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かもめ7440

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 「ここで待っていて。」と押し込められた部屋。
 図書室らしい。
 ―――これこそ文化だ、自己改善だ、とシードは思った。
 
 本は退屈と戦うためのものであり、
 世間の人間はそれほど物を知らないと気付くためにある。
 穿った物の見方というには、さして人生には必要のないようだ。
 きわめて高い経済力を土台とした、専門性というルールの名の則って、
 『豊饒という名の剰余な知』を生み出す。
 彼等は彼等における読者や研究者に読んでもらう・・。
    、、、、 、、、、、、、、、、、、、
 ―――犬だって、猫だって言いたいことがある、そういうことだ。

 昨日の考えを棄てて生きている僕等に、
 あるいは自分の中の必要な作業として書かざるを得ない彼等の声・・。
 その昔、本が理想を与え、薫陶し、希望を与えてくれた時代とは異なり、
 この手の本にはやれやれ、もう多くのすれっかしらが詰まっている―――。
 
 それでもこの手の本は[研究や好奇心や学問という名の「無意味な発見」]がなければ、ただの一つも生まれない。廃人らしい人々の生活に拍手を送ろう・・。

 きみが・・・みているのはつまり・・・そういう―――ほん・・。

 書架には高価でとても手に入りにくそうな類の『専門書』や『百科事典』が並ぶ。
 ついぺらぺらと捲ってしまう・・。

 シードの前には世界地図がある。
 その世界地図を、ピグが物珍しそうに眺めている。
 『文化の総合的産物』『文字よりも古いコミュニケーション手段』・・。
 (日本の世界地図よろしく、自国中心ではなく、)
 [経度0度が図の中心に位置し、西と東に向かって数値が増える対称性の地図。
 また歴史的にも国際的にも権威のある地図・・]
 地図の具備すべき条件として、
 (1) 距離 (2) 面積 (3) 角 (4) 形の正確さ (5) 明白さ・理解しやすさ
 ・・・・社会が発展して国家が誕生すると、
 『土地の耕作』や『用水路の建設』など、行政のために地図は欠かせない。
 争いが起これば地の利を活かす必要があり、
 軍事面でも自国や敵国の地形を把握することが重要となる。

 でも『細い路地まで網羅した詳細地図』ならば、シードも眺めたかも知れない。
      、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そこには、通行していた道にどんなロマンがあるかを教えてくれる。
 [都市計画があり、前述したように、迷路としての軍事的な意味合いがある。]
 (建築家がいて、土地の購入者がいて、
 通路の名前の由来、橋の名前の由来がある)
 、、、、、、、、、、、、、    、、、、、、、、、、、、、、、、
 あまり使われないさびれた道があり、誰が見ても面白くないつまらない道がある。
 でもそこに『サラマンダー』が走る、
 『馬車が一日何往来する』と付け加えればどうか。
 様々なアイディアがある、たとえば雨宿りする人は何処に集中するか・・。
 これは統計やマーケティングとしても使える。

 (インドアにはインドアの楽しみ方がある、)
 細い路地まで網羅した詳細地図のさまざまな場所に、
 番号を振ってルートを作って、そこを歩いてみるのも楽しい―――・・。

 いまはどういう店が人気で、年齢層はどういう具合に集中しているか、と―――。
 空想のチェスさながらに、人を駒のように置いてみるのも楽しい。
 >>>クッキーモンスターの髪型の女性が、ギルドに現れたら面白い。
 ありとあらゆるものをゲーム化するという視点では、である。
 よく見ればスケジュール化されたものがあり、
 機能的というのはつまり機械的だとわかる。
 (【往復34キロ】10時間歩いて通勤する56才の男性もいるが、)
 でも『初歩的な視点』をけして忘れてはいけない。
 そこが鍛冶屋で、そこが道具屋で、武器屋で、アイスクリーム屋であるということだ。
 分布予測、人口の増減や密集・・。
 ―――何が言いたいのかと言えば、
 ありとあらゆる『知識の根源』には“地図という要素”があるのではないか、
 ということである。

 ―――逆も真理、地図という要素さえあれば知識になりうる、と。
 また、地図こそがすなわち【神の視点の象徴的な表現】である、と。

 地理空間情報・・・。
 マッチャンティ海岸というリアス式海岸のある【海の王国クセニア】に、
 ・・・船を座礁させる魅惑の歌声の人魚の伝説、在りし日の幻獣リヴァイアサン、
 リュボフ大砂漠のある情熱と音楽の【砂漠の王国シュパード】
 ・・・失われた砂漠都市の伝説、在りし日の幻獣フェニックス、
 そしてカルステン雪原のある白夜のたてごと【氷の王国カシリ】に、
 ・・・氷の奥底で眠る原始生物の伝説、在りし日の幻獣シヴァ、
 ここ、ダーヴィド山のある屋根裏の哲学者【火山の王国ラッシード】
 ・・・動く古代遺跡の伝説、在りし日の幻獣ドラゴン、
 これらが四大王国。ばらばらに東西南北に散ちらばっている・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 世界はとてつもなく大きいが架空である。
 精神がすでに一つは天の南にあり、一つは地の北にある。 

 ―――ボ ウ ケ ン シ ャ タ チ ハ ・・ソ ノ ・・・
 “カ ク ウ ” ト イ ウ ・・・ネ ツ ビ ョ ウ ニ カ カ ル ―――

 天上天下唯我独尊の戦国絵巻がつくった流血の報酬、民族の攻防、
 自由と開拓、次に向かうであろう魔法図書館もある、
 【遺跡の街ホルスト】から、
 優秀な武道家を輩出する【アンテルム公国】を見た。
 険しい道のりで知られ、ヴァジャノブ大峡谷があり、大きく迂回するのも手だが、
 ご主人様に限って、そんな卑怯で姑息な道を通るわけがない。
 (大魔王を倒すための仲間探し。風の噂で、
 すさまじく腕が立つ奴がいるとシードは聞いて、目的地に追加したのだ・・)
 
 「手っ取り早く、王国で傭兵や冒険者を探さないのが、
 ご主人様らしいよなあ・・」
 と、ピグが言う。
 ピグ的には、かなり珍しくストレートに褒めているのだが、
 シードは残念ながら、本に夢中である・・。
 でもご主人様が集中している時の邪魔はしないのが、ピグの約束である。

 でもピグはこの土地についても、他の土地についてもあまり知らない。
 せいぜい、この国と周辺国家の名前、大まかな地域くらいの知識だ。
 、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 でも誰に責められる、エルフの彼女に何故そんな知識がいるのだ。

 (シードならこれぐらいのトリビアを口にするだろうが、)
 現在のラッシード国王が婿養子で、他国との政略結婚だとか、
 あるいは月の女神であるアルテミス教団の信者が一番多いとか、
 そんなことはもちろん知らない。
 ラッシード牛が有名なブランドだとか、
 (ついさっき知ったうさぎダービーが名物であるとか、)
 ラッシードは温泉施設が多く、卵料理が有名であることも。
 また、こんなご時世でも有名な登山家を輩出する国であることも。

 ぱたぱたと羽ばたきながら地図に近付く・・。
 そこには不思議に静かな感動が拡がっている・・。
 「ここがあたしの森か。」

 ―――ピグが生まれ育ったのは【ギヨ=プーサン大樹海】
 ふっと帰りたいな、と思うことがある。
 自分の種族と一緒なら、もしかしたらもっと楽しいかも知れないな、と思う。
 植物にはきれいな水飛沫がかかっている光景が眼に浮かぶ。
 埃や土のなかで等分に混ざり合い乳状液になった夕方、
 風が石の下に吹き込み、藁や落葉を巻き上げ―――る・・。
 けれど、ピグは大魔王を倒す、その日まではシードの傍にいようと思う。
 
 ―――人は勝手なものだ。英雄も、掌を返される。 
 エルフ転生というのも、本気だ。
 子づくりしたいというのも、本当だ。
 でも、一番は、シードがそんな人間たちに傷つかないように、
 という気持ちからだ。

 「もう、あれから二年も経つんだな・・」

 ふっと、シードが顔を上げる。
 誰かに見つめられたような気がしたからだが・・。
 (いくらかの保障に対する餓え、成長し働き創造したいと熱望する筋肉と心の、)
 ―――人間の機能を超えた魂の疼き、思想の枠を超え、
 なしとげたものの彼方にあこがれるもの・・
 椅子やテーブルにたまった―――花粉・・。
 ―――そんな光景が、ゆったりと煙のように立ちのぼ・・る・・・。
 さみしくないか・・。
 さみしくないか―――。
 つらくないか。
 つらくないか・・。
 そこには、カメラと呼ばれる魔導機械で撮られた、
 少女時代のソリアがそこにいた。
 笑っていた。
 ますます大きくなってゆく感情の皺の亀裂と中央部へひそんでゆくもの。
 どんな不幸や悲しみでも決して耐えられないことはない、柵のいただき。
        、、、、、、、、、、、、、
 でもそんな時に人の唇は歴史的に渇いているのだ・・。
 ピグは感傷的な表情をするシードを見る。

 、、、、、、、、、、、、
 メッセージをタッチすると、
 すぐにウインドウは消えた。

 さみしくはないよ、そこには誰もいない世界・・。
 誰かが何を思っていたとか、誰かがどんな生き方をしたとか、
 そんなこと、何一つ、そこには残っていやしない・・しないんだ―――。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 火を点け燃えている燐寸を土の中へ押し込むように、
 ふっと、ヒースとのやりとりを思い出す。
 あちらこちらで勝利を喊ぶ、騎士団の声。
 賊は念入りに縛り上げられ、兵舎の前で事情聴取されている。

 賊のリーダーと思しき男に、聞く。
 微妙に試すような調子をこめ、質問の網をひろげ、罠にかけようとした。
       、、、、、、
 ―――だが、なしのつぶてだ。
 依頼人は知らないが、ソリア姫の暗殺を頼まれたと・・。
 服から靴、考えや印象が自動的に浮かぶ―――。
 (穴のようにぽこんと口があいた・・)
 、、、、、、、
 蜥蜴の尻尾きりだ・・。

 「・・・数日前から、王国の密偵に頼まれて、
 不穏な動きの調査をしていたんだ。」
 大通りのそれも、その為だったのだろう。
 一瞬空気がやわらいだ、お互い馬鹿なことをしたな、と思う。
 「どうも雇われ兵のようだな。」と、シード。
 「しかし、きな臭いな、これだけの数を揃えるとなると、
 一朝一夕にはいかない。」
 ヒースの考えは消え去り忘れられるのを待っている計画者を想像させた・・。
 波のように―――やわらかにうねっていた言葉をつかまえる・・。
 「―――まあ、尻尾を出すさ。
 それに、内部に手引きしている奴がいる。」
 「まあ―――、そんなことはもう、
 最初からわかってるんだ。」
 手札を隠してるような口ぶり。
 一匹の亀があてどもなく向きを変えては甲羅を引きずりながら歩くような口ぶり。
 矩形や、正方形、平行四辺形などさまざまな模様が見えるに違いない。
 ・・・でも、その内側のやわらかな皮膚があるなら・・知りたい。
 「目星はついてるのか?」
 時折ファンキーな音色を見せる、ジョー・サンプル!
 ビヴォット
 転回!
 「神官だろうな、お姫様の魔法や発言、
 自由な行動には求心力があるんだ、
 それをよく思わない連中もいる。実際お姫様は、
 神官の面前で批判したことが、何度もあるそうだ。
 まあ、それだけじゃあ、何の証拠にもならないがな。」
 「それはまた・・」

 シードは、ソリアの顔を見る。
 頭から肩へかけてのなよやかな線が風の前の蔓のように揺れる・・。
 瞳に・・・。
 吸い込まれ―――た・・。
 ―――この女の足の皮のかたくなったような表情・・。
 ソリアは、ぷいと顔を背けた。
 設置用ねじ部材、密な織り方、適宜の間隔・・。
 魔法教育を遠ざけているのは、『宗教』だと言ったのだ。
 有刺鉄線のうえにとまった小鳥のようなあやうさ・・。
 また、『ミサの最中に焚いている香りの中』に、
 “古来から中南米諸国の教会や儀式で焚かれている「聖なる香木」”
 (パロサント、と言っただろうか・・)
 [一般的にパロサントの樹液の香りは精神安定の効果をもたらすとされ、
 教会でのミサ、または祭典などのときに香木として焚かれている。]
 ―――そこからとしか思われない信者の、軽い幻覚作用が確認されており、
 それは『洗脳』だと言った。
 浮かび上がるホログラム/走馬灯/天国
 でも有耶無耶になった、神官は王の信頼が厚かったから。
 でも、ソリアは確かにお転婆かも知れないが、
 ―――何の証拠もなく、言うわけがない。
 
 、、、、、 、、 、、、、、、、、、、、、
 腐っている、でも、それが国というものなのだ。  

 国家は宗教と利害を共にしている、そんな発言をしたら、
 こんなことが起きてもおかしくない。
 一目であらゆるものを石に化せしめるというゴルゴンの首・・。
 五十万の人間がそれは悪だと言っても、一億人の人間がそれは正義だと言えば、
 ―――人気のなくなった土地で無数の畝を掘り起こすようなもの。
 (莟のような口許、虫の羽根のような弱々しい呼吸・・)
    、、、、、、、、、、、
 ―――羽根がむしりとられた鳥・・。
 緊張した首の筋肉の塊。
 ただソリアの気持ちもよくわかった。
 自分が同じ立場なら絶対に許しはしない。

 ともあれ、この後、『王様と王妃様と謁見する予定』だ。
 もし、本当に犯人なら、自分に何か仕掛けてくるに違いない。
 ヒースの口から騎士団長に『犯人の目星が彼にはついているようだ』という、
 ―――加速する詳細――3D的な表現・・
 、、、、、、
 罠を仕掛けた。
 まっすぐな幹の影が足元にのびていた・・。
 、、、
 こころみたいなものを・・。
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 食事の席でもあれば一服盛ることも考えられるし、
 寝こみを襲われる可能性もある。
 それでも・・。
 規則正しいリズムが揺さぶる。
 、、、、、、、、、
 神官を罠にはめよう、と考えていた。
 自分はこの国を出て行く。
 だからそれまでに、ソリアが幸せに暮らせる手助けをしたい、という気持ちから、
 時期尚早―――階段飛ばしをしている・・。

 白魔法使い・・。
 賢者・・・。
 武闘家・・・。

 もし彼等がみんな転生しているんだとしたら、
 この・・・くらい・・・・・・(広 角 レ ン ズ )
 と、ふっと考えた。
 (――― めまい、ふらつき、さむけ、脱力感、一過性の血圧低下・・。)
 賢者や武闘家がいるなら、助けを乞いたい気はする。
 でも、心の何処かで、もうこれ以上、
 自分のために誰かが傷つくのが嫌だと本当に思った。
 だから・・・そうしていたかった―――そうしたい・・・と・・・思えた―――。
 何も知らないソリアは、それだけで神の恵みだと思われ―――た・・。
 でも神よ、御身は一体どちら側だ?
 、、、、 、、、、、 、、、、、   、、、、、 、、
 蛇よりも、悪魔よりも、あくらつな―――かいぶつの・・過去・・。
 
 ―――二本足だと思ったら・・
 暗闇だ・・・不吉だ、
 ―――四本足が・・・出てき・・・た・・・
 残酷だ・・・絶望だ、
 
 ―――八本足が・・・出てきた、
 そこが絶望の樹海でも、大迷宮の入り口でも・・
 
 マダ ナニカ イウコトガ アル?
 
 遠慮がちに小さな口を開く、
 どこか寂しそうに小さく微笑む・・。
 何かが輝きだすのを待つように・・・いつか、待ちくたびれて呟く・・。
 い た み す ら も な く な る の を ね が っ て・・。
 魂の奥底からの切実な呼びかけ・・。

 ――生 き る こ と だ ・・

 タイヤがワンポイントとなっている類のティーワゴン。
 植物をモチーフにした脚のポット、クリーマー、シュガーポット、トレー。
 カボチャ型になっている。
    、、、、、、、、、、、、、
 それが運ばれてきたのは入った直後・・。
 最初はぜんぜんきょうみなんかないしー、そもそも、ほしくもないしー、
 という、顔をされていたが、
 (でもそれはこの妖精特有のポーズと言えるものだろう、)
 ピグは一分もしない内に、ぱたぱたと飛んで借りてきた猫のようにお上品に食べた。
           、、、、、、、、
 確かに僕等はそこに、かわいいはつよい、と知る。
 『猫耳』や『もふもふの尻尾』や『肉球』のようなものを見た!

 まあ、クッキーなどというものですわ、と言った。
 でも美味しそうな骨付き肉を食べる飼い主に愛のまなざしをおくる犬のように、
 (愛とは何か? それはその時、与えること―――。)
 最終的に喰い散らかして、かすをいっぱいこぼした。
 挙げ句、保存用とばかりに自分の箱の中にクッキーを隠した。
 もちろん、すべてのクッキーは跡形もなく消えてい―――た・・。
 (Did you eat the cookies?)
 ...クッキー? クッキーって何?
 >>>当たり前の犯行だった。
 ―――ピグ容疑者はしかし落ちていたから拾っただけという、 
 無茶苦茶な論理を展開しているが、口のまわりにあるクッキーの滓や、
 テーブルに散らばった盛大な滓から、これはどうも相当美味しかったと思われ、
 後で一枚ぐらいはもらいたいとシード捜査官は思っている模様・・
 けれーどなんとーはなーしにのびにのびきったラーメンのよーおーな!
 >>>それは『共犯』と呼ばれる心理であった。
 と も あ れ 、
 (そこにチョコレートチップ・クッキー、ココア・クッキー、
 ラムレーズン入りサンドクッキー。)
 たくさんの味を楽しんで欲しい・・。
 きめ細やかな配慮。
 ピグのために注がれた、小さな紅茶カップ。
 [紅茶は茶葉を加熱しないで、陰干しさせてからよく揉み、
 酸化酵素による発酵を行ったもの。 紅茶特有の橙赤色と香気成分は発酵過程で形成される。]
 (一日は紅茶に始まって紅茶に終る、
 といわれる英国人の朝はミルクティーから始まり、
 十時と三時にはティーブレイクという休み時間がある。)

 バニラの華麗な風味と紅茶の澄んだ風味の、
 眠気ざまし、居眠りよけ、という足し算の答えのように・・、
 絶妙なコントラストが生みだすフレッシュで香り豊かな紅茶。

 そこに来訪を告げる。ノックが数回。
 三十分後のことである。
 別にシードは待たされたとは思っていなかった・・。


   *
 

 コンコンとノックされる。
 (音と音との間にリズムのない、つづけて叩くという感じのノック。)
 見知らぬ女性だ。豊満な胸に手を添えて会釈してくる。
 一挙手一投足まで優艶さが滲み出ており、それは育ちの良さが全面に反映されている。 
 笑顔であることに間違いはないが、
 その声音には『拒否できない強制力』が働いている。
 銀色の髪の毛を持ち、聡明らしい上品な面持ちをした鶴のような姿の女性。
 やがて心を静かに充たしてくれる上品なやさしい微笑に変わった。
 アウローラの神が桔梗と秋桜と山梔子をまきちらすのを見る心地・・。

 [コルムネア=ウィズ=ティランドシア]
 (何度か見る癖がある人なのね・・・)

 //“人物を観察するのに長けた男性”
 【scene《笑顔を見せない人物》】

 「ソリア様の侍女をしているウィズです。
 どうぞ、こちらへ。」
 (侍女というのは、化粧、髪結い、服装・装飾品・靴などの選択、
 衣装の管理、そしてその他全般の買い物について女主人を補佐する仕事だ。)
 また、侍女ということは、
 ソリアと縁の深い貴族か爵位を持った旧家、名家のはずだ。
 >>>家系図などを捲ればそれで一つの物語になる家
(ただ、基本的にその家の男子が引き継ぐ世襲制であるので、
 ウィズには後ろ盾という意味合い以上のものはないのだろう。)
 ただ、知る人が聞けばそのファミリネームは有名だろう、とシードは思った。

 知的な女性のようだ、温良な雰囲気に快活さ、
 そこに要領を得た言葉・・。
 (発音がハッキリしているが、セロみたいな深い響きをもっているので、
 シードはこの女性が内省的なのかも知れないなとも思った、)
 
 その頃・・・。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ソリアはシードが来るのを待っていた。
 みすぼらしい格好からショッキングピンクのドレスに着替えた。
 うす紅に血の色を透かしたような派手さだが、ラブリーでキュート。
 また胸のパールの刺繍より胸の谷間が異様に強調され、
 スカート部分は段フリルになっていて、少し短いのが気にかかるが、
 デザインにポップ感をプラスしている。
 、、、、、、、、、、、、、
 公式の場では不思議な生き物みたいに見られるが、お気に入りだ。

 どんなに気取っていても、相手は裸の自分を透かし見ている。
 そんな気がする。
 そんな気がした。
 でも『相手に気に入られたいと思う気持ち』と、
 『ドレスを選ぶ心理』はそんな意識のあらわれだ。

 絵画に出てくる天使のような笑みを浮かべながら・・。
 傍若無人に大声でわめきたてる振り子時計の傲慢な無頓着さ。
 一隅に仕切っている大きな鏡。
 生活の匂いのしみこんだような、夢や幻想とは違う、
 しっかりとした想像力と耐久力を持った家具。
 (大好きだった、おばあ様からいただいた、形見でもある・・)

 「どうぞ。」

 ウィズがシードとピグを連れてくる。
 一瞬、シードから値札がついているみたいな眼で見られる。
 でもそれは、ながい禁断の暮らしのあげく人の世に出てきたために、
 この種の慾がとめどもなくなった暗い感慨のなかの光射す楽しみ・・。

 それはきっと、“彼女がいま一番美しい”からなのかも知れない・・。
 薄桃色の上品な花の影がくっきりと水に映っている。
 それが波のゆらめくに連れて、絨氈の模様のように拡がったりする。

 、、、、、、、      、、、、、、、、、
 ではなかったか、と云えば、それらしく聞こえるのですが・・。
 なぜなら――。
 紙縒りを縒る心地・・。

 (奇妙に歪んだり震えたりする・・)
 (眠りの中のやはらかな花弁のリズムでゆるやかに霧が動く)

 何か言うことが何だか自分の運命を決めてしまうような、
 空恐ろしい気持ちが稲妻のように走るのを感じた。
 
 彼女はこう言っている・・。
 声も言葉も、必要がない。

 私の眼を見てください―――・・。

 、、、、、
 でもピグが、
 「おおすげえ、胸あいててすげえ眺め。」と言ってウィズを笑わせた。
 ぐるぐる、ピグがソリアの頭の上でまわる。
 「ご主人様も眼のやり場に困る仕上がり。」
 「もう絶対、今日のオカズに決定。」
 おい、何言ってんだこいつ、とシード思う。
 「さすがお姫様、エキゾチック&エロス。」
 シードが、恥ずかしそうにしている。
 「いいか、おとなしくしろ・・」
 「チッ、」
 と、舌打ちされるヤンキーピグ氏。
 ご主人様でも、それはどうも許せないところらしかった。
 ピグ、カチンときたらしかった。
 横暴には考えがそれはあるらしかった。
 「なあ、ソリア、胸あいてるから胸の谷間に入っていい?」
 「いいけど、どうして・・?」
 「ご主人様を挑発する!!!」

 お願いだからやめてください、とシードが言った。
 ウィズとソリアは、笑った。

 「これから両親と会っていただくわ。
 でもその前に、さっきはちょっとあれだったけど、
 あの、改めてありがとうございました―――
 二回も助けていただいて・・・
 ラッシード王国第一王女、
 ギディオン=ソリア=チャリントンは感謝をささげます。」
     、、、、、、
 最初こそ砕けた喋り方だったが、
 途中から、真面目な調子になって引き上げる。
    、、、、、、、、、、、、、、、
 ―――嘘みたいに呼吸していくその感じ、
    、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ―――頭のない灰色の蛇よろしくの踊る人形の形、
 、、、、、、
 かんがえないように・・したいのに――

 わずかな動作のうちにもやはり、上品さと人を魅了する心の気配がこもっていた。
 ―――原始的な制度の残っている、いくらか真実らしいもの・・
 心は嘘をつけない―――
 フリークェンシー
 周波数・・・
 ドレスの裾を引き上げての戦慄の電流を孕んだお辞儀。
 艶やかに光っている、シードの鼻翼がふくらむ・・。
 
 「おお、さすが、お姫様。」
 とピグが私の頭の上をぶんぶこ飛び回る。
 「ソリア、キレー。ソリア、カワイイ・・。」
 、、、
 ここは、とシードも真面目な調子になる。

 「おほめに預かりまして光栄です。」
 、、、、、、、、、、、、、
 でもこれはすべて伏線である。
 それは支度、通すべきところへの手、足・・。
 はめるべきところへのボタン、靴、帽子・・。

 このままでは、身を引き離すことも、
 空の高みへ舞上がることも―――・・。
 かけめぐるはやさ・・・が―――だんだん・・はやくなってゆく―――。

 「でも、いい加減名前を教えてくださらないかしら。」
 「故あって名前は名乗れませんが、
 その無礼をお許しいただきたい。
 年齢は二十二。職業はありません、旅行者です。」
 、、、、、、、 、、、
 私が十八だから、年上だ。

 >>>本当は少しずつでいい。
 (・・・わかっているはず、彼には理由があるのだ、)
 デモ・・ココロハウラハラ―――
 ガラスヘ・・・アタマヲツッコンダヨウニ・・シン―――トナル・・

 でも都会的な感覚で演出されるコマーシャル、
 ・・・スープが下げられて、メインディッシュ、
 ―――回路の中に永久に組み込まれるボウリング場のある景色。
 ギリギリと歯ぎしりをし、手で机を叩く。
 (えいびんなる―――しんけい・・) 

 い ま 声 を 出 さ な け れ ば い け な い ・・。

 「いいえ! 言いなさい、そうでなければ、
 私はこのラッシード王国の第一王女の名を穢されたと思います。」

 徹底的な逆上で硬直した姿態・・無言の二人・・。
 こんな時、どうすればいい・・の・・・?
 逡巡した表情の後、心底自分を軽蔑するように顔を伏せて、
 ピアノの絃―――岩に噛み付いたような表情・・。
 眉宇の間に決心の色を浮かべ、
 しおから こうさてん
 鹹い雑踏境に、
 グロテスクな毛虫の名前を口にするように気味悪そうに発音する。
 まるで拵えられたレールを一歩ずつ足で確かめながらゆくように・・。

 「シード・・・・・・リャシァット―――」

 私は何か、一瞬眩暈の底に落ちていく蝶のような気分になった。
 どうしたのかしら。
 、、
 でも・・嘘だという気はしなかった、
 突然“転換”がうるさくなる懸念をよそに仰々しくやってくる。
 、、、、、
 だってそう―――それが偽名かも知れないのに。

 「そ、そうっ―――あの勇者と同じ名前なのね・・失礼したわ。」

 ある愚かな両親というのは、名前によって、
 その力を得られるかも知れないと考える。
 ある閃きは無智蒙昧だが、それでも天の導きのように感じられる・・。
 ある賢者の名前、ある武道家の名前・・。
 (でも・・魂を締め付ける、
 薄むらさき色の鈴の音が聞こえては―――こないか・・?)
 そんな名前をつけられた彼が味わってきた苦労を考えると胸が痛んだ。
 でも『英雄』という一回り大きな人格がキャンパスを占拠する。 
 、、、、  、、、、
 はつきりと、なにものかを感じている・・。身を、くねらせて、
 (その名前は悪性の腫瘍、空に乱れる髪・・龍の鱗一枚一枚の冷たさ―――)
 己を犠牲にして他を救い、気の狂いそうな辛さや悲しみに耐え抜く勇者・・、

 ―――その一瞬は、死の世界や永遠の在り方を、
 静かに単調な反復の中にしめした。

 「本当にごめんなさい、シード、シードと呼ぶわね・・
 不躾な上に、はしたない声を出して。
 でも、両親の前で名前を言わないわけにはいかなくて・・」
 
 さっきの鬼気迫る表情はそうだったか、と得心する。
 “賃金の督促状”のようにはいかない、
 すでにもう黒ずみかけていた壁の板のように、最初はそうだったのだ、
 みな『今日がすべて、そしてそれきり』なのだ。
 でも偽名を口にする気もなかったのだ、球の運動、機関車の進行、軍艦の煙――。
 なら、もっと前に名前ぐらい言っておくべきだった。
 そう思った・・。

 「気にしていません。」

 ウィズは、不思議に思う。
 ラアラアきこえてくる・・。
 滅多に声を荒げることのない、ソリア様が、
 しかも初対面の、それも助けられた相手に、
 そんな高圧的な言い方を何の理由もなくするわけはない、と・・。 
 ピグは二人のやりとりをときどき遠望しながら、ちかづき得る際限の位置まで迫って、ウロウロしているよりほかはなかった。
 音声を伝達するトーキー以後――
 でも答えはすぐ眼の前にあった・・。
 全感覚のための錯乱が記憶の扉を壊し――た・・。
 何の遮るものもないところに吹きさらしに突っ立っている・・。
 ソリアは一瞬、逡巡したが、やがて言った。

 「謝るついでに、もう一切合財正直に話します・・・・・・。
 あなたは旅人でがなくて、魔王を倒すのが目的ですね。
 あなたがあそこを歩いていたのは、
 魔王軍第一師団ベラゲゴスの首が目当てだったからです。
 噂では聞いていました、魔王軍第七師団ポルトブ、
 また魔王軍第八師団ゲーネフが倒された、と。
 それは、あなたの仕業ではありませんか?」
 ソリアの丸い眼は、謎の解答を前にして暗く小さくなった。
 ソリアは言った後、長い間、ぼんやりとしていた・・。
 もう芝居じみた大袈裟な身振りは必要なかったからである。
 「・・・・・・」

 、 、、、、、、、、、、
 と、部屋の中が静かになる。
 影が吊られたままスキー・リフトに消えてゆく・・
 指先が震えて―――いる・・
 crazy-乱・・脈、あ/から/さま・・。
 (実は最初から、緊張していたのだが、表情には出さなかった、)
 ―――指先に触れたら電気のようなものが伝わる。
 価値の転換による刺激が耳に入ってくる・・。

 「―――あなたの腕前と、ステータス・オープン、
 それに、シード・リャシァットという名前、
 私は、そうだと思いました。
 そしてもし、そうであるなら、
 ―――ギディオン=ソリア=チャリントンは、
 第一王女であることを棄てます、
 そして、私を、あなたの仲間に入れて欲しいのです。
 まだまだ未熟な白魔法使いですが、どうか、お願いします。」
 
 第一王女とは思われないセリフ・・。
 ピグが、ソリアと言った。
 長めの葉のさきから太い花ぐきを出して咲くように・・。
 、、、、、、、
 妖精にもわかる、それはないだろう―――。
 (ウィズは気位の高いソリア様が、頭を下げるのが不思議だった・・)
 (―――いつかそんな日が来るかもと思っていたけど、)

 結びきらない口の尻に唾を飛ばして・・。
 [縦位置構図のショット・・]
 (大きさの逆転する、彼の顔と部屋・・)
 心の底の何処かで、誇張的な夢を見ているという疑問が閃きすぎる・・。
 、、、、、、、、、
 無意識にうまい便法をこすってゆく。
 ソリアがいれば救世軍を名乗れる、他の国にも顔が利く、
 また、白魔法使いがいれば旅は随分と楽になる、でも・・。
 
 ―――こめかみの血管が破裂するのではないかといった興奮の表情。 
 (選択肢は設けられていない、一本道シナリオ・・)
 [カーソルを操作し画面内の人物や特定の場所・物を指す。]
 強制イベント発生だ。
 くだらない『特権に誘惑された』というような類のものとは違う―――。
 そのせいで、腕や背の筋肉がめいめい押し合っているような錯覚をさせる。

 返答を待つ―――。
 心のへりを少しずつ齧り出す、恐怖・・運命の瞬間だ―――。
 シードの表情が変わった。
 、、、、、、、、
 彼は紳士のようだ。
 あるいはそれを[若さという「魔力」]なのだとでも思ったのかも知れない。
 浜に打ち上げられた魚の腹の白さに似たものに、
 正当な値段をつけた・・。
 (馬鹿だと思われているのはわかっていたけど・・)

 「・・・お姫様、」
 残念な気もした。でも試すように言った。
 「ソリアと呼んでください。」
 「ソリア様、お考え直し下さい。」
 「駄目です! 私はもう決めたのです!」
 表情を失っていた。内容は客観的なものをもはやなくしていた。
 一にも二にも、そこには差し迫った危険に対する焦燥が感じられた。
 それでも、シードはその火を理解しようと―――した・・。
 「・・・わかりました。」
 
 紙を引き裂くくらいの、小さな音――
 ピグが、ぱたぱたと飛んできて、ソリアよかったな、と言う。
 ―――幻想的な絵模様を綾なす、指、前髪、
 、、、、、
 嬉しかった。でもそれが早とちりだというのはすぐに、わかった。

 「確かに魔王軍第七師団ポルトブ、
 また魔王軍第八師団ゲーネフを倒したのは自分です。
 でもだからこそ、わかるのです。
 命の保証が、本当にできません。
 そこにいるピグですら、信頼できる人に預けました。
 さっきのそれは勘違いです、私は下見に行っただけです、 
 そうでなければ、ピグが傍にいることはありえません。
 でも、あなたがパーティーに加わるというのなら、
 いずれあるでしょう、本当に命の危険にさらされる時が・・、
 自分はやはりあなたを助けるために全力を尽くします。
 世界平和を棒に振るかも知れません。
 それでも構いませんか?」

 コミカルなピグが、だらけた網のように一瞬うなだれた。
 飼い慣らされておとなしくなったペットというありさま。
 時間は、大して意味がない、と呟いた自分を思い返す・・。
     、、、、、、、       、、、、、、、、、
 忘れたら痛みがなくなりあとはしずかに無為に過ぎゆくだけだ
    、、、、、、、、、、、
 言葉はかささぎのように浮いてきた。
 呑まれる・・まずい、このままだと、交渉決裂になってしまう。
 「僕等」は『情報』をどう見よう・・。
 (頭の血が邪魔になる、透明な光を編んでゆくようなとき・・)
 [単純な選択肢が、何故か無数の選択肢に思えるようなとき]
 、、、、
 思い返す、というのだ。

 「ご主人様は本気だよ。あたしはソリアが好きだ。
 一緒に旅したら楽しい。でも、ご主人様は、そういう人。 
 そんな時、自分の胸に短刀つきたてても構わない、
 絶対に邪魔にならないようにするという覚悟があるかって聞いてる。」
 、、、、、、、、
 ピグにはあるのだ。
 ピグはいままでまったく見せたことのないような真面目な顔をした。
 >>>泥の中に眠っているなつかしいぬくもり
 あまりに真剣な眼―――。
 エルフという種族・・
 異なる自然環境と社会組織の制約のもとに形成された顕著な特性。
 ―――彼女もまた、種族や民族という誇りを持った生き物・・。
 ―――透かし彫りになる、彼の優しさと厳しさ・・。
 そういうものが、この男の強さ・・。
 銀三十枚を得てキリストを売った呪うべきユダと相反するもの。
 ほとんど誰も持っていないものを、徹底的に寛容な節として、
 味方の戦線から自然に壊滅しそうなものを持っている・・。
 いやしかし、他にどんな売り物もなかった。
 
 「あたしは羽根むしっても、
 ご主人様の邪魔にならないと決めてる。
 そう決めてるんだ。だからご主人様は、
 あたしを傍に置いてくれる。おふざけなしだよ。」
 「―――聞かせてくれ、ソリア、どうなんだ?」
 心は決まっている、必然性なしに、である。
 つるべの音がする。あのひとすじの朦朧と閃く、
 井戸の底から、持ち上げられた瞬間の重さ。
 切実さに打たれた感慨。疑問を解く重要な鍵。
 でもいつか、眼のきれいな美しい女が、
 初恋の女の感動的なやさしさを持って、
 静かに、言った。
 「・・・構いません。」

 、、
 よし、とシードが言った。
 「いまの言葉、胸に刻んだ。
 はっきりと自分の命を賭けると言った。
 なら、俺はそいつを命がけで守る。
 でも最悪の時は、いま言ったことを、
 絶対に忘れないでくれ。」
 
 シードには何かがある。
 そこまで言わなければパーティに加えられない、一緒に旅できない理由が・・。
 それを潤滑液のように効率よく注ぎ込む・・。
 でも、いい加減な気持ちじゃない、
 そのわずかの間隙にくさびを打ち込む。
 必要なる要求をするのに不都合ななすべからざる行為を企てでもしているように、
 私は伸ばされたこの手を、二度と離すことはないという自信だ。
 それは雑誌の扉についている短い詩のようなものを連想させる。
 FO...RG...ERT...
 いまはそれだけだ・・。
 
 シードがじっと私を見つめている。
 高々と提示したかった。糊付けした。いま何か言わなければいけない気がした。
 手 じゃなく て・・。
 こくんと、私は肯く。

 ―――でも、何故だろう、ソリアを助けた時、
 “胸の中の重い何か”が取り除かれたような気がした。
 ぬるぬると、“過去の中”へ、
 『骨の下の脳が肉体を別人格』で支配してゆくような・・。
 もう億劫な刹那の瞬きの瞬―――間、
 むげんのきおくのいたみ・・・そのしるし・・
 、、、、、、   、
 錯覚に襲われ―――た・・。
 それは千万の言葉に勝る深い愛を告げたくなるような衝動。
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 ディズニー映画に出てくるようなカンムリバト。
 涙を流すと何となく思う、
 時間だって実は液体のようなものではないか、と。
 心が渇いている時、誰だって砂のようだと思う。
 男と女の闘争と不幸と不信と猜疑と嫉妬が暗号のように告げる。
 強烈な印象を与えた。何とはなしに日常がそういうものに掴まってぶら下がっているようなものだと思えた。
              、、、、、、、、、、、、、、、
 あぶくのような人生における黄昏どきのささやかな幸福の一齣。

 水が板のような堅い感じを船底にぶつけ、
 そのたびに“船が浮き上がる”みたいに、
 嵐の前の小鳥の来る世界に靴を脱いで追いかける、
 『光と音楽とざわめきの洪水』を掻き分けて表へ出る、

 ・・・・・・運命は再び巡る。

 でもすると、ピグがぱたぱた飛んでくる。
 ピグが、ソリアの傍に来て笑った。
 「・・ふふ、」
 「なに、ピグちゃん、」
 「ソリア、かわいいな。」
 
 ―――ノックダウンのようです、K.O.ソリア。
 挑/戦/者/求/む/

 「でもいつかこんな日が来るような気がしていました」とウィズが言う。
 パラグラフを通して同じ言葉をさまざまな場所に反復させる・・。 
 これですら最小範囲、迂愚であり恥辱でありまったく切実な問題。

 ほんとうにわたしたちは・・・まいにち―――
 なにをみて・・・いきているのだろ―――う・・。

 ゆがみのむこうから、何かがやって来る・・。
 怠惰な劣等感が行動と反映を拒む。
 ・・だからその言葉に、植物の切り口のような蒼い液を思う・・。

 [コルムネア=ウィズ=ティランドシア]
 (ソリア様は昔からそうだった・・・)

 //“自分の気持ちに嘘をつけない人”
 【scene《私はこれからどうしたらいいだろう?》】

 「ウィズ、あなたには本当に迷惑をかけたわね。
 でも、これが私の人生よ。」
    、、、、、、、、、、、、、
 でも、ソリア様の気持ちわかります、とウィズが言った。
 「先程の、戦いを見学させていただいていました・・」
 ウィズにおける、シードの戦いの感想。
 「・・・シード様はその―――華があります。
 戦いにリズムがあって、見ている人を心地よくします。
 あれは、まるでピアノの演奏のようでした。」

 ウィズの気持ちもわかる。
 『騎士団の動きが雑』に見えるほど、シードの動きは洗練されていた。
 男性に魅了されるということはどういうことだろう・・。
 神からの天与の賜物――磁石に吸い寄せられた砂鉄・・。
 カリスマに引き寄せられた者は、自己と向き合うことを避け、
 検証能力を持たなくなる。

 自分の持っていた価値観を揺さぶられた女性は素直なものだ。
 ウィズはトロンとした眼をして、好意を隠そうとしない。
 (誠実な人柄なのはもう十分にわかっているのだが、)
 ―――自分も、あんな顔をしていたのだろうか、と思う。 
   
 「では、行きましょう、ソリア様。」
 「シード、ピグ、行きましょう。
 ああそうだ、シード、
 私に次敬語使ったら、足舐めさせて、
 塩かけて、暗殺拳だから。」
 「ピグかよ!」
 と、一同ふんわりとガーゼを拡げたように笑った。
 瞬間、ソリアは遠い『不安』と同時に、これ以上ない、『自由』を感じた。
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