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青の星 青の星戦域⑪ 決戦エリス小隊VSダークスター② フルバーストとビッグバン
しおりを挟む しばらく後、小型戦艦ナノグリフは、ジーンのフルバーストでも星のコアを撃ち抜けさえすれば、臨界に至らしめることのできる距離まで近づくことに成功していた。
「ここが魔王に近づける限界ギリギリの距離だろう」
目的の宙域にたどり着いたエリスは、ブリッヂから肉眼越しに見えるダークスターのコアを見つめながらそう呟いた。
「もしこれ以上近づけば、こちらの意図を魔王に悟られ奴の防衛システムが動き始めるはずだ。少し距離はあるがジーン。フルリンクしたお前のフルバーストなら、計算上ここからでもダークスターのコアを撃ち抜けばビッグバンを巻き起こせるはずだ。あとは任せたぞジーン。ダークスターのコアが射線上に浮かんだ瞬間を狙え」
「おうよっ大船に乗ったつもりでいやがれっフルリンク!」
ジーンが叫ぶと小型戦艦ナノグリフに、まるで血液が流れるようにしてジーンのナノエフェクトが循環し躍動する。
ジーンと船との『生体リンク』だ。これにより小型戦艦ナノグリフ自身の能力を格段に底上げする。
特にジーンとのフルリンクは、火力やエンジン出力を大幅に上げるため自然、力を得たナノグリフのエンジンがうなりを上げる。
「ニーナ。コアが射線上に浮かぶまでのカウントを開始しろ」
「了解した。裕矢」
ニーナに声をかけられた裕矢は、その声が聞こえているのかいないのか、一人。流星雨のような数多の隕石が降り注ぎ。星喰いの衝突によって星の中心核をむき出しにされ、辺境にあるにもかかわらず、外宇宙の人々から青の星と呼称されるほどの美しさを誇っていた地球の見る影もない姿を見つめていた。
そして自分が家族や友人。幼馴染である秋菜と共に過ごし、数限りないたくさんの思い出のある地球に止めを刺し、引導を渡す作戦を立案したことに対して、裕矢はいつの間にかその手を震わせていた。
見た目15,6歳とはいえ、裕矢よりはるかに博学で、今の今まで様々な経験を積んできたニーナは、裕矢の中で渦巻く様々な感情を察していた。
裕矢の心境を察したニーナは、優しく裕矢の振るえる手を握り締めると再度声をかけながら視線で促した。
「裕矢」
ニーナに声をかけられた裕矢は、その視線の先にあるものを認めると、ニーナに握りしめられた手を握り返しながら、彼女の意図を察して小さく頷いた。
そして裕矢は、促されるままニーナと共に、目の前に映っているモニターのカウントダウンを開始する。
そう、ニーナは裕矢の思い出の詰まった母星が破壊されようとしているのに何もできず、ただ無力に手を震わせていた裕矢の手を取り、自分の手で仇を討てないまでも、仇を討つまでのプロセスに参加させたのだった。
これは目の前で大切なものを失いそうに名手いrのに何もできない無力さを、何度も噛み締めたことのあるニーナの裕矢へのせめてもの思いやりだった。
もちろんニーナと同じ思いをして、そのことが分かっているエリスやジーンは何も言わない。
しばらくの間地って言った地球の人たちや裕矢の家族、友人、幼馴染である秋菜に対しての鎮魂歌のように、二人の声が船内に響き渡った。
「30,29,28……17,16,15……」
ニーナと裕矢がカウントダウンを開始すると、船内は静まり返り、誰かのゴクリと生唾を飲み込む音が響く。
「5……4……3……2……1……0!」
「今だっジーン!」
ニーナと裕矢のカウントダウンの終わりを聞いたエリスの声が船内に響き渡る。
「俺の母星と今まで殺されてきた星々と仲間たちの仇だ! くたばりやがれくそ野郎があああぁっフルバーストオォォォォッッ!!」
エリスの声を合図に、ジーンが自身とのフルリンクによって火力を上げている小型戦艦ナノグリフの主砲の引き金を引いた。
小型戦艦ナノグリフの先端部から、ジーンとのフルリンクによって、強化された小型戦艦ナノグリフの主砲フォトンブラスターが勢いよく放出される。
放出された高エネルギーの塊は、迷うことなく真っすぐに魔王に寄生されているダークスターのコアに向かって突き進んでいった。
だが、ダークスターに寄生している魔王は何の反応も示さなかった。
どうやら魔王にとっての現状の最優先事項は、大した火力も持たず、また自分に対して致命的な打撃はおろか、かすり傷一つ負わせることが難しい小型戦艦の砲撃よりも、宇宙怪獣星喰いが、その小惑星ほどもある巨大な体に、今までため込んできた膨大なエネルギーを吸収することのようだった。
そして小型戦艦ナノグリフから発射されたジーンとのフルリンクによって強化された主砲フルバーストは、寸分たがわず、正確にダークスターのコアの中心核に突き刺さった。
「ビッグバンが巻き起こるぞっ全員耐衝撃防御っ」
ダークスターのコアに主砲が突き刺さるのを確認したエリスが声を上げる。
エリスの声を聞いた全員が防御姿勢をとる。
だがいくら待っても惑星爆発であるビッグバンが起きる気配を感じることはできなかった。
「一体どういうことだよ!? なんでビッグバンが巻き起こらねえんだよ!」
ダークスターの中心核を撃ち抜いたジーンが怒声を張り上げる。
「どうやらジーン。この距離からの主砲の一撃では、ダークスターのコアを臨海に至らしめるには火力が足りなかったようだ。すまない。私の計算ミスだ。どうやらダークスターのコアを臨海に至らしめるにはもうひと押し必要なようだ」
珍しく計算ミスをしたエリスが、いつもの冷静な口調でわびの言葉を口にする。
「珍しいなエリス。お前がミスるなんてな。だがまあんあこたぁどうでもいいんだよっ要はもう一撃決めりゃあいいってことだろうがっ問題ねえぜっ」
エリスは自分のミスを全くいに返さずに答えてくるジーンの言葉を聞きながら、あることを思い出していた。
計算上普段のジーンのフルバーストの威力なら、星のコアは臨界に達していたはずだ。ならどうして星のコアを臨海に導けなかったか? そういえばジーンは数時間前に一度船とフルリンクして、星喰い相手にフルバーストを使っていたな。この距離と正確な射撃でビッグバンが引き起こせないということは、考えられる原因はただ一つ。思っていた以上にジーンが消耗していて、フルバーストの威力が落ちていたということか。そしてそのことを本人自身も気が付いていなかったか。こんな状況下では仕方あるまい。そのことを考慮できなかった私のミスでもあるわけだしな。あとの問題はこれからどうするかだ。
エリスがこれからどうするか思考を巡らせようとした矢先、艦内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
『ダークスターより複数の高エネルギー反応を確認。魔王のクリムゾンによる攻撃と思われます』
今度は流れ弾でなくこちらの狙いを知り、危険な存在と認識した魔王が攻撃を仕掛けてきたか。
「やはり一撃で仕留めねば反撃が来るか、まずいな奴め今の攻撃で我々を完全に敵と認識したようだ」
「そのまま星喰いにかまってりゃいいてのによ」
エリスの言葉を聞き吐き捨てるように言うジーン。
「愚痴を言ってないでいったんこの場を離れるぞ。ニーナ操船は任せる」
「了解した」
「離れるだと!? 冗談も休み休み言いやがれ!」
「冗談ではない。魔王にこちらの狙いがばれた以上。小型戦艦であるこのナノグリフでは分が悪すぎる。この場はいったん引き、当初あったもう一つの案レヴァティーン艦隊に現状を報告し、協力を仰ぐ」
「ッふざけんなよエリス! あと一押しっ立ったあと一押しなんだっここで俺たちが決めねえでどうするってんだよ!」
エリスとジーンとの間で、言い争いが始まろうとしていたのを見かねたニーナが、ジーンに声をかける。
「ジーン。今はそんなことを言っている場合では……」
「ニーナは黙ってろ!」
ジーンは自分をいさめようとしてきたニーナにぴしゃりと言い放つ。
「いいかエリスッニーナッ耳の穴かっぽじってよ~く聞きやがれ! 今、俺たちがいるのは魔王を倒すための状況下において、絶対の絶好機って奴だ! だが、ここで悠長に奴に時間を与えてみろっ奴は星喰いやダークスターのコアを喰らいあさって力を回復させちまう。いや、下手をしたら今より手に負えない化け物に成長しちまうかもしれねえんだ! ここだっここでやらねえとダメだって、俺の勘がっ俺の本能が訴えかけてきてんだよっ!」
ハァハァハァハァと一気にまくし立てたために、ジーンの荒い息遣いがブリッヂに響き渡った。
「エリス」
ジーンと長年の付き合いで、根拠はないが彼女の勘がよく当たることを知っていたニーナは、エリスの名を呼び彼女の方を振り向く。
「わかっている。私もジーンの野性的な勘には、過去何度も助けられているからな」
そう、ジーンの根拠のない勘はよく当たる。過去何度もここ一番というところでジーンの勘に助けられてきたエリスとニーナは、何も根拠はない。根拠はないがここ一番というところでジーンに勝負勘があることを知っていたため、ジーンの勘を無下にはできなかった。
「だがジーンのフルバーストは艦への負担が大きすぎる。現実的にはやはりここはいったん離脱し、体制を立て直す必要がある」
「何言ってやがるエリスッこの機を逃したら次にいつチャンスがっ来るかわからねぇだろうが!」
ジーンが艦内に怒声を響かせる。
「だが下手をしたら艦が大破するぞ」
「それでも今は行く時だって俺の勘が告げてるんだよ! もう一度近づいて今度こそ星のコアをぶち抜いて魔王の奴に一泡吹かせてやる! エリス!」
ジーンが燃え滾る獰猛な獣のような目でエリスを睨み付ける。
だがエリスは野生の獣のようなジーンの怒号を浴びながらも、一切表情を変えることなく、いつもの冷静な口調で口を開いた。
「ニーナ。操船を頼む」
言いながらエリスが、全面のモニター上に、いつの間にか作成していたクリムゾン回避航路を、指で弾くようにして、ニーナの前面モニターへと飛ばした。
「了解した」
「エリスッてめえ! 俺がこれほど言ってんのに……」
だがエリスはジーンの意見は無視して支持を飛ばす。
「ニーナ。魔王のクリムゾンを回避後、ダークスターのコアに再度ジーンのフルバーストをぶち込む。先ほど転送した回避航路の先に、ダークスターのコアを狙い撃つに適した宙域が存在している。クリムゾンを回避しつつそこへ向かえ」
「了解した」
ニーナの返事を聞いたエリスがジーンに声をかける。
「ジーン。準備をしておけ」
「お、おう」
ジーンが自分の意見があっさり通ったことに、拍子抜けしたような声を上げる。
そしてニーナの操船により魔王のクリムゾンを回避しつつ、小型戦艦ナノグリフはエリスが指示した宙域へとたどり着いていた。
「今だジーンッ」
エリスが予定宙域についた瞬間。攻撃指示を飛ばす。
「うおおおおっいくぜっフルリンク!」
ジーンがメインとなった戦艦の推進機関が力強く唸りを上げ、艦の火力と推進力が強化される。
「これで最後だ魔王っダークスターと共に宇宙の藻屑になりやがれぇっフルバーストオォォッッ!!」
ジーンが声高に叫びながら、小型の銃を模した主砲発射用の引き金を引くと、艦から一直線にジーンによって強化された主砲が発射され地球。否ダークスターの子を破壊する。
そして惑星爆発であるビッグバンが巻き起こり、それに巻き込まれた魔王が消滅した。
と、なるはずだったのだが、なぜか主砲が発射されなかった。
「どういうことだよ!?」
ジーンが何度も引き金を引きながら、怒りのこもった戸惑いの声を上げる。
その問いに答えたのは、エリスやニーナではなく小型戦艦のAIであるナノグリフだった。
艦内に鳴り響く機械音声。
『エンジン出力低下。主砲エネルギー確保できません。船のメインエンジンがオーバーヒートした模様』
「なんだってこんな時にオーバーヒートなんかしやがるんだよ! くそがああああっっ!!」
ドンドンッと、ジーンが怒りに任せて主砲の引き金のついた固定部を叩きまくる。
ジーンの様子を目にしながらも、エリスは船がオーバーヒートした原因を探るために、冷静に状況を分析していた。
フルバーストはジーン自身のナノエフェクトの力と船のエネルギーを大量に使う。
たぶん数時間前に星喰いとの先頭の折使ったフルバーストと、ダークスターのコアを臨海させようと先ほど使用したフルバースト。ジーンの奴は頭に血が上っていて自覚がなかったようだが、短時間のうちに二度にわたる力の行使。そして立て続けに三度目の主砲の発射をしようとしたために、ジーンはともかく大量にエネルギーを使用する三度目のフルバーストのエネルギーを、小型戦艦であるナノグリフがまかないき0れなかったといったところだろう。
「やはり小型艦ではジーンのフルバーストを立て続けには撃ち切れないか」
エリスが瞬時に分析を終えて、現在自分たちの置かれている状況を確認すると共に、ナノグリフが警報を鳴らす。
『ダークスターより高エネルギー反応補足。クリムゾン。第二射来ます』
惑星イシュラで魔王が使用した惑星兵器クリムゾンの赤い閃光が、小型戦艦ナノグリフに迫りくる。
「こちらが体勢を崩している隙を狙われたかっナノグリフっエネルギーシールドを展開しろっ」
魔王からの赤色レーザークリムゾンを撃ち込まれた直後。エリスが冷静に命令を告げる。
『オーバーヒートした状態では、シールドエネルギー確保できません』
ナノグリフの音声を聞いたエリスは、初手が用をなさないと分かると、すぐさま次の一手の指示を飛ばす。
「ジーン。急速離脱だっ」
「くそったれえええええっっ!!」
ジーンが大声を上げながら、現在いる宙域から離脱しようと、エンジン出力を最大にしてこの場を離れようとする。
しかし、オーバーヒートしている今の小型戦艦ナノグリフのエンジン出力をいくら最大にしても、ただエンジンが空回りするだけで、急速離脱などできるはずがなかった。
そう、最初から今のオーバーヒートしている小型戦艦ナノグリフに、ダークスターより解き放たれた魔王のクリムゾンを交わす術などなかったのだった。
迫りくる赤き閃光を目にして、エネルギーシールドも張れず、また急速離脱もできない小型戦艦ナノグリフに搭乗しているエリスたちや裕矢の脳裏に『死』という単語が浮かび上がった。
瞬間、小型戦艦ナノグリフの船内に荘厳な声が響き渡った。
「どうやら間一髪にあったようだな」
船内に荘厳な声が響き渡ると共に、小型戦艦ナノグリフの目の前に迫る赤い閃光を遮るようにして、一隻の巨大な純白の宇宙戦艦が姿を現した。
惑星イシュラの魔王殲滅戦で指揮を執った旗艦レヴァティーンである。
ジャンプアウトしてきたレヴァティーンは、魔王の放ったクリムゾンを船体に張り巡らせたエネルギーシールドで難なく防ぎ切り、間一髪のところで小型戦艦ナノグリフと乗組員であるエリスたちや裕矢を救ったのだった。
「ここが魔王に近づける限界ギリギリの距離だろう」
目的の宙域にたどり着いたエリスは、ブリッヂから肉眼越しに見えるダークスターのコアを見つめながらそう呟いた。
「もしこれ以上近づけば、こちらの意図を魔王に悟られ奴の防衛システムが動き始めるはずだ。少し距離はあるがジーン。フルリンクしたお前のフルバーストなら、計算上ここからでもダークスターのコアを撃ち抜けばビッグバンを巻き起こせるはずだ。あとは任せたぞジーン。ダークスターのコアが射線上に浮かんだ瞬間を狙え」
「おうよっ大船に乗ったつもりでいやがれっフルリンク!」
ジーンが叫ぶと小型戦艦ナノグリフに、まるで血液が流れるようにしてジーンのナノエフェクトが循環し躍動する。
ジーンと船との『生体リンク』だ。これにより小型戦艦ナノグリフ自身の能力を格段に底上げする。
特にジーンとのフルリンクは、火力やエンジン出力を大幅に上げるため自然、力を得たナノグリフのエンジンがうなりを上げる。
「ニーナ。コアが射線上に浮かぶまでのカウントを開始しろ」
「了解した。裕矢」
ニーナに声をかけられた裕矢は、その声が聞こえているのかいないのか、一人。流星雨のような数多の隕石が降り注ぎ。星喰いの衝突によって星の中心核をむき出しにされ、辺境にあるにもかかわらず、外宇宙の人々から青の星と呼称されるほどの美しさを誇っていた地球の見る影もない姿を見つめていた。
そして自分が家族や友人。幼馴染である秋菜と共に過ごし、数限りないたくさんの思い出のある地球に止めを刺し、引導を渡す作戦を立案したことに対して、裕矢はいつの間にかその手を震わせていた。
見た目15,6歳とはいえ、裕矢よりはるかに博学で、今の今まで様々な経験を積んできたニーナは、裕矢の中で渦巻く様々な感情を察していた。
裕矢の心境を察したニーナは、優しく裕矢の振るえる手を握り締めると再度声をかけながら視線で促した。
「裕矢」
ニーナに声をかけられた裕矢は、その視線の先にあるものを認めると、ニーナに握りしめられた手を握り返しながら、彼女の意図を察して小さく頷いた。
そして裕矢は、促されるままニーナと共に、目の前に映っているモニターのカウントダウンを開始する。
そう、ニーナは裕矢の思い出の詰まった母星が破壊されようとしているのに何もできず、ただ無力に手を震わせていた裕矢の手を取り、自分の手で仇を討てないまでも、仇を討つまでのプロセスに参加させたのだった。
これは目の前で大切なものを失いそうに名手いrのに何もできない無力さを、何度も噛み締めたことのあるニーナの裕矢へのせめてもの思いやりだった。
もちろんニーナと同じ思いをして、そのことが分かっているエリスやジーンは何も言わない。
しばらくの間地って言った地球の人たちや裕矢の家族、友人、幼馴染である秋菜に対しての鎮魂歌のように、二人の声が船内に響き渡った。
「30,29,28……17,16,15……」
ニーナと裕矢がカウントダウンを開始すると、船内は静まり返り、誰かのゴクリと生唾を飲み込む音が響く。
「5……4……3……2……1……0!」
「今だっジーン!」
ニーナと裕矢のカウントダウンの終わりを聞いたエリスの声が船内に響き渡る。
「俺の母星と今まで殺されてきた星々と仲間たちの仇だ! くたばりやがれくそ野郎があああぁっフルバーストオォォォォッッ!!」
エリスの声を合図に、ジーンが自身とのフルリンクによって火力を上げている小型戦艦ナノグリフの主砲の引き金を引いた。
小型戦艦ナノグリフの先端部から、ジーンとのフルリンクによって、強化された小型戦艦ナノグリフの主砲フォトンブラスターが勢いよく放出される。
放出された高エネルギーの塊は、迷うことなく真っすぐに魔王に寄生されているダークスターのコアに向かって突き進んでいった。
だが、ダークスターに寄生している魔王は何の反応も示さなかった。
どうやら魔王にとっての現状の最優先事項は、大した火力も持たず、また自分に対して致命的な打撃はおろか、かすり傷一つ負わせることが難しい小型戦艦の砲撃よりも、宇宙怪獣星喰いが、その小惑星ほどもある巨大な体に、今までため込んできた膨大なエネルギーを吸収することのようだった。
そして小型戦艦ナノグリフから発射されたジーンとのフルリンクによって強化された主砲フルバーストは、寸分たがわず、正確にダークスターのコアの中心核に突き刺さった。
「ビッグバンが巻き起こるぞっ全員耐衝撃防御っ」
ダークスターのコアに主砲が突き刺さるのを確認したエリスが声を上げる。
エリスの声を聞いた全員が防御姿勢をとる。
だがいくら待っても惑星爆発であるビッグバンが起きる気配を感じることはできなかった。
「一体どういうことだよ!? なんでビッグバンが巻き起こらねえんだよ!」
ダークスターの中心核を撃ち抜いたジーンが怒声を張り上げる。
「どうやらジーン。この距離からの主砲の一撃では、ダークスターのコアを臨海に至らしめるには火力が足りなかったようだ。すまない。私の計算ミスだ。どうやらダークスターのコアを臨海に至らしめるにはもうひと押し必要なようだ」
珍しく計算ミスをしたエリスが、いつもの冷静な口調でわびの言葉を口にする。
「珍しいなエリス。お前がミスるなんてな。だがまあんあこたぁどうでもいいんだよっ要はもう一撃決めりゃあいいってことだろうがっ問題ねえぜっ」
エリスは自分のミスを全くいに返さずに答えてくるジーンの言葉を聞きながら、あることを思い出していた。
計算上普段のジーンのフルバーストの威力なら、星のコアは臨界に達していたはずだ。ならどうして星のコアを臨海に導けなかったか? そういえばジーンは数時間前に一度船とフルリンクして、星喰い相手にフルバーストを使っていたな。この距離と正確な射撃でビッグバンが引き起こせないということは、考えられる原因はただ一つ。思っていた以上にジーンが消耗していて、フルバーストの威力が落ちていたということか。そしてそのことを本人自身も気が付いていなかったか。こんな状況下では仕方あるまい。そのことを考慮できなかった私のミスでもあるわけだしな。あとの問題はこれからどうするかだ。
エリスがこれからどうするか思考を巡らせようとした矢先、艦内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
『ダークスターより複数の高エネルギー反応を確認。魔王のクリムゾンによる攻撃と思われます』
今度は流れ弾でなくこちらの狙いを知り、危険な存在と認識した魔王が攻撃を仕掛けてきたか。
「やはり一撃で仕留めねば反撃が来るか、まずいな奴め今の攻撃で我々を完全に敵と認識したようだ」
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「愚痴を言ってないでいったんこの場を離れるぞ。ニーナ操船は任せる」
「了解した」
「離れるだと!? 冗談も休み休み言いやがれ!」
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「ニーナは黙ってろ!」
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「いいかエリスッニーナッ耳の穴かっぽじってよ~く聞きやがれ! 今、俺たちがいるのは魔王を倒すための状況下において、絶対の絶好機って奴だ! だが、ここで悠長に奴に時間を与えてみろっ奴は星喰いやダークスターのコアを喰らいあさって力を回復させちまう。いや、下手をしたら今より手に負えない化け物に成長しちまうかもしれねえんだ! ここだっここでやらねえとダメだって、俺の勘がっ俺の本能が訴えかけてきてんだよっ!」
ハァハァハァハァと一気にまくし立てたために、ジーンの荒い息遣いがブリッヂに響き渡った。
「エリス」
ジーンと長年の付き合いで、根拠はないが彼女の勘がよく当たることを知っていたニーナは、エリスの名を呼び彼女の方を振り向く。
「わかっている。私もジーンの野性的な勘には、過去何度も助けられているからな」
そう、ジーンの根拠のない勘はよく当たる。過去何度もここ一番というところでジーンの勘に助けられてきたエリスとニーナは、何も根拠はない。根拠はないがここ一番というところでジーンに勝負勘があることを知っていたため、ジーンの勘を無下にはできなかった。
「だがジーンのフルバーストは艦への負担が大きすぎる。現実的にはやはりここはいったん離脱し、体制を立て直す必要がある」
「何言ってやがるエリスッこの機を逃したら次にいつチャンスがっ来るかわからねぇだろうが!」
ジーンが艦内に怒声を響かせる。
「だが下手をしたら艦が大破するぞ」
「それでも今は行く時だって俺の勘が告げてるんだよ! もう一度近づいて今度こそ星のコアをぶち抜いて魔王の奴に一泡吹かせてやる! エリス!」
ジーンが燃え滾る獰猛な獣のような目でエリスを睨み付ける。
だがエリスは野生の獣のようなジーンの怒号を浴びながらも、一切表情を変えることなく、いつもの冷静な口調で口を開いた。
「ニーナ。操船を頼む」
言いながらエリスが、全面のモニター上に、いつの間にか作成していたクリムゾン回避航路を、指で弾くようにして、ニーナの前面モニターへと飛ばした。
「了解した」
「エリスッてめえ! 俺がこれほど言ってんのに……」
だがエリスはジーンの意見は無視して支持を飛ばす。
「ニーナ。魔王のクリムゾンを回避後、ダークスターのコアに再度ジーンのフルバーストをぶち込む。先ほど転送した回避航路の先に、ダークスターのコアを狙い撃つに適した宙域が存在している。クリムゾンを回避しつつそこへ向かえ」
「了解した」
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「うおおおおっいくぜっフルリンク!」
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「これで最後だ魔王っダークスターと共に宇宙の藻屑になりやがれぇっフルバーストオォォッッ!!」
ジーンが声高に叫びながら、小型の銃を模した主砲発射用の引き金を引くと、艦から一直線にジーンによって強化された主砲が発射され地球。否ダークスターの子を破壊する。
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「どういうことだよ!?」
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「やはり小型艦ではジーンのフルバーストを立て続けには撃ち切れないか」
エリスが瞬時に分析を終えて、現在自分たちの置かれている状況を確認すると共に、ナノグリフが警報を鳴らす。
『ダークスターより高エネルギー反応補足。クリムゾン。第二射来ます』
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「こちらが体勢を崩している隙を狙われたかっナノグリフっエネルギーシールドを展開しろっ」
魔王からの赤色レーザークリムゾンを撃ち込まれた直後。エリスが冷静に命令を告げる。
『オーバーヒートした状態では、シールドエネルギー確保できません』
ナノグリフの音声を聞いたエリスは、初手が用をなさないと分かると、すぐさま次の一手の指示を飛ばす。
「ジーン。急速離脱だっ」
「くそったれえええええっっ!!」
ジーンが大声を上げながら、現在いる宙域から離脱しようと、エンジン出力を最大にしてこの場を離れようとする。
しかし、オーバーヒートしている今の小型戦艦ナノグリフのエンジン出力をいくら最大にしても、ただエンジンが空回りするだけで、急速離脱などできるはずがなかった。
そう、最初から今のオーバーヒートしている小型戦艦ナノグリフに、ダークスターより解き放たれた魔王のクリムゾンを交わす術などなかったのだった。
迫りくる赤き閃光を目にして、エネルギーシールドも張れず、また急速離脱もできない小型戦艦ナノグリフに搭乗しているエリスたちや裕矢の脳裏に『死』という単語が浮かび上がった。
瞬間、小型戦艦ナノグリフの船内に荘厳な声が響き渡った。
「どうやら間一髪にあったようだな」
船内に荘厳な声が響き渡ると共に、小型戦艦ナノグリフの目の前に迫る赤い閃光を遮るようにして、一隻の巨大な純白の宇宙戦艦が姿を現した。
惑星イシュラの魔王殲滅戦で指揮を執った旗艦レヴァティーンである。
ジャンプアウトしてきたレヴァティーンは、魔王の放ったクリムゾンを船体に張り巡らせたエネルギーシールドで難なく防ぎ切り、間一髪のところで小型戦艦ナノグリフと乗組員であるエリスたちや裕矢を救ったのだった。
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俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
原初の星/多重世界の旅人シリーズIV
りゅう
SF
多重世界に無限回廊という特殊な空間を発見したリュウは、無限回廊を実現している白球システムの危機を救った。これで、無限回廊は安定し多重世界で自由に活動できるようになる。そう思っていた。
だが、実際には多重世界の深淵に少し触れた程度のものでしかなかった。
表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。
https://perchance.org/ai-anime-generator
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
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人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
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宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
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小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
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小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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