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第51話 ド・オデッセリアの攻防⑨ セント・インゴッド学院を救え① リーダードゥルグ!
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そう決意して、ルミナが顔を上げ口を開きフィフスに反論しようとしたときだった。
いつの間にか一人言い争いの渦中を脱していたドゥルグが、この場に似つかわしくないほどの間抜けな声で、なんとなく思い浮かんだ疑問を口にした。
「あの巨人の向かう先……あの先には確か、この都市の学園があるんじゃなかったかね?」
その言葉を聞いて、今言い争いになろうとしていたルミナとフィフスの二人が息を呑みはっとした表情を作ると、思わずドゥルグのほうを振り向いていた。
ドゥルグは二人に注目されたのがよほど嬉しかったのか、饒舌に言葉を吐き出し始めた。
「間違いないね。僕は何度かこのあたりに来たことがあるんだ。確かに奴の向かう方角にはこの都市の学園であるセント・インゴッド学院があるはずだ。あそこはお金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんが通っているところだからね、下手な中央城よりも頑丈に作られているんだ」
「まずいわね」
ドゥルグの話を聞いていたフィフスの顔が青ざめる。
「先生、なにがですか?」
「あの巨人が、この都市の学院に向かっているということよ」
「それがどうして、まずいんですか?」
「この都市ド・オデッセリアの学院は、ドゥルグ・ムド・クアーズの言うとおり、上流階級の学生が通うがために中央都市、つまり王都の王城についだ頑強さを誇っているのよ。だから必然的にこの町の学院は、ここの住民達の緊急時の避難場所にもなっているのよ。多分この都市部のほとんどの人々が非難しているはずだわ」
「それって非常にまずいんじゃないかね」
「ええ、非常どころか本当にまずいわよ」
ドゥルグとルミナが顔を見合わせる。この場にいる者たちに沈黙が訪れた。
その沈黙を再び破ったのもこの場で一番の怖がりであり、ヘタレであり、冥界の魔物たちに対して一番腰の引けていたドゥルグだった。
彼は何事か考えを巡らしたあと、一人よっこらせとその場に立ち上がりながら口を開く。
「とはいえ、結局のところ相手がどんなにすごかろうと、やるしかないということだろう? なら、い~かげん腹をくくりたまえよ諸君。それに考えても見たまえ、こんなところでいつまでも不毛な言い争いをしていたところで何も解決しないさ。それにどの道ここをほうって置いたら、僕達だって近い将来やつらの餌食になってしまうんだ。なら、今すこしでも助かる可能性に賭けようではないかね? とにかく僕は誰がなんと言おうとあの巨大な冥界の門を閉じるために一人でも行くぞ」
言うが早いかドゥルグは、意を決したかのように、パチンッと指を鳴らすと瞬時に少し離れた空間に魔法陣を描き出して叫んだ。
「出でよ、入学祝に父上よりもらいし、スカルドラゴンッその名もスカルン!」
彼の意に従い次の瞬間にはアパートメントの屋上と隣接するかのように空中に描かれた巨大な召喚魔法陣から、全身が骨で構築されたアンデッド、スカルドラゴンが出現していた。
ズズズズーンと地響きを立て、空中に描かれた魔法陣から出現したスカルドラゴンが、アパートメントの隣の地面に落下する。
そして呼び出された挨拶とばかりにドラゴンが時の声を上げた。
「アンギャアアアアッ!」
どうやらドゥルグはスカルンを呼び出すために、いつの間にか精神を集中して魔力を高めていたようだった。
その様子をすぐ傍で見ていた者たちから声が上がる。
「ドゥルグ!」
「おいっグルグル!」
「ドゥルグ・ムド・クアーズッどういうつもりですか!?」
「ティーチャーフィフス。悪いが、やはり僕にはこの町の者たちは見捨てられないようだ」
ドゥルグはアパートメントの屋上から呼び出したドラゴンの背に優雅に飛び乗りながら、やたらかっこいいセリフを言い放つ。
「ドゥルグのくせに、ちょっとかっこいいじゃない」
少し感心したかのように言うルミナ。
それに確かにドゥルグの言うとおりだ。このままこんなところで不毛な言い争いをしていたところで、事態は解決するどころか悪化の一途を辿ることは誰の目から見ても明らかだ。
それなら、可能性は限りなくゼロに近いけど、やってみるべきなのかもしれない。
違う。
やるべきなんだ。至極まじめな考えで自分の進むべき道を決断しようとしているルミナをよそに、スカルドラゴンの背に飛び乗ったドゥルグはスカルンの頭骨の上に移動すると、頭骨の上で器用に決めポーズをとりながら、目的地である学院へと右手の人差し指を突きつけアホなセリフを言い放った。
「さぁいざゆかん。僕の将来の花嫁達を助けに!」
さっき考えてたのはそのことか! とつい心の中で突っ込みを入れるカナタ。
私利私欲で動きやがって。まぁこいつらしいっていっちゃらしいけどさ。とてもじゃないけど俺は共感出来ない。けど、こいつのやろうとしてることは決して間違っちゃいない。そしてこれは必ず誰かがやらなくちゃならないことだ。
そんなカナタの内心をよそに、ドゥルグはドラゴンの頭骨に仁王立ちしてバカなセリフを吐き出しながら、青銅の巨人ミノタウロスが向かったド・オデッセリアの中心街にあり、今やこの町の住民の避難所とかしている学院へと向おうと、その方角へスカルドラゴンの首を向かせた。
その様子をはたから見ていたカナタが、
「ああ~ったくしょうがねぇなっ付き合ってやるよ! グルグル!」
と叫びながら、ドゥルグの呼び出したスカルンの背に向かって飛び降りると、その様子をはたから見ていたルミナも、文句を言いながらカナタのあとを追った。
「あ~もうっほんっと~にバカなんだからっあんた達だけじゃ心配だから、私もついていってあげるわよ」
ドゥルグに習いルミナとカナタの二人も、アパートメントの屋上からスカルドラゴンの背に飛び乗ったのだった。
「ちょっ待ちなさい! 二人とも!」
「あ~ル~ちゃん、僕も行く!」
「イル・クア・ラシェスッあなたはちょっと待ちなさい!」
飛び出そうとしたイルはフィフスにむんずと襟首掴まれて首が絞まり。
「キュウッ」
とうめき声にならないうめき声を上げながら、スカルンに乗りこの場を去る一行を見送っていたのだった。
いつの間にか一人言い争いの渦中を脱していたドゥルグが、この場に似つかわしくないほどの間抜けな声で、なんとなく思い浮かんだ疑問を口にした。
「あの巨人の向かう先……あの先には確か、この都市の学園があるんじゃなかったかね?」
その言葉を聞いて、今言い争いになろうとしていたルミナとフィフスの二人が息を呑みはっとした表情を作ると、思わずドゥルグのほうを振り向いていた。
ドゥルグは二人に注目されたのがよほど嬉しかったのか、饒舌に言葉を吐き出し始めた。
「間違いないね。僕は何度かこのあたりに来たことがあるんだ。確かに奴の向かう方角にはこの都市の学園であるセント・インゴッド学院があるはずだ。あそこはお金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんが通っているところだからね、下手な中央城よりも頑丈に作られているんだ」
「まずいわね」
ドゥルグの話を聞いていたフィフスの顔が青ざめる。
「先生、なにがですか?」
「あの巨人が、この都市の学院に向かっているということよ」
「それがどうして、まずいんですか?」
「この都市ド・オデッセリアの学院は、ドゥルグ・ムド・クアーズの言うとおり、上流階級の学生が通うがために中央都市、つまり王都の王城についだ頑強さを誇っているのよ。だから必然的にこの町の学院は、ここの住民達の緊急時の避難場所にもなっているのよ。多分この都市部のほとんどの人々が非難しているはずだわ」
「それって非常にまずいんじゃないかね」
「ええ、非常どころか本当にまずいわよ」
ドゥルグとルミナが顔を見合わせる。この場にいる者たちに沈黙が訪れた。
その沈黙を再び破ったのもこの場で一番の怖がりであり、ヘタレであり、冥界の魔物たちに対して一番腰の引けていたドゥルグだった。
彼は何事か考えを巡らしたあと、一人よっこらせとその場に立ち上がりながら口を開く。
「とはいえ、結局のところ相手がどんなにすごかろうと、やるしかないということだろう? なら、い~かげん腹をくくりたまえよ諸君。それに考えても見たまえ、こんなところでいつまでも不毛な言い争いをしていたところで何も解決しないさ。それにどの道ここをほうって置いたら、僕達だって近い将来やつらの餌食になってしまうんだ。なら、今すこしでも助かる可能性に賭けようではないかね? とにかく僕は誰がなんと言おうとあの巨大な冥界の門を閉じるために一人でも行くぞ」
言うが早いかドゥルグは、意を決したかのように、パチンッと指を鳴らすと瞬時に少し離れた空間に魔法陣を描き出して叫んだ。
「出でよ、入学祝に父上よりもらいし、スカルドラゴンッその名もスカルン!」
彼の意に従い次の瞬間にはアパートメントの屋上と隣接するかのように空中に描かれた巨大な召喚魔法陣から、全身が骨で構築されたアンデッド、スカルドラゴンが出現していた。
ズズズズーンと地響きを立て、空中に描かれた魔法陣から出現したスカルドラゴンが、アパートメントの隣の地面に落下する。
そして呼び出された挨拶とばかりにドラゴンが時の声を上げた。
「アンギャアアアアッ!」
どうやらドゥルグはスカルンを呼び出すために、いつの間にか精神を集中して魔力を高めていたようだった。
その様子をすぐ傍で見ていた者たちから声が上がる。
「ドゥルグ!」
「おいっグルグル!」
「ドゥルグ・ムド・クアーズッどういうつもりですか!?」
「ティーチャーフィフス。悪いが、やはり僕にはこの町の者たちは見捨てられないようだ」
ドゥルグはアパートメントの屋上から呼び出したドラゴンの背に優雅に飛び乗りながら、やたらかっこいいセリフを言い放つ。
「ドゥルグのくせに、ちょっとかっこいいじゃない」
少し感心したかのように言うルミナ。
それに確かにドゥルグの言うとおりだ。このままこんなところで不毛な言い争いをしていたところで、事態は解決するどころか悪化の一途を辿ることは誰の目から見ても明らかだ。
それなら、可能性は限りなくゼロに近いけど、やってみるべきなのかもしれない。
違う。
やるべきなんだ。至極まじめな考えで自分の進むべき道を決断しようとしているルミナをよそに、スカルドラゴンの背に飛び乗ったドゥルグはスカルンの頭骨の上に移動すると、頭骨の上で器用に決めポーズをとりながら、目的地である学院へと右手の人差し指を突きつけアホなセリフを言い放った。
「さぁいざゆかん。僕の将来の花嫁達を助けに!」
さっき考えてたのはそのことか! とつい心の中で突っ込みを入れるカナタ。
私利私欲で動きやがって。まぁこいつらしいっていっちゃらしいけどさ。とてもじゃないけど俺は共感出来ない。けど、こいつのやろうとしてることは決して間違っちゃいない。そしてこれは必ず誰かがやらなくちゃならないことだ。
そんなカナタの内心をよそに、ドゥルグはドラゴンの頭骨に仁王立ちしてバカなセリフを吐き出しながら、青銅の巨人ミノタウロスが向かったド・オデッセリアの中心街にあり、今やこの町の住民の避難所とかしている学院へと向おうと、その方角へスカルドラゴンの首を向かせた。
その様子をはたから見ていたカナタが、
「ああ~ったくしょうがねぇなっ付き合ってやるよ! グルグル!」
と叫びながら、ドゥルグの呼び出したスカルンの背に向かって飛び降りると、その様子をはたから見ていたルミナも、文句を言いながらカナタのあとを追った。
「あ~もうっほんっと~にバカなんだからっあんた達だけじゃ心配だから、私もついていってあげるわよ」
ドゥルグに習いルミナとカナタの二人も、アパートメントの屋上からスカルドラゴンの背に飛び乗ったのだった。
「ちょっ待ちなさい! 二人とも!」
「あ~ル~ちゃん、僕も行く!」
「イル・クア・ラシェスッあなたはちょっと待ちなさい!」
飛び出そうとしたイルはフィフスにむんずと襟首掴まれて首が絞まり。
「キュウッ」
とうめき声にならないうめき声を上げながら、スカルンに乗りこの場を去る一行を見送っていたのだった。
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