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64 終幕 1

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 だがこれで、一件落着という訳ではない。
 罪人は捕らえたけれど、国の財政破綻危機と冷害による不作という現実がある。
 いくらロワイエや近隣諸国の援助があっても、健全な財政に戻すまで数十年はかかるだろう。

「王の隠し金庫が分かればいいのだけれど」

 自分が管理を任されていたらしいが、アリシアはさっぱり思い出せないでいた。

「アリシア、隠し金庫とはこれのことか?」

 ホワイトが玉座の床に向かって、息を吹きかけた。すると大理石の一部が吹き飛び木箱が幾つも現れる。

「これは……誰か手を貸してくれ」

 エリアスの言葉に、側にいた騎士達が床から木箱を取り出す。開けてみればそこには、金貨がぎっしりと詰まっていた。

「城壁や城の壁の一部に、こうして金が埋め込まれている。この城自体が金庫なのだよ」
「どうして分かったの、ホワイト」
「ドラゴンの習性と言うべきかな。財宝のありかは香りで分かる」

 確かドラゴン族は、金銀財宝を収集する性質があると魔術書にも書かれていた。

「この数年、建て替えた場所を重点的に調べろ」

 指示に従い、建築を担当した技師が呼ばれ捜索が始まった。
 ほどなくホワイトの指摘したとおり隠し金庫は見つかったものの、王が軍事費や私的な遊興に使った分を補填するにはほど遠かった。

***

 数日後、ロワイエなど協定書に署名した諸国の代表が集まり協議した結果、当面はロワイエの監視の下、宰相と少数のまともな貴族が立て直しをする事で話が纏まる。
 その立て直しの中には、アリシアは含まれていない。

 というか、最初は全員が「アリシアを新たな王に」と口を揃えて推挙した。
 しかしアリシアは、ロワイエ王にも告げたとおり、王になることを拒んだのである。
 理由は、アリシアが国庫の管理を任されるほどの頭脳を失っており、法律や数学に興味もない。
 民を守りたい気持ちだけで国政は成り立たないと説明し、元バイガルの家臣達も納得せざる得なかった。

 何よりエリアスが「こんな無茶な状況を、アリシアに背負わせるのか!」と宰相達を諭してくれた事で、彼らが考えを改めたのも理由の一つだ。

 とはいえ、いずれは国を纏める者は必要になる。既に国民の間には、傾いた国をアリシアが必死に支えていたと話が広まっている上に、ホワイトを召喚したことで「アリシアは救世の女神だ」と地方ではまことしやかに囁かれている始末。

 そして何度目か分からない会議の後、アリシアは宰相を含めた臣下から深く頭下げられ――女王となることを決意したのである。

***

「暫くは好きにしていいと言われたけど、いずれは戻ることになる」
「はい。覚悟はしています」

 旅支度を整えて王都を出発したのが三日前のこと。
 皆から笑顔で見送られ、アリシアはエリアスと共に「視察」という名目の気ままな旅に出た。
 ただマリーだけは出発する間際まで、ずっとエリアスに難しい顔で何ごとかを話していた。王都を出てからエリアスに何を話していたのか聞いてみたが、苦笑を返されるばかりで未だにアリシアは内容を知ることができずにいる。

「本当によかったのかい? アリシアは何にも縛られることなく生きたかったんだろう?」
「あのまま放置したら、国民に申し訳ないですし」

 乞われるまま女王になること承諾したわけではない。
 ある程度国を立て直すこと。そして、一部の地域は領主の権限を拡大し、半ば独立した地域にして元バイガルの領地を縮小することを約束させた。

 意外だったのは、ラサ皇国から皇帝の親書を携えた使者が来たことだ。親書には「女王は若すぎるし、彼女を支える王子も未熟。なので数年は広く見聞を広めよ」と……要約すればそんなことが難しい文言で書かれていた。
 つまりは「安定したら戻ってきてくれればいい」という措置で、宰相達も皇帝からの親書という事もあり快くアリシアとエリアスを送り出してくれたのだ。

「甘やかされてますよね、私達」
「召喚魔術の画期的な変更を完成させたんだ。このくらいの褒美が出て当然さ」

 本来関わる必要のないラサも資金援助を申し出てくれた。

「あの、エリアス。今更なんですけど……本当に私と……」
「俺は君と共に生きると、皆の前で誓った。それを違える気はないぞ」


 バイガルはきっと新たな国として生まれ変われる。
 それを信じて、二人は歩き出した。

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