彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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かざあな

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家はこんなに静かで暗かっただろうか。

「一人だから静かだろ。ははっ」

キングスは酒を飲み自嘲する。
若い頃は仲間達と各地を旅して家なんか無かった。転々と討伐して稼いで命を懸けて魔物と対峙する。対価は力と名声と収入だった。
気が付けば名は知れ渡り、生まれながらの大きめの体躯が役立つ腕のいい剣士で冒険者になっていた。
魔物は害蓄でしかない。畑や家畜を荒らし、大型になる程、空腹を満たすため魔物や人を襲い捕食する。縄張り争いだとか魔力を使っては森林や村を焼き地形を変える。

俺のいい人だってそうだ。ちょっと討伐行っている間に魔物の群れに襲われた。
魔物は人の敵だ。害だ。

モルは魔獣だ。いつか人を襲うかも知れない。しつけなくてどうする。
最初から人に怯えもせず真っ直ぐ見てくる赤い眼。怖がることも無く人に触れ、触られる事も抵抗が無い。気が付けば側にいる。呼べば振り向くし興味がなければ無視される。
なんで俺は森に帰さなかったんだ。

「…なんなんだ」

キングスはモルが入っていない空のタライを見て酒をあおった。



「あんた最近また酒臭えなあ」
「はっ、俺は身体が酒で出来てんだよ」
「腕がいいから信用してっけど、酔ってやらかしてくれんなよー?ははは!」
「いってろ。クソが」

キングス達は人的被害が出た村の依頼討伐に来ていた。移動して群れで生きるアグ。額に太角を持つ顔は狐似で細く体も痩せている四足獣。中型で細いのに角で突いては何もかも食い荒らす害獣だ。食が足りないと人まで捕食対象になる。

「おい、そっちいったぞ!」
「囲め囲め!」
「土魔法くっぞー!レジスト頼むぜー!」

夜行性なのを逆手に昼間に巣穴拠点を一斉攻撃だ。

「メイジ撃て撃て!」
「風切
ヴィントゥス
!」
「うわあああっ!アホ!反対反対!」
「うおぃ!デバフいけよ!」
「うるさいいぃ!弓だ弓!」
「わははは!」

滅茶苦茶である。組んでいる冒険者でもない傭兵崩れとはこんなものだ。皆ゲラゲラ笑いながらの討伐。キングスも苦笑いしながら自分の分担範囲で獣を斬り捨てる。この連携の無さで討伐完了してしまうのが戦争経験者ならではの臨機応変さだ。

死骸は報酬証明部位を切り、食用以外は焼くのが通常だ。山と燃える魔物を見てキングスは思う。これがモルだったら俺は…。心にぽっかり穴があく感じがした。
もしかして他の魔獣にもモルみたいなのがいるのか?この中にもいたのか?

「…何考えてんだ。魔獣は魔獣だ」
「ああ?おやっさん魔獣見たのか?情報あったらくれよ。最近古種は高値で売れんだ」
「は?売れる?」

キングスは眉をしかめた。

魔獣は確かにそこらの魔物より魔力が高く長命で知的だ。古代竜、魔狼、金獅子だったり伝説的な魔物が多く、信仰対象や研究対象にもなる。生息地が不明確な上、数が少ないらしい。人は滅多に太刀打ちできないし、狂って攻撃的でも無い限り捕獲しないのが魔獣だった。

「なんでもよ。テイマーもどき流行っての?貴族どもが買い取って権力ついでに飼いならすやつな。珍しければ魔物でも買い取り。逆に咬まれて痛い目みる阿呆貴族みたさに売る馬鹿ってか。俺も金は欲しいからな」
「…捕獲時点で厳しいな」
「っだよな。知能高いって聞くし人に従うはずねえしなあ」
「…まあな」


人に従う、か。モルはどうだ?
モルは自由だった。確かに知的で気紛れに言う事に反応し、人を観察して人と過ごす。人懐っこい魔獣。犬も子供も少年の擬態は可愛いと思った。強要したり命令はしてなかったと思う。怒鳴ってしつけたけどな。

キングスはまたモルを思い出すと、心に大きな風穴がある様な気がした。それを感じると薄寒くなり酒に溺れたくなるのだ。
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