宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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青の星 青の星戦域⑮ ダークスター対レヴァティーン艦隊④ 旗艦決死戦レヴァティーンの最後

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「艦長我が艦に向かって多数のクリムゾンが向かってきますっさらにそれに並行するようにして数百の隕石群が飛来してきます!」

「シールドを展開しつつ、隕石群は艦砲射撃で撃ち落とせっ」

「了解! 第一第二砲門開け、砲撃戦用意。てぇー!」

 レヴァティーンに備え付けられている主砲が断続的に火を噴き側面に備え付けられているレンズのような射出口から数十発のフォトンブラスターが立て続けに繰り出され続ける。

 旗艦レヴァティーンから火を噴いた艦砲射撃やフォトンブラスターが次々と隕石群を貫通し破壊した。

「隕石群に命中を確認っ隕石群レーダー反応から消えていきますっ」

同時艦内にビービービーと言う感じに警報が鳴り響いた。

「どうしたっ」

「艦の外壁が何者かに取り付かれた模様ですっこの反応は!? 尖兵です! 隕石群に紛れ込んでわが艦に接近していた模様と思われますっ艦長白兵戦用迎撃部隊を向かわせますかっ?」

「かまわんっ、外壁に取り付いた尖兵は無視しろっどのみち我が艦が魔王のカウンターシールドに突撃するときの衝撃で振り落とせるだろう。惑星破壊砲のエネルギー充填を開始し、充填が終わり次第艦首に多重エネルギーシールドを展開しろ」

「惑星破壊砲エネルギー充填開始します」

「艦長船体が敵魔王カウンターシールドに激突まで距離五百。あと五分ほどで魔王のカウンターシールドに到達しますっ」

「艦長! 惑星破壊砲エネルギー充填完了しましたっ」

「よし艦首に多重エネルギーシールドを展開しろっ」

「艦首に多重エネルギーシールド展開しますっ」

「エンジン出力最大っ」

「エンジン出力最大にします。七十……八十……九十……百パーセントッ」

「艦長エンジン出力最大になりましたっ」

「よしっこのまま魔王のカウンターシールドを突き破る! 突き破った直後惑星破壊砲レヴァティーンを持って、魔王に寄生されているダークスターのコアを破壊し、惑星爆発〔ビッグバン〕を引き起こし、一気に魔王を仕留める!」

 レイラが力強く宣言すると、ブリッヂにいてそれを聞いていた乗組員達全員が、真剣な表情をしてコクリッと頷き返した。

 それを見回したレイラが時の声を上げた。

「総員衝撃に備え対防御姿勢をとれっ目標敵魔王カウンターシールドッ突撃いぃぃっっ!!」

 レイラの気合の掛け声に背中を押され、艦首に多重エネルギーシールドを展開した旗艦レヴァティーンは、まるで一条の光の矢のようになって、魔王の作り出した盾であるカウンターシールドをぶち破るべく光の速さでカウンターシールド目掛け突き進んでいったのだった。

 そして刹那の激突。瞬間、宇宙空間にパキイイィンッと言うガラスが砕け散るような音と共に、シールドが砕け散る波のような波紋衝撃が広がった。

 そうレイラの読み通り、魔王のカウンターシールドは強力な代物であったのだが、対レーザー特化型だったために艦首に、多重シールドを展開しただけの旗艦レヴァティーンに簡単に打ち砕かれたのであった。

 惑星破壊砲のチャージを終えた旗艦レヴァティーンが船体を使って魔王のカウンターシールドを突き破った直後。艦内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

「何事だ!」

「突如我が艦の目の前に巨大な質量が出現しました! 大きさから見て小惑星クラスの隕石だと思われます!」

「小惑星クラスだと!?」

「艦長っこのままでは激突します!」

 言うが早いか、もはやブリッヂから目視できるほどの距離に巨大な隕石が迫ってきていた。

 そう、それは先ほど青の星のコアを喰らおうとして、逆に魔王に捕食された星喰いの残骸だった。

 すでに死せるものとなった星喰いの残骸は、魔王に操られているとでもいうのか、まるで吸い寄せられるように、カウンターシールドを突破した旗艦レヴァティーンに向かってきていたのだ。

「これほどの大きさの隕石、なぜ今まで誰も気がつかなかった!」

 レイラの叱責の声を聞いた副官が、すぐにブリッヂに数人いる索敵を専門とするオペレーターを睨みつけて声を上げる。

「索敵班はなにをしていた!」

「巨大隕石、我が艦の宇宙儀及び索敵レーダーに一切ひっかかりませんでした!」

 突然目の前に現れた巨大な質量を伴った隕石を目視し、副官に叱咤された一人のオペレーターが宇宙儀に視線を向けて声を上げる。

「一体どうなっている!? とにかく緊急回避だ! 急げ!」

 副官が怒声を張り上げて指示を飛ばす。

「了解しました! 最大船速っ緊急回避行動に移ります!」

 船の操舵を担当しているオペレーターが声を上げるが、そこにレイラの怒声が飛ぶ。

「それでは間に合わん! 惑星破壊砲発射用意っ」

「艦長っ今はそんなことをしている場合ではないはずです!」

 レイラの命令を聞いた副官が叫び声を上げる。だが、レイラはその叫びを無視し、そのまま指示を飛ばす。

「惑星破壊砲で眼前にある巨大隕石を撃ち抜き我が艦の活路を生み出す!」

 そう、もはや回避不能の距離にまで来ている小惑星規模の隕石と化している星喰いをかわすことが出来ないと踏んだレイラは、かわせないなら破壊するしかないと腹をくくり、星喰いを撃ち抜き自力で船の航路を作り、生き残るための活路を見出そうとしたのだ。

「惑星破壊砲発射体制に入ります!」

「目標、我が艦眼前に迫る巨大隕石っ及びダークスター中心核っ星のコアッ! 巨大隕石の中心核を貫き我が艦の活路を作り出しつつ、同時にダークスターのコアを撃ち砕く! 総員対ショック防御っ惑星破壊砲レヴァティーン放てぇ!!」

 声高に叫ぶレイラの裂ぱくの気合の声と共に、惑星破壊砲レヴァティーンが撃ち出された。

 撃ち出された惑星破壊砲は、眼前に迫っていた小惑星クラスの巨大隕石に突き刺さり、旗艦レヴァティーンがギリギリだが通り抜けられるだけの巨大な穴を穿つと同時に、辺りに衝撃と何かが壊れ砕け散るような轟音と爆光が撒き散らされる。

 その衝撃と爆光は自ら発射した惑星破壊砲の反動を受けているレヴァティーンにも例外なく襲い掛かり、艦内やブリッヂを雷光のような激しい光と、巨大地震のような激しい揺れが襲った。

 そして、衝突直前に惑星破壊砲で穴を開けた巨大隕石の中に、進入した旗艦レヴァティーンの先端や船壁が激しく隕石の内壁とこすれて、ザリザリザリザリといったこすれあう嫌な音と揺れが船内を襲った。

「各自防御姿勢をとりつつ状況を確認しろ!」

 雷光のような光と衝撃に襲われながらも、床に突きたてた剣一本で艦長席の眼前に仁王立ちしているレイラがブリッヂにいる全乗組員に対して声を上げる。

「爆発の余波により強大な磁場の乱れが発生した模様っ宇宙儀っおよび索敵レーダー機能しません!」

 レイラの呼びかけに対して、一人のオペレーターが床に備え付けられている眼前のコンソールデスクに必死にしがみ付きながら、宇宙儀を見上げて答えると、同じようにコンソールデスクにしがみ付いている別のオペレーターも船外を見つめながら声を上げる。

「隕石破壊の衝撃により、敵、魔王っ目視による確認不可!」

 さすが歴戦の勇士達で構成されている旗艦レヴァティーンの乗組員たちだけあって、雷光のような光と大地震のような衝撃に襲われながらも、それぞれがそれぞれの役目を果たしていた。

「艦長っあと数秒で、小惑星クラスの隕石内部を通過しますっ」

「よしっ隕石を抜け次第各自状況を把握しろっ」

 そして数秒後。何とか艦の外壁を隕石の壁面とこすりつけながらも、旗艦レヴァティーンは小惑星規模の大きさを誇る星喰いとの衝突を回避し、惑星破壊砲で開けた星喰いの内部を抜け出すことに成功していたのだった。

 そして小惑星クラスの隕石を抜け次第報告を上げろという指示通りに、ブリッジで次々と声が上がる。

「艦長っ巨大隕石内部の通過に成功しました」

「艦長、宇宙儀及び索敵機能回復しましたっ」

 次々と、情報があがる中レイラが声を上げる。

「ダークスターはどうなった!?」

 レイラの声に答え火気管制担当官が声を上げる。

「駄目ですっ隕石との衝突により惑星破壊砲予想進路を大きく外れました! ダークスターのコアへのダメージなしっ」

 そう、オペレーターの言うとおり、旗艦レヴァティーンから撃ち出された惑星破壊砲は、小惑星規模の隕石を貫いたのち進路が変わり、ダークスターと化した地球のコアのわきをすり抜け風穴を開けると、そのまま宇宙の彼方へと消えていったのだった。

「想定範囲内だ。惑星破壊砲第二射エネルギー充填」

「了解。惑星破壊砲エネルギー充填開始します」

 惑星破壊砲のエネルギー充填を開始した途端、艦内に機器の異常を知らせる警報音が鳴り響いた。

「なにごとだっ」

「惑星破壊砲エネルギーチャージできませんっ」

「どういうことだ!」

「どうやら先ほど超至近距離で小惑星規模の隕石を撃ち抜いたさいに、惑星破壊砲のチャージシステムにダメージを負った模様です」

「なぜ今まで気がつかなかった!」

 怒気を含ませた声音で一気にまくし立てるように叫ぶ。

「どうやら、先ほど宇宙儀や索敵レーダーが機能しなくなった折に発生した磁場の影響で、艦内の機器チェックシステムにも以上が生じていた模様です」

「くっ予想外だっまさか惑星破壊砲が使用不能に陥るとは!」

 どうする? と、レイラが思考を巡らそうとしていると、けたたましい警報音と共にオペレーターの声が飛ぶ。

「艦長高エネルギー反応多数っ」

「なんだと!?」

「ダークスターより本艦に向かって多数のクリムゾン発射を確認! さらにクリムゾンに追随する数百の隕石群補足っどうしますか!」

「エネルギーシールドを展開しつつ、隕石群は先ほどと同様艦砲射撃で撃ち落せ!」

「了解っ第一第二砲門開け、フォトンブラスター用意」

「左面フォトンブラスターエネルギー集束確認できず、左側面に配置されているフォトンレンズが破壊されています。どうやら先ほどの巨大隕石を抜ける折に壁面と接触した模様っ」

「ならば右側面のフォトンブラスターで対処しろっ」

「了解しましたっ」

 返事を返すなり隕石群に向かって第一第二砲門と、右側面のフォトンブラスターを立て続けに発射し隕石群を迎撃する。

「エネルギーシールドの展開はまだかっ?」

「エネルギーシールド展開だめです! シールドシステム作動しません! シールド展開できません!」

 惑星破壊砲ばかりか、敵の攻撃から身を護る唯一の手段ともいえるエネルギーシールドが作動出来ないことがわかり、レイラが焦りを含んだ声を上げる。

「どういうことだ!?」

 冷静に艦内システムを使って艦の状態チェックをしていたオペレーターが声を上げる。

「どうやら惑星破壊砲と同じくエネルギーシールド発生システムが損傷している模様です! どうしますか艦長!」

「緊急回避だ!」

 レイラの命令を聞きすぐさま緊急回避行動に移る。

「駄目ですっ数が多すぎますっ直撃っ来ます!」

 旗艦レヴァティーンはすぐさま回避行動に移ったのだが、ダークスターの放ってきたクリムゾンの数が予想以上に多くかわしきれず直撃を喰らってしまったのだ。

「被害状況を確認しろ!」

 クリムゾンの直撃を受け、爆発による轟音と激しい衝撃に見舞われる中レイラが声を上げる。

「着弾地点は本艦右側面! 被害多数っ人的被害も出ています!」

 報告を聞いたレイラがチラリと副官のほうに視線を向けると、レイラの変わりに副官が声を上げる。

「ただちに救助班及び修復班を向かわせてください!」

「了解しました!」

 あわただしく動き回る中更なる追い討ちがかかる。

 艦内に何者かの侵入を知らせるアラーム音が鳴り響いたのだ。

「今度は一体何事です!」

「尖兵です! 先ほど本艦に開いた穴より尖兵が内部に侵入っ我が艦の戦闘員及び非戦闘員と戦闘が繰り広げられています! 今の状態ではとても艦の修復に専念できる状況ではありません!」

「ええいっ次から次へと隕石群は迎撃したはずですっなぜ尖兵の接近に気付かなかったんです!」

 レイラの代わりに支持出ししている副官が声を上げていらだたしげに問いただす。

「どうやら状況からして小惑星規模の隕石内部を通過した折取り付かれた模様です! 隕石内部に潜んでいたものと思われます!」

「あの状況下で乗り移られた!? とにかく船の維持が最優先ですっ順次討伐班を向かわせてください!」

 各報告を聞いていた副官が声を上げる。

「了解しました。討伐班は尖兵排除に向かってください」

 副官とオペレーターたちのやり取りを耳にして、現在の置かれている状況を冷静に分析したレイラが思考を巡らせていた。

 どうする? 敵に致命的な打撃を与える惑星破壊砲や、敵の攻撃から身を護るシールドが使用不可能だ。さらに船にはすでにかなりの数の尖兵が乗り込んできていて、そこかしこで戦闘が繰り広げられている。ということは現状この状況下での船の修復はほぼ不可能といっていい。

 ならばとる手段は一つ、か。

 やるべきことを見出したレイラは、表情を引き締めながら声を荒立てる。

「総員退艦! 我が艦の緊急離脱システムを使い旗艦レヴァティーンから緊急離脱せよ!」

「どういうことですか艦長!?」

「わが艦はこれより単独で、ダークスターのコアに突撃を開始する」

「突撃などしたところで魔王を倒すことが出来ないのはあなたが一番よくわかっているはずです! 無駄死につもりですか艦長!」

 副官が声を荒げてまくし立てる。

 だがレイラは副官の意見を真っ向から受け止め冷静に返した。

「無駄死になどするつもりはない。ダークスターに突撃する際我が艦。旗艦レヴァティーンのエネルギーコアを暴走させる」

「まさか自爆するつもりですか!?」

 『自爆』と言う単語を耳にした乗組員たちが一斉にレイラのほうへと視線を向ける。

「もはやこれしか打つ手が残されていないのだっ我が艦のコアによる臨界爆発〔メルトダウン〕をもって、ダークスターのコアを破壊し、ビッグバンを引き起こし今度こそ確実に魔王を仕留める!」

「ですがそんなことをしたら!」

「わかっている。間違いなく生きて故郷の地は踏めまい。そしてお前達がそれに付き合う必要もない。レヴァティーン艦隊総司令であり旗艦レヴァティーンの艦長として最後の命令を下すっ総員緊急離脱システムを使いこの船より離脱せよ!」

 そうレイラの下した決断は、自らを犠牲とし、魔王と刺し違えることだったのだ。

 そのために乗組員全員に退艦命令を出したのだった。

 だが、ブリッヂにいる乗組員はおろか、旗艦レヴァティーンに乗船している他の乗組員達誰一人として、レイラ一人を残し緊急離脱システムを使おうとはしなかった。

 そんな中、ブリッヂにいるオペレーターの中の一人がその場に立ち上がり毅然とした声で叫んだ。

「お断りします艦長!」

 声に反応したレイラがオペレーターへと視線を向けると、そこにはすでに覚悟を決めた彼女の姿があった。

「私はっ私はっこの艦のオペレーターですっ艦長にどこまでもついて行きますっ最後まで決してお傍を離れません!」

 オペレーターが笑みを浮かべながら毅然とした声を上げると、それに呼応するようにして、一人また一人と立ち上がりブリッヂにいる他の士官たちからも声が上がる。

「そうです艦長っどこまでもついていきます!」

「私もお供させてください!」

「お前達」

 自分が死ににいく。と言っているにも係わらず、恐れ離れるどころか共に死道〔しどう〕を歩もうとする部下達を見回しながら口を開いた。

 レイラの傍で、艦のサポート的な指揮を取っていた副官も笑みを浮かべて声をかける。

「レイラ艦長っ我らレヴァティーン乗組員一同。生きるも死ぬも、あなたと一緒です」

 ブリッヂにいる全員が立ち上がって頷く。

「それにさっきも言いましたが、いくら艦長が優秀でも、一人で船を動かすなんて無茶ですよ」

 最後に副官が笑顔を浮かべながらそう付け加えた。

「私は本当に、いい部下に恵まれたな」

 レイラは共に『死ぬ』と言ってくれている自分の部下達を本当に誇りに思いながら、彼女達と出会った瞬間や彼女たちと共に過ごした日々を思い出して、感慨にふけりながら死と隣り合わせの戦場にいることを忘れているかのように、穏やかな表情を浮かべながら順々に彼女達の顔を見つめる。

「よしっ皆の気持ちはよくわかった。皆の命を私にくれっこれが最後の戦いだっ共に宿敵である魔王を討つぞぉっ!」

「うおおおおーーーーーっっっっ」

 レイラの一言にブリッヂばかりか、艦内にいる全ての乗組員たちから歓声が沸き上がった。

「ではこれより我がレヴァティーン艦隊最後の作戦を開始する。総員配置に付け! と言いたいところだがな。死ぬのは私一人で十分だ」

 笑みを浮かべて言う。

「艦長なにを……」

 レイラの発言の意図を測りかねたオペレーターの一人が言葉を発しようとするが、レイラはそれを遮り、艦内にいる乗組員全員に聞こえるようよく通る声で礼の言葉を述べる。

「皆、今までよくやってくれた。皆の忠誠心は生涯。決して忘れはしない」

「なにをお別れみたく言ってるんですか艦長。私達は皆で生き残り本国に帰るんですから」

 副官が笑みを浮かべながら言ってくる。

 レイラは副官の傍までゆっくりと歩みよっていくと口を開いた。

「ああ、わかっている。私も必ず後から行く。だから皆、先に行って待っていろ」

 それだけ言うとレイラはきびすを返して、再びブリッヂを見渡せる場所にある艦長席の前までやってくると、皆のほうを振り向き最後の言葉を口にした。。

「皆、さらばだっ」

 その一言でレイラの意図を察した副官や何人かのオペレーターが止めに入るが、すでに間に合うはずもなくことはなされた。

 レイラが右手に備え付けられている艦長専用コンソールに緊急用の艦長コードを入力したのだ。

 すると艦内全域にレヴァティーンのAIの機械音声が響き渡る。

『緊急時の艦長コードを認証しました。緊急転送システム作動します。これより我が艦より艦長を除く全乗組員の緊急ジャンプアウトを開始します』

「へ?」

 レヴァティーンのAIの音声を聞いた士官たちが、なにが起きたのかわからない。というように頭にクエスチョンマークを浮かべてレイラのほうを見つめながら、あっけにとられたような顔をする。

 同時に艦長権限でのみ使用可能な緊急時の緊急転送システムが起動すると、旗艦レヴァティーン艦内にいる乗組員達が次々とその場から消失していく。惑星イシュラで使用した強制転送システム。それを応用した個単体で緊急ジャンプできる緊急転送システムだ。

 レイラつきの副官が消える瞬間、レイラのほうを見つめていると、レイラは私は死ぬつもりはない。安心して先に行けと、言っているかのようににやりと不敵な笑みを浮かべていたのだった。

 ブリッヂや艦内にいるレイラを除いた全乗組員たちの強制転送が終了すると、レヴァティーンAIの機械音声が再び流れる。

『レヴァティーン艦隊。レイラ艦長を除き全乗組員の強制転送が完了しました』

 レヴァティーンAIの機械音声を聞いたレイラが、ほんの一瞬目を閉じて瞑想するかのように精神を集中した後、目を見開き声を上げる。

「よし、行くぞレヴァティーンッフルリンク!!」

 艦長にのみ許された巨大戦艦レヴァティーンとのフルリンクだ。

これにより、レヴァティーンの能力は飛躍的に向上する。

 しかしすでに旗艦レヴァティーンには、魔王や星のコアを破壊するような強力な装備は存在していなかった。

 なぜなら今までの魔王や隕石群、尖兵たちとの戦いの最中破壊され尽くされていたからだ。

 そのため例えレイラがフルリンクしても、旗艦レヴァティーン自体の攻撃能力が上がるわけではなかった。

 ならばなぜレイラが戦艦と一体化して、戦艦の能力を飛躍的に高めるフルリンクを行ったのか? その答えは簡単だ。例え艦長であるレイラといえどたった一人ではこれほど巨大な戦艦を思い通りに動かすことが出来ないからだ。

 そのためレイラはたった一人でも巨大戦艦を自分の意のままに操れるように、船とフルリンクして、自らのナノエフェクトを船に循環させたのだ。

 この行為によってレイラは巨大戦艦レヴァティーンをある程度なら、一人で動かすことが出来るようになる。

 そして、もう一つは、すでにシールドも張れず、敵の攻撃に身をさらけ出すことしか出来ない戦艦で、目的のコア破壊の確率を少しでも上げるために、まだ生きている戦艦の推進機関の能力向上を図ったのだった。

 そのため今現在フルリンクによって向上した船の能力は、かろうじて生きている推進機関だけとなっていた。

 船とフルリンクして船の操船が行えるようになったレイラは、ダークスター中心核へと艦首を向けると、エンジン出力を最大に上げ数多のクリムゾンの砲火。尖兵を潜ませていると思われる隕石群。向かってくるその全てに身をさらし被弾しながら、ダークスターの中心核に向かって、死の突撃を開始した。

 数瞬の後、無数のクリムゾンの砲火に身を晒されて、燃え盛る火船と化した旗艦レヴァティーンがダークスター中心核に到達する瞬間に、レイラが艦長コードを入力して、戦艦を自爆させるための自爆プログラムを起動させる。

 自爆プログラムを起動した旗艦レヴァティーンがダークスターに激突して自爆する瞬間。

 死の間際、白光に包まれながらレイラが口にしたのは、過去。共に戦場を駆け、今はある理由から、たもとを分かった歴戦の友の名だった。

「後は任せたぞエリスティァァアアアッッ!!」

 レイラの死に際の叫び声を背景にして、旗艦レヴァティーンはダークスターの中心核を包み込むように自爆して、辺りに閃光と衝撃を撒き散らしたのだった。
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