20 / 34
青の星 青の星戦域⑧ ドラグニル③ ニーナVSドラグニル② ドラグニルの進化と裕矢のフォトンブラストとドラグニルの最後
しおりを挟む
「ここまで登ってきたのか?」
第一展望台まで上がってきた裕矢たちの気配を察して、振り返りもせずにニーナが声をかける。
「ああ、どうせ上るならあまり世話をかけるってのも悪いかと思ってよ」
「いい心がけだ。少し待っていろ。すぐに決着をつける」
「ああ」
裕矢は秋菜を背負い柱の陰に身を潜めた。
「これで終わりだドラグニルッ行くぞ! ハアァァァッ!」
フォトンブレードを構えながら、足のブーストで加速したニーナが腕を切り落とされて、その戦闘能力を大幅に減少させたドラグニルに迫り、フォトンブレードを振り下ろす。
これで決まった。
その場にいた誰もが思い、またニーナが己の勝ちを確信した時だった。
ギィンッと第一展望台に、硬い金属音のような音がこだましたのは。
「くっシールドか!? しかしドラグニルにシールドなど……」
ニーナは自分が振り下ろしたフォトンブレードがドラグニルにはじかれたために、警戒してドラグニルから飛び退り距離をとる。
ニーナが距離をとった直後、ニーナたちの目の前でドラグニルの変化が始まった。
目の前で繰り広げられる光景に、目を見張るニーナ。
まずトカゲのように細かった四肢の筋肉が盛り上がり始めると、それに伴い二メートルほどの体躯をしたドラグニルの体の筋肉も盛り上がり始めた。
そのためドラグニルの体躯は一回り以上大きくなり、三メートル近い巨躯へと変わる。
また全身を覆っている鱗も太く分厚いものとなり、体の頑強さも跳ね上がる。
そしてまるでトカゲの頭のような面だったドラグニルの頭部は、ドラグニルという呼び名にふさわしい竜を思わせる頭部へと変わる。
そして最後に、ニーナが斬りおとしたドラグニルの失われた腕に、ドラグブレードが融合し、腕を再生していく光景が目に入ってくる。
「まずいな。奴を倒すのに時間をかけすぎたか、進化が始まった」
ニーナが変貌していくドラグニルを目にしながら吐き捨てるように言う。
「進化!?」
「ああ、キリングドールであるドラグニルは尖兵たちと違い。戦闘中に人工知能であるAIが相手の力量や特性に応じて進化し、相手の最も苦手とする形態へと変貌を遂げる。つまり現状戦っている戦闘相手専用のキラーマシーン。殺人兵器へと進化する」
「それってつまり……」
「ああ、今戦っていたわたしの特性を完全に学習し、奴はそれに対抗すべく進化を遂げている」
「それってまずいじゃないかよ」
ニーナの説明を聞いた裕矢が焦りの声を上げる。
だがニーナはそれには答えず、ただ頬に一筋の汗を流しながらフォトンブレードを握り締めただけだ。
「進化する前に、撃ち砕く!」
ニーナはそう決断を下すと、すぐさま進化中のドラグニルに向かって、フォトンブレードを振りかぶり、裂ぱくの気合と共に突っ込んでいった。
「ハアァァァッ!」
相手は進化の途中で無防備、加えてニーナの渾身の力を込めたその一撃は、必殺の一撃とも呼べる類のものだ。
そのためこの場にいる誰もが、ニーナの繰り出したこの一撃で、すべてが終わると思い込んでいた。
だが次の瞬間響き渡ったのは、ドラグニルの断末魔の悲鳴ではなく、ギィンッと言った固い金属音のような音だった。
「なっ!?」
その音を聞き、目の前の光景を目にして、さすがのニーナも驚愕の表情を浮かべる。
なぜならニーナの放ったフォトンブレードが、ドラグニルの体と接触するなり、光の粒子を撒き散らして弾かれたからだ。
「くっまさか、フォトンブレードが弾かれただと!? 一体どうなっている!? はっまさか奴の進化は、己を切ったフォトンブレードにまで耐性を持ったというのか!?」
まずい。今わたしの持っている武器で最強ともいえるフォトンブレードが弾かれた今、こちらに打つ手がない。
「まずいな。まさかこれほどの進化を遂げているとはな。さしずめドラゴンの面を持つ者。ドラグナイトといったところか」
進化を遂げ本物のドラゴンのような面を持った竜戦士。ドラグナイトへと変貌を遂げたドラグニルを見つめながらニーナが呟いた。
ニーナの振るったフォトンブレードの吹き散らされた光の粒子が収まり始めたころ、光の粒子の中から飛び出してきたのは、ニーナに斬りおとされた腕から、人の体ほどもある巨大な黒き槍。
ドラグスピアをはやし、今や完全にニーナの特性に合わせた進化を遂げ、分厚い黒色の鱗に全身を覆われた筋骨隆々の三メートル近い巨躯を誇るドラグナイトだった。
光の粒子の中から飛び出してきたドラグナイトが、ドラグスピアを突き出してニーナの頭部を狙い猛然と襲い掛かってくる。
自分の頭部を狙って突き出されてきたドラグスピアの一撃を、ニーナはフォトンブレードで何とか受けると、驚愕の表情を浮かべる。
なぜなら、ドラグスピアの一撃を受けたフォトンブレードが、黄色が駆った光の粒子を残し、霧散してしまったからだ。
そして、フォトンブレードを吹き散らされたニーナが、そのままドラグナイトの野太い腕に首元を掴まれ宙づりにされてしまう。
「くっ」
のど元を掴まれ宙づりにされたニーナが苦しげな声を上げる。
まずい。このままでは……
そう思ったニーナが、何とかドラグナイトの拘束を振りほどこうと、首を絞めてくる腕を掴み抵抗しようと試みるが、掴まれている首元にさらに尋常ならざる力が込められたために、ニーナ程度の力ではドラグナイトの拘束を振りほどくことができなかった。
そしてドラグナイトは、天に抱え上げたニーナを、進化した腕と一体化した黒き槍、ドラグスピアで串刺しにしようとする。
さすがのニーナもこれまでか。と思い覚悟を決める。
だが、それでも最後の最後まで諦めてたまるものかと思ったニーナは、首元を絞められ、空中に体が浮いているために、力の入らない手足を必死に最後の抵抗を試みる。
だが、すでにフォトンブレードの一撃すら通用しないような相手なのだ。
今更ニーナが素手でどんな抵抗をしようとも、状況を変えることなどできるはずもなかった。
そして、とうとうニーナに最後の時が訪れようとしたとき、ニーナは何とか視線だけを裕矢たちのいた場所へとむけると、首を締めあげられながらも、何とかわずかな声を絞り出して、裕矢たちにこの場から逃げるように伝える。
「に……げ……ろ……」
だがニーナが言うまでもなく、すでに先ほど裕矢たちがいた場所には、裕矢たちの姿はなかった。
どうやらニーナに言われるまでもなく、裕矢たちはこの場から早々に逃げ出したらしい。
そのことを確認したニーナは、ほっと安堵するのと同時に、なぜだか胸に小さな風穴があいたかのような痛みを覚えていた。
そうして最後の時を迎えようとしたニーナの胸が、少しばかりの痛みを覚えていたときだった。
フォォォォッという何かが動く駆動音と共に、まばゆい光が自分の目の前に広がり、ドラグナイトを通じて何かの衝撃が伝わってきたのは。
その衝撃でドラグナイトに掴まれていたニーナの首元の拘束が緩む。
「くっ」
この機を逃すまいと、ニーナが渾身の力を込めてドラグナイトに蹴りを入れ拘束から逃れようとするが、ドラグナイトは緩んだ手から逃げ出そうとしているニーナに気付くと、ニーナの首元を掴む腕にさらなる力を籠める。そしてそのままニーナを地面に叩きつけるようにして放り投げた。
ニーナは投げられた先の第一展望台内の堅い壁に背中をしたたかに打ち付けて、ガハッと息を吐き出して苦悶の表情を浮かべる。
そして、展望台の壁に激突した衝撃で、失いそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、自分を救った光の出所に目を馳せる。
ニーナの視線の先にいたのは、先ほどニーナに護身用だと言われ渡されたフォトン銃を手にして、ドラグナイトと対峙している裕矢の姿だった。
「なっ!?」
ニーナが予想もしていなかった光景に驚き目を見開く。
なぜなら、今まで似たようなことは何度もあったが、大抵のものはみな見ているだけか、自分を置いて逃げ出していたからだ。
「ニーナッ今だっ 逃げろっ!」
「バカッ地球人ッ何を勝手なことをしている!」
ニーナが叫ぶや否や彼女の目の前から、フォトン銃から放たれたフォトンブレッドの一撃をまともに食らったというのに、一切手傷を負っていない無傷のドラグナイトが掻き消えるようにいなくなった。
かと思えば、次の瞬間には、ドラグナイトが正面から裕矢の腹を、裕矢が手にしていたフォトン銃ごと、巨大な人の体ほどもあるドラグスピアで貫いていたのだった。
「地球人っ!」
全身を固い壁に叩きつけられていたために、未だ自由に身動きが取れないニーナは、裕矢を助けに行くこともできず、ただ起こった現実を直視して悲鳴じみた声を発するのみだ。
裕矢は現実に自分の身に起こっている出来事とは到底思えない光景に。痛みに。驚愕と絶望のないまぜになったような表情を浮かべる。
「な!? かっくっごほっ!?」
裕矢がドラグナイトの凶刃に貫かれながら、傷口から大量の血を噴出しせき込み口から吐血する。
ドラグナイトは自分を撃った裕矢にもはや生命反応がほとんどないと知ると、まるで興味を失ったかのように闇色のスピアを一振りして、まるでボロ。雑巾か何かのように投げ捨てる。
何の抵抗もできずされるがままに投げ捨てられた裕矢は、スピアの抜けた穴から大量の血液を撒き散らしながらくうちゅを飛んで、展望台の壁にぶち当たった。
「おいっ地球人ッしっかりしろ! 地球人ッきこえているのか!」
だがいくら必死に呼びかけようとも、ニーナの声は届かない。もはや今の裕矢に誰の呼びかけであろうとも、返答を返すだけの力がなかったからだ。
だがそれでもニーナは諦めない。叫び続ける。なぜなら初めて助けようとしたものが、自分を助けようとしてくれたからだ。そんな相手をこのままドラグナイトに殺させるわけにはいかない。自分でも抑えられない強い思いに駆られたニーナは、自分を助けようとしてドラグナイトの凶刃に倒れた裕矢の名を始めて口にして力の限り叫んだ。
「裕矢――――っっ!!」
だが必死のニーナの呼びかけにも、ドラグスピアで腹に大穴を穿たれて、その後投げ捨てられ展望台の分厚い壁にぶち当たり、大量の血液を撒き散らしている裕矢は全く反応をみせない。
すでに裕矢の意識は混濁し、死の一歩手前だったからだ。
「裕矢っよく聞け! ナノエフェクトは生存本能である自己意思によって覚醒するっそうすればお前は助かるっ裕矢っ死にたくなければ覚醒しろっ!」
だが今の裕矢には、ニーナの声にこたえる意思も、気力も、湧き上がってこなかった。
ただ、これで終われる。これで俺もみんなのところに行ける。という死が与える安堵感に包まれていただけだった。
これで、俺もようやくみんなのところに行ける。
父さん……母さん……
もうすぐ俺もそっちに……
「起きろ裕矢っ覚醒しろ! 秋菜をっ秋菜を殺されてもいいのかッ!!」
「あ……き……な?」
裕矢は混濁した意識の中で、ニーナが口にした『秋菜』という単語を聞きほんの少しだが意識を覚醒させると蚊の鳴くような声音で呟いた。
「そうだっ秋菜だっ裕矢っ奴は生きている動いているものに対して容赦がないっお前が死んだら確実にこの星の唯一の生き残りである秋菜も奴に殺されるぞっ!」
「そ……うだ。秋菜を殺させるわけにはいかない。あいつは俺がいないと何もできないから。俺が。守って。やらないと」
「そうだっ裕矢っしっかりしろ! 守りたいものがるのならばっ自分の意思で生きっそして守りたいものを守るために戦えぇっ!!」
「俺が、秋菜を、守らないと!」
裕矢は何とか失う寸前だった自分の意識を奮い立たせて、何とか薄目を開けながら秋菜を寝かせている方に視線を向ける。
すると、すでに死地を彷徨い戦闘力のなくなった自分やニーナには興味が失せたとばかりに、秋菜に近づくドラグナイトの姿があった。
「あ……きな。くっ」
裕矢は幼馴染である秋菜を守らないと、という強い思いと使命感だけで、血反吐を吐きながらその場に立ち上がる。
立ち上がった裕矢の手には、先ほどニーナを救うために使った壊れたフォトン銃が握られていた。
銃? 自分の手に握られている銃の存在を認識した裕矢の頭の中に、ある情報とそのやり方が流れ込んでくる。
裕矢にそのすべてを理解することはできなかったが、裕矢はそれを実行できることだけは確信していた。
そして、それを頭に流れ込んできたイメージ通りに実行に移す。
いや、イメージ通りというよりも、感情の赴くまま、といった方が正しいだろうか? 裕矢は自分の感情の赴くまま体の動くままに身を任せたに過ぎない。
瞬間。それは起こった。
壊れたフォトン銃を片手に立ち上がった裕矢の右腕が光り輝いたかと思うと、次の瞬間には、裕矢の右腕が付け根から壊れたフォトン銃と融合して白銀の銃身となったのだ。
「なっ!? バカな!? 環境適応型のナノエフェクトがフォトン銃と融合しただと!? そんなことできるはずが……はっまさか!? ジーンの奴っナノエフェクトを取り違えたのか!?」
ニーナがフォトン銃と一体化した裕矢の姿を見て驚きの声を上げる。
ニーナの驚きの声を引き金のようにして、裕矢は自分の感情の赴くままドラグナイトに向かって、白銀の銃身を向けると、気合の雄たけびを上げながら思いっきり右腕の銃身から、バズーカのような大きさの光の光線を解き放った。
「トカゲ野郎っあきからっ離れやがれ――――ッ!!」
裕矢から解き放たれたフォトン銃とは思えないほどのエネルギーを秘めた一条の光の光線は、信じられないほどの速度で展望台の床をえぐりながら、未だ気絶し地面に横たわっていた秋菜を殺そうと迫っていたドラグナイトに向かって突き進んだ。
無論いくら信じられないほどの凄まじい速度で迫りくるといっても、進化を遂げたドラグナイトがそれを探知できないはずはなく、裕矢が撃ち出してきた必殺の一撃ともいえる高出力のレーザー光線に気付いたドラグナイトが、先ほどニーナのフォトンブレードを弾いたドラグスピアで弾こうとする。
だが裕矢の撃ち放った高出力の光線による一撃は、あのニーナのフォトンブレードすら霧散させたドラグナイトのスピアごと、真っ正面からドラグナイトを撃ち貫き、その腹に巨大な大穴を穿ったのだった。
「フォトン……ブラストか!?」
裕矢が解き放った巨大な光の粒子を見つめていたニーナが、目を見開き驚いたような声を発した。
ニーナの口にしたフォトンブラストとは、本来戦艦などに備え付けられている対艦用の光を使った高出力レーザー兵器のことだ。
まぁ例外として小型化して、威力を弱めたものを馬力のある歩兵が兵装として用いる場合もあるが、それはごく稀な例である。
「ハァッハァッハァッ」
ドラグナイトを貫通するほどのフォトンブラストを撃った裕矢は、一気に体から力が抜けたのか、荒く息を吐いてその場に膝をついてしまう。
すると銃身のようになっていた裕矢の右腕も、裕矢が力を失ったのに呼応するかのようにして、元の姿を取り戻していった。
そして裕矢は荒い息をつきながらも、これで何とかなったか? そう思ってドラグナイトの方に改めて視線を向けた。
すると衝撃の光景が裕矢の目に飛び込んでくる。
その光景とは、あれほどの高エネルギーの塊であるフォトンブラストに撃ち抜かれたというのに、未だその機能を完全に停止させないのか、ドラグナイトが自分を傷つけた裕矢のいる方へと、一歩、また一歩。と先ほどよりは遅い緩慢な動きだが、確実に近づいてきていたからだ。
「な!?」
さすがにその光景を見た裕矢は、息を飲みもう今の自分にドラグナイトに抗う術はないと最後の時を覚悟して、目を閉じようとした。
瞬間、目の前に迫って来たドラグナイトの体が両断される。
もちろん裕矢に迫るドラグナイトを切り伏せたのはニーナだ。
ニーナは裕矢がドラグナイトにあけた大穴に、最大出力のフォトンブレードを差し入れて、 未だしぶとく動いていたドラグナイトの体を真っ二つに両断したのだった。
ニーナと声をかけようとした裕矢のセリフを遮って、周囲にニーナの叫び声が響き渡る。
「爆発するぞ!」
ニーナの声に反応して裕矢はとっさに秋菜を助けに走り出す。
だが疲弊しきっている裕矢の足はもつれうまく走ることができない。
このままでは裕矢と秋菜。二人とも爆発に巻き込まれてしまうと思われた矢崎、ニーナが素早く二人を抱きかかえて、右手のガントレットのコンソールを操作しながら展望台の外に躍り出たのだった。
その瞬間、ニーナの手にしていたフォトンブレードによって両断されたドラグナイトの死体は、スカイツリーその第一展望台の中で、巨大な爆発を引き起こしたのだった。
巨大爆発を引き起こされたスカイツリーの内部では、爆発による爆風でバリバリバリィンッと特殊な強化ガラスでできていたはずの展望台のガラス戸がすべて割られ、内部の壁も砕け散り、また爆発の折発生した熱で内部の鉄骨がゆがんだり溶解したりした。
そしてギリギリの線で何とか第一展望台を脱出したニーナたちも、爆発時にドラグナイトの発した衝撃波によって吹き飛ばされていた。
ニーナに抱えられ、爆発による衝撃波で吹き飛ばされながら裕矢が目にしたのは、先ほどまで自分たちがいた第一展望台が巨大な爆発に包まれ、内部の主要な鉄骨が溶解したために東京の観光名所であり、新電波塔である東京スカイツリーが地響きを立てて、周辺に残っていたビルや民家をなぎ倒しながら横倒しになっていく光景だった。
「ふぅ何とか間に合ったな」
重力制御システムと小型のバーニアを巧みに使い、爆発による衝撃波を交わしたニーナが、爆発の瞬間とっさに腕のコンソールで発動させたシールドを解き落下速度を弱めながら、安堵の吐息を吐き出していた。
先ほど右手のガントレットのコンソールを操作して、ニーナの使ったシールドは、裕矢と出会った当初に半径数キロに及び、熱を遮断していたシールドを小規模で展開させたものだ。
あれほどの大規模展開のものを小規模展開させたのだから、その防御力は並みのものではない。そのためドラグナイトが発生させた爆発と、爆風による衝撃波に耐えることができたのだった。
爆発を逃れたニーナたちは、その後重力制御システムと小型のバーニアを巧みに使って、爆発やスカイツリーが倒壊した影響の少ない地域を選んで、ゆっくりと降下していった。
無事地上に降り立ったニーナは、裕矢と秋菜を地面へと下す。
ニーナのおかげで何とかドラグナイトの爆発から逃れ、またスカイツリーの倒壊に巻き込まれずにすんだ裕矢は、地上に降りたった後、ニーナに礼の言葉を投げかける。
「ニーナ。サンキューな。助かったぜ」
「ああ」
「にしてもその剣。壊れてなかったのかよ?」
すでに光を霧散させブレードを収めたニーナが腰に差している筒状のフォトンブレードの柄に視線を向けながら問いかける。
「ああ、この剣の刃は光を収束させたものだからな。先ほどのはただ奴の攻撃を受け光が霧散したに過ぎないからな。再び光を集めればフォトンブレードは復元できる」
「なんだ。そうだったのかよ」
「それはとうと、ずいぶんと深手のようだったが、傷は無事癒えたようだな」
裕矢の体に上から下まで視線を這わせながらニーナが口にした。
「へ?」
裕矢がニーナに指摘され、間抜けな声を上げながら、自分の体を見下ろしてみると、言われてみればどこも痛くない。先ほど腹に穴が開く大けがをしたとは、とても思えないほどまったくの無傷だった。
「これって……」
自分の体に起きた出来事に目を見開き驚きの表情を浮かべながら、先ほど穴の開いていた辺りに触れてみる。
「ナノエフェクトの力だ」
「ナノエフェクト?」
「ああ」
「ナノエフェクトって、こんなにすごいものだったのかよ」
ニーナの説明を聞いた裕矢が、怪我をしていた腹の部分をさすりながら、終始驚きの表情を浮かべているとニーナが声をかけてくる。
「では裕矢。お前の傷も癒えたようだし、あまり時間もない。さっそく向かうぞ」
「ニーナの向かってたスカイツリーも倒壊しちまったし、向かうってどこにだよ?
声をかけられた裕矢は、ニーナの顔に視線を向けながら聞き返す。
「ああ、そのことか。それならば問題ない」
「問題ない?」
「ああ、別に先ほどの鉄塔に目的地が限定されていたわけではないからな」
「どういうことだよ?」
「つまりわたしは仲間に連絡を取るために、先ほどの鉄塔に向かっていた。裕矢。理由はわかるな?」
いつの間にか名前で呼び合うようになっていたニーナが、腕を組みながら裕矢に問いかける。
「強力な電波を発信していたから?」
「ああ、わたしはもともと先ほどの鉄塔を目指していたというよりも、仲間と連絡を取り合うために、電波を増幅できる電波塔を目指していただけだからな」
「ってことは」
「ああ、別の電波塔を目指せばいい」
「でも電波塔なんてそうそうあるもんじゃ……」
「問題ない。変わりの鉄塔はすでに見つけている」
ニーナが見つめる先には、東京スカイツリーの登場でお役御免となった旧電波塔である赤い鉄塔。東京タワーの姿があった。
「先ほどの鉄塔よりは低いが、裕矢。あの赤い電波塔に向かうぞ」
「わかった」
ナノエフェクトのおかげで傷の癒えた裕矢は、未だ気を失っている秋菜を背中に背負うと、歩き出したニーナの背を追って歩き始めた。
第一展望台まで上がってきた裕矢たちの気配を察して、振り返りもせずにニーナが声をかける。
「ああ、どうせ上るならあまり世話をかけるってのも悪いかと思ってよ」
「いい心がけだ。少し待っていろ。すぐに決着をつける」
「ああ」
裕矢は秋菜を背負い柱の陰に身を潜めた。
「これで終わりだドラグニルッ行くぞ! ハアァァァッ!」
フォトンブレードを構えながら、足のブーストで加速したニーナが腕を切り落とされて、その戦闘能力を大幅に減少させたドラグニルに迫り、フォトンブレードを振り下ろす。
これで決まった。
その場にいた誰もが思い、またニーナが己の勝ちを確信した時だった。
ギィンッと第一展望台に、硬い金属音のような音がこだましたのは。
「くっシールドか!? しかしドラグニルにシールドなど……」
ニーナは自分が振り下ろしたフォトンブレードがドラグニルにはじかれたために、警戒してドラグニルから飛び退り距離をとる。
ニーナが距離をとった直後、ニーナたちの目の前でドラグニルの変化が始まった。
目の前で繰り広げられる光景に、目を見張るニーナ。
まずトカゲのように細かった四肢の筋肉が盛り上がり始めると、それに伴い二メートルほどの体躯をしたドラグニルの体の筋肉も盛り上がり始めた。
そのためドラグニルの体躯は一回り以上大きくなり、三メートル近い巨躯へと変わる。
また全身を覆っている鱗も太く分厚いものとなり、体の頑強さも跳ね上がる。
そしてまるでトカゲの頭のような面だったドラグニルの頭部は、ドラグニルという呼び名にふさわしい竜を思わせる頭部へと変わる。
そして最後に、ニーナが斬りおとしたドラグニルの失われた腕に、ドラグブレードが融合し、腕を再生していく光景が目に入ってくる。
「まずいな。奴を倒すのに時間をかけすぎたか、進化が始まった」
ニーナが変貌していくドラグニルを目にしながら吐き捨てるように言う。
「進化!?」
「ああ、キリングドールであるドラグニルは尖兵たちと違い。戦闘中に人工知能であるAIが相手の力量や特性に応じて進化し、相手の最も苦手とする形態へと変貌を遂げる。つまり現状戦っている戦闘相手専用のキラーマシーン。殺人兵器へと進化する」
「それってつまり……」
「ああ、今戦っていたわたしの特性を完全に学習し、奴はそれに対抗すべく進化を遂げている」
「それってまずいじゃないかよ」
ニーナの説明を聞いた裕矢が焦りの声を上げる。
だがニーナはそれには答えず、ただ頬に一筋の汗を流しながらフォトンブレードを握り締めただけだ。
「進化する前に、撃ち砕く!」
ニーナはそう決断を下すと、すぐさま進化中のドラグニルに向かって、フォトンブレードを振りかぶり、裂ぱくの気合と共に突っ込んでいった。
「ハアァァァッ!」
相手は進化の途中で無防備、加えてニーナの渾身の力を込めたその一撃は、必殺の一撃とも呼べる類のものだ。
そのためこの場にいる誰もが、ニーナの繰り出したこの一撃で、すべてが終わると思い込んでいた。
だが次の瞬間響き渡ったのは、ドラグニルの断末魔の悲鳴ではなく、ギィンッと言った固い金属音のような音だった。
「なっ!?」
その音を聞き、目の前の光景を目にして、さすがのニーナも驚愕の表情を浮かべる。
なぜならニーナの放ったフォトンブレードが、ドラグニルの体と接触するなり、光の粒子を撒き散らして弾かれたからだ。
「くっまさか、フォトンブレードが弾かれただと!? 一体どうなっている!? はっまさか奴の進化は、己を切ったフォトンブレードにまで耐性を持ったというのか!?」
まずい。今わたしの持っている武器で最強ともいえるフォトンブレードが弾かれた今、こちらに打つ手がない。
「まずいな。まさかこれほどの進化を遂げているとはな。さしずめドラゴンの面を持つ者。ドラグナイトといったところか」
進化を遂げ本物のドラゴンのような面を持った竜戦士。ドラグナイトへと変貌を遂げたドラグニルを見つめながらニーナが呟いた。
ニーナの振るったフォトンブレードの吹き散らされた光の粒子が収まり始めたころ、光の粒子の中から飛び出してきたのは、ニーナに斬りおとされた腕から、人の体ほどもある巨大な黒き槍。
ドラグスピアをはやし、今や完全にニーナの特性に合わせた進化を遂げ、分厚い黒色の鱗に全身を覆われた筋骨隆々の三メートル近い巨躯を誇るドラグナイトだった。
光の粒子の中から飛び出してきたドラグナイトが、ドラグスピアを突き出してニーナの頭部を狙い猛然と襲い掛かってくる。
自分の頭部を狙って突き出されてきたドラグスピアの一撃を、ニーナはフォトンブレードで何とか受けると、驚愕の表情を浮かべる。
なぜなら、ドラグスピアの一撃を受けたフォトンブレードが、黄色が駆った光の粒子を残し、霧散してしまったからだ。
そして、フォトンブレードを吹き散らされたニーナが、そのままドラグナイトの野太い腕に首元を掴まれ宙づりにされてしまう。
「くっ」
のど元を掴まれ宙づりにされたニーナが苦しげな声を上げる。
まずい。このままでは……
そう思ったニーナが、何とかドラグナイトの拘束を振りほどこうと、首を絞めてくる腕を掴み抵抗しようと試みるが、掴まれている首元にさらに尋常ならざる力が込められたために、ニーナ程度の力ではドラグナイトの拘束を振りほどくことができなかった。
そしてドラグナイトは、天に抱え上げたニーナを、進化した腕と一体化した黒き槍、ドラグスピアで串刺しにしようとする。
さすがのニーナもこれまでか。と思い覚悟を決める。
だが、それでも最後の最後まで諦めてたまるものかと思ったニーナは、首元を絞められ、空中に体が浮いているために、力の入らない手足を必死に最後の抵抗を試みる。
だが、すでにフォトンブレードの一撃すら通用しないような相手なのだ。
今更ニーナが素手でどんな抵抗をしようとも、状況を変えることなどできるはずもなかった。
そして、とうとうニーナに最後の時が訪れようとしたとき、ニーナは何とか視線だけを裕矢たちのいた場所へとむけると、首を締めあげられながらも、何とかわずかな声を絞り出して、裕矢たちにこの場から逃げるように伝える。
「に……げ……ろ……」
だがニーナが言うまでもなく、すでに先ほど裕矢たちがいた場所には、裕矢たちの姿はなかった。
どうやらニーナに言われるまでもなく、裕矢たちはこの場から早々に逃げ出したらしい。
そのことを確認したニーナは、ほっと安堵するのと同時に、なぜだか胸に小さな風穴があいたかのような痛みを覚えていた。
そうして最後の時を迎えようとしたニーナの胸が、少しばかりの痛みを覚えていたときだった。
フォォォォッという何かが動く駆動音と共に、まばゆい光が自分の目の前に広がり、ドラグナイトを通じて何かの衝撃が伝わってきたのは。
その衝撃でドラグナイトに掴まれていたニーナの首元の拘束が緩む。
「くっ」
この機を逃すまいと、ニーナが渾身の力を込めてドラグナイトに蹴りを入れ拘束から逃れようとするが、ドラグナイトは緩んだ手から逃げ出そうとしているニーナに気付くと、ニーナの首元を掴む腕にさらなる力を籠める。そしてそのままニーナを地面に叩きつけるようにして放り投げた。
ニーナは投げられた先の第一展望台内の堅い壁に背中をしたたかに打ち付けて、ガハッと息を吐き出して苦悶の表情を浮かべる。
そして、展望台の壁に激突した衝撃で、失いそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、自分を救った光の出所に目を馳せる。
ニーナの視線の先にいたのは、先ほどニーナに護身用だと言われ渡されたフォトン銃を手にして、ドラグナイトと対峙している裕矢の姿だった。
「なっ!?」
ニーナが予想もしていなかった光景に驚き目を見開く。
なぜなら、今まで似たようなことは何度もあったが、大抵のものはみな見ているだけか、自分を置いて逃げ出していたからだ。
「ニーナッ今だっ 逃げろっ!」
「バカッ地球人ッ何を勝手なことをしている!」
ニーナが叫ぶや否や彼女の目の前から、フォトン銃から放たれたフォトンブレッドの一撃をまともに食らったというのに、一切手傷を負っていない無傷のドラグナイトが掻き消えるようにいなくなった。
かと思えば、次の瞬間には、ドラグナイトが正面から裕矢の腹を、裕矢が手にしていたフォトン銃ごと、巨大な人の体ほどもあるドラグスピアで貫いていたのだった。
「地球人っ!」
全身を固い壁に叩きつけられていたために、未だ自由に身動きが取れないニーナは、裕矢を助けに行くこともできず、ただ起こった現実を直視して悲鳴じみた声を発するのみだ。
裕矢は現実に自分の身に起こっている出来事とは到底思えない光景に。痛みに。驚愕と絶望のないまぜになったような表情を浮かべる。
「な!? かっくっごほっ!?」
裕矢がドラグナイトの凶刃に貫かれながら、傷口から大量の血を噴出しせき込み口から吐血する。
ドラグナイトは自分を撃った裕矢にもはや生命反応がほとんどないと知ると、まるで興味を失ったかのように闇色のスピアを一振りして、まるでボロ。雑巾か何かのように投げ捨てる。
何の抵抗もできずされるがままに投げ捨てられた裕矢は、スピアの抜けた穴から大量の血液を撒き散らしながらくうちゅを飛んで、展望台の壁にぶち当たった。
「おいっ地球人ッしっかりしろ! 地球人ッきこえているのか!」
だがいくら必死に呼びかけようとも、ニーナの声は届かない。もはや今の裕矢に誰の呼びかけであろうとも、返答を返すだけの力がなかったからだ。
だがそれでもニーナは諦めない。叫び続ける。なぜなら初めて助けようとしたものが、自分を助けようとしてくれたからだ。そんな相手をこのままドラグナイトに殺させるわけにはいかない。自分でも抑えられない強い思いに駆られたニーナは、自分を助けようとしてドラグナイトの凶刃に倒れた裕矢の名を始めて口にして力の限り叫んだ。
「裕矢――――っっ!!」
だが必死のニーナの呼びかけにも、ドラグスピアで腹に大穴を穿たれて、その後投げ捨てられ展望台の分厚い壁にぶち当たり、大量の血液を撒き散らしている裕矢は全く反応をみせない。
すでに裕矢の意識は混濁し、死の一歩手前だったからだ。
「裕矢っよく聞け! ナノエフェクトは生存本能である自己意思によって覚醒するっそうすればお前は助かるっ裕矢っ死にたくなければ覚醒しろっ!」
だが今の裕矢には、ニーナの声にこたえる意思も、気力も、湧き上がってこなかった。
ただ、これで終われる。これで俺もみんなのところに行ける。という死が与える安堵感に包まれていただけだった。
これで、俺もようやくみんなのところに行ける。
父さん……母さん……
もうすぐ俺もそっちに……
「起きろ裕矢っ覚醒しろ! 秋菜をっ秋菜を殺されてもいいのかッ!!」
「あ……き……な?」
裕矢は混濁した意識の中で、ニーナが口にした『秋菜』という単語を聞きほんの少しだが意識を覚醒させると蚊の鳴くような声音で呟いた。
「そうだっ秋菜だっ裕矢っ奴は生きている動いているものに対して容赦がないっお前が死んだら確実にこの星の唯一の生き残りである秋菜も奴に殺されるぞっ!」
「そ……うだ。秋菜を殺させるわけにはいかない。あいつは俺がいないと何もできないから。俺が。守って。やらないと」
「そうだっ裕矢っしっかりしろ! 守りたいものがるのならばっ自分の意思で生きっそして守りたいものを守るために戦えぇっ!!」
「俺が、秋菜を、守らないと!」
裕矢は何とか失う寸前だった自分の意識を奮い立たせて、何とか薄目を開けながら秋菜を寝かせている方に視線を向ける。
すると、すでに死地を彷徨い戦闘力のなくなった自分やニーナには興味が失せたとばかりに、秋菜に近づくドラグナイトの姿があった。
「あ……きな。くっ」
裕矢は幼馴染である秋菜を守らないと、という強い思いと使命感だけで、血反吐を吐きながらその場に立ち上がる。
立ち上がった裕矢の手には、先ほどニーナを救うために使った壊れたフォトン銃が握られていた。
銃? 自分の手に握られている銃の存在を認識した裕矢の頭の中に、ある情報とそのやり方が流れ込んでくる。
裕矢にそのすべてを理解することはできなかったが、裕矢はそれを実行できることだけは確信していた。
そして、それを頭に流れ込んできたイメージ通りに実行に移す。
いや、イメージ通りというよりも、感情の赴くまま、といった方が正しいだろうか? 裕矢は自分の感情の赴くまま体の動くままに身を任せたに過ぎない。
瞬間。それは起こった。
壊れたフォトン銃を片手に立ち上がった裕矢の右腕が光り輝いたかと思うと、次の瞬間には、裕矢の右腕が付け根から壊れたフォトン銃と融合して白銀の銃身となったのだ。
「なっ!? バカな!? 環境適応型のナノエフェクトがフォトン銃と融合しただと!? そんなことできるはずが……はっまさか!? ジーンの奴っナノエフェクトを取り違えたのか!?」
ニーナがフォトン銃と一体化した裕矢の姿を見て驚きの声を上げる。
ニーナの驚きの声を引き金のようにして、裕矢は自分の感情の赴くままドラグナイトに向かって、白銀の銃身を向けると、気合の雄たけびを上げながら思いっきり右腕の銃身から、バズーカのような大きさの光の光線を解き放った。
「トカゲ野郎っあきからっ離れやがれ――――ッ!!」
裕矢から解き放たれたフォトン銃とは思えないほどのエネルギーを秘めた一条の光の光線は、信じられないほどの速度で展望台の床をえぐりながら、未だ気絶し地面に横たわっていた秋菜を殺そうと迫っていたドラグナイトに向かって突き進んだ。
無論いくら信じられないほどの凄まじい速度で迫りくるといっても、進化を遂げたドラグナイトがそれを探知できないはずはなく、裕矢が撃ち出してきた必殺の一撃ともいえる高出力のレーザー光線に気付いたドラグナイトが、先ほどニーナのフォトンブレードを弾いたドラグスピアで弾こうとする。
だが裕矢の撃ち放った高出力の光線による一撃は、あのニーナのフォトンブレードすら霧散させたドラグナイトのスピアごと、真っ正面からドラグナイトを撃ち貫き、その腹に巨大な大穴を穿ったのだった。
「フォトン……ブラストか!?」
裕矢が解き放った巨大な光の粒子を見つめていたニーナが、目を見開き驚いたような声を発した。
ニーナの口にしたフォトンブラストとは、本来戦艦などに備え付けられている対艦用の光を使った高出力レーザー兵器のことだ。
まぁ例外として小型化して、威力を弱めたものを馬力のある歩兵が兵装として用いる場合もあるが、それはごく稀な例である。
「ハァッハァッハァッ」
ドラグナイトを貫通するほどのフォトンブラストを撃った裕矢は、一気に体から力が抜けたのか、荒く息を吐いてその場に膝をついてしまう。
すると銃身のようになっていた裕矢の右腕も、裕矢が力を失ったのに呼応するかのようにして、元の姿を取り戻していった。
そして裕矢は荒い息をつきながらも、これで何とかなったか? そう思ってドラグナイトの方に改めて視線を向けた。
すると衝撃の光景が裕矢の目に飛び込んでくる。
その光景とは、あれほどの高エネルギーの塊であるフォトンブラストに撃ち抜かれたというのに、未だその機能を完全に停止させないのか、ドラグナイトが自分を傷つけた裕矢のいる方へと、一歩、また一歩。と先ほどよりは遅い緩慢な動きだが、確実に近づいてきていたからだ。
「な!?」
さすがにその光景を見た裕矢は、息を飲みもう今の自分にドラグナイトに抗う術はないと最後の時を覚悟して、目を閉じようとした。
瞬間、目の前に迫って来たドラグナイトの体が両断される。
もちろん裕矢に迫るドラグナイトを切り伏せたのはニーナだ。
ニーナは裕矢がドラグナイトにあけた大穴に、最大出力のフォトンブレードを差し入れて、 未だしぶとく動いていたドラグナイトの体を真っ二つに両断したのだった。
ニーナと声をかけようとした裕矢のセリフを遮って、周囲にニーナの叫び声が響き渡る。
「爆発するぞ!」
ニーナの声に反応して裕矢はとっさに秋菜を助けに走り出す。
だが疲弊しきっている裕矢の足はもつれうまく走ることができない。
このままでは裕矢と秋菜。二人とも爆発に巻き込まれてしまうと思われた矢崎、ニーナが素早く二人を抱きかかえて、右手のガントレットのコンソールを操作しながら展望台の外に躍り出たのだった。
その瞬間、ニーナの手にしていたフォトンブレードによって両断されたドラグナイトの死体は、スカイツリーその第一展望台の中で、巨大な爆発を引き起こしたのだった。
巨大爆発を引き起こされたスカイツリーの内部では、爆発による爆風でバリバリバリィンッと特殊な強化ガラスでできていたはずの展望台のガラス戸がすべて割られ、内部の壁も砕け散り、また爆発の折発生した熱で内部の鉄骨がゆがんだり溶解したりした。
そしてギリギリの線で何とか第一展望台を脱出したニーナたちも、爆発時にドラグナイトの発した衝撃波によって吹き飛ばされていた。
ニーナに抱えられ、爆発による衝撃波で吹き飛ばされながら裕矢が目にしたのは、先ほどまで自分たちがいた第一展望台が巨大な爆発に包まれ、内部の主要な鉄骨が溶解したために東京の観光名所であり、新電波塔である東京スカイツリーが地響きを立てて、周辺に残っていたビルや民家をなぎ倒しながら横倒しになっていく光景だった。
「ふぅ何とか間に合ったな」
重力制御システムと小型のバーニアを巧みに使い、爆発による衝撃波を交わしたニーナが、爆発の瞬間とっさに腕のコンソールで発動させたシールドを解き落下速度を弱めながら、安堵の吐息を吐き出していた。
先ほど右手のガントレットのコンソールを操作して、ニーナの使ったシールドは、裕矢と出会った当初に半径数キロに及び、熱を遮断していたシールドを小規模で展開させたものだ。
あれほどの大規模展開のものを小規模展開させたのだから、その防御力は並みのものではない。そのためドラグナイトが発生させた爆発と、爆風による衝撃波に耐えることができたのだった。
爆発を逃れたニーナたちは、その後重力制御システムと小型のバーニアを巧みに使って、爆発やスカイツリーが倒壊した影響の少ない地域を選んで、ゆっくりと降下していった。
無事地上に降り立ったニーナは、裕矢と秋菜を地面へと下す。
ニーナのおかげで何とかドラグナイトの爆発から逃れ、またスカイツリーの倒壊に巻き込まれずにすんだ裕矢は、地上に降りたった後、ニーナに礼の言葉を投げかける。
「ニーナ。サンキューな。助かったぜ」
「ああ」
「にしてもその剣。壊れてなかったのかよ?」
すでに光を霧散させブレードを収めたニーナが腰に差している筒状のフォトンブレードの柄に視線を向けながら問いかける。
「ああ、この剣の刃は光を収束させたものだからな。先ほどのはただ奴の攻撃を受け光が霧散したに過ぎないからな。再び光を集めればフォトンブレードは復元できる」
「なんだ。そうだったのかよ」
「それはとうと、ずいぶんと深手のようだったが、傷は無事癒えたようだな」
裕矢の体に上から下まで視線を這わせながらニーナが口にした。
「へ?」
裕矢がニーナに指摘され、間抜けな声を上げながら、自分の体を見下ろしてみると、言われてみればどこも痛くない。先ほど腹に穴が開く大けがをしたとは、とても思えないほどまったくの無傷だった。
「これって……」
自分の体に起きた出来事に目を見開き驚きの表情を浮かべながら、先ほど穴の開いていた辺りに触れてみる。
「ナノエフェクトの力だ」
「ナノエフェクト?」
「ああ」
「ナノエフェクトって、こんなにすごいものだったのかよ」
ニーナの説明を聞いた裕矢が、怪我をしていた腹の部分をさすりながら、終始驚きの表情を浮かべているとニーナが声をかけてくる。
「では裕矢。お前の傷も癒えたようだし、あまり時間もない。さっそく向かうぞ」
「ニーナの向かってたスカイツリーも倒壊しちまったし、向かうってどこにだよ?
声をかけられた裕矢は、ニーナの顔に視線を向けながら聞き返す。
「ああ、そのことか。それならば問題ない」
「問題ない?」
「ああ、別に先ほどの鉄塔に目的地が限定されていたわけではないからな」
「どういうことだよ?」
「つまりわたしは仲間に連絡を取るために、先ほどの鉄塔に向かっていた。裕矢。理由はわかるな?」
いつの間にか名前で呼び合うようになっていたニーナが、腕を組みながら裕矢に問いかける。
「強力な電波を発信していたから?」
「ああ、わたしはもともと先ほどの鉄塔を目指していたというよりも、仲間と連絡を取り合うために、電波を増幅できる電波塔を目指していただけだからな」
「ってことは」
「ああ、別の電波塔を目指せばいい」
「でも電波塔なんてそうそうあるもんじゃ……」
「問題ない。変わりの鉄塔はすでに見つけている」
ニーナが見つめる先には、東京スカイツリーの登場でお役御免となった旧電波塔である赤い鉄塔。東京タワーの姿があった。
「先ほどの鉄塔よりは低いが、裕矢。あの赤い電波塔に向かうぞ」
「わかった」
ナノエフェクトのおかげで傷の癒えた裕矢は、未だ気を失っている秋菜を背中に背負うと、歩き出したニーナの背を追って歩き始めた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
合言葉は”社会をキレイに!”お掃除グループ
限界高校生
SF
今より遠い未来。社会はより一層汚くなっていた。
政治家の汚職、警察への賄賂事件、、、数えたらきりが無いこの社会で、とあるアイテムが流行している。と言ってもギャングなどではだが。幻想、ミラージュと呼ばれるそのアイテムは使用者のエネルギーを使い様々な事を可能にする。
主人公藤鼠 亜留(ふじねず ある)はそんな社会をミラージュを使い、キレイにするため”クリーニン”と言う組織を作った。
これはそんな主人公と愉快な組員達による大所帯の組織になるまでのバトルあり、ギャグありのお掃除物語である。
ネオ日本国~カテゴリーベストセレクション~
夜美神威
SF
夜美神威の
カテゴライズタイトル第一弾
テーマに沿った作品集
物語はパラレルワールドの日本
様々な職業・政府機関・民間組織など
ちょっと不思議なお話を集めてみました
カテゴリーベストセレクションとして
既存の作品の中からテーマ別に私の独断と偏見で
ピックアップして作品を完成させて行きたいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる