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受け視点~現在~①

1話 身を引くことにしました

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「別れよう」

そう切り出したのは自分からだった。
相手は珍しく動揺し「悪い所があるなら直すから」と理由を訊いてきた。
悪い所なんてある訳がない。家柄も、顔も、スタイルも、態度も、成績もなにもかも非の打ち所がない人なのだから。

夢のような日々だった。人付き合いが苦手で、本に噛り付くばかりで、取り柄がない自分に初めてできた友達。
お互い何もかも正反対だったけれど、いるととても楽しくて、気付いたらいつも一緒にいた。
一緒にいすぎて、気付いたら、一線を越え、恋人のような事をしていた。

相手に触れられるのが嬉しかった。自分の身体で相手が喜んでくれるのがたまらなくて、戻れなくなる前に戻ろうと決意したのは、相手が結婚する事になったからだ。

「それは親同士が決めた政略結婚で、本命はお前だから……!」

親の顔を立てる為の結婚だし、結婚相手もそれ以上の気持ちはないだろうと。
そう説明されたが、結婚相手がいながら陰で逢瀬を重ねるのは流石に気が引けた。
社会的にもし露呈でもされたら、今の世の中どうなるかわからない。

お互い引き返せる時に引き返すべきだ。

それだけ告げ、最後にうなだれた彼は「わかった……」とだけボソリと呟き、お互いにそれ以上の言葉は交わさず、静かに別れ、それぞれの帰路に着いた。



  ◆


「………う……うぅ……く」


自宅に帰り、部屋に入ったとたん、崩れるように身体の力が抜けて膝をついた。
しばらくすると堰を切ったように涙があふれ、情けなさから止めたくても、止まらなくて、余計に溢れて、しゃくりあげて、ぐずぐずになっていく。
もちろん自分も相手の事が好きで、好きで、たまらない。自分にとって過ぎた相手でも、どうしようもなく、好きだった。
何をされても嬉しいくらいに。
これ以上好きになれる人はいないんじゃないかと断言できるほどに。

もしかしたら、彼以外に好きになれる人は出来ずに一生を終えてしまうんじゃないかと思うほどに。

それでも、不貞を受け入れる事は出来なかった。

これでよかったんだ。これで。

そう自分を説得しようと思えば思うほど、涙は止まらなず、うずくまった身体はその場から動く事ができなかった。

────一通り泣きつかれて、落ち着いた重たい身体を起こし、やっとの思いでシャワーを浴びる。

全部、全部、流れていってくれたら、すっきりできたら、どんなにいいだろうと、流れる水をぼんやりと眺め、滴る音が遠くに聞こえるようだった。

「────……ふ」

自分で言い出しておきながら、なんとも無様で、情けないなと、つい自嘲の声が漏れる。

何もない人間の癖に、変な正義感になんかに駆られてしまってよかったのだろうか。何も取り柄がないのなら空っぽなまま、流されてしまえば楽だったのだろうか。

ぼんやりと自己否定がこだまする。しかし疲れのせいか、それ以上考えることもなく思考が途切れ、結論も疑念もなにもかも、放り出した。

シャワーから上がると、髪を乾かすのも億劫で、適当にタオルで拭いた程度で寝室のベットへと倒れ込む。
濡れた髪のせいで、シーツや枕に水滴がしみ込んで跡になっていく。
横になっても、目が妙に冴えていて、眠れそうになかった。だからといって指一本動かすのも億劫で、時間だけがどんどん刻まれていく。

まるで自分だけが世界から取り残されていくかのような感覚。

時々もぞもぞと体勢を変えるくらいで、ぼんやりと無為に時間を過ごす時間は、自分の部屋なのに、どこか知らない部屋のように広いようで狭い感覚に襲われる。まるで、がらんとした、なにもない部屋のようだ。

────何かが足りない

そうだ、温もりが。
あの心地良い、人の重さ、密度、湿度が。

このベットで、隣にいて───触れ合って───………

気付けば彼の記憶を辿り
彼が触れたように自分で自分の身体をなぞっていた。

微かに残った理性がダメだと警鐘を鳴らしている気がするが、憑りつかれたように手を動かしていた。

「ふ……、く、」

自分でしているだけなのに、彼に触れられているようで息が荒くなっていく。
ああ、自分はなんてバカな事をしているのだろうと、思いながらも歯止めが利かない。
いつも彼がしてくれるのを懸命に思い出しながら胸の突起に手を伸ばした。

「ふ……、んく、ぁ」

自分で触っているのに、まるで彼に触られているような錯覚に陥る。彼が自分に触れているのだと想像するだけで身体が熱くなり、どんどん高ぶっていく。
しかし身体は高ぶっても頭は冷えていくばかりだった。どこか虚しさを感じているのに、手を止めようとは思えなかった。

「あ、ぁあっ……はぁ……ん」

いつも彼がしてくれるみたいに、爪の先でカリカリと乳首を掻いたり、指の腹で押し潰したり、摘んでひっぱてみたり。
それでも違う。あの骨ばっていて太くて長い指で、意地悪くいじめられるのがたまらなく好きだ。焦らすように、わざと外したり、強くつねったり、かと思えばひどく優しく触れられたりして……でも一番好きなのは──────……

「あ……ぁ、ん、ん……ぅ」

胸だけではもどかしくて、下肢にそっと手を伸ばす。そのまま双丘の入り口に指を添えると、その窪みをなぞるように撫でる。
そこは潤いもなにもなくて、指だけで押し入るには抵抗がありすぎる。
寝転がりながら、ベットのサイドテーブルの引き出しの中にまだ残してあったローションを手に取り、少し手の平の体温を移しながら、再びそこへと宛がう。

「ひっ……ぅ」

まだ温度が冷たかったローションの刺激に、肩を震わせながら、それでも手は止まれない。
円を描くように入口に塗り付け度々ローションを足しながら、ぬるぬるになった指を、つぷ、とゆっくり入れていく。

「ん……んんっ……」

少しの圧迫感に息が詰まる。やはり自分でするのは怖くて躊躇してしまう。しかし、それでも彼の指の動きを必死に思い出しながら指を奥へと進めていった。

「……っは、あ……」

ゆっくりと、馴染ませるように指を動かしていく。まだ一本の指を中で動かすだけでも違和感が凄まじく、つい動きが鈍くなってしまう。しかしそれも最初だけで、次第に慣れてきたのか少しずつ動きがスムーズになっていった。

「んっ……ん、ぁ……」

それでもやはり自分でするのとでは全然違う。彼の優しい愛撫とは程遠い、稚拙でたどたどしい動きだ。
ただ、それでも……

「あ、……ぁっ」

それでも、自分の指すらも彼の一部なのだと思えば、たまらなく興奮をする。それが彼ではなくとも、彼に抱かれているのだと錯覚すれば。それだけで身体は悦びに震えてしまうのだ。

「く……ぅん……」

二本目を入れるのには抵抗があったが、それも先ほどと同じようにローションを足して慣らしていく。ゆっくりと馴染ませながら入れていけば二本の指をなんとか受け入れる事が出来た。

「ふぁ、あ……っ♡」

二本でもなんとか動かせるには動かせたが、やはり足りないものがある。しかし、その物足りなさにすら快感を感じてしまう程に、熱で思考が浮かされているのを実感するのだった。
そして、ゆっくりと中に入れている指を動かし始めた。最初は抜き差しだけを繰り返していたが、それでは刺激が足りなくてついイイところに掠めるように自らの指を曲げてしまう。

「ッ、……く、ぁ♡ ああぁっ!♡」

彼の指の動きをなぞっているつもりが、いつの間にか自分の弱いところを責め立ててしまう。その快感に思わず声が出そうになって歯を食いしばるも、それでも甘い声が漏れてしまう。
しかし一度火が付いてしまえば手を止める事なんて出来なかった。次第に動きは激しさを増していき、指の本数も増やして弄っていくうちに物足りなくも頭が真っ白になっていくのを感じた。

「あ、あっ♡ ふぁッ……んん!♡」

もう自分の指じゃ全然足りなくて、刺激が足りなくて、彼の熱が欲しいのに、ここにいないもどかしさに涙が溢れた。いつも彼がしてくれるようにしても全然足りない。自分では届かない所まで激しくしてほしい。そしてそのまま果ててしまいたい。
そんな欲望だけがぐるぐると頭を駆け巡り、それでも絶頂へと上り詰めるには至らなくて、行き場のない切なさに身体を震わせた。

「あ、あッ……足りな、ぃ……!」

それでも指を止める事は出来なくて、夢中で快楽を貪り続けていく。彼が自分にいつも与えてくれるみたいに、自分の弱い所を的確に責め立て、必死に上り詰めようとした。
誰も居はしないのに、見せつけるように身体を折り曲げて臀部を空をと掲げ、その肉孔を指で激しく抜き差しし始めた。

「んっ……ぅ……ほ、しぃ……こ、こ……ぉ♡」

ローションの音がくちゅくちゅと耳から入り脳を溶かしていく。足りないものを補いたいばかりに、あの質量を再現しようと、指を増やし、気持ちいい箇所を指先で擦る。

「あっ…ぁ…あ…ん……らめ、ほし、ほしぃ……よ……!」

最初は気持ち良く進めてきた行為が、決定的なものがなく、切なさともどかしさに身体を悩ましく揺らすばかりになり、段々と虚しさで動きが弱弱しくなってきてしまっていた。

「はあ…っ…はあ……ぅ、ぅぅ…っ、く…ぅ……」

気付けば力尽きて、自分の恥部を開かしたまま、ぽろぽろと涙が零れてきていた。
代わりのものなどないのだ。
優しく触れてきたあの手も、声も、熱も、もうこれからは遠い記憶になっていってしまう。


「欲しいのは、これかな?」


「え……」


聞こえるはずのない声にビクッと身体をこわばらせていると
ギシリとベットが軋み、こちらを人影が覆ったと思った瞬間、待ち望んだソレが宛がわれていた。

「や……なん……あっああ……!」

一気に奥まで突き上げられる。待ち望んでいた衝撃に、頭が真っ白になる程、目の前がチカチカとした。

「や……あッ♡ あぁああァ♡」
「……っ、はあ……っ、もうとろとろじゃん……」

突然のことに驚きながらも、待ち焦がれた質量に身体が悦び、震え、内壁がそれを待っていたといわんばかりにうねって受け入れていく。

───ああ、そういえば合鍵を返して貰いそこねてたかも。そうぼんやりと頭に浮かびつつも、快楽の波に疑念もなにもかも流されていってしまった。

「なあ、一人でさみしいなら俺に言えよ……っ」

そう言って彼は激しく腰をうちつけてくる。その激しい動きに、快感を逃がしたくてもまるで逃げ場などなく、ただその暴力的なまでの快楽を甘受するしかなかった。

「あぁあっ!♡ おくっ……ふかぁっ……!♡」

あまりの質量に苦しさを感じるのに、それを上回る程の快楽が込み上げて頭がおかしくなりそうだった。

「ゃ、やめ……やらぁッ♡ らめへぇ、お、おかひくなっひゃ……あぅぅ♡」

「ダメじゃないでしょ?こんなに俺を欲しがってる癖に、別れるなんてっ…!」

そう言って彼は激しく突いてくるのに、それでも決定打は与えてくれない。まるでじわじわと真綿で絞め殺すかのように快楽という毒が身体を蝕んでいく。
自分の指とは比べ物にならないほど暴力的なのに、長く長く、いつまでも揺さぶって欲しいほど甘いその毒に、先ほどまでの決意や悲しみなど、全部押し流されていってしまう。

「あ、あっ……もぉらめらかりゃぁッ♡ あァっ!♡ そ、そこぉ♡ おくぅ♡」

「ここ好きだもんね?ほら、もっと欲しい?」

彼はそう言って弱い所を責め立ててくる。その快感に抗えずに身体をのけ反らせて悶えるが、それでもまだ足りなくて更なる刺激を求めてしまいそうになる。

「ふぁあんッ♡ そこ、らめ、らめにゃのぉ……!♡」
「ダメじゃないでしょ?……もっと欲しいって、言って」

そう言って彼は更に奥へと突き入れる。彼の質量に圧迫されて呼吸が出来なくなってしまうほどだったが、苦しさすら快楽として脳は受け取り喜んでしまうのだ。

「ッあああぁあ!♡♡♡らめ、らめなの、ほし、の、らめ、ひぁんッ」
「なんで?欲しいよ……俺は……もっと」

待ち望んだ刺激に歓喜するように中がきゅんきゅんと締め付けてしまう。それに彼も興奮し、押し倒すように覆いかぶさって唇を重ねてきた。

「ん……っ!んん、ふっ……んんっ」

お互い舌を絡める濃厚なキスをしながら、激しく腰を打ち付けてくる。その動きにただ翻弄され、ただひたすらに快楽に溺れるように彼にしがみついた。

「ふぁっ♡あ、あ、はげしっ♡あぁっきもちいぃッ♡」
「……はぁ……っ、可愛い……」

そう言って彼は更に律動を早めていく。あまりの激しい動きに、意識が飛んでしまいそうだった。

「あっあぁあッ!らめぇ♡はげし、っ、……らめなのぉそこッやぁっ!♡」

あまりの激しさに身体が耐えられず逃げようとすると、彼は更に腰を掴み強く打ち付けてくる。あまりの強さに目の前がチカチカとする程の刺激を与えられ、ビクンッと身体が軽く達してしまった。

「ひぅッ…!!ッあ…はあッあ…!!♡」

耐えがたい絶頂の毒に、バタついて悶え、シーツを掴み、まるで相手から逃げるようにうつ伏せに身体をズラした。

「逃げるなよ……!逃げんなって……!」
「ひぁああっ!♡や、も、いっ……てる、からぁッ♡いってゆぅのにぃ♡ああぁっらめぇ♡」

まだ絶頂が続いているにも関わらず、そんな事は関係ないとばかりに彼は後ろから激しく突き上げてくる。ただ与えられる暴力的なまでの快楽に、止めようがない声がひっきりなしに漏れてしまう。

「も、らめっ、ひぁ♡ああぁッ!♡おかひくなりゅぅうッ♡♡」
「いいよ……なって、俺の事だけ考えててよ……」

彼はそう言って後ろから覆いかぶさると、抱きしめると更に激しく攻め立てられ、ただ喘ぐ事しか出来ない。頭の中は快楽で塗りつぶされていた。

「やぁああぁッ♡♡らめ、きちゃ、はげしっああぁぁっ……!♡♡」
「一緒にイこう、ね?」

そう言って彼はより強く打ち付けてくる。その刺激に耐えられるはずもなく、がくがくと身体が震えるほどの快楽が襲い、一度目の絶頂の余韻がある中、また再び。

「あぁっ!♡はぁ、ぁん…ァっ……はあ…ぁ…あ♡」

ビクビクと身体を強く痙攣させ、暴力的な快楽の波に流されていくまま、頭がそれだけに塗りつぶされていった。

「……はあ、……はあ。……俺、ダメなんだ……お前じゃなきゃ、ダメなんだ。だから」


───傍にいて


そう耳元で囁かれたのを最後に意識は途切れた。
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