細を示す伝統的なデザインのモダンでエレガントなファッション。
    、、、  、、、、、、、    、、、、
 ―――どれすは、こうもりのかさのようにひろがる・・。

 私はシャルル叔母様を疑うわけではないけれど、
 言いぬけ上手な性質、理智というのは知っているつもりだ。
 鋼鉄の耐火設備もとい―――魔術のような螺鈿の衝立・・。

 「その声は―――ソリアね・・」
 のんびりとした声が聞こえた。
 右に、左に、涼しさを注ぎながら・・・。
 軽くて遠慮のない人びとの会話が始まる・・。
 「私どうしても聞きたいことがあって―――、
 その、サペンタエンという人のことなんですけど?」

 一瞬表情が暗くなった。
 親しさの底に零点一の余剰が細い亀裂を走らせている。
 「その―――ゴシップとかなら・・」 
 ピグが見るとソリアが静かにうなだれて恥ずかしがっていた。
 その言葉がどんなものかは理解できる。だが同じ優雅さで顔を背けた。
 ソリアはそんな不躾な人間ではない。
 「そうじゃなくて―――実はサペンタエンという人の弟子にあたる人物がいて、
 先程城であったことはもう叔母様の耳に入っていると思うんですけど・・、」
 まぶた りんかく
 眼蓋の輪郭を休息させている。
 少し細めの声で・・・・・・。
 「そう。」とシャルル叔母様は言った。
 おのずから魔術めきつつ震動する、夕方近いこの時間。
 ―――ワタシハイマ・・ジブンノカコニ―――タッテル・・。

 ソリアはあたりを探るように見ながら、つとめて小声で、
 「どうしてサペンタエンという人に冷たくされたんですか?」
 言った・・。
 「・・・・・・難しい話ね。」
 
 「自分がこうして立っているところへ来なくては、
 自分がいなくなったことに気付かないものね。
 自分のそういう気持ちを察して、たとえ憐れみでも、真実でも、
 自分の跡を追って、自分の肩に手を掛けなければ、
 本当にわからないことがあるのよ―――。」
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 薄い色のひびの間から白い小さな羽根のような湯気・・。
 
 私は、その羽根が、
 すみれ色、栗色、サフラン色、エメラルド色に変わるのを見ていた。

 「・・・・・・・このババア、何言ってるの?」とピグちゃん。
 ヒューマニズムのフィルターから覗きこむ気のないピグちゃん。
 次の数瞬が経っても横倒しに大きく傾斜させたまま
 宙吊りにしている鳥籠の時間・・。
 「ねえ、このババア、どうしてポエムしてるの?」
 「哲学なの?」
 シャルル叔母様は自分が言われていると気付きながら、
 くすくす笑い始めた。
 ―――つくづく徳の高い人は心が広いという気がする。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 優しい女性というのは歴史から虐げられたか弱い女性であるが、
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 人が人であるためにその母性は存在しなければならなかった・・。

 「・・・・・・」
 (や っぱ り ― ― ― シ ー ド の 言 っ て い る こ と は 間 違 っ て い た ・・)

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 何をしてもチャーミングに見えてしまう女王様・・。
 少女らしい無邪気な桃色をしていた頬の色が明るくなる・・。
 「驚いた、ソリア、可愛いお友達を連れているのね。」
 ピグぱたぱた飛んでいって、シャルル叔母様と対峙する。 
 極端に性格の悪い人物を想像していたらしいピグちゃんのあては外れたようだ。
 身分高き生まれ、偉大な伝統、王国内の勢力・・。
 いかにして錯雑なる政治社会の機関は発達することを得たるか。
 純粋の寄生的有機体―――いつか権力は抑制するか除去しない限り変性する・・。
 彼女を包囲する諸勢力のなかに、解き難くもつれ込まれ、
 たちまち破滅するのが、おそらく必然だったのだろう。
 形成志向と豊饒下位体・・。
 指がことさらにゆっくりとしなやかな髪の中に入ってゆく。
 運と不運は、均等な重みとふしぎな緊張とをもって、
 かく人の心にわけいっていくように、
 頭を仰け反らせて白い咽喉が見える―――。
 「どうも、そんなに悪い人には見えないなあ。
 とすると、周囲が邪魔したパターンなんだろうな。」
 と、ピグちゃんは普通にシャルル叔母様の頭の上に座った。
 シャルル叔母様は、この子触ってもいいのかしら、とソリアの顔を見て言う。
 でもソリアも、最初からそうだろうなとは思っていた。
 荒々しい線を、色づけ柔らげ、その反対の条理に歩調を合わせた――。
 そうでもなければ、シャルル叔母様が無遠慮なことをなさるはずがない・・。
 でも―――恋は魔法靄の夢路・・官能の虜、人心掌握に、裏切りや復讐の那由多・・。
 シードの勢いに圧されて、めったなことは言えなかったけれど。

 でも蜂の巣と蟻の巣を重ねあわせたぐらいの複雑なやんごとない階級。
 明るみの中へ入ったのに、いつかだんだん闇の中へ入ってゆく・・。
 結局引き返すしかない袋小路かも知れない・・。

 愁いの声をつくり、低くくぐもった声で言った。
 、、、、、、、、、、、、
 両膝を軽く揉みつけながら―――。
 伏せた長い睫毛がぞくっとするほど魅力的な淑女・・。
 夏の日の沈みゆく船に残った人のような眼を―――して・・。
 気の遠くなるほどすばらしい甘美な衝撃を生み出す未知の結合による旋律。
 平然とした紋切り型で透明人間になる言葉をつづめて理・・。
 「―――ここでよくサペンタエンと会っていたのよ。
 私は彼がこの国から追い出されたことも知らず、
 嫁いで、それから真相を知って・・」
 
 「サペンタエンには心に決めた人がいると従者に言われたの、
 私は柄にもなく、動揺してしまって・・・。」

 ―――ワタシハ・・・、
 ジブンノアイジョウヲ―――ウタガッタ・・・
 、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 言葉はそんな時、腐食の裂けめや割れめにのみ根を張って適当な養分を求める。
 ドレスに樹々の影が落ちて複雑な象形文字を描いている。
 ―――かたられざる、しられざる様々な出来事・・。

 「私は右も左もわからない子供で、―――ソリア、あなたの今のような頃よ。
 ・・・私、周囲の人間にあやつられているとも知らないで、 
 随分、ひどい手紙を書いたわ。」
 (サペンタエンの手紙は届かなかったのだろ―――う・・。)
 [ただ、サペンタエンのもとに、その一方通行の手紙は届いたのだろう・・]
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 どんな微細な物音でも遠く伝えそうな晴れた月の見える十二月の夜。

 心の中にまわりの濃い闇が毛穴から浸蝕してゆくのが―――わかる・・。
 時折突風が窓や梢を揺さぶるほかは自分の泣き声しかきこえない、静かな夜・・。
 愚かな甲虫の触覚だけの鋭敏さ、肩の激しい上下運動―――。
 終 わ る こ と の な い 苦 し み ・・。
 ギ ロ チ ン の 傍 に 立 っ て 刃 物 を 上 に 引 き 上 げ て い る よ う な 錯 覚 ・・。

 ―――ゆるせなかった・・くるしかった―――。
 ただ・・・ただ―――くるしかっ・・た・・・。
 、、、、、、、、、、、、    、、、、、、、、、、
 両手を床について前かがみになり、まるで吐くような格好で泣いた・・。
 自分がひどく“みじめ”で、『寄る辺』なく・・、
 ―――世界中がうすっぺらい壁で、それが自分の周囲・・

 どうしてちゃんと本人に確かめなかったのかというのは簡単だ。
 ソリアは思った―――。
 もはや“抑えても抑えきれぬ深い胸裏”から不意に奔りでてくる烈しい、
 とめどもない『やみくもの強い力』・・。
 けれど、シャルル叔母様は女で、
 王国を繁栄させるための駒である。有閑階級の理論・・。
 それはいくらか肉の厚みの足りない唇・・。
 サペンタエンが心変わりした、あるいは婚姻の話を聞いて身を引いたと言えば、
 シャルル叔母様にどんなことができるのだろう?
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ショパンの別れの曲を弾くのに適した繊細な指先。
 
 「話を知ってから結婚生活はうまくいかなくなったわ。」
 それはそうだろうな、とピグちゃん。
 すばらしく軽妙な憂鬱な力が内部に働くのを感じたまま、
 のんきな別世界を認めることなんて出来ないに違いない・・。
 かすう うんゆう
 遐陬に雲遊する―――・・。
 高価な絨毯が敷き詰められても、花を飾っても、
 ほの暗い障害のヴェールを通ってさしだす―――。
 「あれから色んな伝で彼のことを探したけど、
 見つからなかったわ。
 世界中にそんな人なんて初めからいなかったみたいにね。」
 「ババアもシェークスピア悲劇、百年の恋にブルー。」
 「本当ね!」
 「ピグちゃん!」
 
 でもシャルル叔母様は笑って、肯いた。
 フォローしようとするのは間違いだったことがわかる。
 シャルル叔母様にとってそのようなものは痛痒の内に入らない。
 「・・・最初は申し訳なくて、謝りたい気持ちでいっぱいだった。
 そのことで、泣いたりもしたものよ。
 でも歳をかさねるにつれて、私はただ私にないものを、 
 彼に求めていただけなんじゃないかと思うようにもなったの。
 許してもらっても、許されなくても、私は彼のことが好きよ。 
 ここでこうやっていたら、いまでも、
 十代で年端もいかない私が彼と会っていた頃を思い出すの。」

 「・・・・・・」
 
 ピグがふと見ると、ソリアは目尻に涙で濡らしていて、
 、、、、、、、
 しろいうろこ雲みたいになっている・・。
 ―――こういうのは話半分に聞くんだよ、と思わず言いたくなるほど・・
 感化されやすい、共感性質―――ロマンティックな性格が非常によく見て取れる。
 というか、筒抜けで、
 いわれない光景のように不自然に眼前に展開する。それを見て、
 ―――こいつ、ちょろいな、とピグでさえ思った。
 ご主人様がゲスな男だったらもうねんごろになっているな、とすら思った。
 質問も感想もないが、感懐はある―――。
 そういうことだった。
 でもそういうのが、『ソリアの人間的な魅力』なのだろ―――う・・。
 ピグはと言えば、むしろその爽やかさは、ご主人様にとって、
 落ち着くことのできることかな、と思えた。
 だってシャルルとかいうババアはこう言っているけれど、
 もしかしたらサペンタエンとかいうご主人様の師匠は、
 いまでも、怒っているかも知れない。
  ア・サンス・ユニック
 一 方 通 行。
 水と油は人間関係に付き物だ、でもソリアの性格の良さは際立つ。
 ―――まあ、ご主人様の師匠である、浮いた話はそれ一つぐらいで、
 それだけでよいかとサバサバ人生切り替えて、
 真っ当な剣修行に明け暮れたのではないか、という気もピグにはするのだった。
 まあ、ご主人様と同じような人物だと仮定するのなら、
 とうの昔に、怒りとかいうものは消えているだろう。
 
 でも世の中そんな美しいことばっかりじゃない。
 エルフというだけで人間に一生を鳥籠の中にいれられて過ごした仲間もいる。
 世の中きれいなことばっかりじゃない・・、
 きれいだったら誰かがそれを助けてくれるのか・・。
 、、、、、、、、、
 アタシハユルサナイ・・。
 ソンナ―――コト・・・ヒトツヒトツ。

 でも―――。

 「あたしのご主人様は、
 ジャイアント・ビーの軍団に襲われているところを、
 助けてくれた・・。」

 ソリアと、シャルルは小さな妖精の顔を見る。
 ―――しずかで、どこかやさしい声・・。

 彼女が、シード・リャシアットと冒険をする理由・・。
 彼女が、シード・リャシアットの傍をはなれようとしない理由・・。

 「ソリアやそこのババアがそれぞれの本当を語るように、
 あたしも、ご主人様にとっての本当がそういうものだったらいいと思う。
 ご主人様はこんな小さくて見つけにくいあたしを、
 見つけてくれた。助けるいわれもないあたしを助けてくれた。
 あの時そこにいたのが、ソリアやババアだったら平気で見捨てたと思う。」
 「ピグちゃん・・」
 
 だれのこころのなかにも、つめたいこころはある・・。
 その“こおり”に、おおくのひとがきづかないだけだ―――・・。

 「でも、ご主人様は、自分の身の危険なんかちっともかえりみないで、
 助けてくれた。だから、サペンタエンとかいうご主人様の先生が、
 そんなどうしようもない人間のわけはない。
 あたしの大好きなご主人様が、尊敬する先生が、 
 あるいはその先生が愛した女性が、ロクデナシのわけがない」

 眼球の直径は平均約二十四センチ。
 視神経の錐体は約六百万個。
 桿体は約一億一千万個から一億三千万個。
 
 冷凍されてゆく、名前―――。

 思い出したい夢、
 うつくしい夢・・。
 
 こ の 胸 に 風 がとおり すぎ た・・。
 
 「・・・でも、そういう気持ちでずっといるのなら、
 サペンタエンとかいうご主人様の師匠にも届いてるんじゃないかなあ。
 それに考えようで、美しい恋をしてラッキーというあれかも知れない。」
 ピグちゃんは持論を展開する。
 確かにそういう考え方もあるのかも知れない。
 紙の火の粉が少しの風にくるくると上にあがるみたいに、
 呪文を忘れてしまったような、Smile...
 謎――と、言った時に・・・。
 音が・・・無くなって――
 アルミの粉末でもまぶしたような陽射し・・。
 ―――いつ終わってもいい夢だった・・。
 イグニッション
 点火・・。
 美の刻印を押された数々の幻影のように光の投影が硝子のように破砕される
 の を 見てい た――。

 年上の女性の官能的な瞬間・・・。
 回転という要素よりロー・アングル・・
 illusionの世界はc o m m u n i c a t i o n の断絶、
 線香花火のようにしきりに火花を飛ばす趣のある時。
 
 見 え る も の す べ て が 円 弧 を 描 い て 展 が っ て い る 。
(エスカレートした、閉じなさい、、、)

 「ソリアが羨ましいわ、これから、誰かと本気で恋をして、
 その人と人生を共にするかも知れないんだもの。」

 でもシャルル叔母様のそういう苦しみの中には、
 自分よりはるかに切実に、もっと密着して、人生を生きているような羨ましさがある。

 心を占めている煮え切らないか考えをまだ振い落せない私は、
 ひそやかな情熱が静かに満たしてくるのを感じる・・。

 ―――孤独も。
 ―――色んな傷も・・。

 「・・・・・・そうですね、叔母様。」
 「けど、一つだけお節介を許してくれるなら、
 私みたいなことにならないようにいつも周囲に気を配ることを忘れないで。
 そして周囲がおかしくなった時には、愛する人のことを信じなくちゃ駄目よ。」
 「肝に銘じておきます。」
 「・・・リリシアから、あなたがシードという青年と旅をする話を聞いたわ。
 私の時代ではとても考えられなかった大立ち回りね。」
 リリシアは、王妃の名前・・。
 つまりソリアの母親の名前である。
 「いつか老いた私に面白い話をたくさん聞かせて頂戴。」

 シャルル叔母様はいまでもすごく美しいと思う。
 心の中が枯れていない人は、いつも美しいのだ。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 一挙一動が物語っていることは確かである。
 あるいは、サペンタエンと会えるかも知れないと夢見た少女のような心には、
 うるんだ眼が、あるいは慕うものへの気持ちが伝わってくるのかも知れない。
 すばらしいりんどう色の頭上で、
 のっぴきならないことをしでかす妖精、たびかさなる無礼千万な振る舞い。
 美しい鱗翅、脈翅・・・・・・なかに/なかへ/、 

 ジャイアントセコイアでしたね・・!

 「まあ、用事済んだから、ババアにお菓子をたかる。」
 「茶番の代金に、あたしはクッキーを所望する。」

 せ い じ ょ う な か ち か ん の ら ち が い に あ る
 そ れ を も は や は て し な い と き の て ん ぺ ん を 
 く る お し く い し き づ け る
 
 ―――allegro,

 「ピグちゃん!」
 さすがに態度がひどすぎた。
 でもそう言いながら、その素行の悪さに惹かれてしまう不思議。
 人生がカクテルのようにマドラーで掻き混ぜられていく・・。
 (でもわざと言ってるのは間違いなく、)
 [もっとも効果的な操縦法]

 「(なるほど・・)」
    クスマ    アンパア
 少量の麝香と、少量の竜涎香・・。
 、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、 、、、、、、
 ヤンキーおそろしや、でもヤンキーカッコよろし、むべなるかな・・。
 物を見るのは人の自由―――。
 (かくれんぼをする時に、鬼が数をかぞえだすと蜘蛛の子を散らしたように、
 思い思いの方向へ散らばるあの瞬間の楽しさ・・。)
 真夜中の空腹は稲穂の揺らぎ、
 手を―――触れない。飼い慣らせない・・。
 
 (ステップ、ステップ、を、)

 「いいのよ、いいのよ、つまらない話よりお菓子の方が大切よ。
 私もラッシード王国に来てからここにばかり入り浸って、
 ちっとも建設的じゃないもの。」
   ことわ
 と、謝って、
 さあ、すぐ、と促した。
 リトマス試験紙のような記述の中の、
 ジョンマスターオーガニックの洗顔ソープの匂い。
 二の腕で伸びをする。
 (もとより人物や風景など見てもいない・・)
 花に埋るる長堤をねりゆく時の感・・うやうやしく―――。
 スーパーの裏口は段ボールの山。
 「シャルル叔母様。」
 「・・さあ、小さな妖精さん、私とティー・タイムに行きましょう。
 よければ、ご主人様のお話を聞かせていただけるかしら。」


   *


 ピグとソリアを連れてヒースの所まで行く。
 先程、シャルルというソリアの叔母君とシードは話した・・。
 事情は簡単にソリアの口から聞いていたのでどこか同情的なものになった。
 ―――また、シードはいい機会だと思って、
 『第三勢力』のことや、魔法図書館による『第四勢力』の話をした。
 (ソリアは、警備を強めるように騎士団に進言すると言い、
 シャルルという叔母君は王国内にもそれとなく話をしておくと言った。)
   、、、、、、、、、、、  、、、、、、、、、、、、
 でもどちらの話もそうであるが、これといってするべきことがない。

 時間が少し早いので、何処かでご飯でも食べようか、と言う。
 また、服屋と雑貨に寄って、少し買い足しておきたいという気持ちもあった。
     、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 それに、王様からソリアを救けた礼金である金貨をもらったことで、
 関節を守る防具や、剣を買い替えてもいいかな、という気持ちがあった。

 随分と前にピグと食べ歩きしながら、
 露店を冷やかして回ったことを思い出した。

 ―――と、人通りで水の上から頤を出すように「ドロボー」という声があがった。 予備動作なしの救命信号。
 、、
 スリだった。
 盗まれた方が間抜けなんだから、という辛辣な意見もある。―――
 ちょっと、胡散臭そうな眼付き・・。
 (盗まれた者の前に断崖があるわけじゃない、と―――)
 『反省』という言葉は、『油断』のためにある言葉ではない。
 ・・・反省には常に、残酷な運命的な偶然への対策が望ましい。
 ―――掏摸は特徴のない人物が多い、というのは本当だろうか?
 [集団掏摸の脅威][海外旅行でカモネギされる日本人]
 (一般的にターゲットが特定されず、上級技術を有する掏摸師や集団掏摸は、
 誰でも標的にする。 特に観光客や繁華街の買い物客が狙われる。
 しかも、一般市民が犠牲になる。)
 、、、、、、、、 、、、、、、、、、
 ズボンに放火する、刃物をちらつかせる、となると立派な強盗である。
 貧民街のルールを押しつければ、だ。
 近距離で魔法耐性のない一般市民に魔法攻撃をする悪い魔法使い・・。
 力の弱い女子供をターゲットにする不届き者・・。
 世の中が悪いのだから仕方ない・・。
 そうだ、城の楯のように人が集まり、その地価が上昇する。長いものに巻かれろ。
 三途のどぶ川だ、不平等なんか当たり前・・。
 そして、そのようにして形成されていく周辺に貧民街が形成される―――。
  ブ ラ ッ ク ス ポ ッ ト
 街にぽっかりと空いた黒い穴・・・。
 犯罪増加への対応不足―――でもそれじゃあ、国とはいえない・・。
 情味に脆い性質の人間を痺らせる。
 ―――バシュッ、と剣の莢をスリの後頭部に直撃させる。

 [ピグ・スカンジナビア]
 (お金を盗むなんざ、ふてえ野郎だ)

 「他人に迷惑をかけるならマスをかけ!」
 なんだろう―――デコピンするべきか迷う・・。

 //“厨房の洗い場で皿を洗っている男”
 【scene《食堂兼酒場》】

 [バーテンダー]
 (カシス・オレンジが人気だ・・)

 食堂は酒場でもあるようだ。ウッドベースの店内は居心地がよいというよりも、
 江戸っ子気質宵越しの銭は持たぬ、あるいは酒好きの雰囲気。
 ソリアが言うところでは、流動的な、流れ者の人が多い印象らしい。

 ―――働き手が欲しいと募集をかける時、
 十人なら十人でいいはずなのに、
 そこに百人やってくる。ひどいのになると二百、三百。
 、、、、、、、、、、、、、、
 それでも十人ならまだいいのに、
 安く雇って用が済めば雇用打ち切りにするという話は多い・・。

 ・・・ぞんざいな雇用形態、保障もなく、勤務時間も滅茶苦茶な例もある。

 「でも―――こういう奴等の騒ぎ方は好きだな。」
 「・・・・・・一生懸命あぶく銭を稼いで酒に消えてゆく。」 
 ソリアは二人が楽しそうなのでちょっとホッとした・・。
 彼等は、そして、会って話したい人がいる世界の住人だ・・。
 気軽に約束ができる、きちんと話を聞ける・・。

 その人達は何処にいて、
 ハーモニー スル 抒情詩ノヨウナ光景・・
 いま、何をして、
 タチドマルナ・・ア ル キ ツ ヅ ケ ロ ―――。
 どんな話をしているのだろう・・。
 

 「青白い窓を見ていても人は幸せになれない。」
 「のっぺらぼうの壁を見ていても人は幸せになれない。」
 「・・・・・・二人とも、お腹減ってるの?」

 [世界各国のアルコール消費量ランキングでヨーロッパ勢強し!]
 長い平行線のようなカウンター席では主に酒を飲んでいる客が多く、
 海―――海・・瞬きする永遠も有限もない、硝子言語・・
 (時間帯のせいもあるのか、男性客が多く、大抵はビールを注文している、)
 テーブル席ではリーズナブルな幅広い料理を提供しているようだ。
 面白いところでは『ハンバーガー』があり、
 『牛丼』があり『とんこつラーメン』がある。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 美味しそうな御馳走の匂いにワクワクするのは誰もが同じである。
 ***うさぎ達の影響は、王国どころか世界中の食生活に影響を与えている、
 ―――眠らないものは眠りによってふたたびめざむる・・ 

 「ご主人様とりあえずビールで乾杯といきますか。」
 「ビールだな。」
 「ビールね。」
 
 ぜ・・・ん・・・ぽ・・・う・・・に・・・
 か・・・ん・・・ろ・・・な・・・る・・・も・・・の・・・

 大勢の客でにぎわっていた。
 (東と西からの挟撃に、心に忍び込む暗黒と小さくなっていく自己について語る)
 笑い声が音楽の不注意な午後の人工的な日射しのなかに爆発する。
 打ち寄せる波とsynchronizeする(んだ、)
 にわかに濃く迫ってくるハイドレンジアブルー・・。
 (望みと言えば―――安息だ・・)
 「心臓発作とは何か?」「酩酊とは何か?」
 結婚式の音楽や馬鹿騒ぎ。修辞的判断のひかりのどけき讃美歌。
 (down...)落ちていく、(fly...)
 テニスラケットの打ち合いのような会話。コルカタの微風。
 ロ ッ ク バ ラ ン シ ン グ ―――。
 山賊みたいにたけだけしい顔つきで、数時間後、下痢か痔になる男、
 「・・・女はよお、」とシモネタを話している。
 始めから何かそこへ誘うものがあるように・・・。
 (咽喉の中に迷い込んだ《接続詞》
 、、、、、、、、、、、、、
 スパンコールドレスの踊り子。
 (血に狂い踊るカーリー、曙の女神ウシャス、芸能の女神サラスヴァティ)
 [生き生きした笑顔一つできるかどうかが踊り子のPOINT]
 >>>『スタイル』よりも『容姿』よりも『魅力』
 一方の足で立ち、もう一方の足を高く上げている・・。
 ドガといえば踊り子・・。
 
 からだの―――せんをくずさずに・・、
 なんねん―――おどりつづけられるだろ―――う・・。

 どちらさんも、ご機嫌なようだな、とピグが言う。
 ソリアはサーチライトの届かない肖像画みたいな顔をしている。
 と、テーブル席についたシードの肩になまめかしく指を置く女性。
 大理石像―――陶器の人形・・氷辷り・・それは香水の如くになるか。
 「ねえ、お兄さん、よかったら一晩どう?」
 ヨルノモジバン・・
 誘っているわけではない。商売なのだろう。
 闇社会が行う電気のモノポリーゲーム・・。
 そこには深いコンクリートの井戸があって、兵隊の夜間の行進がある―――。
 >>>彼女の瞳には恍惚を阻む醒めた光が宿っている・・。
 「ご主人様、モテモテだな。」
 「・・・・・・今日は遠慮しとくよ。」
 何かを見下している人は、目の形が面白くなる。
 [娼婦が悲劇の代名詞だという人は椰子の樹人種だ。]
 (オーケストラに口笛を吹く、ことだってあるものなのだ・・)
 場合によったら、『美人局』ということもあるかも知れない。
 差別と言われようが、世の中にはれっきとして、性欲の強い男女がいて、
 ―――彼等は別に、諂曲なんざ求めちゃいない・・
 むしろそのうそづくりの陽気さは『悪い技巧』だ・・。
 むしろモラル・パニックからの発展形、ヘレン・ラブジョイ症候群・・。
 >>>いま、疑わしそうな眼で見るソリアの知らない世界・・。
 けどね毎日が頭の中、『クリスマス・パーティの人』だっているのさ。
 中身がなくて、うすっぺらい世の中の楽屋口の喘ぎ声。
 でも驚くよ―――そんな女のあどけないほどの童女の眼に触れたらね・・。
 それに・・それに、だ。
 犯罪の温床になっているのは、酒、金、夜の睦言と相場は決まっている。

 ―――でも一晩、女を抱いたら憂さを忘れられる・・。
 そして一度では我慢できなくなって通い詰めるうちに・・、
 娼婦は、聖性を帯びる―――。

 [娼婦]
 (何だい―――気取りやがって、次いこ・・)

 //“店の隅でちびちびと酒を飲んでいる男”
 【scene《有益な情報屋のもう一つの顔》】

 、、、、、、、、、
 店の隅に飲んだくれがいる。
 背中を丸めて、肩を小さくし、心の灯りをともそうとしない人間・・。
 恍惚とした快楽でできた液体に目玉が浸り、膜が張って、
 貧しい家庭の子供を安価な労働力として搾取する、
 いつもながらの空白に仰向けになっている女を搾取する、
 蟻の巣という名のsystem...
 (こんな時代だからそれしか楽しみがないのか、
 それとも単純にアルコール依存症なのか、わからない・・)
 ***自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、
 強迫的に飲酒行為を繰り返す精神障害。

 どこか微かに乾かした葡萄の匂いがする・・・・・・。
 一同景気づけの一杯をカーンとやった後で、
 (ピグはちなみに、どこからか取り出した小さなグラスである・・、)
 
 〇枝豆ととうもろこしの冷製スープ
 [玉葱と豆乳も入っている。ホワイトペッパーが決め手]
 (濃厚な味わい・・。)

 [ピグ・スカンジナビア]
 (・・・とうにゅうとたまねぎとえだまめととうもろこしの・・)

 しかし一口スプーンですくったシード氏は、
 (ちなみに、スプーンでスープを飲むときの作法は、
 手前から向こうへとスプーンを動かさなければならない・・、)
 「・・・バターや、生クリームを入れるともっと美味しい」とシード。
 「―――というか、何故この味で、そういう発想がないのか・・」
 ピグ氏、これにマジギレ。
 「―――ごしゅじんさま、りょうりたべるときはしずかに。」
 「たべられるだけしあわせ! うんちくはやめて!」
 おお、すまん、とシードが謝る。食事の席での私語は禁止らしい。 
 とりたてて、料理の批評は固く厳禁であるらしい・・。
 食通気取りではないが、シードはシェフなので余計なことを言う。
 でもソリアも、木のスプーンで一口すすってみて、
 シードの意見に賛成だ、と思った。
 でも、ピグちゃんは、うめえーなぁ、こりゃこりゃ、と飲んでいる。
 考えてみると、美味しいと思えばそれは美味しいのだ・・。
 
 〇パン
 [クロワッサン、スコーン、ブレーツェル]
 >>>パンの決め手は小麦粉とイーストの品質

 [ギディオン=ソリア=チャリントン]
 (パンは中々美味しい・・)
 
 ピグが、枝豆ととうもろこしの冷製スープにぺたぺたつけながら食べる。
 そしてありえないぐらい幸せな顔、んぬおう、とかいう奇声も聞こえた。
 ソリアも真似して食べる。
 シードは、うんこれは中々美味しい、と肯く。
 (“米”から“パン”かも知れない日本の食事情・・。)
 ―――お前、何しに来てるのかオーラだしまくりの一名。

 〇えびとマッシュルームのアヒージョ
 [オリーブオイルと刻みにんにくに海老とマッシュルームの煮込み料理]
 (味つけにイタリアンパセリを入れている・・)
 (具材はもちろん残ったオイルもいただける・・、)
 *土鍋という選択が嬉しい

 [シード・リャシアット]
 (悪くない味だ・・)

 テーブルの上で、ソリアの皿の前に行き直接交渉するピグ。
 シードからは随分えびをいただいたので、後はソリアのえびというわけだ。
 ・・・時計回り幼いアフロディテの迅速な歩行。
 「えび、ください。」と、ピグ。
 「海老ばっかり食べてると、海老になるぞ。」
 「・・・ハッ」と、ピグ、鼻で笑った。
 (料理の席では、ピグちゃんはシードにもこんな態度をするらしい・・)
 ***もちろんソリア氏からえびをいただきました

 〇白身魚とホタテのワイン蒸し
 [白ワイン蒸し。玉葱の薄切り、ローリエ、レモンの薄切り、と。]
 (ただ、ワインの味は移る程度、魚介が固くなるのはNG。)
 ―――ドレッシングが楽しみな料理、と言えるかも知れない。

 ピグが、ソリアに言う。
 「ソリアのテーブルマナーいいな。お姫様すごいな。」
 「でも、あたしも、ピグちゃんみたいに手で食べたいと思ったことあるわよ。」

 ほかにも、
 〇タコの素揚げ
 [下味をつけ、衣をしっかりしたタコの素揚げ。]
 
 〇ミモザサラダ
 [卵が入っているというので、注文した]
 >>>卵だけ食べようとする妖精氏。
 (を、)いただきました・・。
      
 食後にシードが危険な食材について語った。
 「ちなみに、ダイオウから出来たパイは、
 一部の地域で愛されている食べ物だけど、
 ダイオウを食べる時は茎のみを食べなくちゃいけない。
 あれは人間にとって猛毒なんだ」とシード。
 ―――熟していないアキーの果実、BSEを発病した牛の脳みそ。
 (生肉の中の大腸菌、A型肝炎を持っている貝、
 H5N1型の鳥インフルエンザが流行った頃の鴨の血のスープ)
 胸へこみあげてくる毒々しい妄念を否定するように、
 「忍者は別だけどね。」とピグ。
 
 店の隅っこのオヤジがゲロを吐いてる。おいおい、と思う。
 茫然とする技術や、野次る技術は盛んだが、フォローする人間一切なし。
 定住する家のない者が生理現象をするのはしごく当然だが、
 店となるとそうはいかない―――。
               エイド
 ・・・見ていられない―――な・・。助力する・・。
 「おい大丈夫か?」とシードが声かけても返答なし。
 揺さぶるが、やはり返答はない。
 「飲むのは構わないが、呑まれるな、だぞ。」
 数年前のある真夏の芋畑の真夜中の広大な静謐を思いかえす・・。
 その光景は少しずつ消えていく・・。
 、、、、、、、、 、、、
 わかっているのだ・・・それは・・・。
 店の反応は遅い。
 一文字ずつ声に出して書いてから動く蝸牛のようなスローモーション。
 痩せぎすのほうが周囲をキョロキョロと見渡しながら、
 モップを持ってきて、
 小太りのほうが水の入った青いバケツに雑巾をいれて持って来る。
 ・・・・・・その間に、蛇が冬眠から目覚めそうだ。亡霊も、成仏する。
 シードはその店の小太りのほうが持ってきた雑巾を奪って、
 (やりたくなさそうな顔をしてる、接客業失格だ、)
 ENTER/ENTER/
 身体を通る前にはグルメで、食事してる顔がセクシーだとか言って、
 身体を通った途端に眼を向けようともしない・・。
 ―――記憶の引き出し箱・・。

 出したやつを清掃員さながらのスキルでサササと拭く。
 ヘイスト
 加速―――それから匂い消しの代わりに、
    ホーリィ・オーラ   マスキング
 「・・・妖精の粉」「―――隠蔽」
 
 [ギディオン=ソリア=チャリントン]
(無属性魔法だろうか・・床がピカピカだ・・)

 痩せぎすの方が質問してくる―――。
 「お客さん、知り合いなんですか?」
 「いや、まったくの他人だ。」
 それから、肘で酔っ払いをつつく。
 「お金は払ったのか? 帰る家は何処だ?」
 返答なし。呼吸がもとどおりになっても、汗がひっこんでも、
 心臓は相変わらず存在を主張するみたいに無様に動いている。
 もう面倒くさいので一緒に清算して、
 すまないがとチップ握らせて店の人に介抱してもらうことにする。
 「どっかで休ませてやってくれ。」
 ソリアとピグのところへ帰るとニコニコしている。
 「・・・ご主人様、優しいからモテる。」
 ヤサスウウィーイな、とピグ、
 褒めてるのか、からかってるのかもはやわからぬ仕上がり。
    まつだい  かた ぐさ 
 ―――末代までの語り種。
 ソリアまで、頬杖をつきながら、
 オートマティック  プロフィール
 自動的に引き出される横顔、
 優しさって男の美徳なのね、とか言ってる。照れた。
 眼 は み る た め の も の 、
 口 は し ゃ べ る た め の も の ・・。
 と、ピグがふらふらグラリズラリしながら、シードの手元まで来る。
 クローズアップするトランクスをはかされた女たちの、
 あるいはブラジャーした男たちの好んで身につける香水・・。
 「ご主人様、ピグも酔っぱらったダヨ。」
 「うるせえ。」


    *

                                   
 オヤ、そこの二枚目の旦那、ゲテモノ好きですか。
 フフ・・、分かりますヨ、
 あ、こりゃ、恋に悩むピエロのような大きな麦藁帽でしょ、トレードマークで。 
 ちょっといいですか、一杯おごりますから・・。
 おたくのお連れさん、少し飲みすぎたようデスな・・、
 ―――ふんふん、まあ、それはいいデスが。
 そうそう、エスカルゴだって西洋料理じゃなきゃ食べれないでしょうナ。
 サーモンピンクの曳航・・。
 さよう、赤蟻の卵に、
 わざわざもうすぐ孵化するところまで育ててから茹でて食べる、
 家鴨の卵。鰐や海亀のステーキ、こんがり狐いろに揚げられた蛙のフライ、
 犬や猫の焼肉、モンスターっぽいワラスボの揚げ物、
 ちょうどギリシャのアドニスの祭りのように、あらゆる穫入れの儀式が、
 アドニスの死から生まれてくるようにですナ・・。
 ・・・・・・動物愛護団体の批判、そして狩猟採取民族の食文化、
 ソウデス、ソウデス―――食べたいから殺す、殺したから食べる、
 であるからして、社会主義だから、民主主義だから、自由競争だから、
 はたしてそうカナ・・、ルールとはシステム、
 誰かが作り、我々はそれに従っている、
 沈める鐘のための永すぎる春・・。時流にたいして逃避のように映る態度も、
 実際は自分の足下の土をもっとも着実に掘る態度デスな。
 ・・・土食文化よろしく、靴下を食べる人もいる。
 車に性衝動を覚える人もいる、犬だってご飯食べながら泣きますからナ。
 近頃はとみにこのようなことを考えます、老い先が短いからでしょうか。
 まあそれはいい、後はそれをどう調理して美味しくするかデスな・・。
 そう、客の好みを聞いて、相手に礼を尽くすデスな。
 不潔、野蛮といったネガティブなイメージを持たれがちな手食文化のトラブル。
 ・・・・・・外交なら、郷に入っては郷に従え、ですカナ。   
 あなた、いい料理人デスな・・。
 ―――少しサマセット・モームしますカナ。
 スリル、緊迫したシーン・・。
 でもいまじゃあ喋る動物が九割以上、屠殺の仕事をする人は、獣族。
 でも、こりゃもう仕方ありません、私も屠殺業、加工を営んで長いですが、
 獣族から忌避され、時に敬われる。鍵のかかる部屋の黒蜥蜴・・。
 臭い物には蓋をする、
 一部の人間は伝統を重んじてそういう仕事をする人もいマスが、
 ひどい時なんか、唾かけられ、このキモオタブタ野郎とか言われます。
 いえ、気にしていませんホルスタインですが。
 でも、しょうがないでスナ、実際。
 人間だって人間を食べ始めたら、そうなるでしょう?
 さらば常識―――後ろに手回っちゃいますがネ。
 年齢、食べる部位、調理方法によって変化する、という話を聞きます。
 こんな話すると、ブラックユーモアじゃ済まないかも知れませんが、
 子供の肉は非常に柔らかく、魚に似た食感がある。  
 唐辛子などの調味料で焼いたり、煮込んだりするほか、    
 しばらく熟成させて風味を増すといった、美味しく頂く方法があるとか。
 ・・・まあ、生き物を殺すというのは残酷なことデス。
 でも残酷なのが文化というのを隠れ蓑にした支配の一典型デスナ、
 動物のゲージ飼育も増えていると聞きます、
 錬金術や魔法を使った、遺伝子組み換え、
 人間の都合で受精を行う、もうこうなってくるとオカルトですカナ、
 でもそれがわれわれの世界、
 安全性への問題点、生態系への影響、特定の個人の支配・・。
 需要と供給の関係、雨が降りやすい地域では、
 柔らかいパンが作りづらいため固いパンが作られるようなものですナ。
 ―――地獄や天国などというのが、多くの地域にあることからも想像できる、
 ・・・あれはすなわち、精神の構造。
 ま、そりゃ野菜はいいデスな、殺したって叫びませんから・・。
 マンドラゴラは喊ぶようですが、あれは例外。
 しからばしかるべきアポロン的なものとディオニソス的なバランス。
 物事の本質を見きわめようとする碁をする人の眼ですナ―――、
 私も見ての通り、牛人ですからネ、言いたいことも山ほどあるでしょう、
 でも誰かやらなくちゃいけない、
 お金だって寄付や後援、まあ、そんなもんですナ。
 ―――金だけじゃあ、ありませんヨ。
 ラッシード牛が美味いと知っていても心の何処かでは南無三と思ってる。
 生殺与奪、食べるということはすなわち殺すことですからナ。
 でも、人間と獣族がバランスよく生きていくためには縦横に裁断して来た、
 必要な悪、あるいは善を拾う必要がありますからナ。
 神様が動物に尊厳を持たせたからこういう軋轢が起きる。
 むせび泣くヴァイオリンのようにはかなくかなでゆく秋の啾く声・・。
 でも、その内の何割かは動物から獣族という自覚を持って働く、金を稼ぐ、
 バランスのとれたもんデスよ。
 積み木がバランスを取れなくなったからって、
 今更、積み木を積むのを止めるわけにはいきませんヨ。
 それでも私も神様を信じて礼拝を欠かしません、この国の神とは違いますがネ、
 旦那、ここだけの話ネ、獣族の中には人間を食べる奴だってイルんですヨ。
 でも表だった沙汰にはならない。
 こういう言い方をすればわかるでしょう?
 これがバランスってやつデスな、まったく、まったく。
 さて、本題、旦那は腕のいい料理人だからもしかしたらと思って聞くんですがね、
 モンスターを喰ったことありますか?
 いや、やっぱり、そうでしたか、そうでしたか、いえどうか聞かせて下さい、
 ―――なに、面差しを見れば腕ぐらい見分けられます、
 なんというか、独特の雰囲気がありますからナ、モンスターを料理する人間は。
 なるほど、スライムは氷らせると形状変化しますか。ぶにぶにした触感で、
 ゼリーみたいですが、独特の歯触りになると、―――面白い。
 天日干しもいいですナ、生スライムをきれいに洗って、 
 スライスして炙って食べる、と。淡泊な味でしょうが、なるほど、タレで・・。
 砂糖を入れてアイスクリームをいれ、なるほど、あらかじめ、酒に、
 漬けこんでおく。大人向けのスイーツですナ。ゴースト系も白魔法系の液体で、
 はぁはぁ、形状変化しますか、豆腐みたいに?
 亀系は首を斬り落とし内臓を取り去りブツ切り。
 鍋にしてしまう、と。中国系の鍋の複雑な味で昇華させてしまう、と。
 ウーン、実に基本デスナ。癖がありそうなモンスターを味で誤魔化してしまう、
 闇鍋方式、と。でも確かに、奴等はすごい顔をしてますからナ、
 私もまだ深海魚なるものや、宇宙生物というのを食べておりませんが、
 ああ、一説ではモンスターにもそういう話があるそうデスな。
 でもそれ食べようとするのが因果というか、食の好奇心デスな。
 世界のありとあらゆる街を渡り歩くロマン、食通やグルメは嫌いデスな、
 ・・・料理人は別ですよ、すべてを差し出したものがすべてを得るデスな、
 ああ、ソウデスな、そこいくと、エルフ食べようとか、
 人魚食べようっていうと恐いですナ。美しいものですから。
 ・・・お連れのエルフさん、すごい顔で睨んでいますナ、スミマセン・・。
 ―――美の基準というのは皮肉な遍歴時代、差別・迫害の歴史デスな、
 おっと、食べた人いるンですか? 
 あなたは博識ですナ、へえ、知りませんでした。
 ゴーレムのそれは鹹水のようなものだっていう発想は、
 面白い。ラーメンを作ってみましたか、それでは。
 爆発系モンスターをコーラの素にしてしまう、と。どんな味するんですかナ、
 実に飲みたい。大迷宮をもぐっている間に飯作る手間が面倒くさくて、
 そのまま喰っていた、と。そいつはすごい。
 なるほど、壮大な食文化の歴史が土台にある以上、何でも食えますか。
 人体に害さえなければ、ですナ。哲人らしく事実を勝手気儘に、
 自分が理論と呼ぶ奇想に合うようにこじつける因果応報ですナ。
 薔薇と鏡に映る獣の戯れ―――。
 でもあなた様の言うとおり、ポーションやエリクサーのカクテル、
 というのも捨てがたい。
 オレンジジュース+ポーション+レモンの組み合わせ。
 ソフトポーションの王道ですナ。
 エリクサーは薬品っぽい味がしますからナ、薬品系ウィスキー、
 薬草系リキュールの親戚。配合次第で面白い味になるでしょうナ。
 ―――で、そろそろ、聞いてもいいですカナ・・。
 おっと、さすが慧眼、そうです、一体魔族というのは、
 つまり悪魔というのはどんな味がするのでしょうナ・・。
 ゴヤの『わが子を食らうサトゥルヌス』・・。
 おっと、小声で・・・、そうですナ、こんな宗教国家で不謹慎ですが、
 神を食べる、天使を食べるというのはどういうことでしょうナ、
 おっと、そこにおられるのは、ソリア姫・・・これはこれは―――。
 これはとんだ粗相を・・、いやいやお恥ずかしい・・。
 でも料理とは奥が深いもの、モンスター食の話は王国ではありえませんからナ、
 ―――でもシード殿、存外ゲテモノ好きの人というのは、
 あるいは、モンスターを食す人というのは、
 はたまた、初めて茸を、初めて貝を食べた人というのは、        
 その遺伝子の中に、決定的なバグを持っているのやも知れませんナ・・。



 
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