上 下
52 / 88

第51話 ド・オデッセリアの攻防⑨ セント・インゴッド学院を救え① リーダードゥルグ!

しおりを挟む
 そう決意して、ルミナが顔を上げ口を開きフィフスに反論しようとしたときだった。

 いつの間にか一人言い争いの渦中を脱していたドゥルグが、この場に似つかわしくないほどの間抜けな声で、なんとなく思い浮かんだ疑問を口にした。

「あの巨人の向かう先……あの先には確か、この都市の学園があるんじゃなかったかね?」

 その言葉を聞いて、今言い争いになろうとしていたルミナとフィフスの二人が息を呑みはっとした表情を作ると、思わずドゥルグのほうを振り向いていた。

 ドゥルグは二人に注目されたのがよほど嬉しかったのか、饒舌に言葉を吐き出し始めた。

「間違いないね。僕は何度かこのあたりに来たことがあるんだ。確かに奴の向かう方角にはこの都市の学園であるセント・インゴッド学院があるはずだ。あそこはお金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんが通っているところだからね、下手な中央城よりも頑丈に作られているんだ」

「まずいわね」

 ドゥルグの話を聞いていたフィフスの顔が青ざめる。

「先生、なにがですか?」

「あの巨人が、この都市の学院に向かっているということよ」

「それがどうして、まずいんですか?」

「この都市ド・オデッセリアの学院は、ドゥルグ・ムド・クアーズの言うとおり、上流階級の学生が通うがために中央都市、つまり王都の王城についだ頑強さを誇っているのよ。だから必然的にこの町の学院は、ここの住民達の緊急時の避難場所にもなっているのよ。多分この都市部のほとんどの人々が非難しているはずだわ」

「それって非常にまずいんじゃないかね」

「ええ、非常どころか本当にまずいわよ」

 ドゥルグとルミナが顔を見合わせる。この場にいる者たちに沈黙が訪れた。

 その沈黙を再び破ったのもこの場で一番の怖がりであり、ヘタレであり、冥界の魔物たちに対して一番腰の引けていたドゥルグだった。

 彼は何事か考えを巡らしたあと、一人よっこらせとその場に立ち上がりながら口を開く。

「とはいえ、結局のところ相手がどんなにすごかろうと、やるしかないということだろう? なら、い~かげん腹をくくりたまえよ諸君。それに考えても見たまえ、こんなところでいつまでも不毛な言い争いをしていたところで何も解決しないさ。それにどの道ここをほうって置いたら、僕達だって近い将来やつらの餌食になってしまうんだ。なら、今すこしでも助かる可能性に賭けようではないかね? とにかく僕は誰がなんと言おうとあの巨大な冥界の門を閉じるために一人でも行くぞ」

 言うが早いかドゥルグは、意を決したかのように、パチンッと指を鳴らすと瞬時に少し離れた空間に魔法陣を描き出して叫んだ。

「出でよ、入学祝に父上よりもらいし、スカルドラゴンッその名もスカルン!」

 彼の意に従い次の瞬間にはアパートメントの屋上と隣接するかのように空中に描かれた巨大な召喚魔法陣から、全身が骨で構築されたアンデッド、スカルドラゴンが出現していた。

 ズズズズーンと地響きを立て、空中に描かれた魔法陣から出現したスカルドラゴンが、アパートメントの隣の地面に落下する。

 そして呼び出された挨拶とばかりにドラゴンが時の声を上げた。

「アンギャアアアアッ!」

 どうやらドゥルグはスカルンを呼び出すために、いつの間にか精神を集中して魔力を高めていたようだった。

 その様子をすぐ傍で見ていた者たちから声が上がる。

「ドゥルグ!」

「おいっグルグル!」

「ドゥルグ・ムド・クアーズッどういうつもりですか!?」

「ティーチャーフィフス。悪いが、やはり僕にはこの町の者たちは見捨てられないようだ」

 ドゥルグはアパートメントの屋上から呼び出したドラゴンの背に優雅に飛び乗りながら、やたらかっこいいセリフを言い放つ。

「ドゥルグのくせに、ちょっとかっこいいじゃない」

 少し感心したかのように言うルミナ。

 それに確かにドゥルグの言うとおりだ。このままこんなところで不毛な言い争いをしていたところで、事態は解決するどころか悪化の一途を辿ることは誰の目から見ても明らかだ。

 それなら、可能性は限りなくゼロに近いけど、やってみるべきなのかもしれない。

 違う。

 やるべきなんだ。至極まじめな考えで自分の進むべき道を決断しようとしているルミナをよそに、スカルドラゴンの背に飛び乗ったドゥルグはスカルンの頭骨の上に移動すると、頭骨の上で器用に決めポーズをとりながら、目的地である学院へと右手の人差し指を突きつけアホなセリフを言い放った。

「さぁいざゆかん。僕の将来の花嫁達を助けに!」

 さっき考えてたのはそのことか! とつい心の中で突っ込みを入れるカナタ。

 私利私欲で動きやがって。まぁこいつらしいっていっちゃらしいけどさ。とてもじゃないけど俺は共感出来ない。けど、こいつのやろうとしてることは決して間違っちゃいない。そしてこれは必ず誰かがやらなくちゃならないことだ。

 そんなカナタの内心をよそに、ドゥルグはドラゴンの頭骨に仁王立ちしてバカなセリフを吐き出しながら、青銅の巨人ミノタウロスが向かったド・オデッセリアの中心街にあり、今やこの町の住民の避難所とかしている学院へと向おうと、その方角へスカルドラゴンの首を向かせた。

 その様子をはたから見ていたカナタが、

「ああ~ったくしょうがねぇなっ付き合ってやるよ! グルグル!」

 と叫びながら、ドゥルグの呼び出したスカルンの背に向かって飛び降りると、その様子をはたから見ていたルミナも、文句を言いながらカナタのあとを追った。

「あ~もうっほんっと~にバカなんだからっあんた達だけじゃ心配だから、私もついていってあげるわよ」

 ドゥルグに習いルミナとカナタの二人も、アパートメントの屋上からスカルドラゴンの背に飛び乗ったのだった。

「ちょっ待ちなさい! 二人とも!」

「あ~ル~ちゃん、僕も行く!」

「イル・クア・ラシェスッあなたはちょっと待ちなさい!」

 飛び出そうとしたイルはフィフスにむんずと襟首掴まれて首が絞まり。

「キュウッ」

 とうめき声にならないうめき声を上げながら、スカルンに乗りこの場を去る一行を見送っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...