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53 勘違いされてます

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 物思いに沈んでいたアリシアは、憂鬱な面持ちで呟く。

「――あの景色を知っていながら、民を放置して逃げるなんてできない……でも、私にこの国を治める能力はないわ。どうしたらいいの……」

 以前の有能な自分ならまだしも、今のアリシアは領地運営の知識も帳簿の付け方一つ知らない小娘だ。

「アリシア、落ち着いて。今はまず、戦争を止めさせることだけを考えよう」
「ええ」

 肩を抱かれアリシアは頷く。とその時、扉が勢いよくノックされた。

「アリシア様、ジェラルド先生とティアメイド長を呼んで来ました」
「入ってマリー」

 扉が開くと、ジェラルドとティアが駆け寄ってくる。

「アリシア様、お元気そうでよかった」
「アリシアお嬢様……私……わたし……」

 感極まった様子で泣き出したティアの手を取り、アリシアは優しく微笑む。

「心配かけてごめんなさい、ティア。記憶は戻っていないけど、私はもう平気よ。ジェラルド先生もお変わりないようで、安心しました」

 再会を喜び合っていたアリシアだが、ジェラルドとティアの視線がエリアスの方に向いていると気付き慌てて彼を紹介する。

「こちらはエリアス・ロワイエ王弟殿下。ええと――」
「アリシアの婚約者です。よろしく」
「ちょっと、エリアス」

 いざ「婚約者」と名乗られると、なんだか気恥ずかしくなる。

「まあ」
「いや驚いた」

 ティアとジェラルドは頬を染めたアリシアを見て察したのか、エリアスに歩み寄り頭を下げる。

「本来でしたらお屋敷の方にご案内差し上げるべきなのでしょうが……」
「事情は分かっているから、お気になさらず。お二人とも、気楽にしてください」

 気を取り直して、アリシアはジェラルド達に問いかける。

「屋敷と領地はどう? ダニエラはきちんと管理しているのかしら」

 公爵が当てにならない以上、恐らくはダニエラが差配をしているのだろう。
 現実を突きつけられて少しは真面目に領地運営に関わっていてくれたらという、アリシアのささやかな希望は、呆気なく否定された。

「金銭管理は滅茶苦茶です。ダニエラ様とエリザ様の浪費が酷く、屋敷の調度品の殆どが抵当に入っている有様で」
「管轄の農地も荒れるままで、農民の隣国への流出が止まりません」

 首を横に振る二人に、アリシアは絶句する。

(覚悟はしていたけれど、そんなに酷いなんて)

 問題は山積みだが、まずは難民となって隣国に保護を求めた農民達を呼び戻さなければならない。彼らの生活を保障すると約束し、寒さに強い農作物の種を北方諸国から早急に買い付けるのが何よりも急がれる。
 農民達を受け入れた隣国だって、彼らを養うには限度がある。

(まずは国庫を開けてもらう必要があるわね。貴族の方々にも、協力してもらわなくちゃ)

 考えを巡らせるアリシアに、ティアが不思議な噂を口にする。

「吉報もございますよ。最近辺境地区に、白いドラゴンが現れたと噂が広まってるんです」
「神の使いだと民は希望を見いだしております」

(それ、私とホワイトだ)

 確かにドラゴンは珍しい魔獣だ。
 各地に生息している事は知られていても、人間の前に出てくることはまずない。

「獣と鳥を合わせたような不思議な生物が寄り添っていたと報告も上がっています。恐らくドラゴンの従者なのでしょう」

 ちらとエリアスを見ると、笑いを堪えている。エリアスの乗るグリフォンだって、魔術国家でなければ目にすることは希だ。

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