宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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青の星 青の星戦域⑰ 決着ダークスター 星の時間とあおいとの出会いと秋菜との再会とスターブラスター

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 これが……死か。地球のみんながあの時体験した出来事。唯一俺だけがニーナたちのおかげで逃れることができた出来事。それを今俺は味わっている。みんな。父さん母さん。佐々木達そして、秋菜。今、俺もそっちに行くから。

 白い光に包まれながら、裕矢はようやく終われる安堵感に、死の恐怖を覚えるのではなく逆に、笑みさえ浮かべていた。

 ただ唯一の心残りは、みんなを、秋菜を、こんな目にあわせた魔王って奴に一矢報いてやることすらできなかったってことぐらいだ。

 だけど、もういい。もういい俺は、ここで、終わる……みんなの所へ、秋菜のところへいける。

 そう思い目を閉じた。

 だがいつまで待っても、自分を死に至らしめると思われる熱気も、苦しさも、痛みも何も襲い掛かってはこなかった。

 そのため裕矢は恐る恐るであったが目を開ける。

 するとそこには、見知った顔が存在していた。


「あ……きな?」

「うん」

 そう、白光に包まれた後、裕矢が目を開けた先にいたのは、地球脱出の折、隕石が地表に激突する衝撃で宙に身を躍らせ、裕矢が必死に助けようとしたにもかかわらず、尖兵の邪魔によってその命を助けることが出来ずに地表に落下していったはずの制服姿の秋菜の姿だった。

「あきな!?」

 自分の言葉を肯定した秋菜を目にして驚きの表情を浮かべて声を上げる。

「うん。あきなだよ」

「ほんとにあき……なのか?」

 裕矢が信じられないものを見るような目をして目の前の秋菜を見つめる。

「うん。ゆうちゃん。あきだよ」

 もこもこっとした二つのおさげを緩やかに揺らしながら、裕矢の前に立つ制服姿の秋菜は、いつも見せる少し天然で、優しげな笑みを浮かべて答える。

「ほんとにっほんとにっあきなのかっ!?」

「だからほんとのほんとの本物だってばっもうゆうちゃんってば疑り深いんだから~~」

 顔にはにかんだ笑みを浮かべながら答える。

「そっかあき無事。だったんだな。よかったほんとよかった。でもどうやって生き残ったんだ?」

 心の底から嬉しそうな笑みを浮かべながら、力いっぱい秋菜を抱き締めると、スルッと裕矢の両手は秋菜の身体を通り抜けてしてしまう。

「へ?」

 自分の手が秋菜をつかめなかったことに、裕矢がいぶかしげな顔をしながら、再度秋菜の身体に手を伸ばすも、彼女の体をすり抜けてその手は何もつかむことができなかった。

「あき……いったいお前……」

 秋菜を見つめる裕矢の脳裏にある考えがひらめいた。

「幽……霊? やっぱり、やっぱりあきっお前あの時死んで……」

 裕矢は呆然とした顔をしながら自分の手をすり抜けて、幽霊となってしまった秋菜を目の前にして、悔やんでも悔やみきれないとでもいうのか自分の感情を抑えきれず、誰はばかることなく両目から涙を流しながら、あのときの自分の無力を嘆き懇願した。

「ごめん。ごめんなあきっ守ってやれなくてっもっともっとしっかり俺があのときお前の手を握ってれば! あきだけ先に行かせずにすんだはずなのにっ!」

「ううん。ゆうちゃんは悪くないよ、あんな状況じゃどうしようもなかったもん」

 秋菜は自分を助けられなかったことを悔やむ裕矢を攻めるでもなく、温和な笑みを浮かべながら慰めの言葉を口にする。

「けどっ」

「いいから気にしないでよゆうちゃん。それにあきもゆうちゃんもまだ死んでないよ」

「まだ死んでないってっなに言ってやがるっあきも俺もお互いあんな目に合ったんだっ生きていられるわけないだろうが!」

 裕矢が秋菜の説明を鵜呑みに出来ず声を荒らげる。

「ゆうちゃん。ここはね、『星の時間』時の流れが緩やかなところ。だから、まだゆうちゃんやニーナさんたちに死は訪れてないんだよ」

「『星の時間』時の流れが緩やか?」

「うん」

「どういうことなんだ?」

「つまりね。今この周辺の時の流れはこの子の感じる時の流れと同じになってるんだ」

「この子? 同じ?」

「この子っていうのはね」

 脳の栄養がやたら詰まった自分の胸の間に優しく手をあてながら答えた。

「あきを守ってくれてるこの子のことだよ」

「あきを守ってる?」

「うん。この子はね、地球。地球の命。地球の意思。地球そのものなんだよ」

「地球そのもの?」

「うん。地球が、あおいちゃんがね、ゆうちゃんたちと離れ離れになってから、ずっとあきのことを守っててくれたんだ」

 秋菜がいきなり突拍子もないことを言い出してきたために、いまいち事の成り行きを理解できなかった裕矢が聞き返した。

「地球とあおいがあきをずっと守ってた?」

「あっつまりねゆうちゃん。あおいちゃんって言うのはね、地球のことなんだ」

「あおいが地球? いまいち理解できないんだが、一体どういうことなんだ?」

 裕矢が右手で頭をかきながら質問する。

「う~んと、つまりあきがね、地球の意識体のことをあおいちゃんってあだ名をつけて呼んでるの」

 ああ、なるほどな。と、秋菜のその物言いだけでことの経緯を理解する裕矢。秋菜のことだ。おおかた地球の意識体って奴のことを地球地球って言うのが言いにくかったもんだから地球は青かった。とか言う人の有名な言葉を取って、あおいとでも名づけたんだろう。秋菜と長年の付き合いである裕矢はすぐさまそう結論付けた。

 裕矢は一人納得すると、あきの言葉を聞いて疑問に思ったことを投げかける。

「つまり地球、てゆ~か、あおいってのがあきをずっと守ってたってのか?」

「うん。あきが地球の中にいた地球唯一の生き残りだから」

「あき、わりいけど、今俺はお前の言っていることが理解できない。けど、今俺達は一生かかってもお目にかかれないほどの不思議な体験を続けざまにしてる。だから俺には理解できないし、納得できないけど、あき。きっとお前の言っていることは『本当』なんだと思う」

「うん」

「だから俺は。あき、お前の言ってることを信じるよ」

「信じてくれるの?」

 今度は、秋菜が少し戸惑ったような顔をしながら聞き返した。

「ああ、俺があきを疑う理由なんか無いからな」

 一切迷いのない表情を浮かべてから、にっと笑って答える。

「ゆうちゃんっ」

 いきなり幽霊みたいになってしまった自分のことを信頼してもらった喜びに、秋菜は思わず裕矢に抱きつこうとするが、実体のない秋菜の体は案の定裕矢の体をすり抜けてたたらを踏む。

「ちょっ大丈夫かよあき」

 心配げに秋菜に近寄る裕矢。

「ごめんねつい嬉しすぎて。ゆうちゃんに触れられないって事思わず忘れてたよ~♪」

 顔から溢れんばかりの笑みを浮かべながら、秋菜が抱きつきたいのに抱きつけない。ジレンマに苦しみながら、「う~~抱きつけないってこんなにつらいんだ~~っ」と言いながら自分の身体を抱き締めて身もだえする。

「なぁあき、地球。いや、あおいがあきを守ってるって言うんなら、この力を使って逃げよう。この力なら、時を止めている間にどこか遠く魔王の手の届かないところまで逃げよう。そうすればきっと俺もあきも助かる」

「あのねゆうちゃん。あおいちゃんはね、別に時を止めているわけじゃないの。ゆうちゃん。時間という感覚は人によって違うんだよ。だから、これは、あくまでもゆうちゃんやあきの感じている時間が緩やかになっているだけで、現実の時は変わってないんだよ。それにもう。そんなに長くはこの感覚を維持できないんだってあおいちゃんが言ってるの」

「だったら、なおさら急いでこの場を離れるぞあきってか、あおいの力を使えば何とかなんだろ!?」

 今知った真実に裕矢が慌てたように声を荒げる。

「だめだよ、あきたちだけ逃げるなんてっそれにこのままあの子をほうっておいたら、私たちのためにも宇宙の星々のためにもならないんだって、あおいちゃんが言ってるの」

「地球が?」

「うん。今あきはこの子と、地球の命であり意思であるあおいちゃんと身体を共有してるからこの子の言いたいことがわかるんだ」

「そんなことできんのかよ?」

「うん。あきにも理由はわからないし、なんとなく、なんだけどね」

 笑いかけてくる。

「だからゆうちゃんっ力をかしてっ」

「力って?」

「あきと自分だけじゃこの魔王って言うのには勝てないんだってあおいちゃんが言ってるの」

「勝てない?」

「うん。あおいちゃんには力がある。けどすでに地球という身体を失った。その力を使う術がないんだって。だからゆうちゃんっこの子に、あおいちゃんに力を貸してあげて!」

「身体ならあきのがあるだろ?」

「駄目なの。私の身体は地球に巨大彗星が衝突したときに消えちゃって……」

 秋菜が少し声のトーンを落としながら言う。

「なら、やっぱり幽霊なのか?」

 裕矢の指摘に秋菜が首を振りながら言う。

「ううん。違うよ。あの時巨大隕石群が地球に落下してきて、あきがゆうちゃんたちと、離れ離れになっちゃったあの時、あきの身体も心も消えて無くなりそうになった瞬間、地球人類唯一の生き残りであるあきのところにこの子が、あおいちゃんが逃げ込んできたんだ。でね、ずっと今まであきのことを守っててくれてたんだ。だからあきは生きてるけど身体は無くて。つまり生きてるんだけど、う~ん。なんて言えばいいのかな? とにかくあきはあおいちゃんのおかげで生きてるから。お願いゆうちゃんっ力をかしてあげてっあおいちゃんはこのままだとただの高エネルギーの固まりだから食べられちゃうんだって、そうしたらあきもどうなるかわかんない。それにあおいちゃんも遠い宇宙のどこかにいる家族や友人。宇宙の星々やそこに住む人々を守りたいんだって、お願いゆうちゃんっ」

 切実な表情で訴えかけてくる秋菜の姿を目にした裕矢は秋菜から視線をそらし、ほんの少しの間巨大隕石群によって壊滅的打撃を受け、星喰いの激突によってコアをむき出しにされ、そして魔王の侵食によって、黒く変色し、黒き星、ダークスターと化して、もはや見る影もなくなった地球の姿を見つめていた。

 そして、ほんの少しの逡巡の後覚悟を決めたのか、裕矢は迷いの無い顔を秋菜に向けて口を開いた。

「ニーナたちが魔王って言ってるあいつを何とかしないと、地球の命ってのが喰われちまって、あきもどうなるかわからない。って言うんならやってやる」

 顔を上げた裕矢の顔に、もう迷いの色はなかった。

「あおいちゃんもがありがとうって言ってる。ならいくよゆうちゃんっ」

「おうっ」

 秋菜の掛け声に裕矢が返事を返すと共に、秋菜から裕矢にあおいの地球の力の受け渡しが開始される。

 だが予想以上に強大なエネルギーが流れ込んできて、裕矢自らの意識をも飲み込もうとしたために、裕矢は声を上げて一瞬恐慌状態に陥りそうになる。

「なっ!? 何なんだよこの力は!?」

「ゆうちゃんっ落ち着いて!」

 裕矢の異変にいち早く気付いた秋菜が声を上げて、裕矢を落ち着かせようとする。

 しかし裕矢はそれどころではなく、自分を飲み込もうとする力に、強引に抗おうとした。そのためにさらなる事態の悪化を招いてしまった。

 そう、地球と言う星一つ、惑星一つが有するあまりに強大すぎる力は、人一人が扱うには大きすぎたのだった。

 そのため裕矢が身体に流れこんでくる力を無理やり制御しようとすればするほど、、力は反発し裕矢自身の意識を飲み込もうとしたのであった。

「くっ押さえ切れねぇっ! これが星の力って奴なのかよ!?」

 やばいやばいやばいやばいやばいこのままじゃ。意識。いや、存在自体が飲み込まれる!? すでに声すら発する余裕がなくなり恐慌状態に陥っていた裕矢が心の中で狂声を響かせる。

 そして、とうとう裕矢一人では抗いきれず意識が飲み込まれ、自我すら失いそうになったとき、裕矢に地球と一体化している秋菜が優しげな声音で声をかけてくる。

「大丈夫。落ち着いて、ゆうちゃん。ここには、あきもいるから」

 何でも何にでもすがりつきたかった裕矢は、秋菜の声を聞いて思わず無意識に何もない空間にその手を伸ばした。

 星と一体化し、実体の持たない秋菜の身体は、伸ばされた手をつかめるはずのないその手をすり抜けると裕矢の身体の中、いや心の中に入り込んで優しく彼の精神体を抱き締める。

「ゆうちゃん。大丈夫。大丈夫だから。ここにはあきもいる。ゆうちゃんは一人じゃないっだから諦めないでっ」

 あき……でも俺もうこんな力耐えられそうにない。意識ごと自我ごと喰われちまう。こんなすげえ力……最初から……ただの中学生がもてるはずなかっ……たんだ。……だ……から……ごめ……ん……裕矢は薄れ逝く意識の中虚ろな目でそう呟いた。

「ゆうちゃんは一人じゃない! あきも一緒に受け止めるから! だから最後の最後まで諦めないで!」

 秋菜はそう叫ぶと、地球の星の力を受け止める術を必死に裕矢に伝えようとする。

「ゆうちゃんっ力を支配しようとするんじゃなくて、この子のっあおいちゃんの力に身をゆだねてっ!」

「身を……ゆだねろって……言ったってさ……少し……でも、気を、緩めたら……意識なんか……簡単に……飲み込まれちまい……そうで……」

 秋菜の助言を受けて、心底苦しそうに途切れ途切れに言葉を紡ぎだす裕矢。

「この力は、わたしたちを傷付ける力じゃないのっ」

「んなこと言ったって……よ。こいつの力が強すぎて……」

「大丈夫、大丈夫だからっ力を無理やり押さえつけようとするんじゃなくて、星の命に身をゆだねてっそうすればきっときっとあおいちゃんが答えてくれるからっ!」

 実体のない秋菜の身体が、今にも消えてなくなりそうな裕矢の精神をさらに強く抱き締めながら強く声を上げる。。

「目を閉じて力をぬいてっ大丈夫、ゆうちゃん。この子は、地球はっあおいちゃんはっわたしたちの『味方』だから、あきを信じてこの子の力に身を任せて」

『味方』という言葉をことさら強く強調して口に出す。

 必死に自分を助けようとする秋菜の言葉を聞いて、どのみちこのままだと地球の力に自分の意識が飲み込まれてしまうことは、時間の問題だということがわかっていた裕矢は、どうせ一度は死にかけた命、今更死を恐れてどうする? それに、失敗しても最悪死ぬだけだ。という一種の開き直りが裕矢の中に生まれた。

 そして裕矢はどのみち死ぬなら、最後に幼馴染の言葉を信じてみようと思った。

一度は助けられなかった幼馴染の言葉を。

 そう思った裕矢は秋菜の言うとおりに力をぬき星の力に身を任せる。

 そうすると、不思議と星の力は裕矢の意思を刈り取るでもなく自我を崩壊させるでもなく、ただ元から自分の身体に存在していた血液や細胞のように、まるでそこに最初から存在していた存在のように、自然と裕矢の身体のいたるところに染み渡っていった。

 まるで武道の達人が纏うオーラのように、今まで感じたことがない圧倒的なエネルギーが、裕矢の体を駆け巡り全身に満ち溢れる。

 そのあまりに圧倒的なエネルギーを感じ取って、両手から溢れ出すエネルギーを見下ろし両手をわななかせながら、裕矢が驚きに満ち溢れた声を上げる。

「これが星の力っ地球の力って奴なのかよ!?」

「うん。ゆうちゃん。優しい、力でしょ?」

「あ、ああ……」

 受け入れた力は温かく、それでいて涼やかな風を力強い地球の大地を彷彿とさせるものだった。

 あったかい。まるで、親。いや、もっとずっと大きなものに見守られてるみたいだ。

 こんな力に、命に。俺達はずっと見守られていたんだなと、なんとはなしに裕矢が感慨に浸っていると、裕矢が落ち着きを取り戻したのを見計らったかのように秋菜が声をかけてくる。

「ゆうちゃん。力を撃ち出す形を成して」

「つったってどうすりゃいいんだよ? 俺、星の力の使い方なんてしらねえぞ?」

 秋菜の方を見た裕矢が困ったような顔をして呟くと、秋菜がなんでもない事のように笑いながら答えた。

「ニーナさんを助けたあの時、ゆうちゃんは一度それをやってるよ」

「あれか」

 裕矢は秋菜に指摘されて、東京スカイツリーでドラグナイトとやりあった時のことを思い出す。

「けどあき。あの時はニーナを助けようと無我夢中だったから覚えてないぞ?」

 裕矢が悩んだように後ろ手に頭をかきながら言う。

「大丈夫だよ。ゆうちゃんにならきっとできるってあきは信じてるもん♪」

「いや、信じてるって言われても、こればっかりはどうしようもないと思うんだが」

 冷静に突っ込みを入れる裕矢。

「大丈夫だよ。あきの勘はよく当たるんだから♪ それにゆうちゃんならきっとできるってあおいちゃんもそう言ってるよ」

 裕矢の傍らに浮かびつつ。自らの胸に手を当てて言う。

「あおいって地球がか?」

「うん♪ だからゆうちゃん。ゆうちゃんならきっとできるよ、自信を持って」

「俺なら、出来る。か」

 幼馴染である秋菜にそうまで言われては、引き下がるわけには行かない。それにどのみちここで俺が何とかしない限り、時の流れが元に戻った瞬間俺達に今度こそ本当の終わりが訪れる。だったらやれるだけのことをやって、あがけるだけあがいてやる! 心の中で雄叫びを上げ裕矢は覚悟を決めた。

「わかった。やってやる! 離れてろっあきっ!」

 裕矢は懸命にスカイツリーでドラグナイトとやりあったときのことを思い出そうとする。

 確かあの時は、右手に握られていた銃の存在を認識したら、ある情報とそのやり方が勝手に頭の中に流れ込んできた。

 で、確かその後、頭の中に流れ込んできた情報どおりっていうより、感情のおもむくまま、身体の動くままに身を任せたら、一瞬目がくらむような光が起きて、右手が壊れた銃と融合して白銀の銃身になったんだよな? ってことは、まず俺が星の力を認識する必要がある。まず、自らのうちにある星の力を強く認識するんだ。

 両目を閉じて裕矢が自らのうちにある星の力に意識を向けると、思ったとおり、ドラグナイトとの戦闘で起きた時とまったく同じ現象が裕矢の脳内、意識体の中で巻き起こった。

 そして自分の中にある星の力の存在を認識した裕矢の頭の中に、フォトン銃と結合したときとは比べらないほどのある情報とそのやり方が流れ込んでくる。

 あの時同様裕矢にその全てを理解することは出来なかったが、裕矢はそれを実行できることだけは確信した。

 そして、それを頭に流れ込んできたイメージどおりに実行に移す。いやイメージどおりというよりも、感情のおもむくまま、といったほうが正しいだろうか? 裕矢は自分の感情のおもむくまま身体の動くままに身を任せ右腕を前に突き出す。

 瞬間。それは起こった。

 数多の隕石群や星喰いが地球へ激突したおり、砕け散った地球の破片や鉱物。高層ビル群や電波塔などの文明の残骸。そして、ダークスターとの艦隊戦で宇宙の藻屑となって消えていった戦艦たち。宇宙空間に漂っていた数多の残骸が、裕矢の元に引き寄せられるように集まってきてまるで寄木細工のように組みあがる。

 そして一瞬後。

 辺りをまばゆい光が包み込んだ後、裕矢の姿がそこから消え彼がいた空間から入れ違いに姿を現したのは、高層ビル、いやそれとは比べ物にならないほどの巨大な東京スカイツリー並の大きさの先端に巨大な穴の開いた白銀色をした一隻の巨大な戦艦だった。

 ただ奇妙なことにその戦艦には、船の航行には絶対に必要なエネルギーの射出口いわゆる、推進力を得るための噴射口がなかったのである。

 そしてまた、戦術面で必ず必要とされる船外レーダーや火気管制システムはおろかブリッヂすらなかったのだった。

 そう、それは船の風体を成してはいるが、決して戦艦などではないとても奇妙な物体だった。

 そしてその頃船と入れ違いに姿を消した裕矢はと言うと、座席も舵すらない目の前にただ一振りの巨大なリボルバーの模型のようなものがある人一人がやっと入れるような球形の空間の中にいたのだった。

 リボルバーといっても肝心のリボル部分つまり回転式の弾丸を入れる部分がなく、ただ一発の弾丸のみ撃てる仕様のようだった。つまり銃身を模した引き金である。

「なるほどな。こーゆーことになるのかよ」

 裕矢は全てを納得したように頷いた。

「でも本当に出来るとは思わなかったぜ」

 そう、この戦艦は裕矢がナノエフェクトを通じ星の力を撃ち出す形をほぼイメージどおりに具現化した一振りの巨大な銃身、強大な星の力を撃ち出すための超巨大な砲台だったのだった。

 そのため砲台に不必要なレーダー火気管制システムやブリッヂなどは備え付けられていなかったのであった。

 星の力を撃ち出すための銃身が出来上がったのを確認した秋菜が声を上げる。

「ゆうちゃんっ緩やかに流れていた時が動き出すよ!」

「ああ、わかってる。狙い地球。いや、ダークスター中心核。星のコア! 喰らいやがれっ星の一撃をっスターブラスターーッッ!!」

 裕矢が声を上げ、目の前にある巨大なリボルバーの引き金を両手で引き絞ると共に、緩やかだった時の流れが動き出した。

 一隻の巨大な戦艦を模した白銀の砲台から放たれるは、元の地球と同じ青い光、裕矢がスターブラスターと名づけた青い光、光の速度すら凌駕するほどの速度を持った一条の青き光だった。

 青き光は動き始めた世界で向かってきていた魔王のデス・クリムゾンに真正面からぶつかると、あろうことか超高エネルギーであるはずのデス・クリムゾンを中心から貫き吹き散らし、霧散させながら突き進んでいく。

 だが、ここで誤算が生じる。ダークスターの星のコアを護るように瞬間的にコアの周りに旗艦レヴァティーンが展開させていたものと酷似した強力なエネルギーシールドが形成されたのだ。

 そう、魔王は惑星破壊砲を模倣することに飽き足らず、巨大戦艦レヴァティーンのエネルギーシールドをも模倣していたのである。

 しかし、一条の青き光となった星の力は、星のコアを護るように展開された魔王のエネルギーシールドをものともせずに貫くと、数秒。いや、もはや一秒にも満たない刹那の瞬間に、地球と融合している魔王ごとダークスターのコアを撃ち貫いたのだった。

 宇宙空間に響き渡るえも知れぬ声にもならぬ狂声。それは自ら巣食っていた地球のコアを貫かれ、コアとともに身体を貫かれた魔王の発した断末魔の悲鳴だったのである。

 そして、狂声が終わりを告げると共に、地球の、ダークスターのコアは、裕矢たちの見ている前で一瞬萎縮したかに見えると、次の瞬間膨れ上がり、まるで加熱され限界を迎えたポップコーンが弾け飛ぶように、広大な宇宙空間に向かって、コアを破壊された膨大な星のエネルギーが、星の爆発の衝撃で起きた強力な宇宙津波と共に、太陽系中に撒き散らされたのだった。

 裕矢の発案でエリスやレイラたちが星ごと魔王を葬ろうとして、何度も試みた惑星爆発〔ビッグバン〕が、発案者である裕矢の手によってようやく達成された瞬間だった。

 巻き起こった惑星爆発は、わずかに地球に残っていた空気を糧として周囲の宇宙空間に℃数千度を越える爆炎を撒き散らし、半径数万キロを炎で包み込んだ。

 そして、爆発によって撃ち砕かれた地球の残害が情け容赦なく周囲に撒き散らされて、周辺を漂っていた隕石や船の残害にぶち当たった。

 さらに、惑星爆発によって光速を超える速度で撃ち出された地球の残害は、火星や水星、木星や土星に突き刺さり、太陽系全土に降り注ぎ甚大な被害を撒き散らしたのであった。

 そして、惑星爆発を巻き起こすほどの星の力を撃ち出した砲台である白銀の銃身は、たった一度星の力を撃ち出しただけで、力に耐え切れずに内部崩壊を始めていた。

 そのため星の力を撃ち出したあとのビッグバンが巻き起こす衝撃に耐え切れるはずもなく、星の力を撃ち出した先端部分から、まるで風雪によって風化した建物のように崩れ去り吹き散らされていった。

 崩れ去る砲台の中で裕矢は、目に見えずとも魔王の取り付いた地球のコアを破壊できたことを確信していた。

 それは星の力と一体化し、星と感覚を共有した裕矢だからこそわかる感覚だった。

 『星の感覚』。目に見えずとも自らの周りに居る者たちを感じることの出来る能力。地球。いや、ありとあらゆる生きている惑星が有する能力。自分の中に何がいてどう生きてどう暮らしているのかを知る力。『星の感覚』。

 裕矢は『星の感覚』を使い、レーダーを使うことなく正確に星のコアを撃ち抜き、そして、地球が崩壊したことを知ったのだった。

 これで、終われる。魔王の侵食のせいでダークスターと呼ばれた地球の爆発と共に魔王の感覚が消えたことを確信した裕矢は、ビッグバンが起こった瞬間に全てが終わったことを知った。

 そうすべてが。ビッグバンを撒き散らすほどの力を使った今の星の力に、俺達を護り続ける力がないことも、そして、このビッグバンの力に俺達があがなう術がないことを、それはつまり、戦いに勝ち。生きることに負けただけだった。

 ただ一つ嬉しかったのは、地球のみんなや父さん母さん。友人知人たちの仇が討てたことだった。

 それがこれから確実に死を迎えることを確信していた裕矢に、安堵した笑みを浮かべさせていたのだった。

 だが安堵した表情を浮かべている裕矢に向かって唐突に焦ったような声がかけられる。

「ゆうちゃんっ飛ぶってっまだ終わってないってっあおいちゃんが言ってるのっ」

「まだ終わってない?」

「うん。だから今から飛ぶってっゆうちゃんっなにかにつかまって!」

 声を上げる秋菜。

「はっ? 飛ぶ?」

 いきなり飛ぶといわれた裕矢が返事を返す暇もなく、いきなり今まで居た空間から裕矢の身体が掻き消えて、視界が暗転する。

 次に裕矢が目を開けるとそこには、切れ目の無い果てしないどこまでも青い青い星空が広がってる空間だった。
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