彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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18 友愛

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ブロニーはモルが覚醒してホッとしたのも束の間、あんぐり開口して魔狼に抱きつくモルから目が離せなくなった。

「な、なな、モルなのか?!」
「そうだ」

(魔狼だ!本物だ!会いたかったよーっ!)

魔狼の頬にうにうにと自分の頬を押し付けてぎゅーぎゅー抱きつくモルは、興奮して無意識に魔力を使って成人化していた。

サラサラと靡くストレートの飴色の髪は長めで腰近くまであり、赤眼は薄くなり優しいインカローズに変わる。大人びた顔は色艶を帯び甘く嫋やかだった。肢体も細めで中性的でいて、見るものを惑わす雰囲気にブロニーは釘付けになった。しかも今は裸体だ。

漆黒の王に囚われた美姫にも見えてブロニー所長は不自然に瞬いた。

「……所長、これはモルだ」

魔狼は散々観てきた人の反応にほくそ笑む。モルの成人擬態は人の美醜感覚で言えば上品な美しさだった。

「それが本来の姿なのか?」
「いや子供が相応。俺と過ごす時はコレだ」
「は?、な、何にせよ無事で良かった」

疑問が色々浮かぶが見惚れた事に気恥ずかしくなったブロニーは慌てて話をすり替える。
魔狼はいつまでもうにうに、ぐりぐりしてるモルの頭を軽く押しやる。

「人化は水場で寝るなと言った気もするが、おまえは忘れっぽいからな。心配掛けた人に謝れ。そして離れろ」

(心配ってなに?ま、ろ、う!会いたかったよ。側にいて!旅して魔狼の屋敷で暮らす今まで通りがいい!置いていかないで!)

口をパクパクして必死に話そうとするモル。寝てただけなのだから騒ぎを知る由も無い。抱きついて一向に離れようともしない事にも魔狼は苦笑して耳元に囁いた。

「後で筆談しろ」

(する!)

にぱっと満面の笑みを浮かべるモル。

「……バカだな」

(なんでだよ!)

抱きついたモルを容易にペリッと引き剥がし
た魔狼は、口を尖らせた顔を見て口角を上げた。

「そんな顔すると所長が惚れるぞ」

(なんで?)

モルはブロニーを見て首を傾げるが、ブロニーと魔狼は苦笑するしかなかった。



よじよじ

ぺっ

「ひっつくな」

(ちょっと位よくない?寂しくて会いたかったんだよ?甘えたいのに魔狼冷たい!)

よじっ

むにっ

(あうぅ)

子供に戻ったモルは魔狼の片手で容易く押し戻される。ただ膝に乗りたいだけなのだ。

「今迄しなかった事はしない。乗るな」

(けち!けち!……?)

魔狼の腕をぺしぺし叩くモルは、漸く視線に気がつき周りを見る。ブロニー、ランドル、リズが揃っていた。

「モル君無事で良かった~。溺れちゃったと思ったのよ~」
「はぁー、紛らわしい寝方するんだな」

(……現実逃避で眠ってただけだよ?)

きょとんとするモルをチラッと見る魔狼。

(え?俺が悪いの?)

「数日残ってるが引き取りでいいか所長」
「寂しくなるがそれがいい。これだけ嬉しそうにされるとな。楽しませて貰ったよ」
「そうか」

(てか、毎度俺の気持ちとか関係無いんだ?おれにも聞いてよ魔狼!)

大人しく横に座るモルは、口を尖らせて魔狼の大腿部をぺんぺん叩いた。

「なんだ。共に生きれそうな人がいたか」

(???)

「離れる意味も少しは無い頭で考えたか?」

(離れる意味?)

魔狼はいつものニヤッとする笑みを浮かべて所長達に向き直る。

「世話になった。謝礼は現金か施設投資でどうだ。後日協会へ希望を伝えてくれ」
「いや、そこまでして貰うわけには、」
「気にするな。モル、行くか」

(離れる意味、離れる意味……与えてもやれない。共に生きれる人??俺と魔狼は友達。友達で一緒にいたら変なの?やっぱり俺と離れたいの?)

モルは魔狼の言葉が気になって仕方が無かった。鬱屈していた気持ちが沸々とまた再燃してくる。
小首を傾げて遠い目をして魔狼が手を繋いでくれた事にも気付かない。

「モル君元気でね~」
「アルノとミルシェは俺から言っておこう。
その、また会えるだろうか」
「数年毎各地を周遊してるから近くに来たら寄ろう」
「是非」

完全に上の空になっているモル。これは人ではない。魔獣だからと皆は苦笑して見送る事にした。

「ではいずれ。インポルタ

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