上 下
71 / 129
第二幕 現世邂逅

第七十一話 奥多摩村の戦い⑨ 罠

しおりを挟む
 俺の移動速度を軽く上回る玲子の剣げきに翻弄されながら、俺は後ろに下がり続ける。
 
 石の盾なら切り裂けるか。なら、これならどうだ。大っ『集石』!

 俺は先ほどまでの『集石』にかける呪力を増して、俺と玲子との間に、小型トラックほどの巨大な岩山を作りだすと共に、その岩山に手を触れて後方に跳躍した。

「ふんっ児戯だな。桧山流剣術三の太刀『岩石砕き』!」

 玲子が大上段に振りかぶった両手持ちの刀から、力強い三の太刀『岩石砕き』を繰り出すと、俺が呪力増しの集石で作った岩山がたったの一太刀で豪快に叩き割られた。

 マジ!? と驚くのが普通なのだろうが、まぁ原理は未だにわからないが、俺の『炎の壁』を越えて俺の体を切り裂いたり、俺の『集石』で作り出したいくつもの石の盾をまるで薄紙のように切り裂いてきたのだから、このくらい想定内だ。

 そう、俺はこの岩山で玲子を足止めしようとかを考えていたわけではなく。剣術に相当な自信を持っている玲子ならば、この岩山をかわすのではなく。確実に斬りにかかるだろうと思ってこの岩山を作り出していたのだった。

 そして、玲子は俺の予想通りに岩山を切り裂いた。

 それも一太刀で。

 だが、俺は岩山を発動させて、完成した後。岩山に『手』を触れ『火線』を発動させて岩山の中を溶岩の塊と化していたのだ。

 つまり岩山を切り裂いた玲子に、当然岩山の中に満たされていた溶岩が降り注いだのは言うまでもない。

 しかも逃げ道を塞ぐように、すでに俺は地面に両手をつけて玲子と岩山を囲むようにして『火線』を張り巡らせていた。

 もちろん俺の張り巡らせた火線からは、炎の柱が立ち上っている。

 そう、玲子は自分の腕を過信するばかりに、俺の罠にはまり逃げ道を封じられ、自分の刀が切り裂いた岩山から溢れ出す溶岩に呑み込まれたのだった。

 あっつい本気でやっちまった。

 けど仕方ないか。今回はあの女が強すぎて、はっきり言って余裕がなかった。

 それにもしも俺が六花戦の時のように、できる限り相手を傷つけないように戦ったとしたら、多分足元をすくわれる。

 それだけの実力をあの女は有していたのだから仕方ない。

 にしても、どっかで聞いた名前だし、見た顔なんだよな? 六花にしても、玲子にしても? けど思い出せない。きっとこれが前世の記憶みたいなものなのだろう。

 できれば、前世の知り合いかもしれない相手を、俺も殺したくなんてなかったが、今回ばかりは仕方ない。と思うことにした。

 だが、俺の予想外の出来事が起こる。

「ハアアアアアアアッ桧山流剣術『風神演武』!」

 へ!? 思わず予期していなかった光景に間抜けな声を上げた。

 なぜなら、火柱で囲んで、溶岩に呑み込まれたはずの玲子が火柱と溶岩すべてを、竜巻を発生させるような剣術によって、吹き飛ばしたからだ。

 ……マジ……かよ。さすがに、火柱や溶岩を剣術で吹き飛ばされるとは、まったく予想していなかった俺は、玲子のありえない剣技に面食らってしまう。

「はぁはぁはぁ」

 とはいっても、さすがにあの量の溶岩や火柱を一気に吹き飛ばすのは、玲子でもきつかったのか。玲子は刀を地に着け、体を支えながら、肩で荒い息をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...