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32 マレク王子の言い分・2

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 平気で嘘を吐く女を妃にするのは嫌だと父に訴えたが、公爵家と交わした約束は反故にはできないと一蹴されてしまう。

 そんな時、マレクの前に現れたのがダニエラだった。

 社交が面倒だと言う姉の代わりに夜会へ来たダニエラは、慣れない様子で壁の花となっていたのは今では笑い話となっている。
 マレクにアリシアが迷惑をかけたことを詫び、早々に立ち去ろうとした彼女の手を咄嗟に掴んで広間の中央に向かいダンスを申し込んだ。その瞬間、金髪の天使は微笑み一瞬にして場の空気を変えてしまう。
 大輪の薔薇のようなドレスにも負けない美貌と、誰もを魅了する笑顔。何より彼女は話が面白く、貴族達はこぞって聞きたがった。
 これはまさしく、叔父上と同じ運命の出会いに違いないとマレクは確信する。そしてすぐ、父にアリシアではなくダニエラを妻にしたいと頼み込んだ。
 すんなりと聞き入れられた訳ではないが、王としても息子が長年悩んでいたことは知っていたのと、ダニエラが公爵家の次女である事を考慮し、最終的には許可を出してくれた。

 母親が酒場で働いていたと聞いて眉を顰める家臣もいたが、辺境国の血を引く女よりバイガルの出だと分かる方がずっとよいと説き伏せた。

(彼らもダニエラを見た瞬間、あっさり意見を変えたのは面白かったな)

 緩くウエーブのかかった黄金色の髪と青の瞳。透き通るような白い肌と自分の隣に立つに相応しい美貌。
 何よりダニエラはアリシアと違い、自分に相応しくあるよう美しく着飾ってくれる。
 次の夜会はどんな装いで来てくれるだろうと夢想していたマレクは、侍従の声で我に返った。


「マレク王子、父君から書簡が届いております」

 侍従が銀の皿に乗せた手紙を持って執務室へと入ってくる。
 侍従長が受け取り封を開けて、マレクに差し出す。受け取ったマレクはそれに目を通すと、満足げに微笑む。

「――隣国との秘密会談は順調だそうだ。向こうの王も魔獣狩りが趣味らしく、話が弾んでいるらしい。母上は歓迎の夜会で飲み過ぎて、二日酔いになったと書いてある。楽しそうでなによりだ」
「それはそれは、よろしゅうございました」
「あの陰気な婚約者がいなくなってから、楽しいことばかりだ。今宵も美しいダニエラと過ごせると思うと、胸が躍る。……ああ、この書類はお前達でサインをしておけ。俺の筆跡は上手く真似るんだぞ」
「畏まりました」

 机に山と積まれた書類を指さし、マレクは椅子から立ち上がる。

「仕立屋を呼べ。今日の夜会用に、新しく服を作らせる」
「しかし夜会までにはあと数時間しか……それに、服はもうご用意して……」
「時間など関係ない。それにあの服は色が地味だ。将来の妻であるダニエラは、毎回趣向を凝らしたドレスで夜会に出るのに私が後れを取っては意味がない」

 美しく装うのは、妻だけの仕事ではない。王家の人間として、威厳ある姿を臣下に見せるのは当然のことだ。

「早くしろ」
「はい」

 一礼して侍従長が部屋を出て行く。残った者達は書類を抱えてそれぞれの机に向かい、早速「王子の筆跡を真似てサインをする仕事」に取りかかった。

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