上 下
70 / 71
第二章 勇者召喚

はやく前に進もうぜ

しおりを挟む
 トメちゃんの仕業か?拗ねたか腹いせに?
 まさかな。どう見ても土砂崩れ。

 ここに来て何もしない訳にもなあ。誰も悪くない災害なんだろ?助けるべきだ。

 チラと周囲を見回すと、自分の事が優先の魔族に他人を助ける魔族と行動は多様。人も魔族も十人十色ってか。ここは魔物の国。好きにしよう。

「プー、荷を持ってトメちゃんのとこ行けるか」

 肩から降ろしてコートを脱ぐ。山を示してから鞄を渡すと、じーっと俺を見て首を傾げてから走り出した。

 これでいい。一気に力を解放して魔狼に戻る。黒緑のフサフサの毛に健剛な四肢、見透かすような金の双眸の黒鉄魔狼は久々の本来の自分だ。全身をブルルッと振るい、前脚を出し背伸びをした。

 何にも囚われない爽快な気分とはこの事。

「よし」

 周囲は突然現れた三メートル超えの黒狼に騒めくが、そこはさすがに魔国。魔狼を知っているのか獣慣れか遠巻きに見つつ自分達の出来る作業を続ける。

 チラとトメちゃんを見ると、プーが言われた通り向かっているのに安堵した。俺を見てトメちゃんがフンッと鼻で笑った気もした。

 大岩を体当りで弾き飛ばし、地から臭う人らしき場所を掘り起こし救出し、集まった瓦礫を咥えては他の魔力持ちと運び出す。

 気が付けば空が青白んでいた。
 誰が悪い訳でもない。人も動物も突然命が終わることがある。これは自然災害だ。

「ああ、参った」
「数年であちこち崩れるなあ」
「もう町の入口を変えるべきだろ」
「うちの人が、ぅうっ」
「……若いのに可哀想に」
「何かデカイ狼に助けられたな」

 口々に聞こえる音は最早雑音。聞き取れるだけ判別して両耳をパタパタと振る。生臭い土のニオイはそういうことか。再々の土砂崩れで小山の土臭と同じになっていらしい。

 スフィンクス座りで周りを見渡し、ひと段落したと確認し牙が見える大欠伸をひとつ。結局夜通し救助と片付けを手伝った。

「くああぁっ、さすがに眠いな」

 ルクセルはこの現状を見て救助を手伝っていたが、既にプー達の姿は無い。途中何処かで休んでるのか。

 俺が魔獣だと判る魔力持ちの魔族は普通に話し掛けてくるし礼をいい、労いあった。
 不思議だったのは負傷者に創傷があっても出血がないこと。この種族の特徴なのか?

 少し離れた場所の地に並び横たわっているのは亡くなった人達だ。十数人はいる。何故か元々顔色の悪いと言っていた魔族ばかり。

「疲れたな」

 このまま少し仮眠でもと思ったが、その遺体の前に現れたトメちゃんに顔を上げた。

 それらの前にしゃがんでは、ワンピースのポケットから小石を出し顔の上に掲げた。
 遺族が側にいても誰ひとり制止することなくそれを十数人全員に行うのを見守っている様だった。

 石を口に入れた??

「??」

 ゾクリと魔力の波動が全身を突き抜けた。これはトメちゃんの魔力波動だ。解る魔族は次々と跪き頭を垂れた。それを見て波のように皆が同様に跪いていく。

「り、竜神子様~」
「ありがたや~」
「なんという奇跡。数百年振りに神子様が権現されたぞ!」
「魔獣まで遣わし救助まで!」
「神子様!」

 誰が神子だ。しかも俺は使役獣かよ。
 何が有難いのかと見ていると奇跡が起こった。

 遺体だった人達が目覚めたのだ。眠りから覚め寝起きだと言わんばかりに虚ろ気に身体を起こし始めた。
 町人は歓喜した。流を涙し確かめるように抱きしめ合っていた。

「ありがとうございます!」
「竜神子様ありがとう!」

 それを聞き流すように反応もせず、トメちゃんは俺に視線を寄越した。くいっと顎であっち!と示す。

 その先にプーとルクセルがいた。トメちゃんは腕を竜翼に変え町の外に向け飛び去った。名残惜しそうに見送る町人達は歓声をあげ明け空を仰ぐ。

 え?出るってこと?ついて来いか?

「ま、行くか」

 のそりと立ち上がり狙いを定め、魔力を思いっきり脚にのせ地を蹴った。




「ほ、本気で殺されると思った!獣人が獣に戻れるなんて聞いた事ないぞ!」

 町を出た街道でルクセルはまだガクブルして自分抱きしめのポーズで歩く。
 プーは久々のモフモフが嬉しいのか、俺の毛を掴んでぶら下がったり、頭から突っ込んでは跳ね返され尻もちをついていた。

 疾走して町を出るついでにプーを咥えた。ルクセルは鼻先の上に転がし載せて目に見えない程の速さで走ったからな。そりゃまあ恐怖体験だよな。

「召喚しといてどこの国かとか何者かも聞かないお前らが非常識なだけな」
「魔獣なのかっ!?魔族を召喚したのかっ!?」
「魔獣で悪かったな」

 道幅を塞ぐ体格の魔狼は、のそりと歩く姿も雄々しくも品がある迫力だった。ルクセルは初めて見る巨大狼だと顔を引き攣らせ、数歩距離を置いていた。

「ルーは魔族とはちょっと違うのじゃ。高濃度魔力の特殊種族で古竜の次に強いのじゃ。魔獣の最高ランクの魔狼よの」
「魔狼?古竜の次だとっ?!」
「さあな。獣には戦も人も関係ない。だから勇者じゃないし、なる気もないと言ったんだ」
「……は、ははっ」
「納得したか」

 ルクセルはガクリと項垂れた。

「ところで機嫌直ってるトメちゃん。土砂崩れ、やったんじゃ無いよな?」
「なんと不遜な!我はまだ怒ってるのじゃ」

 トメちゃんはジト目というやつになった。

「我は見護る者じゃ。あれは自然な崩落よ。余計な手は出さん」
「生き返らせたじゃないか」
「あれはのぅ土人形に近い土魔族なのじゃ。我の魔力の入った土石派生で寝ることもなく動き続ける。血もないしの。首か急所が壊れてやっと止まるのじゃ。魔力が入ればまた自然治癒で動く。メイド達の故郷だし、ルーが助けてたから我も真似しようかと思ったまでよ」
「不死?土人形ってゴーレム系か。ふーん?」

 ぷいっとそっぽを向くトメちゃん。

「まあ、良い事をしたわけだ」
「イシュー様が悪い事をするはずなかろう!」

 少し立ち直ったルクセルは地岩竜を敬うことは忘れないようだが、不死、不死?とカッと目を見開く表情は怖いからやめてほしい。

「我はトメちゃんなのじゃ!」
「……と、トメちゃん」
「ルーの友なのじゃ。我はルクセルに風呂で言うたのじゃ。ルーは見目はいいし精霊までついてくるなんてない事じゃからの。戦よりも面白そうじゃろてのう」
「……なんだと」

 その他人事冒険奇談スタンスは変わらんのか。フンッと鼻息荒く牙を見せトメちゃんを睨むがニヤリと返された。

「そ、そうだ。贈り物の礼を言いたい。これ程素晴らしい物はない。人が嫌いとまで言ったうえでその心遣いに感謝する」

 トメちゃんはルクセルの声にピタと足を止めてボソッと呟いた。

「……は、ないのか」
「聞こえんな」

 聞こえたけどな。プーが覗き込んで顔真似しとるわ。口が尖ってるらしい。

「ルーは我に、礼はないのか!」
「あー、石な。友として有難く頂戴した」

 プーがな。しかもどう使うかも不明。
 それでも満足したトメちゃんは照れ臭そうな笑顔になった。

「た、旅は面白いのじゃ!」

 トメちゃんはプーの手を繋ぎ取り歩く。
 引きこもりぼっち辞めて友ができ外に出てアレだ。浮かれてるな。浮かれてる・・・のか。なんだかなあ。嫌いじゃないんだよな。中身がうん千歳でもな。
 耳をパタッと振り、気分を切り替える。
 確かに前には進んでる。早くグルガナの森に帰ろう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...