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かもめ7440

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 ソリアがよかったら二人で散歩しないか、と言う。
 いや正直、―――『賛成』ではあった。
 城内では誰彼問わず顔を見るたびに、英雄だの勇者様だのと言って五月蠅い。

 こういう人びとのあるはずのない規則や行動、振舞いには、
 、、、、、、
 潜在的な構造がある。
 そこに行き着いてしまうのはパフォーマティヴな宣言行為。
 
 “こうだ”と言える人を“評価したい私”の世界・・。
 [伝統主義や因習主義の排斥から生まれる「意味の塊」]
 
         、、、、、、、、、、、、
 その主要部である腕や胸に電灯の光が落ちる――。
 かつて経験したことのない欲望の茂り合う水草に眼に見えない運命という軟体動物が・・。
 突き返されるたびにしゃにむにぶつかっていく親と子の相撲の心理。
 そこにおける身の上のおぼつかなさなどが・・。
 「迷惑」という字が刻み込まれているような皺を鼻の頭に寄せる。
 (それだけのデモンストレーションをした・・)
 [河川が流れる空間が壮大なカルスト地形の景観]
 
 ―――でもどうして第一王女と・・いや、お姫様と―――。
 こんなことに・・・・・・。
      、、、、、、
 もちろん、普通に断ろうとした。
                   、、、、、
 『ヒースとの約束』があったし、―――計算機じゃ、
 、、、、、、
 割り切れない・・。――旗はゆるぎもすりゃ倒れもする――
 (でもこれは、ていのいい言い訳というやつだろう・・)
 
 ミスタァア・・シイイィド―――の中にいる浮かれ蝶々・・。
 >>>過度に防衛的な態度は、不安の反映
 ***夕方でも夜でもいいのだ。
 個人的に、『ソリアとは距離を保ちたい』というのがあった。
 オーロラBキナーゼは、有糸分裂において、
 紡錘体と動原体の結合ならびに姉妹染色体の娘細胞への正確な分離を調節する。
 (まったく、保てていなかったが・・。)
 ―――焦点をあてることから見える意識の実体・・。

 [ボーナスステージ 「お姫様に誘われる」を始めますか?]

 //“隠し通路へと誘おうとするソリア”
 【scene《城の脱出経路》】

 「寝室のベッドをよけると、隠し通路があるの。
 ここから、森まで出られるのよ。
 ピグちゃんは、庭で休憩すると言ってたし、
 一、二時間ぐらいならいいでしょ。」
 背筋をピンと伸ばすソリアを照らす窓のキラキラとした光。
 くっきりとしたフレーム。
 いいでしょ、とはどういうことだ。
 私的空間に踏みこんでいきますよシグナル。
 「―――暇だし・・気分転換とか、いいかなあって。」
     、、、、、、、、、 
 ソリアが何をどう考えていたのかはわからない。
 ―――眼にしているものは永遠の不正確、控え目な恋の告白のような心理操作、
 、、、、、、 、、、、、、、 、、、、、、
 眠っていても、目覚めていても、作詩狂的人物
 (ロ ジ ッ ク パ ズ ル ゲ ー ム ・・・
 ・・・・・・「タンパク質」と「水分」の情報。
 アドリヴ―――DAMAGE・・。
 くらやみのなかから・・・ひかりが・・・うまれ・・。
 冷たい死の中心にある経帷子から、指がこぼれてゆく。

 心臓がときめくのは未来の明るさ―――を知るから・・。
 暗鬱なものに対してガードは堅いのに、
 人に好意を向けられると無防備な無数の開口部・・眼に見えぬほど微細な仮面・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 人間は脳の望みに逆らえない生き物―――。
    、、、、、、
 きっといまこの瞬間も、
 僕は「胸のふくらみ」や、
 「ウェストのくびれ」や、
 「眼の潤い」などを確認している・・。

 脳がドーパミンに代表されるPEAと呼ばれる物質を分泌しやすくなる・・。

 だって、彼女は“好意を寄せていた百年前の白魔法使い”だから・・。
 そしていまも、“尊敬できる美しいお姫様”だから・・。

 近づけば近づくほど・・胸がときめいてしまう―――だろう・・。
 上向きに注意深く持ち上げた横顔をしながら、

 「いや、い・・忙しいんだ。」
 何、照れてんだ、俺。
 何、感じを出してしまっているんだ、俺。

 ―――でも一体自分はソリアのことをどうしたいのか、
 (孵化した意思表示)わからな―――い・・。
 一筋縄ではいかない物語が大苔むす沈黙としてあるうえに、
 <自分がソリアとどうなりたいのか>をうまくイメージできない・・。
 犠牲の上に成り立つ幸せは、やはりその犠牲の為に崩れると知りながら、
 (犠牲愛は誇大妄想だ、解剖すれば何も残らない、後悔の記憶・・)
 巨花性の石器時代的感性、メロドラマ、四面楚歌・・。
 全身を羽毛で覆われている、むくむくのひな鳥・・。
 、、、、、、、、、、、、
 でも素直になれと言われて、
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 はいそうです出来るほど簡単な性格じゃない・・。

 「あの・・ピグちゃんが言ってたんだけど、」
 「嘘だよ。」
 
 ―――即答する不思議。

 くすくすと笑っている、ソリア。
 これは、砂 なのに・・・・・・。
 かしゃっ――かしゃ・・っつ・・・、と、シャッター音が響く。
 なんだか、まぶしい夢をみているみたいに頭がくらくらする。 
 、、、、、、、、、、
 行動や思考が自分の外から来たような気がする。
  ミニマル・セルフ
 自己を成り立たせる最小のもの―――。
 赤面・・。あいつ何言いやがった・・。
 
 ―――お前は中学生か、と誰かが言っています。 
 でもこんな歩調や接近法がある――。
 ソリアが首を傾げて、なんかすごい可愛い顔で言ってくる。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 首とうなじと肩甲骨を見つめる欲情中学生野郎・・。
 そんな―――打ち出し細工、シネマ風なフィナーレ・・。
 永遠にひからびていると思っていた世界の不吉なほどの光の作用。
 からかうように自分の眼を覗きこむ。
 “視線を逸らす“というより“焦点を外す“
 ―――エンジェルアイ。

 [シード・リャシアット]
 (君は・・あの頃の美辞麗句の分裂繁殖さ。)

 「ほんとに?」
 
 咄嗟的にお供しましょうとか、行きましょうとか、
 フェイズ・シフターさながらに言いたくなるのは何故だろう。お姫様magic。
 >>>それは蜃気楼や古い版画みたいに迫力のない他愛のない想像
 エクストラデイメンション
 異 次 元。
 [地球の片隅にある何の変哲もない屋敷の地下室でくりかえされる、
 歓喜の中の不気味な悪魔崇拝]
 令状デアル・・令嬢デアル―――。
 (“首吊り縄のように”の方がいい)
 ***数百人規模の小さなアンケートを行って得たフィードバック
 +スポットライト的性質を持つ共感。
 、、、、
 所得格差―――宇宙はどのようにして始まったか・・。

 [選択.1 サペンタエン先生、千本ノックおねがいします]
 [選択.2 男ってロマンチック無名だze]
 [選択.3 お姫様、アヌウスは好きですか?]
 
 って俺はこんな時に何を考えているんだアアアア!!!

 「ちょっとだけなら―――いい。」
 俺は紳士の中の紳士、純潔姫様を守るのが仕事・・。
 >>>なんかこの人の中で「仕事」になってる
 そう言うと、やった、と肩にさりげなくボディタッチをしてくる。
        アストラルくうかん
 いま一瞬軽く、星気体空間を彷徨った・・イカロス―――。
 男の肩は敏感なキャベツ酒場! 最好調な善良かつ偉大なホーキンズだらけ!
 ―――何してくるんですか、この人。
 次やったら本気で斬りますが、いいですか、と言いたくなる。
 ***ツッコミキャラがボケキャラになる時、限度を知らないもの
 ピグが、女性が男性に触るのは性的合図、と言っていた・・。
 いや、アイツも斬ろう、と照れ隠しするシード・・。
 作画崩壊レベルの表情、反響箱のメトロノームのカクテルパーティー効果。
 ――何故なんだろ・・う・・・ね、【再生】をもとめる蜘蛛の巣・・・・・・。

 「じゃ、決まりね。」
 「・・・・・・」

 [シード・リャシアット]
 (会ったら―――自分の本当の気持ちがわかるかと思ったけど・・)
 
 ウマクイカナ―――イ・・
 いや―――自分がソリアに惹かれているからなのだろう・・。
 (虚空の花籠―――心臓の蒼い縞・・臆病な人間の見る凱旋門・・・)
 剣さえあればいいと思っていたのに、情けない。
              、、、、、
 たとえばすらりとした―――足の曲線に―――。
 すべて は とらえてはなさない 衝動――。

 知ったかぶって、ああ、君も辛いんだ――ね・・。
 月の裏側で異星の宇宙船と遭遇する、
  /ま/る/で/(・・・・・・を、オフ、に、で、き、る、瞬間。)
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ミラーニューロンとかいう脳内のあやとりが、
 “鏡”のような『自分の反応』をつくりだ―――す・・。

 あの、そろそろ話をすすめたいんですがいいですか?

 よいしょよいしょとベッドをよける。忍者だ。
 でも余裕のある“悪党ぶり”が見られないところに、
 自分の起こした命の危険は十分意識していることが感じられる。
 歯をむき出しで、顎からよだれを垂らして、
 迂濶にさわったらばすぐに咬みつきそうな様子の犬・・・。
 >>>眉の上に見える批判ぐらいは許せ。
 (隠し通路があるといわれてまず考えるのは、壁だ。 
 ベッドの下というのは、動く本棚と同じで中々考えない・・。)
 [侵入者の目くらましには十分効果がある]
 ―――袋小路、逃げ場がない時の脱出用としては、かなり効果が高い。

 ベッドの下には細工がしてあって、
 ベッドフレームが外れる仕掛けになっていて、
 布団を持ち上げられる。
 また、隠し扉もいまは外側に出しているが内側にも出来る。
 (また、扉を開かないようにすることもできるらしい。)

 隠し扉を開けると階段が見える。
 隠し通路―――。

   ライト
 「照素呪文」と、ソリア。
 、、、、
 隠し通路を歩きながら、
 霊的な交感といった、清らかな自己放棄の、溶けこんでゆくような瞬間・・。
 お行儀よく並べられた子供たちが、
 管理された密度の濃い時間を過ごすように―――独特の容貌・・。
 片足から・・・もう・・・片・・・足へ・・・。
 「さっきはどうもありがとう。王国を救ってくれて。」
 「ああ―――うん、」
 だから何、照れてんだ、俺。
 何、感じを出してしまっているんだ、俺―――困った・・。

 「あ、ごめん、」
 ボスン、とソリアにあたってしまう・・。
 急に立ち止まるな―――。 
 でも、やわらか―――い・・女性の肉体の感触・・。
 それに・・・すごくいいにおい・・・。
 (香水は“点”でつけずに“面”でつけるといい、)
 星の魅惑に打ちわななく草原・・。
 
 貴様、これが狙いだったのかあああああ!
 ・・・・いやそうじゃないだろう―――シード・・。

 「いま、ピグちゃんの笑い声が聞こえた気がして・・」
 「いないけどな、ネズミじゃないか。」

 「・・ネズミ?」

 お芝居のような感覚・・
 太い静脈のこめかみ的蠢動・・、
 [地下ケーブルや電線をかじっているゴキブリを想像する・・。]
 (生まれて一度も人間のすがたを見たこともなく、よしんば人間を見ても、
 いまだ一度も他から危害をくわえられたことのない・・)
 (ゼロを越えた沈黙の消去・・)
 まあそんなことはどうでもいいんだ。
 それより・・。 

 「いつもここから魔法の修行に行ってたのか?」
 「そうよ。」
 
 それならそうと言えばよかったんじゃないか、という気がした。
 いや、結果的にみれば、王国内に魔物が入り込んでいたし、
 ソリアは命を狙われていたわけだが・・。
 ―――ワイルド&ノー・サンキュー感。
 ―――スケルトン&シズル感。
 でもそれとて、逃げ路や抜け路や空気孔のようなものが必ずあって、
 全体として、とりとめなく、感性的な響きの印象として残った。
                 さら
 ―――人の頭の中のものをスーッと泄って行く・・・・・・
 
 「・・・こっちがお父様とお母様の部屋、
 それでここから真っ直ぐ地下を伝って、森へ出るの。」

 始原哲理を鎖す円環・・。
 始原哲理を鎖す円環・・。

 (クライン・レビン症候群)
 【ボ ウ ガ】ともいわれる・・。
 、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、
 自分の喊ぶ声ではない、自分の喊ぶ声を発見する瞬間。
 古代星座図の崩壊―――。非冗長な・・・・・・。
 ――リボンの落ちる音もする、包み紙を破る音も。

 でも優越感はないよ、対立概念もない、
 ―――ただ、色んなことを忘れてしまっただけ・・。
 、、、、、、、、、、、、、
 眺めが足元にあらわれるだけ・・。
 光の幅が次第にひろがってくるのを見た・・、
 骨の隙間を掻い潜って内部に到達する光。
 ゆらりと揺れ動くその淡い影のなかへゆらりとのめりこむ。
 扉の合せ目の細い隙から黄いろい光が洩れてくる―――。
     オープン
 「―――開錠」

 、、、、、 、、、、
 森へ出ると、ソリアが、
 ―――扉をくぐり、石段ではなくなだらかな板を渡してある短い坂を降りる。
 ひんやりとした微風と、滋味に満ちた陽光が同時に二人を包んだ。 

 森林から放出されるフィトンチッド、マイナスイオンなどによる癒し効果。
 ストレスホルモンのコルチゾールが低下したり、血圧が低下したり、
 リラックス時に高まる副交感神経が昂進する・・。

 (どうしてそれはキレイに見えるのか・・)という問い掛けがあるなら、
 (人は長い間、盲目であるからだ)と言えるだろう・・。 

 高い笛の音が、深い森のなかからきこえてきた。
 ―――ヘッドフォンの隙間から洩れてくる杜撰なロードメッセージ、
 [深い森と、森と森のあいだのわずかな草地の景色]
 (森のふくれあがる馥郁とした匂い・・)
 何かいってからかおうとしたような微笑をして、目の性質、可視範囲、光の仕組み・・。
 一瞬たりとも見逃すまいと、深い森の奥から自然と湧いて出てきた妖精みたいな笑顔を、瞬きもせずに目で追っていた―――顔の筋肉のせいだ、暑いせいだ・・
 その表面から、山や峡谷や海や湖や河や広大な草原や深い森が見えている。
 [西欧の童話や御伽噺の舞台になりそうな風景]
 ―――鳥の卵から孵ったのは―――蝶・・
 自然と口もとを動かして・・・。

 彼女の、時の感覚。彼女の、意味。彼女の確証・・。
 彼女の、瞳の中の疾駆。彼女の、浸蝕。彼女の秤器。
 
 「顔、汚れてるよ。」
 、、、、、、、
 最初はよかった。
 高圧的に接することが出来た。
 でも正直、美人だなあ、と最初から思っていた。
 (「光」は「空気」なんだ・・)
 側面、そして影面と、心の地平のへりをあらわにする・・。
 でも、その美人が『前世の白魔法使い』だと気付いて、胸が苦し―――い・・。
 動転してい―――る・・。
 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
 わ か ら な い ふ り が し た い・・・。
 でもどうしてドキドキするんだろう・・。
 説明もできないから、理由もない――。
 世界の印象が勝手に結晶化する・・。

 「何かついてる・・」
 「な、何が・・」
 
 そう言って、手をのばしてくる。頬のあたりでそれをつかむ。 
 ―――どんなにトランプを混ぜておいても、運命的にひかされてしまう札のように、いきなり、栗鼠が出てきた。
 眼球にある水晶体と中心窩を結ぶ視軸と対象を結ぶ線―――。
 おお、と驚く。
 
 「ごめん、からかっただけ。」
 くすくす、と笑っている。
 (ピグが言う、からかう女は性欲が溜まっているのだ)
 ―――それは嘘です。
 でもなんだか、ソリアのペースに持っていかれている。
 ソリアは明るく風通しのよさそうな木陰の下に座った。

 “一説”によると『男性は相手と付き合ったらどうだろう』と妄想した瞬間に、
 相手のことを好きになっているのだとか―――。
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 後ろ髪を撫でる女性の好意的な仕草・・。

 「・・・驚いた?」
 
 頭が軽いじゃじゃ馬のお姫様だったらよかったのだが、
 ―――だって、喜んで、相手にしない自信がある。
 たとえ話や寓話、教訓、箴言・・。 
 泣きそうな場面っていくらでもある、ある――から・・
 遠ざかる風景が――壊れた記号だけ・・・残していく・・・いく――。
 けれどソリアはしっかりした尊敬できる類の人間で、
 たとえ―――まったく意識していなくても、
 “好意”を持っていただろうと思う。
 そういうのって―――やっぱり気まずい・・。
 リボルバー・イグニッション・ブースト・・。
 心象のレンズの奥で、シェスタが始まろうとする。
 自分は『女嫌い』というわけではない、
 (反抗者であり、現実の暴露者であり、偶像破壊者かも知れないが・・)
 『女性の免疫』がない、率直に『経験値が足りない』のはさておいても、
 ・・・そういうことをしたいと思わなかったわけじゃない。
 (ピグは最低、デコピンするとやめてくれる・・)

 人は自分が特に何の意見も持たない対象よりも、
 自分の好きなものあるいは嫌いなものをより長く見る。 

 自分のペースで出来ないという、もどかしさは、結構くる。
     、、、、、、、、、、、、
 たんに、そういう相手がいなかったのと、
 禁欲のあった方が技が冴える、ということを教えてもらったからだが。
 >>>萎えた花のような賢明な空想と早すぎる青年期の締結。
 見事に何じゃこりゃあ、なことになっている。
 ポーカーフェイスをするのがどんどんきつい。
 肺音(lung sounds)は呼吸音(breath sounds)と向かい合いながら――
 それがこの先どうなって行くのか、今までのいつとも違って全く目算がたたず、
 どうすべきかも知れずにいた。そしてそれが未知であることに、
 ときめきのようなものを覚えた。
 水飴のように透きとおっていって、一重の貝殻・・・
 強いモンスターと戦うより心臓の鼓動が激しい・・。
 引出式冷凍室を開ける感覚・・。
 落ち着け、俺!

 でも彼女はそこにいた。
 空想の中でいくたびとなく想像し経験してきたように顔を向けていた。
 そして彼女は彫像ではなく、いまもちゃんと生きていた。
 そしてきっと自分で思う以上に長い間、彼女を見つめていた。
   、、、、
 恋は長い眠りに似ている。
    、、、、、、、、、、、、、
 だって恋は人類が生きるための智慧であるからだ。

 でもどんな夢見たことのなかにも、心のなかにとどめておいたものの中にも、
 必ず現実の出来事には思われないようなことがある。
 たとえば、わかりきった温かく息をするという行為、膚の白さ、
 赤い髪、それらひとつひとつが絶妙のバランスをとりながら、
 誰かのためではなく、自分のために存在しているように思える美しい女。
 
 どんな古い物語や古い夢の中にも、
 どうしてか胸に残らざるをえない何かが存在する。
 そしてそんな時、人は確かに詩人になるのだと思う。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 奇跡は常に傍になければいけないから、
       、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 何故なら人は自分がいつも何処にいるのかを正確に理解しているわけではないから。

 「ねえ、シード、後で魔獣召喚をやってみようと思うの、
 手伝ってくれる・・?」

 ようは、魔獣と契約をする―――。
 召喚魔法の心得があるのだろうか・・。
 ソリアがはにかんだ顔をする。
 驚くべき風のように腰を動かす、言葉は七・六二ミリの弾丸。    
      、、、、、、
 さまざまな心理的な要因がある。
 てのひらに蹄の音がする、河のように流れる秒音・・。
 なにか言い知れぬ冒険の一歩前に立っているような気がする。
 ピグちゃんじゃないけど・・。

 「その、シードの足手まといにならないように―――」

 白魔法使いが召喚魔術を修得するというのは、確かに効果的だ。
 (たとえばそれは有酸素運動のように、GABAやセロトニンの分泌量を増やす)
 [筋トレによって脳の成長因子が作られるという報告もある]
 ―――変化は、奇妙な昆虫の軌跡を追っている。
 そういうことなら、いざという時は追い返すなりしてやろうと思う。
 
 「・・・・・・」
 (でも、そういう期待はしていないんだ―――)
 と一瞬言いかけて・・やめた。
 あんな『脅し文句』の後に、“スキルアップ”をはかるなんて見上げたもの、
 点けっぱなしの テレビみたいな 、表情・・
 、、、デイ、、、ドリイィム、、、      
 ・・反転―――斑点・・
 [ブラックオパールの遊色効果]
 ―――自分のことを自分で何とか出来なかったら、旅についてくる資格はない・・
 
 でも女のいけないところは、『鼠に悲鳴をあげる』くせに、
 『狼にも笑いかけたり』することなのかも知れない。
 平凡な筋書きで女は仮面をかぶることができる。
 美しく装うことで、また自分が愛されていると気付くことで、
 女はとんでもなく魅力的な生き物になる・・。
 そしてどこか遠いはるかな所で鈴が鳴っているように思えた。
 それが、ソリアの足取りを飛び石を渡るようにさせる。
 
 「ねえ、好きな食べ物とかあったら教えて。」
 「―――どうしてまた?」
 「その・・・すごく真面目な話、
 いまの私にはシードの旅に参加する資格が、
 全然ないのがわかるから。」
 
 ―――だから料理ぐらいします、ということらしかった。
 
 「第一に、お姫様というだけでも、旅は楽になるんだ。
 第二に、白魔法使いの回復係というだけでも戦闘は楽になる。」
 シードは正直に答えた。

 「召喚魔法なり、食事係なりはおいおいの話でいいんだ。
 もし気にしてるなら・・・」
 「私―――シードのことが好き。」
 あんぐりとしてしまう。
 いきなり直球っすか、ソリア氏。
 それはリルケの抒情詩で、
 それはヴェルレーヌの十四行詩。

 きずつけることも、うばうこともしない、だから―――、
 ゆめみているだけの・・ことばは、うつくしい・・。

 ・・・・・・いつか“暗い建築の陰影”を知るよね、
 いつか“甘い言葉の内側に潜む安逸や怯懦”を知るよね、
 いつか“人を好きになることに臆病”になるよね、

 素直で純粋な心の休み場所を探して、
 君たちはぼんやりと世界を築いてきた―――。

 でも世界はうろたえるほど、したたかに、
 動かない気持ちと動く気持ちを決定的に変えてしまう・・。

 誰かに自分の気持ちを伝えようとした、その瞬間から・・。

 「・・・でも好きだから旅をしたいとか、料理する、召喚魔法やります、
 というわけじゃないの。」
 「・・・・いや―――あの・・その・・・」
 「好きだけど、ピグちゃんがシードをエルフにしたいというのも、
 私、ちゃんと考えたの。一夫多妻制が望みならそれもいいと思うの。」
 もうついていけない、とシード逃げたくなる。
 価値観や考え方や嗜好があわないというわけではないが、
 このまま放っておいたら、十八禁指定の性欲処理に、とか言いそうだった。
 
 ピグに歯がゆいと言いたかった。
 もうソリアの前から逃げたいんだよと正直に打ち明けてしまいたかった。

 ―――だって彼女は真っ直ぐ、顔を赤くして、見つめてくる。

 「・・・・・・でも好きになってとかいうことでもないから。
 ただ、はっきりちゃんと言っておかないと、後々面倒だと思って。
 それに、この気持ちは変わらないだろうな、と思うから。
 ―――私はあなたの顔が見えない時から、何だかよくわからないけど、
 好きだった・・これはきっと、私とあなたの間に、
 何かあるからなんだと思う。でもそれは―――私じゃない私で、
 でも私じゃない私もやっぱり、私の一部だと思うから・・」

 [シード・リャシアット]
 (昔の彼女は、気弱で、自分の気持ちも言えない子だった)

 やばい・・。
 ソリアの真剣な眼を外した。
 油断してたら―――呑まれそうになる・・。
 洗いざらい全部話してしまいたくなる・・。

 「どうして白魔法なんだろう、
 どうして勇者の話に興味を持ってたんだろう、
 色んなことを考えながら、
 長い間ずっとフェアじゃないなと思ってたの、
 私は私よ、第一王女で、娘で、一人の女で、
 シードが言うみたいにじゃじゃ馬で、
 多分世間知らずで・・・」

 あれは、と言おうとして・・。
 でも、とソリアが言う。
 「不可能」はすなわち『不能力』だろうか――。
 でも困らせる ・・うつろな 微笑と 、恍惚の 不釣り 合い ・・・
 (まだわからないのかい・・)
 ―――空気のラビリンス、
 『君』は『僕』さ――。声が止んでいた・・。
 いま 、いくつもの 層をくぐって 、温度を 孕んだ 、
 眼蓋、深い記憶の淵に陥ちこんだ、
 卵型の車輪、いまはひとすじの奇妙な線・・。
 形のあるものが 壊れてゆく 格納庫・・・。

 「でも―――シードに会って、人生の謎が解けた気がする。
 ああ、私は長い間すごく後悔していたんだって・・」

 [シード・リャシアット]
 (心に一番近かったはずの彼女が、何故かいまは一番遠くにいる。)
 
 「・・・シードと長い旅を始める前に、二人きりで、
 この話をしたいとおもっていたの。その・・ピグちゃんが聞いたら、
 こいつ誘ってるな、と言われると思えたから。」
 ながしめ
 流眄―――。アンニュイな表情・・。
 花あかりによろめく蝶のまぶしさ
 長らく忘れていた気持ちが胸の中に溢れかえる。
 男と女とのあいだにだけ生じるある種の緊張感、
 ミステリアス・・。
 ソリアは長い間、色んな異性に堂々とこんな意見をしていたのだろう。
 それは頼もしくもあり、ひたすら文明開化さながらの進歩的で、
 自分に は ち ょ っ と つ い て い け な い と こ ろ が あ る け ど 。

 「―――女というのは不思議なものだな。」
 「性差別。」
 (女性は、すべてモナリザであり、
 ベアトリーチェだという言葉があるが、)
 ―――否定の調子を寓する霊腕。
 
 [ギディオン=ソリア=チャリントン]
 (だからいきなり、クリティカル攻撃するのはやめて。)

 「・・・どうしてそんなに美しくて、
 大抵の欲しいものなら何もかも手に入るのに、
 わざわざ危ないことをするんだ。」

 //“栗鼠の着ぐるみをしているつもりだった妖精”
 【scene《唇科植物》】
 き  ひ
 没える太陽・・・・・・・・・。

 ―――栗鼠がよいしょといった。
 、、、、、
 ピグだった。
 (欲望の楽器、玉虫色のランプ、水晶の踵・・)
 ソリアが眼を丸くしている。
 栗鼠の着ぐるみをしたピグ・・。
 「ヨーセー、カ?」
 (心を楽しませるような骨董品をしまいこむための便利な隠し場所)
 長く振った尾はしかし全然何の音も立てず、
 針金の綱渡りをするみたいにソリアの前へ行く―――。

 「でもソリアが真面目に言ったら、あたしは、
 馬鹿なことは言わないよ。」と言ってから、
 
 「―――でもそれはご主人様、愚問です。
 真面目な女ほど、移ろいやすいってなもんで。」
 

    *


 こんな話がある、
 こんな話がある、
 
 「―――昔の話だが・・」

 村が兇暴なアウルベアに襲われて、両親が死んだ。
 約240センチ、体重は約680キロ―――ホッキョクグマに比肩する数値・・
 (アウルベアは梟頭の熊の姿をした凶暴な魔獣。)
 [蚊の鳴き声][広口壜の中の蛇]
 ―――でもそれはともかく、
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そこにいる人間の空気が完璧に氷った。
 え?
 
 “普通ではない”―――それはつまり、少なからず『異常』だ・・。
 ピグちゃんの顔が強張っているので、あんまりこんな話をしないのだろう。
 けれど、もちろん黙って聞くしかない。
 
 けれどこの反応はシードの望むところではない。
 いま だって ・・
 ゆき当たりばったりで、言葉を切っただけ・・、
 こんな話をしてもソリアやピグは退屈するだけではないか、と思ったからである。
 ―――しかし大きく見開かれた眼差しは、覗き込むようにして次の言葉を待っている・・。

 (暗く、凶悪そうに、どんよりと澱む、寡黙な男の俯く顔)
 ・・・だから昔話は嫌なんだ、とシードが言った。
 言いながら、相手の横顔をつくづくと眺めた。
 いつもよりか顔色が青いように見える・・。

 腕を組み、鼻から深い息を吐いた。

 胸がつまるような息苦しさを感じ、こんな話をしなければいけない運命を呪う。
 心を保護する粘膜がやぶけ、血が滲み出そうとする・・。

 シードは淡々と喋る。―――心の中の餓えがつきまとった焼け跡の記憶、
 、、、、、、、
 つかまえどころを提供するアウトサイダーアート、
 モツレテ・・イル・・・。
 ナミウッテ・・・イル・・・。
 “黒い網―――針金細工の神経・・”
 ずしりとした重いベースのような声・・。
 蝸牛色の吸い取り紙―――。
 オーバーラップ・・・する――
 >>>止まっていた時間のフィルムが回りはじめる。
 とてつもない実力とそれに似合わない淡々とした発言が、
 鮮やかな対比をなしている。
 こころせわし わるくちや
 心急き批判者・・。

 「両親が亡くなったことで孤児院に入れられた。でもそこそこ楽しかったよ。」
 やきもき 
 焦慮して口出しをしている、というところだろうか。
 ―――そこで強制される過酷な戦闘訓練を・・とピグが言った。
 「いや、何もしていないよ。」
 ―――じゃあそこで改造手術を受けて・・とピグが言った。
 「お前、俺のことをどう思ってるんだ。」

 不本意ながら起こってしまう、他者は言うことをきかない、
 つまり他者なしに自立した言葉はないがために・・。
 すかさず、ジャンピング・・、
 ヘイヘイ! 不思議なアイテムをつかみとるのだマリオブラザーズ!


 だがピグちゃんではないが、孤児院と強制労働の話・・
 兵士育成機関となっているという話は伝わっている―――。

 (同性愛者嫌悪プロジェクトみたいに・・)
 山口県下関市にある巨大なコンクリチューリップ・・、
 『過去の不祥事』など振り返りながら、
 『出口の見えない複雑な構造』に行き当たる。
 、、、、、、、        、、、、、、、、、、
 はっきりしない彼の頭では今日もひどくこんぐらがった問題であるのかも知れない。

 「剣を手に取って、二年で村で一番強かった大人を倒せるまでになった。
 自分には剣の才能があるんだといい気になって、
 モンスターの出没地域にいった。」

 少年時代のシードに受け止めきれなかった、地獄絵図。
 風物は蕭条、一種悲寥の面影を眼前に述べている・・。
 両親を含む二十三人に被害が出た小さな村の事件・・。
 一刻一秒と引き延ばされてゆく不安な一瞥の正体。
 忌まわしい、呪われた、最後の雅びやな一旋回でなぎ鎮められる血と肉と骨の展示会・・。
 連続と非連続、類似と差異、反復と変遷・・。
 ―――頭部のない父親、上半身と下半身が切断された母親・・。
 [自然の傾向に逆らって無理矢理一つの方向に向けようとすれば、]
 (たちまち不具になってしまう・・、)

 ―――荒々しいタッチで盛り上がる家の壁・・。
 ―――昼間―――昼間・・・。

 1、斜めの壁のなかへそのからみあった影はゆらゆらと溶け込んでいた
 2、一つの拡声器の増幅のように急に高まり明瞭になった、血

 、、、、、、、、、、、、、、、、
 遠景に血だらけの女の人が寝ていた。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 それを見ている蝋人形じみた白さの美しい少年。
 、、、、、、、、、、
 祭儀的韻律の拍車蹴り。

 茫然自失―――閑話休題・・。
 誰かが言っていた。
 あれのこの上ないご自慢の爪・・。

 カミハ・・ヒトヲタメス―――モノ・・・・・・。
 ゼンリョウデモ・・ココロヤ・・タチイフルマイガウツクシクテモ・・、
 ツメタイ―――ヌケメナイ・・・ヒトガ・・・イキノコル・・。
 >>>多事なる生涯の千変万化の最初の結晶
 (―――神のたなごころにおどる一匹の蒙い猿・・でも、)
 マニー・パッキャオの踏み込みが必要だ。
 昆虫の触覚のような手首の律動・・。
 “大きな鉄の心臓を持てなかった、弱い、等身大の、小さな、人間”
 仮説を立てる、実際に実験で確かめようとしてみる、失敗する、
 なぜ失敗したのかを検証する、再度仮説を立てて実験してみる──といったサイクル・・
 、、、、、、、、、、、、
 腕試しをしてみたくなった・・。

 ちいさくて・・・それにほそくて・・・ふっくらとしたソリアの綺麗な手・・。

 ―――職業的蓋然性と運命の悪戯、青銅の装飾をされる眼球、
 それは、かつて聞いたファーコートの化け物のような、
 、、、、、、、、、、、、、、
 アウルベアの唸り声を聞いた耳。
 暗い出来事の中ではしゃぐこと、楽しむ術を知らない、小さな、子供。
 猪突猛進・・直情径行―――。
 あの日の悲しみ・・あの日の苦しみ―――。

 「ご主人様のカッコいい話もいいけど、
 ソリアが少女時代ちゃんばらごっこをしていたという話の前では!」
 「・・・何処で聞いたの?」
 「ウィズ!」
 「ウィズか―――フフ・・」
 、、、、、、、、、、、
 笑いの動機を持たぬ笑い・・。

 思い上がりだけで全部わかった気になってる、
 そして、すべての審理の終りを告げた。
 嗚咽とも怒号ともつかない叫び声をあげたときから、
 この『副次的な自矜心』は生まれている。
 、、、、、 、、、 、、、、、、、、、、、、、、
 それ以上に、億劫に、なにかに魅せられている気持ち。
 鉤針に引っかかった蛙―――。
 虚しい生き物・・。
 ―――玩具のルビー玉の瞬き・・。

 [選択肢が現れる][四択][アウルベア問題]
 (遣る瀬無いフラッシュ・・・とか――)
 1.アウルベアを血祭りにあげる。
 2.アウルベアに敗北する。
 3.アウルベアに「熊ですか? 梟ですか?」と聞く。
 4.アウルベアと童謡『森のクマさん』をノリノリで歌う。

 確かに下級モンスターになら勝てた。
 [スライム、ビッグスパイダー、ゴブリン・・]
 は     なま いさぎよ       つぼみ
 張りがないと懶ける、屑しともしない、だから莟のままですでに虫がつく。

 ふっとソリアはシードを見ながら、この人が武器屋や防具屋をやったり、
 冒険者になったり、料理人になることだってあったのだな、と思う。
 事業承継や事業再生のタイミングにある会社を安く買うみたいに・・。
 右は濃く、左は薄い森の表情・・。
 森の縁のツル植物が絡まりあっている部分は―――マント群落・・。

 シードのような“モンスター孤児”はけして少なくない。
 いつの時代もそうだろうが、子供たちが幸せになれるように、
 願わくば・・この森のように大事に守っていかなければ―――。

 (神の溜め息に感謝する場面、だ―――)
 でも、アウルベアに遭遇したら、剣を折られた。
 勝つどころじゃなかったな、死が隣りあわせ・・。
 高邁な内容と奇妙な対照―――正義に眼がくらんだ・・
 決められた法則に従って動く星座に感じる原理の崩壊・・。
 何百人もの小人がほうきで頭の中を掃いているのだ、そうとは知らずに・・。
 世界の終わりを綾取りの糸のようにまさぐろ―――う・・
 ―――『(魔法)』を手に入れたとして――も・・。
 天文学の雰囲気を承認することができない、貝・・。

 「鋭い爪で引っ掻かれ、樹に何度もぶっ飛ばされた。
 美学の発展も、復讐のエポックメーキングもないさ・・。
 頭が悪すぎた・・」
 
 (シードの先走りを、ピグは何となく理解できる・・)
 ―――でもソリアには、余りに突然の殴打・・。
 ここから、あなたのきもちはみえない。
 ここでは、あなたのきもちがとおすぎる。

 でも“優しさ”―――憐れみにいりじまったものに対する『軽蔑』を・・だ。

 「ぼこぼこに、のされたよ。がっかりだろ?
 がっかり、なことがこの手の話だ。教訓なんてそんなものさ。
 いや、古典的な正義なんてそんなもの。
 絶望的なまでの腕力差、剣もガードしている内に折られた、
 想像を絶するほど怠惰なヴァイオリン弾き。
 いまも全身に残っている深い傷はその時のもの・・。」

 黒塗りの鞘を払って引き抜いた少年剣士の顔―――。
 十何年を経たいまでも眼の前にありありと甦る自分の出発地点・・。
 苦悩のなかでも、
 若い自分が危難の道を越えた栄光の荒地へと導いた予感を忘れない・・。
 ―――本の表紙は湿気で傷み、古い羊皮紙には青かびが吹く・・。
 歴史の事実は歴史という事実の理性のただなかに、存在する。
 そこに深くかかわり、具体的にとらえ、
 暗闇の中に幾筋かの光明を見出そうとする。

 思想家は馬鹿者であり、空論家。
 亀のようなのろまな考察を呪って、鷹の翼に憧れる、
 彼の信条、彼の題目・・。

 「気絶しないように、気力をふるいたたせ折れた剣を握って、
 立ってた。正直、足がガクガクして、みじめだった、
 でも、失望の梯子もない、ただ砂漠の切符があるだけさ。
 本当に少しの、聡明な張り出し窓があったら、
 驚異を目的とする天才剣士の物語は始まったかも知れない。
 崇高な精神、不屈の闘争本能、いいね、快楽段節法・・。
 ―――でも、俺は蟻だ、蜘蛛だ、ただの夢見がちな馬鹿だ。
 落ちる物体の影のような攻撃を何千回も受けながら、
 本当によく生きてたと思う―――。」

 高く飛ぶことのできる記憶の鳥でさえ追っていけないはるかな高み・・。
 犬もたまげるほどの吠え声、
 ・・・声も・・・・・・言葉も・・・・・・・・・割れる器だ・・・・・・
 一向に疲れを見せないまま繰り出す鋭い爪・・。
 抱きつかれたら一巻の終わりだから距離と間合いを意識する切れそうな集中力、
 、、、、、、、、、、、、
 相手のレベルが違い過ぎた―――。
 、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 眩暈が、シャボン玉のように見えるあの感じが襲った。

 しろうとに・・けがはえたていどの―――やつに・・なにができる?

 青写真の書き直し、孤独な傾いた無縁塚。
 、、、、、、、、、、、、
 歯のない人間のような空腹―――。
 それらはあたかも力の作用によって大なる中心の一塊へと突進するかのように、
 伸び拡がっている―――雑草が、一つの中心のまわりの軌道回転であるように・・。
 ゼラチンの固まる時を待つような未来への暗示。
 でもとりあえず、疲労だけがその時の唯一の感情。

 「・・・傲慢な人間が無能力な蝶番を廻したところで、
 喜劇しか生まれない。そうだろう?
 気が付いたらアウルベアは消えていて、
 自分は蹲って寝ていた・・全身ひりひりしていたよ、
 動かすと背中や腕に激痛が走った、血だってドバドバだ、
 生まれてこの方、あんなに馬鹿なことをしたことがなかった。
 アウルベアは、いい奴だった、
 腹が減ってなかったのもあるんだろうが、こんなアホを認めて、
 見逃してくれたのさ―――。」

 メッセージは織り合わされて情報の網となる・・。
 “音”と“影”の効果。
 曲がりくねった、歩きづらい道にいる、少年時代のシード―――。

 運動の第一法則――運動の第二法則――
 ・・・・・・運動の第三法則――・・

 「いまになってみれば―――わかる・・。
 あいつはただ腹が減っていたか、人里におりてむしゃくしゃしていて、
 たまたま両親を殺しただけだった。美しいものだよ、そういうのは。
 ―――俺が正当性や大義名分を持ち出すよりも、ずっと・・。
 折れた剣を杖がわりにして、三倍ぐらいの時間をかけて歩いて帰ったよ、
 でも、教訓だったんだろうな、一度も、モンスターに遭わなかった。
 ウェルテル、これが美しい空気というものだろう?」

 空想力の枯渇・・。
 音は少しも流れず、硝子の破片のようにとげとげしい時間・・。
 、、、、 、、、、、 、 、、、
 こういう、かんじょう、が、さむい。
 他人と共感できない地獄、視覚を訪問するパンチンググローヴ・・。
 現前化する記述・・。
 破損した風車の饒舌・・。
 シードの悔しさはいかほどだっただろう・・。
       こごえ
 ひっそりした低声が、彼の心の中の冷たい雨を語っている・・。
 欠けた月のおぼろな光のような、在りし日のシードの俤・・。

 することなすことに意味を失いながら、
 その時ぐらい、遠くのものを見ていることがなかった。
 泣きたかった。
 でも気懊しさがしゃべらせなかった。
 すべての些事に対する無関心さながらに無力は心を蝕んだ。

 「その時に、骨身にしみて思い知った、力がすべてなんだって、
 弱いってことは駄目なことなんだって。」

 ヘヴィーすぎる人生。
 (でもこんな時、蝶の軽い羽ばたき・・)
 ピグが、シードの頬にキスをしている。
 、、、、、 、、、、
 おじぎそう・・すいれん―――。
 ―――唇はberry・・・集合果・・

 酔っぱらったような・・しばたたきの―――モード・・
 その後、シードが人差し指でピグの頭を軽く撫でている・・。
 ***そこにあるときめき、瞬間の虹
 (あ、いいな、と思った。)
 ・・・彼等は口先ではともかく・・お互いのことをとても愛していて、
 ・・・・・・・・・愛していて、愛していて、

 ―――[「嫉妬」した]

 ―――でも、そこには、不安定なシーソーはなくて・・。
 『優しさ』とか、『親愛の意味』が読み取れた。
 ひかりやおんがくのなかの―――ゆめのようにきえずにのこっている、なにか・・
 、、、、、、、、、
 ずっと傍にいるから、という意味合い。
 (耳)と(眼)と(全身)の分割・・・。 
 ―――木星のまわりをめぐる衛星・・なん―――だ。

 一日の九割以上ふざけているような・・ピグちゃんの、
 残り一割を占めているのは・・、
 あるいはその九割をも―――占めているのは、
 シードのこと・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 驚愕と興奮に彩られた悲劇のあとの晴れ間・・。
 それは・・・・・・眠たくなる映画を、
 それでも知らずに刻み続ける腕時計――――――。

 横顔は囚われた夢の間を泳ぐ不安な魚のように見えた。
 中耳の鼓室と咽頭腔とを結ぶ通気管を想像させる・・。
 忘れられない記憶の中には、
 神の壊れた宝庫、餓えた時計の顔、大きな青い椅子。
 彼のスタートラインは剣を握った瞬間から始まっている。
 最初は弱く、情けなく、不甲斐ない自分をかかえていたのだろう。
 、、、、、、、
 危うげな羞笑い・・。

 うまごやしもかれ、にれやかわやなぎの―――はも・・おちつくした・・・、
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 シードの瞳に見られる強さの向こう側―――。
 
 「本当に勇気のある奴なんて何処にもいないんだ。
 勝ち負けとか、ちょっとした興味とか好奇心とかで死んでも、
 何の意味もない。そこで終わりなんだ。
 ―――仮に俺がやられた時も、逃げなくちゃいけないんだ。
 ソリア・・このことを絶対に忘れる―――な・・」

 私は肯きながら、それでも、
 ふいと何か考え出したように黙り込んで、
 なおもそういう眼で見る私から眼を逸らし続けているシードを疑った。
 彼がこうやってそういう話をするのを訝しがった。
   メテンプサイコーシス
 見よや 輪 廻 の驚異・・。
 個というのがあてがわれた自分の役割を演じることでしかない。
 その通りだ、だから、彼が何を意図してこの話をしたかはわかる。
 ウッドブロック
 打楽器―――。
 彼が誠実な人柄なのは疑うことではないが、
 彼の強さに潜んでいる心配性な表情はまだ何かを語っていない気がする。
 (時折、心が乱れて、センチメンタルに他愛なく涙を流す自分の直観・・)
 ―――まだ、現実から遊離し、刹那に生きる者の空想的な観察。
 [でも温室育ち、十八歳の彼女にその情報は与えられない]
 、、、、、、、、     、、、、、、、、、、、
 あることがわかるのと―――あるのとはまったく違う・・。
 ―――そうすると反対に面白く見えてくる、
       、、
 その気持ちがものになりかけてくる・・。

 「じゃあ、ピグ、ご飯食べに行くか。」
 「私も行くわよ。」とソリア、起き上がる。
 
 と、そのとき、頭上に巨大な雲が差し掛かったように暗くなる。
 つむじかぜ
 旋風がひょうひょうと鳴りだせば、雲が散る・・。
 映画のスクリーンの平面の上に写し出される、
 竜の通過・・。
 火焔息を吐く巨大な空飛ぶ蜥蜴・・。
 (ラッシード王国の守り神でもある・・)
 確かにこちらを見たような気がした。
 (―――シードはしかし竜に興味はない・・。)
 ・・・もし、竜が魔王軍の一員であったのなら、別だったが。
 
 「ピグもあれぐらい大きくなればいいなあ・・」
 「それは無理です。」
 

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