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第45話 ド・オデッセリアの攻防③ 学生小隊③ イルの現状確認

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 その結果がこれだ。やはり彼は何の役にも立たないばかりか。パーティの足を引っ張りかねない。

 私は思った。

 やはり彼の意向に逆らってでもカナタ・ユア・モーティスをパーティメンバーとしてここに連れてくるべきではなかったと。だが今はそんなことを考えている場合ではない。

 そう思ったところでフィフスは思考を打ち切り唱えていたスペルに意識を集中させる。そして、彼女の補助スペルは完成した。

「祖は光の導きて、祖は神の子なり、祖よ、我らが神の子らを守る楯をここに! ホーリー・シールド!」
 フィフスの力ある言葉とともに、ルミナとイルを聖なる優しい光が包み込む。

補助スペルであり神聖魔法の一つである。ホーリーシールドだ。

これで冥界の魔物たちの放つある程度の暗黒魔法や呪いの類を退けることができる。

 聖なる光の加護を受け、ルミナとイルの二人は冥界の魔物たちを巧みな剣技と拳技で瞬く間に屠っていくが、いかんせん倒すべき敵の数が多すぎた。

 冥界の魔物たちは一体一体が並の魔物より強いとはいえ、いまや聖なる光の加護を受けたルミナとイルの敵ではなかった。

 しかしそれでも剣や拳での攻撃が主なルミナやイルでは、圧倒的な数で攻めてくる冥界の魔物たちに対しての戦力的な不利は否めなかった。いくら自分達の実力が個々で相手を上回り一対一であるならば現状圧倒的に有利だとしても、いかんせん敵との数が、ルミナたちと冥界の魔物たちとの間に存在している全体的な戦力の差がありすぎた。そして、今はその個々の実力差のせいで表立っては見えないが、いずれ体力が落ちて来た時、ルミナたちがその圧倒的な冥界の魔物の数の力によって押し切られることは、もはや誰の目から見ても明らかだったからだ。

 しかも冥界の魔物たちはいくら倒しても一向に減る気配を見せなかった。いや減るばかりかはたから見ているとその数が増えてきているような気さえする。

そのことに気が付いたのかルミナが不意に声を上げた。

「ねぇイル。なんかさっきより魔物の数、増えてない?」

「そういえば……言われてみればそうだよね。ル~ちゃん。どうなってるんだろ?」

 ルミナはイルに声をかけ、冥界の魔物の数が増えている気がしていたのが、己の気のせいだということではないんだと確認した後、フィフスへと指示を仰ぐため大声を張り上げた。

「先生! 魔物の数が減るばかりか増えていませんか!」

 そういえば、ルミナ・ギルバート・オデッセリアの言うとおり、先ほどから彼女たちが幾つもの冥界の魔物を倒しているというのに、その数は減るどころか増えてきているような気がする。

 嫌な予感がするわね。フィフスはド・オッセリアの町の中心付近に出来た城ほどもある巨大な冥界の門を見つめて、これは早々に現状を確認する必要がありそうだと結論付けると声高に叫んだ。

「少し待ってなさい! ルミナ・ギルバート・オデッセリア!」

 とは言ったもののどうやって現状を確認すればいいかしら? その時新入生歓迎会の折、ルミナと共に圧倒的な強さで上級生に勝利を収めた彼女の身体能力を思い出した。

「イル・クア・ラシェス!」

「ん? な~にフィ~ちゃん?」

 ルミナと共に冥界の魔物の相手をしているというのに、一切呼吸を乱さず疲れも見せず表情一つ変えることなくいつもどおりの口調で聞き返してくる。

「あなた、高いところには登れるかしら?」

「うん。そりゃあ普通に登れるけど?」

「なら、ここはいいですから、あなたは現状の確認のため冥界の門と、この町の様子を偵察してきてください」

「でも、い~のフィ~ちゃん」

「はい、そこ。教師をちゃん付けしないって何度言わせるの?」

「今はそんなことより、ここで僕が抜けちゃうと、いくらル~ちゃんでも一人じゃこのこたちの相手、さすがにきついと思うんだよね?」

 フィフスに言われたイルが周りを見渡しながら言う。

 確かにそのとおりだった。さすがに冥界の魔物とはいえ、たんなる雑魚相手に一学年の中でもトップクラスの実力を誇り、学内有数の使い手であるルミナが引けをとるわけはないが、ここでイルが抜けて相手にする魔物の数が一気に倍加したら? さすがのルミナとてまぁやられはしないだろうが、倍加した敵を相手に厳しい戦いを強いられることになることは必死だからだ。

「それならもう手は打ってあります」

 彼女がチラッと横目で見たのはドゥルグのほうだ。

 根が単純なドゥルグは、特に何も考えることなく、先ほどフィフスに言われたとおりに己に使役できるだけの不死系アンデッドを呼び出すための詠唱をしていた。

 そして、そのドゥルグの呪文が完成する。

「不死の血族よ、我らが先祖との縁に従い。今、この場に姿を現さん。サモン! スケルトンレギオン!」

 ドゥルグの呼びかけに応じて、彼の眼前に出現した魔法陣の中から、地表に這い出すようにして、次々と現れる不死系アンデッドであるスケルトンの群れ。それら数十にも上る人骨格たちは、ドゥルグの指示の元冥界の魔物に向かって突き進む。

 もちろんただ数を頼みにドゥルグ風情に呼び出されたアンデッド程度では、雑魚とはいえ仮にも冥界の魔物と呼ばれるものの相手にすらならなかった。だが、ようは囮になりイルの抜けた穴さえ防げればいい。簡単に言えばイルが抜け彼女が相手にしていた魔物の注意をルミナではなく、その他に移せれば成功なのだ。

 そう考えるとドゥルグの呼び出したこのスケルトン軍団は、その役割を担うには適切なモンスターだった。なぜならスケルトンは斬っても突いても噛付いても倒せず、しかも痛み、つまり痛覚がない彼らは、たとえ首がもげ頭骨が転がったり肋骨が砕け散ってバラバラになったとしても動き続けるからだ。

 牽制ようにと思って唱えさせていたのが幸いしましたね。これならばイル・クア・ラシェスの抜けた穴も十二分に補ってくれることでしょう。そう思いながらフィフスはドゥルグに声をかける。

「さすがドゥルグ・ムド・クアーズ。クアーズ家のご子息ですね」

「へ~ここまで考えて呼び出したのか」

 フィフスとカナタから感嘆の呟きがもれる。そればかりか冥界の魔物相手に立ち回っているルミナからも、へ~といった感じになかなかやるじゃん的な視線を向けられる。

「へ?」

「って、グルグル。こうなることを見越してスケルトンたちを呼び出したんじゃないのかよ?」

「おおっそ、そそそそう、そうだともっわかってるじゃないかね諸君!」

 カナタの問いかけに対してようやく言われていることの意味に気づいたのか、やたらえらそうに胸を張る。

 ドゥルグの態度を見て、やっぱこいつな~んも考えてなかったか。少しでも見直した私たちがバカだったと、その場にいるルミナたちは思ったのだった。

 とはいえ、こうするためにフィフス先生はドゥルグに役にも立たないアンデッドを呼び出させていたのねとルミナは一人納得する。

「さっ今のうちです。イル・クア・ラシェス」

「は~いっわっかりました~♪」

 元気よく手を挙げると、手短で一番背の高い赤レンガ造りの建物に駆け登るイル。

 もちろん文字通り彼女は人間離れした脚力で建物の壁を垂直に、駆けて、登っていく。

 そして数瞬の後、赤レンガ造りの建物の天辺に到達したイルが周辺を見回していると、その視線が都市の中心付近にある巨大な冥界の門に釘付けになる。

 彼女の目が釘付けになった理由は、冥界の門の隙間から続々とこちら側へと出てくる冥界の魔物たちの群れとは別に、門の内側から何物かの青銅色の野太い腕が出現して、未だ開ききっていなかった巨大な冥界の門を内部からこじ開けるようにして、何物かが今にも門の内側からこちら側へと姿を現そうとしていたからだった。

 その様子を見て思わず門から出て来ようとしている物を、自らの指で指し示しながら大声を張り上げるイル。

「フィーちゃん! あれ!」

 イルの大声に反応して、皆がみなイルのいるほうを振り向き彼女の指の指し示す先へと視線を向ける。 

「なに……あれ?」

 視線を向けた先に今にも現れようとしているあまりにも巨大なものを目にしてルミナは呆然として呟く。

 イルの大声に反応して、みんながその先へと視線を向けていると、巨大な冥界の門の内側から現れた青銅色の野太い腕は、門から出るやいなやその巨大な腕で冥界の門の扉を掴むと、内側から左右に押し広げるようにして、未だ門の内側にあった己の青銅色の巨大な身体をこちら側へと現し始めたのだった。

 イルの指し示したルミナたちの視線の先に三、四階建てのレンガ造りの建物より頭二つ三つ分ほど抜け出した全身青銅色の巨大な巨人が、石造りの巨大な冥界の門を押し開げながら姿を現した。
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