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「こんな所にいらしたのですか」
広間を出たダニエラは、執事に案内されてマレクの執務室に入った。
新しい婚約者として王と王妃には認められているので、城内の出入りで制限はない。
「ダニエラか」
「なかなかいらっしゃらないから、呼びに来たんです」
マレクは机に向かっているが、仕事をしている様子はなかった。
どこか落ち着かない様子で手紙を何度も見返し、ため息を吐く。
「悩み事? そんな時は、お酒を飲んで騒いで忘れるのが良いですわ」
「そうしたいのだけれど、少々困ったことになってしまって」
マレクは執事に視線を向け、人払いをする。
ダニエラと二人きりになると、机の引き出しから紙の束を出した。
「これって、請求書?」
「数日前から登城してこなくなった書記官の机から出てきたんだ。町の仕立屋や宝石商からのものだ」
「なぜこのようなものが?」
訳が分からず、ダニエラは小首を傾げる。
本来、王族が身につける品々は専属の使用人達が金銭の遣り取りを行う。なので請求著が王子の目に留まる事などないのだ。
「どうやら支払いが滞って、仕方なく私の直属の書記官宛てに届けられたらしい」
「まさか、横領されていたのですか?」
使用人が支払うはずの金を持って逃げることは希に起こる。しかし国庫は厳重な警備で守られており、盗んだところですぐに捕まる。
支払いに関しても厳しくチェックされるので、誤魔化し続ける事などできはしない。
「いや、単に国庫の金が底をつきかけているんだ。書記官達の給料も小麦などの品で代用している」
「……え?」
とんでもない告白に、ダニエラは耳を疑う。
バイガルは近隣諸国より領土が広く国民も多い。
単純に考えても国庫が底をつくなどあり得ないことだ。
「来月必ず支払うと言っているのだが……何人か突然辞めてしまった」
「マレク、これからお茶会や夜会はどうしたらいいの。私夜会がない生活なんて耐えられないわ。それに貴方の許嫁としてドレスや宝石も新作を身につけないと、平民出の私は貴族達に笑われてしまうわ」
「安心してくれダニエラ。国庫は表向きのもので、王家は独自の隠し金庫を多く持っている。君が不安に思うことはなにもないよ」
「よかった」
ダニエラはほっと胸をなで下ろす。
「国庫への補填は、税を上げて公共事業を数年止めれば問題ない。それに父上達の計画が始まれば国は豊かになる。私が王位を受け継ぐ頃には、国庫に納めきれないほどの財宝が手に入っていることだろう」
瞳を輝かせ胸を張るマレクを、ダニエラはうっとりと見つめる。
「ダニエラ、私は君を国で一番……いいや世界で一番幸せで美しい王妃にすると約束しよう。ドレスも宝石も、最高の品を身につけて私の隣に立ってほしい」
「もちろんよ。嬉しいわ、マレク」
アリシアが婚約破棄を言い渡される少し前から、王と王妃が国外に出ていたのは知っていた。
隣国との友好を深める為の旅行だと聞いているが、具体的に何をしているのかまではダニエラは知らされていない。
ともあれダニエラとしては滞りなく夜会が開かれ、新作のドレスをお披露目することができればそれでいい。
「辞めた書記官達は、罰を与えるべきですわ。マレクは優しいから、このままでは残った家臣に軽んじられてしまいます」
「心配してくれて嬉しいよダニエラ。勿論、彼らの逃亡を許したわけではないさ。既に国境警備の兵士には、逃げた書記官を捕らえるよう通達済みだ」
「じゃあ早く隠し金庫を開けましょうよ」
「それが、父の使っていた隠し金庫の鍵が見つからないんだ」
広間を出たダニエラは、執事に案内されてマレクの執務室に入った。
新しい婚約者として王と王妃には認められているので、城内の出入りで制限はない。
「ダニエラか」
「なかなかいらっしゃらないから、呼びに来たんです」
マレクは机に向かっているが、仕事をしている様子はなかった。
どこか落ち着かない様子で手紙を何度も見返し、ため息を吐く。
「悩み事? そんな時は、お酒を飲んで騒いで忘れるのが良いですわ」
「そうしたいのだけれど、少々困ったことになってしまって」
マレクは執事に視線を向け、人払いをする。
ダニエラと二人きりになると、机の引き出しから紙の束を出した。
「これって、請求書?」
「数日前から登城してこなくなった書記官の机から出てきたんだ。町の仕立屋や宝石商からのものだ」
「なぜこのようなものが?」
訳が分からず、ダニエラは小首を傾げる。
本来、王族が身につける品々は専属の使用人達が金銭の遣り取りを行う。なので請求著が王子の目に留まる事などないのだ。
「どうやら支払いが滞って、仕方なく私の直属の書記官宛てに届けられたらしい」
「まさか、横領されていたのですか?」
使用人が支払うはずの金を持って逃げることは希に起こる。しかし国庫は厳重な警備で守られており、盗んだところですぐに捕まる。
支払いに関しても厳しくチェックされるので、誤魔化し続ける事などできはしない。
「いや、単に国庫の金が底をつきかけているんだ。書記官達の給料も小麦などの品で代用している」
「……え?」
とんでもない告白に、ダニエラは耳を疑う。
バイガルは近隣諸国より領土が広く国民も多い。
単純に考えても国庫が底をつくなどあり得ないことだ。
「来月必ず支払うと言っているのだが……何人か突然辞めてしまった」
「マレク、これからお茶会や夜会はどうしたらいいの。私夜会がない生活なんて耐えられないわ。それに貴方の許嫁としてドレスや宝石も新作を身につけないと、平民出の私は貴族達に笑われてしまうわ」
「安心してくれダニエラ。国庫は表向きのもので、王家は独自の隠し金庫を多く持っている。君が不安に思うことはなにもないよ」
「よかった」
ダニエラはほっと胸をなで下ろす。
「国庫への補填は、税を上げて公共事業を数年止めれば問題ない。それに父上達の計画が始まれば国は豊かになる。私が王位を受け継ぐ頃には、国庫に納めきれないほどの財宝が手に入っていることだろう」
瞳を輝かせ胸を張るマレクを、ダニエラはうっとりと見つめる。
「ダニエラ、私は君を国で一番……いいや世界で一番幸せで美しい王妃にすると約束しよう。ドレスも宝石も、最高の品を身につけて私の隣に立ってほしい」
「もちろんよ。嬉しいわ、マレク」
アリシアが婚約破棄を言い渡される少し前から、王と王妃が国外に出ていたのは知っていた。
隣国との友好を深める為の旅行だと聞いているが、具体的に何をしているのかまではダニエラは知らされていない。
ともあれダニエラとしては滞りなく夜会が開かれ、新作のドレスをお披露目することができればそれでいい。
「辞めた書記官達は、罰を与えるべきですわ。マレクは優しいから、このままでは残った家臣に軽んじられてしまいます」
「心配してくれて嬉しいよダニエラ。勿論、彼らの逃亡を許したわけではないさ。既に国境警備の兵士には、逃げた書記官を捕らえるよう通達済みだ」
「じゃあ早く隠し金庫を開けましょうよ」
「それが、父の使っていた隠し金庫の鍵が見つからないんだ」
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