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第二章 勇者召喚

けっかは、ハゲそう。

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「コートの下にかぁ?」
「無いか」
「これと精々胸当て、腕と膝かねぇ」

 防具屋で希望を告げ見繕ってもらったのが肌着タイプの鎖メイルと胸あて。無いよりはマシと購入する事にした。合計五万フラ。

 荷袋もあったからベルトタイプの提げ袋もひとつ七千フラで買った。全然相場がわからない。基準はやっぱ食べ物で知るべきか。早速着込んで店を出た。

「強いんでしょ?その力で助けて!」
「まあ。そこそこ」

 聞いた声に視線をやると、さっきの少女が懲りずに誰か捕まえたようだ。助けてと頼む態度も少し変な気もするが。フードの男は受けたようだ。長弓と矢筒を背に、子供を肩車して乗せてる子持ちらしい。魔力を纏って確かに力がありそう……ってコレ、ライバだろ。おい。

「こっちよ、ついてきて!」
「ああ。何をすればいい」

 ライバは少女の後ろをついて行く。プーは振り向き肩からぴょんと飛び降りた。俺に気付いていた様で小走りに向かって来る。

 ライバが少し振り返ると人差し指をしーっと口元で立て、少女をちょいちょいっと指差した。

「……ついて来いってか。いいマント買ってもらったな。似合うぞプー」

 プーを肩に抱き上げ少し距離を置いて尾行する事にした。褒めたのが嬉しかったのか、ずっと俺の頭を撫でくりまわしている。

「なあ、プー。自分の魔力を隠せるか?」

 ぺし

「なら直ぐ隠せ。この大陸に魔力は危ない」

 何だ。できるのか。もっと早く言えば良かった。乗っている肩とつかんでいる頭にある手が温もりを帯びる。頭をつんつんと突くのは終わった合図か。足元を横目で見ると確かに今まで見えていたモヤがない。これで不安要素がひとつ減った。これも褒めてやると頭をぎゅーっと抱きしめられた。超痛い。

 しかし、どこまで行く気だ。既に町を出た街道を横切り、畑を抜けた林間。

 遠くても魔狼の耳は音を拾える。二人の会話を聞いていたが、少女曰わく『祖母の農作小屋が獣に荒らされ困っている。冒険者の力を借りたい』らしい。ライバの態度といい、少女の魔力といい胡散臭すぎる。

 木々のない開けた場所の小屋に到着した。確かに小屋は半分崩れ、農道具が散乱。地面も穴だらけで何故か血生臭い。周りにある小さな苗床の様なものも駄目になっていた。魔狼は少し離れた木に凭れ様子を伺う。

「ここを荒らした獣を討伐して欲しいの!」
「それを探して倒せと?」
「お婆ちゃんが困ってるの、お願い!」
「お願いって、
 ライバが言い終わる前に少女は背を向けて走ったと同時に空気を切る音が通り過ぎた。

 ドッ!

「あははっ、ムカつく~」
「っぐ」
 ライバは腹部に衝撃を受け前屈みになる。

「私より弱いくせに偉そうにして!」

 少女は振り返り両腕を左右に広げると空気の渦が腕に集まる。目に見えるのは流れに乗って回る石飛礫。

 どういう展開だ。取り敢えず魔法だけならまだしも、石飛礫の物理攻撃に俺は当たればダメージを受ける。ライバはどうだ。早過ぎると視認できてなかった。同じ風魔法持ちなら対抗できるか?

 二人の初手を観て動くことにした。ライバは前屈みのまま魔力を集中させていたが、次の瞬間二人が動く。

 少女は両腕を前に振り、風と石飛礫を飛ばす。ライバは素早く弓矢をガッとまとめて抜き取り魔力を乗せ、思いっきり下に向けて投げ地に伏せた。

 四十五度程度に刺さった矢から魔力の筋が見えた。風を流し壁にしたようだ。向かう風は衝突して石飛礫と共に四方に散った。

 パリパリ、パリッ

 矢の軌跡が風が流れる方向。即ち地に向いて落ちていく石飛礫が大半。ライバの風力が勝った。咄嗟の判断でこれはウマイ。感心してる場合じゃないか。

 風に煽られた少女のフードが脱げ、顔が見えた。濃いめの褐色の肌に耳は尖り、目は赤味がかった瞳。

「……魔族?」

 声に出した途端少女は俺に気付いて攻撃してきたのが見えた。動体視力は自信がある。余裕で離れた隣の木まで跳躍する。

 パンッ、パリパリッ!

「おぉ」

 さっきまでいた木の皮が飛礫で剥がれていくのが見えた。危ないなあ。プーも怒って俺の頭をバシバシ叩き始める。

 ライバは身体を起こし少女に対峙するが、フードを脱いで顔を晒した。

「ダークエルフだな。額の印、六師部か」
「……お前はエルフ!ここで何をしてる」
「七師部。情報を貰おう」
「は、あはは!偵察?偵察だったの?そうね邪魔になりそうな兵士以外の冒険者の始末は順調よ!あの連れは何なの?やっちゃっていい?」
「いや、あれは強い。やめておけ」
「はあ?エルンカ狩ったくらいじゃ中級でしょ、魔力も見えないじゃない」
「待て。成果は。報告に帰る」

 何だと。ライバのやつ!やっぱり偵察部逃げたなんて嘘か!女が戦場に出ないってのも嘘かよ。目が合うとまたちょいちょいと少女を指差した。は?意味わかんないな。

「ここはまだ一人。他の町で八人よ」
「そうか」

 ヒュッ!

「え、え?あ、あ、アァァァ!?」

 ボトッ
 ブランッ

「ぎゃあぁああっ!痛い痛い痛いぃい!」

 ライバはダークエルフの両腕を風手刀で肘から切断した。右側は皮一枚でぶら下がる。激痛と出血で少女は蹲り泣き喚き絶叫し続ける。

 うわあ。どういう事?俺も危ないか?先ず慌てて耳を塞ぐ様にしてプーをコートの中に押し込んだ。子供の教育に悪過ぎる。

 ライバは矢を一本拾い上げ、ダークエルフを見下ろしていた。まさか。

「おい、トドメは要らんだろ」
「はっ、何を。顔も知られた。この歳で殺める事を簡単に言える壊れ具合。戦後も何するかわかったもんじゃない」
「お前も盗みで何人殺った」

    俺に躊躇なく矢を放ち、人間はたわいもないと言ったのが本音じゃないのか。

「それは急所は全て外した。脅しで怖がらせるため魔族らしくしたが殺ってない。国境の集落はこの国の人と交流がある。命を奪おうとは思わない。六師部は血に飢えた罪人。男女問わず嬉々として戦場に出て命令無視だ。同族の罪人をどう扱うか戦中自由」
「……どこまで真実だか」
「好きに思えばいい。捕縛《カープティス》」

 ライバは縄魔法を掛け、痛みと出血で朦朧とするダークエルフを足で転がした。

「っこ、この、裏切り、モノ、がッ」
「はっ、狂人が。魔族が皆戦争好きだと思うな、バカが」

 ライバは長弓を回収してその場を離れる。

 えええ。コレどうする気だ。放置したのは回復魔法使えないということか?

「、お。い、人間。やれ、ば?」
「俺は人じゃない。無駄な殺生はしない主義だ。助かりたいか」
「は、あ、?、ははっ、皆。し、ね!」

 うわー鳥肌出た。病んでるこの子。無責任だか冷徹だかどーでもいい。これは自分の手に負えない。放置もあれだからギルドか騎士団に任そう。背を向け町に歩き始めると、コートに押し込んだプーがひょこっと顔を出した。手をグっと握って腕を伸ばす。ま、まさかここで回復使う?!

「待てプー!」
 既に小さな光球はフワフワと舞い、ダークエルフの目の前に飛んだ。何をするでも無く浮遊していた。

「せ、ぃれ、ぃ?お、まえゆうし、ゃ?」

 は?勇者?

 それだけ言うとダークエルフはフッと静かになった。光球が戻ってプーの頭にすうっと消えていく。両手を合わせて頬の横に置くポーズをするプー。

「何だ?……ねんね?」

 ウンウン頷く。ねんね。眠るって事か。バイバイってしないから生きてるな。はあぁ。ムカムカする。ハゲそう。

 取り敢えず、ギルドに誰かが魔族と戦い捕縛したのを見たと報告。足早に町から出た。

 ライバはもういないだろうと思ったが、町の入り口にフードを深く被り立っていた。どうする気かは知らない。信用も半分。無言で横を通り過ぎた。

「帰るんだろ。道案内はする」
「……勝手にしろ」

 プーを肩車にして、スタスタと道を跨いで森に向かう。

「おい……逆だ」

 ライバは早速方向違いを指摘した。





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