44 / 71
わをーん!!
しおりを挟む
霧の森グルガナにいる孤高の黒鉄魔狼とは誰が付けたのか、最早過去の異名に成り下がっていた。
クロウが慣れない日常魔法で低木柵で囲んだ草地をプーに会えると思いつつ眺めて怠惰に過ごす。
本日も柵の中は俺の食料達がぴょんぴょんと集会して寛いでやがる。ヨダレが出るなあ。
ふと、一匹の筒ネズミが俺に突進してきた。
ぽすん
なにやってんだ?
腹に体当たりしたってどうにもならないぞ。五十センチも満たない獣が何やってんだか。
意味もなく突進して抱きつくプーを思い出して目を細めた。筒ネズミもいそいそと柵に向かって走り出す。
「はは…平和だな。そろそろ、か」
ラズとクロウはやりたい放題の後で帰郷転移する際、置いていった時計を見た。
リリーはブチギレてラズをこの大陸入国禁止にした。魔力でわかるから来たら咬み切る気らしい。いい判断してくれたよ。
「ループスー」
「やほー」
マーカーが出来たのでクロウとクルフェルが遊びに来るようになった。二人の魔術も更に上位になって来て見える魔力もくっきりしてきた。あれから一年経ったんだ。
「やれやれ…」
「う、うわあ、やっぱり見惚れるわぁー」
「ですよねえ」
「おい、そこどけよ。服着る」
俺はあたり触らず平々凡々に生きたい。それは今も変わらない。短期間の道中でイライラしたおかげか前世の人間性が表に出るようになった。困った事に獣として過ごすのが退屈で仕方ない時がある。
試しに人化したら軽く出来てしまったのだ。
胸下までの癖のある黒緑の髪、薄く色付いた褐色の肌、黄金色の目をした青年になった。
クルフェルが惚れるわーの異国王子だった。
「えーと、物の名前からでしたね!」
「あ、これ追加絵本ねー」
「ああ、助かる」
クロウがくれた服を来て二人と向かい合いガーデンチェアに座る俺。あまりにも退屈になって子供絵本で識字教室を始めたのだ。もちろん俺が生徒。
「…おい、こっち見んな」
「えー、見て減らないでしょ、気にしないで字書けば?それ間違ってるわよ」
「…何だと。どれだ」
「教えたら駄目ですよ!ループスも聞かないで書いてくださいね!」
「ああ?一個くらい良いだろう」
じーっとクロウを見た。この熱血教師め。
「何ですか」
「いやー、私を見つめて欲しいわ魔狼!その顔ってどこからそうなったの?凄いわー」
「知らん、親にでも似たんだろ」
「ループス、ペンが止まってますよ」
「……わかってる。クルフェル腕を組むな。ちっぱいがあたってるぞ」
「ちっぱい?」
「小さい胸のことだ。小さいぱいぱいだ」
「……魔狼、女性には言って良いことと悪い事が有るって存じてますわよね、おほほほ」
「いででで」
「…ループス、真面目にやって下さいよ」
頬をぐにっとツネられる。
口が滑ったな。クルフェルって言いにくいから最近内心ちっぱいって呼んでたからな。
俺は習った単語を綴る。今日はひたすらパンと肉と飲み物ってガリガリと書く。
一言なのに何で十文字近くのスペルなんだ、腹立つなあ。
「あ!」
「あー、まさか、魔狼!見て見て!」
「…なんだ」
頭を上げるとそれは待ちに待ったものだった。
フワフワと仄かな小さな光が舞い、迷う事なく魔狼に近づいて頭の上に乗ったのだ。
「……プー。お帰りだ。待ってたぞ」
クロウもクルフェルも穏やかに微笑んでいたと、思ったらワタワタと席を立ち口をパクパクし始めた。
「何だ、お前ら」
「ま、魔狼!す、透けてる!」
「ループス、何か魔術使いましたか?!」
「は?」
「えっ、いやっコレ既に触れないわよ!」
スカスカと魔狼の身体をクルフェルの腕がきっていた。目の前に手を持ってきて見ると本当に透けていた。
「え、ループス?!」
「……どういう事だ」
顔を上げると・・・あ、れ?
「勇者様が召喚されたぞ!」
「成功だ!成功したぞ!」
「これで魔王討伐の悲願が!」
ウォオオォ!!!
は?
重装騎兵、ヒゲの長過ぎる中年や、頭に冠が乗った青年に、大きい胸を略しておっぱいの可愛い女性が俺を囲んでいた。
その周りには大勢の人。足元を見ると見覚えのある青白い光を放つ円陣。
「勇者様!どうかこの国をお救い下さい!」
おっぱいの女性が目の前に来て訴えた。
・・・勇者。まさかの展開。
つんつんと髪を引かれた感じがした。フワフワと目の前に浮かぶ仄かな光は頬を掠めてまた頭に乗ったようだ。
プーが一緒か。ふ、ははっ。
「せ、聖霊の加護がついてるとは!」
「ゆ、勇者様!」
「加護付きの勇者様だぞ!」
女性に並んで冠載せた青年も縋る目で続く。
「どうかこの国をお救い下さい」
勝手に呼び出して仕事を押し付けるって本当迷惑極まりないよな。しかも命かかってたりするんだろ。阿保だ阿保。馬鹿らしくて思いっクソ遠吠えしてやりたい。わをーんてな。
俺は魔狼。獣で魔獣だ。
グルガナの霧の森に住む黒鉄魔狼だ。
「断る。俺は住処に帰るぞ」
完
「お待ちください!」
完、って書いてるだろ。ここから俺は自由に住処に帰るんだから、邪魔しないで欲しい。
「私はこの国の王です。民達を守りたいのです。西から進行して切迫しているのです。魔物に蹂躙、ましてや支配などされたくありませんでしょう!どうか。どうか!」
これ強制クエストなのか?
クロウが慣れない日常魔法で低木柵で囲んだ草地をプーに会えると思いつつ眺めて怠惰に過ごす。
本日も柵の中は俺の食料達がぴょんぴょんと集会して寛いでやがる。ヨダレが出るなあ。
ふと、一匹の筒ネズミが俺に突進してきた。
ぽすん
なにやってんだ?
腹に体当たりしたってどうにもならないぞ。五十センチも満たない獣が何やってんだか。
意味もなく突進して抱きつくプーを思い出して目を細めた。筒ネズミもいそいそと柵に向かって走り出す。
「はは…平和だな。そろそろ、か」
ラズとクロウはやりたい放題の後で帰郷転移する際、置いていった時計を見た。
リリーはブチギレてラズをこの大陸入国禁止にした。魔力でわかるから来たら咬み切る気らしい。いい判断してくれたよ。
「ループスー」
「やほー」
マーカーが出来たのでクロウとクルフェルが遊びに来るようになった。二人の魔術も更に上位になって来て見える魔力もくっきりしてきた。あれから一年経ったんだ。
「やれやれ…」
「う、うわあ、やっぱり見惚れるわぁー」
「ですよねえ」
「おい、そこどけよ。服着る」
俺はあたり触らず平々凡々に生きたい。それは今も変わらない。短期間の道中でイライラしたおかげか前世の人間性が表に出るようになった。困った事に獣として過ごすのが退屈で仕方ない時がある。
試しに人化したら軽く出来てしまったのだ。
胸下までの癖のある黒緑の髪、薄く色付いた褐色の肌、黄金色の目をした青年になった。
クルフェルが惚れるわーの異国王子だった。
「えーと、物の名前からでしたね!」
「あ、これ追加絵本ねー」
「ああ、助かる」
クロウがくれた服を来て二人と向かい合いガーデンチェアに座る俺。あまりにも退屈になって子供絵本で識字教室を始めたのだ。もちろん俺が生徒。
「…おい、こっち見んな」
「えー、見て減らないでしょ、気にしないで字書けば?それ間違ってるわよ」
「…何だと。どれだ」
「教えたら駄目ですよ!ループスも聞かないで書いてくださいね!」
「ああ?一個くらい良いだろう」
じーっとクロウを見た。この熱血教師め。
「何ですか」
「いやー、私を見つめて欲しいわ魔狼!その顔ってどこからそうなったの?凄いわー」
「知らん、親にでも似たんだろ」
「ループス、ペンが止まってますよ」
「……わかってる。クルフェル腕を組むな。ちっぱいがあたってるぞ」
「ちっぱい?」
「小さい胸のことだ。小さいぱいぱいだ」
「……魔狼、女性には言って良いことと悪い事が有るって存じてますわよね、おほほほ」
「いででで」
「…ループス、真面目にやって下さいよ」
頬をぐにっとツネられる。
口が滑ったな。クルフェルって言いにくいから最近内心ちっぱいって呼んでたからな。
俺は習った単語を綴る。今日はひたすらパンと肉と飲み物ってガリガリと書く。
一言なのに何で十文字近くのスペルなんだ、腹立つなあ。
「あ!」
「あー、まさか、魔狼!見て見て!」
「…なんだ」
頭を上げるとそれは待ちに待ったものだった。
フワフワと仄かな小さな光が舞い、迷う事なく魔狼に近づいて頭の上に乗ったのだ。
「……プー。お帰りだ。待ってたぞ」
クロウもクルフェルも穏やかに微笑んでいたと、思ったらワタワタと席を立ち口をパクパクし始めた。
「何だ、お前ら」
「ま、魔狼!す、透けてる!」
「ループス、何か魔術使いましたか?!」
「は?」
「えっ、いやっコレ既に触れないわよ!」
スカスカと魔狼の身体をクルフェルの腕がきっていた。目の前に手を持ってきて見ると本当に透けていた。
「え、ループス?!」
「……どういう事だ」
顔を上げると・・・あ、れ?
「勇者様が召喚されたぞ!」
「成功だ!成功したぞ!」
「これで魔王討伐の悲願が!」
ウォオオォ!!!
は?
重装騎兵、ヒゲの長過ぎる中年や、頭に冠が乗った青年に、大きい胸を略しておっぱいの可愛い女性が俺を囲んでいた。
その周りには大勢の人。足元を見ると見覚えのある青白い光を放つ円陣。
「勇者様!どうかこの国をお救い下さい!」
おっぱいの女性が目の前に来て訴えた。
・・・勇者。まさかの展開。
つんつんと髪を引かれた感じがした。フワフワと目の前に浮かぶ仄かな光は頬を掠めてまた頭に乗ったようだ。
プーが一緒か。ふ、ははっ。
「せ、聖霊の加護がついてるとは!」
「ゆ、勇者様!」
「加護付きの勇者様だぞ!」
女性に並んで冠載せた青年も縋る目で続く。
「どうかこの国をお救い下さい」
勝手に呼び出して仕事を押し付けるって本当迷惑極まりないよな。しかも命かかってたりするんだろ。阿保だ阿保。馬鹿らしくて思いっクソ遠吠えしてやりたい。わをーんてな。
俺は魔狼。獣で魔獣だ。
グルガナの霧の森に住む黒鉄魔狼だ。
「断る。俺は住処に帰るぞ」
完
「お待ちください!」
完、って書いてるだろ。ここから俺は自由に住処に帰るんだから、邪魔しないで欲しい。
「私はこの国の王です。民達を守りたいのです。西から進行して切迫しているのです。魔物に蹂躙、ましてや支配などされたくありませんでしょう!どうか。どうか!」
これ強制クエストなのか?
10
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる