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第二幕 現世邂逅

第七十九話 タイムリミット

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 まずいな。この調子だと時間経過とともに次々と押し寄せてくる餓鬼が炎の壁を突破する方が早い。

 そう思った俺は、炎の壁から抜け出してくる餓鬼を石礫で始末しながらも、炎の壁の前面に高さ二メートルほどの石壁を作り上げる。

 石壁と言っても、さすがに二十メートルほどある炎の壁のすべての前面に張り巡らせるのは困難だと思ったので、まちまち(一定間隔)に作り上げた。

 そうして炎の壁を突破してくる餓鬼の数を抑えつつ、炎の壁と石壁の両方を突破してくる餓鬼を石礫で始末した俺は、石壁で補強した炎の壁を突破してくる餓鬼たちを警戒しながら、撤退の進み具合を見るために、もう一度六花たちにも視線を向けた。

 だが、やはりというべきか。六花たちの撤退は遅々として進んでいなかった。

 あ~もうっこのままじゃまにあわねぇじゃねぇかっどう考えても時間経過とともに数を増す餓鬼たちが、炎の壁を突破する方が六花たちが撤退するよりも早い。

 それに、陰陽師たちを田んぼから助け出したとしても、俺の見渡した限りだと、この場から撤退できる移動手段となるべき乗り物の存在も見られない。

 というか六花たちは、陰陽師たちを田んぼから助け出した後どうやってこの村を脱出する予定なんだ?

 そのことを疑問に思った俺は六花に声をかけることにした。

「ど……って、に……る?」(どうやって逃げる?)

 陰陽師に肩を貸しながら俺に声をかけられた六花は、こういったことに対しての頭の回転が速いのか。すぐさま俺の意図している答えにたどり着くと、俺の疑問に答えてくる。

「村の外にあたしたちが乗って来た車があるのっそれで逃げるつもりっ」

 なるほど車か。確か車ってのは、多人数を乗せて走ることのできる人間の使う移動手段だったはずだ。

 それなら何とか逃げ切れるか? あとはそこにたどり着くまでに、どのぐらいの時間がかかるかだけだが、一応聞いておくか。

「じ……ん。ど……らい?」(そこまで行くのに、どのくらい時間かかる)

「たぶんみんなをそこまで運ぶには、一時間以上はかかると思う」

 何気なく聞いた俺に帰ってきた答えは、一時間以上かかるという六花の返答だった。

 一時間以上か……ちと厳しいな。

 俺は石壁で補強した炎の壁を、すでに物量で突破し始めている餓鬼たちに一瞬視線を向け、その動向を不安に思いながらも、六花にさらに問いかける。

「こ…く……ま、もて……い、か?」(ここに車もってこれないのか)

「そうだよっその手があったよっ玲ねぇっ車の運転できるっ!?」

 期待に目を輝かせて聞いてくる六花に、玲子は非情な現実を告げる。

「手押し車なら……」

「えっと……ごめん。玲ねぇって、確か機械とか苦手だったんだよね?}

「すまん……」

「ううん。聞いたあたしが悪かったよ。ごめん」

「いやいや本当にすまん」

 なんかこのままにしておくと、延々とこのやり取りが行われそうだったので、俺は口をはさむことにした。

「ほ……に、う……ん。で…きる、は?」(ほかに運転できるのは?)

「わしがっわしができまするっ」

 六花付き護衛陰陽師の陰陽頭と思わしき、六花に肩を借りている一番年齢のいった白髪交じりの陰陽師が、恐る恐るといった感じに俺の質問に答えてくる。

「その体で運転ができるのか?」

「はい。基本車の運転は座っているだけなので何とかなると思いまする」

「なら六花」

「うん。安国(やすくに)さんを車のあるところまで連れて行って、それからみんなを運び出せばいいんだよね」

「ああ、これで何とかなりそうだな」

 というか、話がまとまったところ悪いんだが、そろそろやばいかもしんない。

 六花たちとつたないながらも会話を交わして、炎の壁の現状維持にも意識を裂いていた俺は、念のために発動しっぱなしだった気配探知に引っかかって来た大きな気配の存在を感知すると共に、後方に大きく飛び退った。

 もちろん俺が大きく飛び退ったのを、気配で感じ取っていた玲子たちも、炎の壁の方を振り返った。
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