宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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エピローグ 

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「もう大丈夫なようだな」

 ニーナが一緒に作業をしている裕矢の顔に視線を送りながら声をかける。

「まぁなんとかな」

 裕矢は秋菜にはたかれて、未だはれが引かない頬を手の平で撫でながら答えた。

 裕矢とニーナがいるのは、宇宙空間にある小型戦艦ナノグリフの甲板だ。

 ナノエフェクトによって環境適応し、さらに目覚めたナノエフェクトのおかげで、機械に触れるだけで、その機械の基本的な扱い方が脳内に流れこんでくるようになった裕矢は、ナノエフェクトの慣らしもかねて、ニーナと共にエリスの言いつけで、船外である宇宙空間に出て船の修繕作業を行っていた。

 まぁ船の修繕といっても、船自体にナノエフェクト技術が応用されているために、自己修復してしまうので、直す箇所などないのだが、二人は念のための計器チェックなどをしているのだった。

 星の聖域から無事帰還した裕矢たちは、あおいやアイギス、他の星たちが眠りにつき秋菜の往復ビンタによって裕矢が気絶したあと、地球のビッグバンを何とか生き延びたニーナたちによって回収されたのだった。

 ニーナたちに回収された後、裕矢はエリス。ジーン。ニーナの三人に突然姿を消した後何があったのか問いただされた。

 そのため裕矢は三人に今まで起きた事の経緯をかいつまんで説明していた。

「にわかには信じがたい話だな」

 裕矢たちの話を聞き終えたエリスが感想を述べる。

「ああ、とても信じられないな。だが、本当のことなのだろう?」

 ニーナが裕矢に問いただす。

「ああ」

「そうか、ならばわたしは裕矢。お前を信じよう」

「おいおいマジかよニーナ!?」

 ニーナの裕矢の言葉を肯定する発言を聞いてジーンが目を見開いて驚きの声を上げる。

 ニーナはジーンのほうを振り返りながら口を開く。

「ジーン。お前は裕矢の言葉を信じないのか?」

「いや普通信じるも何も、いきなり星の聖域に行って、星と『生体リンク』して巨人になって星たちと一緒に魔王を倒しました。なんていきなり言われて信じられっかよ! って。ま、普通なら、こうなんだろうけどよ。共に命がけで魔王と戦った仲間なんだ。俺は裕矢を信じるぜっ」

「わたしも同意見だな。青の星に住んでいたただの人間が、星の聖域や星の力のことを詳しく知りすぎている。信じがたい話だが、裕矢の言っていることは事実なのだろう」

「信じてくれるのかよ?」

「ああ、とりあえずだがな」

 裕矢は決して長いときを過ごした間柄でもないのに、自分のことを信じるといってくれたニーナたち三人の言葉が素直に嬉しかった。

「にしても、ずりいよなお前」

 ジーンが裕矢の肩に肘を突きながら悪態をつく。

 悪態をつかれた裕矢は悪態をつかれた意味がわからずに、疑問符を浮かべながら自分より背の高いジーンを見上げる。

「?」

「俺がずりいって言ってんのは、裕矢ってめえが俺達より先に魔王をぶっ飛ばしちまったってことだよ! クソっ俺もその場にいて魔王の奴に一泡吹かせてやりたかったぜっ!」

 裕矢がなんと返して言いか言いよどんでいると、ジーンが再び声をかけてくる。

「だから今度はつれてけよ」

「?」

「魔王と戦うときだよ」

 豪快に笑いながらバシバシと肩を叩いてきたのだった。

「それはそうと裕矢。ナノエフェクトは正常に機能しているようだな?」

 ジーンとのコミュニケーションが終わったのを見計らったかのように、エリスが裕矢の体に視線を投じながら声をかけてくる。

「ん、ああ。そうみたいだな」

「ならば少し頼まれてくれないか?」

「頼みって?」

「ああ、なに簡単なことだ。ニーナと共に船外に出て、船の修繕作業をしてきてもらいたいだけだ」

 エリスが船外に視線を向けながら答えた。

 エリスの頼みを了解した二人は、その後小型戦艦ナノグリフの船外作業へと移って現在に至っていた。

「で、ニーナ。あきは今どうなってる?」

「彼女の体は特殊だからな。地球崩壊の折に一度完全に破壊されている。その後あおいとか言う少女の手によって粒子体として復元されたようだが、あおいという少女が眠り姿を消してしまったせいかどうかはわからないが、非常に不安定だ。エリスが急遽作り上げた粒子安定装置の中で眠っている」

「そっか」

「まぁ彼女の問題も我々の母星につけば解決するだろう。それに裕矢。お前たちの星のこともある」

「俺達の星って?」

 ニーナの口から出た予想外の言葉を聞いて、裕矢が首をかしげながら聞き返した。

「そういえばまだ言っていなかったな。お前達の住んでいた青の星は復元できる」

「復元ってっ地球を!? マジかよ!?」

 ニーナの言葉を聞いた裕矢は、目を見開き心底驚きに満ちた声を上げる。

「ああ、ただしそれをするには、我々の本国の承認と技術力が必要不可欠だがな。まぁ今回は魔王がらみだったからな。問題あるまい」

「そっか、地球はあおいの体は元に戻るんだな。よかった」

 心の底から喜んでいるが、一方で浮かない顔をしている裕矢をいぶかしんだニーナが声をかけてくる。

「どうした? 自分の故郷が元に戻ると知ったわりには浮かない顔だな?」

「いや、ただ地球が元に戻ったとしてもさ。あそこに住んでた人たちは二度と帰ってこないと思ったら……ちょっとな」

 裕矢が船の後方、地球のあった遠くに視線を投じて苦笑いを浮かべながら答える。

「ん? ああ、裕矢。お前にはまだ話していなかったな」

「?」

「お前の母星である青の星の復元データを取得する際に、生物もデータ化して保存してある」

「へ? それってつまり……」

「ああ、青の星に住んでいた生物たちは、復元できる」

「復元か」

「不満か」

「いや、ただ復元って言うのは見た目は同じでもコピーみたいなもんだろ?」

「ん、言い方が悪かったな。確かにお前達の母星である青の星、地球は魔王に侵食されどうしようもなかったが、そこに住んでいる生物たちは、魔王に犯されてはいなかったからな。オリジナルデータを圧縮して保存してある」

「どういうことなんだ?」

 ほんの少しの希望が見えてきて我知らず裕矢を興奮させる。

「つまり簡単に言えば、生物を生物足りえる形のままデータ化している。転送装置を応用した技術だ。転送装置は人をある場所からある場所へ送る際に粒子変換する。その原理を応用し、一時的に生物をデータに変換して保存する技術のことだ」

「つまり冷凍保存みたいなもんか?」

「まぁ簡単に言えばな」

「それがニーナたちの星に行けば」

「ああ、復元……つまり、元に戻せる」

 裕矢の胸に希望がわきあがってきた。

「理解したか」

「ああっけど本当に、本当にみんな帰ってくるのかよ!?」

「ああ、我々の星の技術を使えば可能だ」

「そっか、あはは」

 裕矢は再び家族に友人に会えるという、あまりの嬉しさのために目に涙を溜めて笑う。

「喜んでいるところ水を差して悪いが、かなり先のことになる」

 ニーナが口を挟んでくる。

「かなり先って? どのぐらいだ?」

「そうだな。青の星の惑星爆発に巻き込まれたせいで、お前達を迎えに来る間にほぼ復元したとはいえ、わたしたちの船ナノグリフが半壊状態にあるのは知っているな?」

「ああ、だから念のために計器チェックをしてたんだろ?」

「その通りだ。だが問題なのはそこではない」

「?」

「まず問題なのは、ビッグバンの影響下でかなり強い磁気嵐が発生していて、通信機器が使用不可能で外部と連絡が取れないということだ」

「でも通信は航行には関係ないだろ?」

「ああ、問題は通信が使えないことではない。太陽系をかなり離れれば通信機能自体は復旧するだろうからな」

「なら何が問題なんだ?」

 裕矢がニーナに問いただす。

「ああ、問題なのはビッグバンで船が半壊した影響で、船のワープ航行がナノグリフに搭載されているナノエフェクトをもってしても、かなりの時間を有すほどの使用不可能なほどの損傷を受けてしまったということだ」

「ワープが出来ないとどうなるんだ?」

「緊急通信を入れ本国から救援を呼ぶにしても、少なくとも磁場嵐の影響下を出てからの話しになるからな。磁場嵐を出るまでは、必然的に自力航行を強いられる。我々の船ナノグリフは戦艦とはいえ、小型艦だからな。断続的な船の出力はそう高くない。そのため我々が磁場の影響下から出るには、青の星の時間で言うところの少なくとも数週間から数ヶ月ほどの時間がかかるだろう」

「そっか、でもニーナたちの本国から救援を呼ぶか、ナノグリフの自己修復機能でワープ機能が回復するかして、ワープさえ使えるようになればすぐにニーナたちの母星にたどり着けるんだろ?」

「まぁそういうことだな。どの道、少し長い旅になるだろうがな」

 船の先端部が向いている遥か先、ニーナたちの母星のある方角を見据えながら呟いた。

「それもいいかもな。それに俺は広大で果てのない宇宙を一度は旅してみたいと思っていたから」

「ならば共に来るか裕矢。我々の母星に」

 ニーナが裕矢のほうを振り返りながら右手を差し出す。

「そうだな。地球やみんなを元に戻してやらなきゃならないし、それに」

「それに?」

「ニーナの故郷を、こことは違う文化を持つ星や人々を見てみたいしな。俺は行くよニーナ。ニーナたちの故郷へ」

 裕矢は差し出されたニーナの手を力強く握り締めた。

「なら、決まりだ。裕矢。共に行こう。『星の護り手』の本拠地である我々の星、ヴァルキュリアへ」

 裕矢は地球を復元し、皆を元に戻すために、エリス、ジーン、ニーナ。三人の『星の護り手』たるヴァルキリーたちと共に、船の先端その遥か先、外宇宙にあるニーナたちの母星ヴァルキュリアを目指して、果てのない航海を始めたのだった。

                                           END
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